専門家に聞く!新型コロナ これからどうなる?

NHK
2022年12月7日 午後6:13 公開

年末年始を前に、全国で新型コロナウイルスの感染者数が増加傾向にあります。

「今後、感染はどうなるの?」「感染対策はいつまで続けないといけないの?」

視聴者の方からは、こうした疑問の声が「あさイチ」に届いています。そこで私たちは、免疫学やワクチンなど各分野で研究をリードする7人の専門家に、今後新型コロナはどうなっていくと考えられるのか、最新の知見から、予測を伺いました。

■年末年始 感染拡大は?

政府の分科会のメンバー、東邦大学教授の舘田一博さんは、

「年末から来年の初めに、第7波と同じくらいか、それを超えるような波になってもおかしくない」と指摘。

東邦大学教授 舘田一博さん

アメリカのイエール大学教授、岩崎明子さんも、

「若年層を中心に感染が広がり続け、後遺症の患者数も増えると予想される」と懸念していました。

イエール大学教授 岩崎明子さん

そうした中、感染制御学に詳しい、順天堂大学大学院教授の堀賢さんは、インフルエンザとの同時流行について指摘していました。

「第8波は年内にピークを迎え、インフルエンザのピークは年明けからと予想される。

コロナの下り坂とインフルエンザの上り坂が年末年始に重なり、発熱外来が受診しにくい状況が続く恐れもある」。

順天堂大学大学院 堀賢さん

視聴者の方からの質問でも、インフルエンザワクチンと新型コロナワクチンの同時接種について疑問だという声が多く寄せられています。そこで、ワクチンの専門家で国の委員も務める川崎医科大学教授の中野貴司さんに聞いてみました。

「両方のワクチンを一緒に接種できます。別々に接種した場合と比べても、副反応が増すわけではない、という海外での研究結果があります。ただし『1+1=3』にはなりませんが、『1+1=2』にはなると考えるのが妥当です。つまり、副反応が強くはなりませんが、発現する確率は、足し算で上昇する可能性はあります。それをふまえたうえで、同時接種にするか、別々に接種するか決めることになります。別々に接種する場合、どちらを先に接種する方がよいかは一概には言えませんが、より副反応の頻度が低い、程度が軽いと予想されるワクチンを先に接種する方が、接種計画は立てやすいと思います」。

川崎医科大学教授 中野貴司さん

また、順天堂大学特任教授で、国の新型コロナワクチンコホート調査代表研究者を務める伊藤澄信さんは、接種の際のポイントを教えてくれました。

「左右の腕を分ける方が望ましいと思います。ただし、基本的にリンパ節にワクチンが作用しますので、乳がんなどでリンパ節を切除されている場合は、手術側は避けた方がよいと思います」。

順天堂大学特任教授 伊藤澄信さん

■いつまで続く? 感染対策

マスクや3密回避などの感染対策。「いつまで続ければいいの?」という視聴者の方からの疑問が絶えないため、率直に聞きました。専門家皆さん、意見はほぼ合致していて、「屋外でのマスク着用は不要になど、状況は少しずつ変わるかもしれない」という声が多くありました。ただし、状況に応じた対策は継続して必要とのことです。

新型コロナ後遺症の研究を進める、イエール大学の岩崎さんは、感染を防ぐことの重要さを強調していました。

「後遺症の病因や治療が不明な今、なるべく感染を避ける事が大切です。マスクもN95やKN95などの密閉性が高いものを使用し、冬の寒い時期でも、屋内の換気や湿度の維持(相対湿度40%―60%が最適)に気を配ることが大切です」。

免疫学に詳しい大阪大学の荒瀬尚さんは、

「感染時のウイルスの暴露量が少ない方が、症状が軽いとも言われております。従って、ワクチンを接種して重症化しにくい体にした上で、少ない量のウイルスの感染に抑えるため、ある程度の感染対策は必要かと思われます」。

大阪大学教授 荒瀬尚さん

国立感染症研究所の長谷川秀樹さんは、感染対策のスタイルが変わるのでは、と指摘しました。

「外や風通しのよい場所では常時マスク着用は必要ないと思います。また、普段生活を一緒にしている人との日常生活では必要ないと思います。不特定多数の人が密閉された空間で一緒になる場では感染状況に応じて必要になろうかと思います。ウイルスの流行が落ち着いている状況ではマスク着用は必要ないと思いますし、外や風通しのよいところでは必要ないと思います」。

国立感染症研究所インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター長 長谷川秀樹さん

伊藤さんは、

「感染しても発熱や咽頭痛のない人は4割いらっしゃるので、感染の拡大を抑えたいのであれば、3密回避が必要になると思います。閉鎖空間でのマスクは、自分を守るというよりは『自分の持っているウイルスをばらまかないために必要』だとは思いますが、咳をされないのであれば屋外ではマスクを外すことは可能だとは思います」と、指摘しつつ、今後の感染対策について、

