新型コロナワクチン 接種後の「心筋炎・心膜炎」

NHK
2022年2月21日 午後8:01 公開

■きっかけは視聴者から届いた1通のメール

それは、デルタ株の感染も収束傾向にあった、まだ夏の暑さが残る9月のことでした。

あさイチの視聴者から、一通のメールが届きました。

「新型コロナワクチンを接種してから1か月以上経った今でも、副反応が続いていて、つらいです。このことは、周りの誰にも言うことができませんし、そんな人もいないので、理解してもらえないと思います」

実は同じ頃、あさイチの新型コロナ取材班の中でも、友人や同僚などでもワクチン接種後の体調不良が長引いている人がいる、という話を耳にしました。

そこで私たちは実際に、体調不良が長引いているという方々の話を伺い、新型コロナワクチンの接種後に、いったい何が起きているのか、取材を始めることにしました。

「胸の痛みや息切れが激しくて、日常生活にも支障が出ています。洗濯を干すために家の階段を上がったり、大根をすりおろしたりといった、それまでなんともなかった作業でも、まるで坂道を全力でダッシュしたように息が上がってしまいます」(40代女性)

「息苦しさがひどく、仕事に出られない日も多くなって、収入も大幅に減ってしまいました。医師からは、『不定愁訴でしょ?』と笑われて、悔しかったですが、何より残念なのは、趣味だったフルートが演奏できなくなったことです」(20代女性)

私たち取材班は、10数名の方にお話を伺いましたが、いずれの人たちも医療機関からは「ワクチンとの関連は不明」と言われ、病名も診断されず、根本的な治療に繋がることはなかったそうです。

■ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎

そうした中、去年12月、ワクチン接種後の新たな副反応のリスクが、国内外で指摘され始めるようになりました。

それは、「心筋炎・心膜炎」のリスクです。

去年12月、新型コロナワクチンを製造するファイザー社とモデルナ社は、ワクチンの説明書を改訂しました。

それまでは

「本剤との因果関係は不明であるが、本剤接種後に、心筋炎、心膜炎が報告されている」

という表記だったものを、

「心筋炎、心膜炎があらわれることがある」

という表記に変更したのです。

また、国とワクチンの専門家が接種後の副反応や体調不良を検討する報告会、

「厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会」では、

全国の各医療機関からワクチン接種後の心筋炎、心膜炎の症状についての報告が上がってきています。

(画像:予防接種法に基づく医療機関からの副反応疑い報告)

厚生労働省のまとめによると、ファイザー、モデルナ共に、60歳以上ではほとんどありませんが、最も頻度が多いモデルナ製ワクチンを接種した15歳から19歳の男性でも、100万人あたり98.7人と極めて稀な頻度ではあるものの、心筋炎や心膜炎が報告されているというのです。

また、その多くは、胸の痛みや動悸などが起きるものの、長くても1週間から10日ほどで回復するとされています。

(画像:厚生労働省がまとめた「心筋炎が疑われた報告頻度」)

しかし、稀に、症状が長期間続くケースもあるといいます。

今回、その実情を知ってほしいと、ワクチン接種後、心膜炎と診断された方が匿名を条件に話してくれました。

30代女性、あさみさん(仮名)です。

(画像:ワクチン接種後に「心膜炎」と診断された30代女性・あさみさん(仮名))

最初の異変があったのは、去年8月。

1回目の接種直後、経過観察のために会場で待機している時でした。

「どんどん症状が悪化してきてしまって、だんだんハーハーいってきて、まぶたも下がってきて、目も開かないような状態になってしまって。いったん家に戻ったものの、その2日後。激しい胸の痛みに襲われ、救急搬送されました。その時は熱が39度以上出ていたのですが、もう耐えられないぐらい胸が痛くなって、何かちょっと息が上がってきちゃって、過呼吸みたいな状態になってしまって」

しかし、病院では、解熱剤を処方されて、すぐに家に帰されたといいます。

「服の上から聴診器を2回か3回ピッピと当てて、『あ、副反応ですね』って言われて終わったんです。『副反応で胸痛とかを訴える方もいるから、薬を飲んで安静にしたら治ります』って言われたんですね。で、そのまままだフラフラしているのに、そのまま家に帰ってくださいって言われて」

1週間、処方された解熱剤を飲み続けましたが、症状は一向に治まりませんでした。

脈拍は、低い時には45、高い時は200と、乱高下を繰り返していたといいます。

さらに、胸の痛みや動悸といった症状も続いたため、別の病院で循環器内科の医師の診察を受けました。

血液検査を行ったところ、体の炎症を測る数値が基準値の、およそ2倍、高いことがわかりました。

そこで医師から告げられた診断結果は、「ワクチン接種後の心膜炎」だったのです。

「血液検査の結果を見て、炎症値が高いというのと、心臓が痛かったというのと、あとは熱があるっていうので炎症が起きているとしたら、まあ心臓、心膜炎じゃないかっていうふうにおっしゃられて。『ワクチンを打ってからこうなったから、ワクチンが原因で私の体で何かが起こったっていうふうにしか考えられません』っていうことでした」

その後も、胸の痛みや息苦しさは続き、仕事や家事もほとんどできない状態だったといいます。

あさみさんを苦しめたのは、体調不良だけではありませんでした。自分の症状についてSNSで発信したところ、『接種した人の自己責任』『副反応は誰でも起きている』という心無い書き込みも目にして、精神的に追い詰められました。

