バレーボール女子日本代表 パリオリンピックに向けた日本の“秘策”とは

東京オリンピックで25年ぶりの予選敗退となったバレーボール女子日本代表。あれから2年、パリへの出場権をかけた戦いが始まりました。しれつな出場権争いに日本代表はある“秘策” を持って臨もうとしています。その舞台裏に密着しました。(サンデースポーツ 2023年9月17日放送)

(※2023年10月10日スポーツオンライン掲載)


“サーブ強化” その舞台裏


8月上旬。代表の強化合宿が行われた沖縄で、首脳陣の戦略会議が開かれていました。

眞鍋政義監督>
「オリンピック予選で出場権を獲得する。そしてまた来年のパリオリンピックでメダルを獲るためには、やはり“サーブ”を強化するしかないだろうと」

眞鍋監督が合宿の最重要課題に掲げたのが“サーブの強化”。特別チームを立ち上げ、専門のコーチやトレーナー、データ分析のスペシャリストらを招集していました。

<眞鍋政義監督>
「いろんな分野の方がこの短期間で協力してもらって、サーブで崩さないと我々の目標は達成できないということが浸透しないといけない」

東京オリンピックで苦戦した理由の1つが、サーブで相手を崩せなかったことでした。スピードが遅い山なりのサーブが多く、簡単にレシーブされ得点を奪われていたのです。

<眞鍋政義監督>
「世界のサーブレシーブする選手たちは、ボールが緩いとピタッと返されるので、ある程度スピードは必要」

目指すのは世界の強豪が見せる力強いサーブ。中には時速100キロを超える選手もいます。そこでチームが行ったのは、サーブを打つ選手たちの動作解析。その結果、2つの課題が浮かび上がってきました。
1つは“打点の低さ”。

ほとんどジャンプせずにサーブをする選手が多いことが分かりました。
もう1つの課題は“手打ち”。

腰が引け、体全体を使えていないケースが目立っていたのです。

<データ分析専門家 増村雅尚教授>
「外国人に比べて筋肉が少ないので、手だけで振ってしまう。手だけで打つよりも体を乗せることで体幹を意識して体をぶつける」


サーブ特訓で異例の合宿 


課題を克服するため取り組んだのが、徹底したフィジカルトレーニング。ベルト式の器具を使って足腰を強化。ジャンプ力を高めます。

次は重さ3キロのハンマーを全身使って振り下ろし、体幹を鍛えるトレーニング。

さらにこの日、トレーナーが用意したのは“でんでん太鼓”。

<油谷浩之トレーナー>
「強く叩こうと思ったらこの(でんでん太鼓の)動き。これ(取っ手)が体幹です。体幹部分を回して、遠心力で手が伸びてきて、固くしてバーンと(打つ)」

でんでん太鼓のように体を軸に回すのがポイント。体幹から腕へ素早く力を伝えるイメージです。その感覚を忘れないうちにサーブ練習。休むことなく1時間打ち続ける日もありました。

<関菜々巳選手>
「サーブについてこんなに深く考えることがあまりなかった気がするので面白いですね」

<古賀紗理那選手>
「サーブをテーマに今年あげられて、そこから自主練でサーブ練習をする選手が、去年より増えたなというのはすごく感じていて、ちょっとずつよくなってきているのかなと感じます」


“サーブ”は唯一の個人技


エブリンさん:選手がやばいと漏らすぐらい、本当にすごいトレーニングだったなと思うのですが、サーブにこれだけ力を入れるのは今まであまりなかったんですか?

栗原恵さん:サーブはすごく大切なので、強化しようとはずっと言われ続けていたのですが、ここまで専門チームを立ち上げてやっていくというのはなかなか見ないことですね。

中川キャスター:栗原さんも現役時代、サーブに力を入れてきたということですが、サーブは試合の流れを大きく変えるものですか?

栗原さん:そうですね。(サーブは)唯一バレーボールの中で個人技なんですよね。バレーボールは誰かが上げたトスを打つとか、ボール主導で動いていきますが、サーブは唯一自分だけでできることなので、本当にここに懸けているという眞鍋監督の本気を感じますよね。

中川キャスター:サーブ練習の時間は多めにとっていたのですか?

栗原さん:そうですね。私もサーブを武器にしたいなということで、1人でもできる練習なので、すごく力を入れて取り入れていました。

中川キャスター:今回、眞鍋監督が立ち上げたサーブ強化の特別チームは総勢13人です。コーチやトレーナー、データ分析の専門家以外にも元日本代表選手や心理学の専門家が参加しています。サーブを成功させるために欠かせないメンタルの強化にも取り組み始めているのです。


“心も鍛える” 


特別チームの一員として合宿に参加した竹下佳江さん。3大会連続でオリンピックに出場。不動のセッターとしてロンドン大会の銅メダル獲得に貢献しました。“ここぞ”という場面で冷静に決めるサーブも一級品でした。

<竹下佳江さん>
「(サーブは)自分と向き合わないといけない一番のプレーだと思いますし、唯一個人技でできるところなので、そこをどう自分と向き合っていくか」

自らの心と向き合うサーブ。大舞台を経験した選手ならではの視点でアドバイスをしています。

<竹下佳江さん>
「『どういうメンタルで入ったからミスになったよ』とか、『いいサーブだったよ』と伝えられる役割分担もあるのかなと思いながら、させてもらっています」


合宿では心理学の専門家による講義も。

<スポーツ心理学 渡辺英児教授>
「サーブで『ここからちょっと嫌だな』ってみんな感じたことない?逃げ出したいって心理が働くと、動きが早くなってくる。だからそこでリズムが崩れたりする」


今の代表の課題となってきたのが、プレッシャーがかかる場面のサーブでした。今年行われた国際大会で、日本は1点を争うセット終盤のサーブミスで試合を落としていました。
この日用意されていたのは5つの小さなナット。

<渡辺英児教授>
「これ(ナット)を割り箸を使って上に積み上げていってください。どっちが早く積み上げられるか」


プレッシャーがかかる状況で平常心を保つトレーニングです。

<渡辺英児教授>
「厳しい状況の中でいろんなことが起きている。まずそれをみんなが受け入れなければいけないと思うんですね。僕らは心理的な部分のところを特化して話を掘り下げていく」


先日行われていたオリンピック予選。初戦に臨む選手たちの表情には硬さも見られました。それでも序盤からサーブで相手を崩し、ポイントを奪います。よりプレッシャーがかかる終盤も次々とサービスエース。心の強さも見せた戦いぶりでした。試合後のインタビューで眞鍋監督は『ここ数か月、このサーブで相手を崩すということに練習(時間)を取ってきましたので、この勢いで、サーブで崩してほしいです』と話していました。

中川キャスター:眞鍋監督、いい表情されていましたね。日本はペルー戦で3本のサービスエース。そしてアルゼンチン戦でも6本決めました。東京オリンピックの時は1試合平均1.6本にとどまっていたということなので、栗原さん、サーブ強化の成果は出始めていると言えそうですか?

栗原さん:そうですね。取り組んでいたことが形になっていますし、技術ももちろんですけどメンタルも上手に強化して、両輪がうまくいっている成果なのかなと感じますね。