「全体の流行状況に応じて変わるのでしょうが、接触感染の可能性が少ないのであれば、アルコール消毒についてはリスクの少ないところでは、少なくなっていくでしょう。無症候感染者が多いので、体温測定の意味は少ないかもしれません。また、オープンエア空間での会食も可能になるのかもしれません」と長期的な展望について推測なさっていました。

同様に舘田さんも、

「マスクは、飛沫感染対策、エアロゾル感染対策を行う上で極めて有効であると思います。人が密になる場所、近くで声を出すような場面ではしばらくの間はマスクが必要かと思います。ただし、屋外で人との距離がある場合、あるいは屋内でも会話や食事を行わず、換気・距離が保てるのであればマスクは必要ないと思います。場面場面のリスクを想像して、想像力を働かせて効果的な感染対策を行うことが重要になってくると思います」とおっしゃっていました。

「マスクはいつ外せるようになるのか?」といった疑問の声も多く寄せられますが、それについては、順天堂大学大学院の堀さんが次のようにおっしゃっていました。

「高齢者においては、若年者に比べて重症化する率が高いことから、新型コロナウイルス感染症の致死率が、季節性インフルエンザ並みに落ち着いたときが、『マスクを外しても良い時期』になると予想されます。この先、たとえ新型コロナが5類扱いになったとしても、『病原性が十分下がった』というわけではないので、高齢者や基礎疾患のある方は、しばらくはマスクの着用を続けた方が良いでしょう」。

■新型コロナ いつ終息する?

また、視聴者の方からは、こんな質問もありました。

「新型コロナは、いつ終息するの?」

確かに気になるこの質問、専門家の皆さんに率直に聞いてみたところ、様々な意見がありました。

堀さんは、

「新型コロナの致死率が季節性インフルエンザ並みに低下するときが、パンデミックの終焉(しゅうえん)と言えます。おそらくあと半年か1年程度ではないか」と指摘しました。

現在、新型コロナの致死率は、第7波以降で0.13%程度と、第5波までの4.25%よりは低くなったものの、季節性インフルエンザの致死率(0.06~0.09%)を依然として上回っているそうです。年齢層によっては、この致死率の差が小さくなってきていて、

「若年で基礎疾患のない方では、もはや『インフルエンザと変わらない感染症』となっています」とおっしゃっていました。

では、致死率が下がる要因はなにか?堀さんによると、以下の少なくとも1つ以上の状態に至ったときと考えられるそうです。

①重症化を防ぎ、副作用や飲み合わせの問題が少ない“優れた内服薬”が登場し、近くの医療機関ですぐに処方してもらえるようになったとき

②1年に1回程度のワクチン接種で、多少の変異があってもカバーできるワクチンが開発されたとき

③新型コロナウイルスが変異を重ねるうちに、病原性が著しく下がったとき

④ワクチン免疫が70%を占める我が国において、ハイブリッド免疫(ワクチン免疫+感染免疫)の割合が過半数を超えたとき

「今のところ、上記③と④が穏やかに進行している状況と推察されます。①と②については、未だ開発中であり、ゲームチェンジャーと呼べるほどの優れた医薬品は登場してきておりません。心配なのは、④が急激に進行する場合です。この場合、終息の時期は早まりますが、感染者が急激に増えることを意味しますので、重症化する人が短期間に重なるような事態になると、医療供給体制が逼迫(ひっぱく)するケースも懸念されます。最も理想的なシナリオは、医療供給体制の破綻をきたさない程度に、感染予防策の緩和を徐々に加速していくことで、ハイブリッド免疫の割合を増やしていく、というものです」。

一方で、伊藤さんはもう少し時間がかかるのではないかと推測していました。

「数年以内、もう少し短いことを期待します。子どもも含めた国民の多くがワクチン接種あるいは感染して、集団免疫がついたら、インフルエンザや風邪症候群と同様になるのだと思います」。

それと同時に、感染したほうがいいのか?という誤解についても指摘していました。

「若い人の間でワクチンの副反応で苦しむよりは感染してもよいという誤解があるようです。感染するとワクチンの副反応よりも高頻度で医療機関にかからなければならないような後遺症がおこる可能性もあります。3回接種した方については免疫記憶ができていますので、サイトカインストームを含めた重症化はなくて済むことが期待できます。ですので、感染するよりは、ワクチン接種をお勧めします」。

また、中野さんは次のように推測していました。

「他の病原体もそうですが、なかなか消滅することはなく、人類とは共存するのだと思います。感染対策や就業制限に関して、新型コロナを『カゼ』と同程度に扱えるようになったら、『終息』ではないかもしれませんが、『収束』と呼んでよいのではないでしょうか」。

■ワクチンは今後どうなる?

最後にワクチンに関して、専門家の皆さんに今後どうなるのか聞いてみたところ、実に様々な意見がありましたので紹介します。

ワクチンの追加接種で、重症化や後遺症を防ぐべきだというのは岩崎さん。

「ワクチンの効果もずっと続く訳ではないですが、重症化を防ぐ効果があります。子どもでも後遺症や急性後症候群の可能性もあるので、ぜひワクチンを打って免疫力を増強してあげてください。年に一度や二度、ブースターワクチンを打つことになっても別に問題はありません。それによって重症化を防いで軽い病状で済むのなら、是非ワクチンを受ける意味があります。また将来鼻スプレーワクチンが開発されると、より簡単にブースターを受ける事ができます」。

舘田さんも、

「3回、4回とワクチン接種をすることにより、確実に重症化を予防できるようになりました。一方で、接種から3カ月ほどで、また次の感染を起こしてもおかしくないことが明らかになっています。重症化を抑えるという意味では、1年に1回というような接種でも良いように思いますが、これから得られてくるエビデンスをもとに考えていくことも重要かと思います」と指摘。

荒瀬さんは、個人的な意見、と前置きした上で次のように指摘していました。

「ウイルスは流行に伴ってできる感染者の免疫から逃れるように、次のバージョンの変異株に変わっていきますので、変異株に対応したワクチンで感染を完全に防御することは非常に難しいと思われます。一方でmRNAワクチンは、強い細胞性免疫を誘導でき、変異株にも強く、また持続性も高いことが知られております。ですので、3回接種して、細胞性免疫が十分誘導されていれば重症化する可能性はかなり抑えられるので、若くて免疫応答が強い人は、強い副反応を我慢してまで何回も接種する必要はないかと思います。ただ高齢者のような免疫応答が低い人は何回も接種する必要があるかと思います」

ただ、次のようにもおっしゃっていました。

「麻疹のように子どもの時に感染すると、10年後、20年後に体に残存していたウイルスが脳炎を引き起こす場合も知られております。新型コロナウイルスは未知のウイルスですので、副反応が強くないのでしたら接種しておいて大丈夫かと思います」

伊藤さんは今後の接種の目的が変わるのではないかと指摘しました。

「3回接種した方については免疫記憶ができていますので、サイトカインストームを含めた重症化はなくて済むことが期待できますので、重症化しないことを主たる目的とするのであれば、頻回なワクチン接種は必須ではないのかもしれません。しかしながら、発症予防とか感染予防を期待するのであれば、流行株に対するワクチンや抗体価の減衰に伴う追加接種が必要になるので、目的に応じたワクチン接種といった考え方もでるかもしれません」

頻度について指摘していたのは、堀さん。

「ワクチン接種の感染防止効果は、ウイルスの変異株の特性で、免疫を逃避する傾向が徐々に強くなっているので、この先も『罹りにくくする期間』はどんどん短くなっていくでしょう。現在は6週間程度です。ただ、重症化防止効果は、少なくとも3回以上接種してあれば、半年間程度は持続することもわかってきています。現状のスパイクたんぱくを標的にしたmRNAワクチンでは、半年に1回程度ワクチン接種をしていけば、重症化しないで過ごすことができるようになるので、接種ペースは、『重症化を防止する目的であれば、年に2回程度』に落ち着いていくと思います。また、現在ワクチンの開発は次々に進んでおり、たとえ変異があっても、ワクチンの効果が低下しない新型ワクチン(汎コロナワクチン: pan-corona vaccine)の開発も進んでいます。実用化されれば、年1回程度の接種、あるいは肺炎球菌ワクチンのように数年間有効な薬剤も開発されるようになると期待されますが、新型コロナウイルス感染症の致死率が季節性インフルエンザより高い間は、毎年のワクチン接種は続くでしょう」。

中野さんも、

「この3年間の状況を見ていると、新型コロナは短期間で流行が終息する疾患や、地域的な流行のみに封じ込められる疾患ではなさそうです。したがって、誰でも感染する可能性があります。そうであれば免疫を付けるために、最低限必要な回数はワクチンの接種を済ませておいてほしいです。0回よりは1回接種、1回よりは2回接種、2回よりは3回接種が強い免疫を得ることができます」としたうえで、長期的な展望について、次のように指摘していました。

「将来的には年に1回程度の接種、そして、流行している(間近に流行しそうな)ウイルス株に対する免疫を付けられるワクチンを用いる、というインフルエンザワクチンの考え方に準じた扱いになってゆくのではと想定しています。その一方で、年に1回の接種を反復してゆくのであれば、今後、心筋炎や心膜炎など重篤な副反応から、発熱や倦怠感、頭痛などの軽い副反応に関しても、もっと頻度が低いワクチンを開発することが必要と考えています」。

今後も「あさイチ」では、新型コロナに関する取材を継続して行います。

感染対策やワクチン、後遺症に関してなど、皆さんからの疑問や質問をお待ちしております。

(あさイチ新型コロナ取材班)