そのストレスからか、症状も悪化していったといいます。

あさみさんは周囲を遮断したいと、心を落ち着けるために、リビングの机の下に入って1時間以上、うつ伏せになって過ごす日々があったそうです。

「やっぱりふとした瞬間に、沼にはまりそうになっちゃって。だから何かもう一人になりたいってなって。何も考えずに無になってじっとするみたいな。本当にひどい時は耳とかも全部塞いで、過ごしていました」

いつまでも続く体調不良と、周囲の無理解。

あさみさんは、ワクチン接種後に、稀ではあるものの、自分のような副反応が出る可能性があることを知ってほしいと言います。

「やっぱりワクチンを打つことによって助かった方ももちろんいらっしゃると思うので、私自身は何かもうワクチンなんて打つなみたいな感じではなく、本当にそのワクチンを打ったことによって、心膜炎になったりとかって、そういう現実があるということを伝えられたらいいなと思っています」

■日本循環器学会常務理事に聞くメカニズム

そもそも、なぜワクチン接種後に心筋炎・心膜炎が起こるのでしょうか?

私たちは、日本循環器学会のコロナ対策班を指揮するキーマンを取材しました。

佐賀大学医学部・教授の野出孝一さんです。

野出さんは、

「全身の免疫の活性化が関係しているのではないか」と推測しています。

「皆さんワクチンを打たれると熱が出たり、体がだるくなったりしますよね。あれはどういう理由かというと、血液の中を流れているリンパ球とかマクロファージ(免疫細胞)というのが活性化するからなんです」

(画像:日本循環器学会常務理事 佐賀大学医学部教授 野出孝一さん)

新型コロナワクチンを接種すると、ワクチンが細胞に取り込まれていきます。

しばらくすると、細胞から、赤いトゲのようなものが出てきます。

ウイルスの遺伝情報をもとに作られた、新型コロナの突起です。

この突起を察知した免疫細胞から出てくる「抗体」が新型コロナの突起に付着して、細胞に感染するのを防ぎます。

実は、このとき、もうひとつの反応が身体の中で起きます。

細胞がワクチンの成分を取り込むと、まるで本当に感染したときのように警報のような働きをする物質が分泌されます。

その警報を受けて、本来なら体を守るはずの免疫細胞が、過剰に活性化してしまうことがあると考えられています。

そうして暴走すると、体内を傷つけてしまうリスクがあるんです。

こうしたことがワクチン接種後に心臓で起こると、炎症が生じるのではないかと、野出さんをはじめとする心臓の専門医たちは推測しています。

「心臓の全体に炎症が起って、それがひどい場合には収縮する力が落ちてくるので、心臓から上手く血液が出せないということになります。全体に炎症が起こる心筋炎、というのがワクチンによる心臓の炎症として多いと思いますね。ただ、なかなかこれは原因を断定するって難しいんですね。状況証拠はあるのだけれども、本当の証拠がないという。心筋炎や心膜炎が起きている、まさにその時に、全身を精密検査しないと、炎症の原因は特定できないんです」

野出さんは、取材の最後に、万が一違和感を覚えた場合、早急に医療機関で診断を受けてほしいと強調していました。

「ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎というのは軽症が多いのですけど、決して侮れない病気だと思います。重症化すると心不全になる。重症化・心不全になったらかなり致命的な動きもありますよね。だから、ワクチンを接種するときも、そのリスクは念頭に置かれて、万が一症状があれば、早めに医療機関を受診していただくことが、本当に大事だなと思います」

■どんな症状?対処方法は?

では、どんな症状が出たら、心筋炎・心膜炎が疑われるのでしょうか。

日本循環器学会によると主な症状は、以下の3つです。

・胸の痛みや胸の違和感

・動悸(どうき)

・労作時の息切れ

こうした症状がなくても、接種前後には激しい運動は必ず避け、可能であれば、接種後は4日ほど安静にしたほうがよいそうです。特に、心臓に持病がある人は、注意が必要だといいます。

また、野出さんたち日本循環器学会によると、

「こうした症状が出て少しでも『おかしいな』と思ったら、積極的に病院を受診して、ワクチン接種後にこうした症状が出たと医師に伝えてほしい」

ということでした。

そうすると病院では心筋炎・心膜炎を疑って、心電図や胸部レントゲン写真、心エコー、血液検査などの詳しい検査を行います。

心筋炎・心膜炎でなかったとしても、狭心症や心不全など他の病気が見つかって結果的に健康を守れる可能性もあるので、受診をためらわないでほしいとのことです。

■予防接種健康被害救済制度

実際にこうした副反応が疑われる場合、検査や治療などに、多額の費用がかかることもあります。

そうした場合に利用できる、国の制度もあります。それが、「予防接種健康被害救済制度」です。

予防接種を受けた際の体調不良が、接種が原因だと国に認められると、これまでかかった医療費の給付などが行われるというものです。

ただ、取材を進める中で、様々な声がありました。

「制度の存在自体を知らなかった」

「医師から病名の診断がされず、申請ができない」

「カルテのコピーを医療機関から取得するにもお金がかかり、家計への負担が大きい」

「手続きつづけるほどの元気がなく、諦めた」

この救済制度で、医療費の補助を受ける場合、

「請求書」「受診証明書」「領収書」「接種済証」「診療録」といった書類が必要です。

家族など代わりの方にもお願い出来るというのですが、

「体調が悪い中で行うのは負担が大きい」という声もありました。

さらに、受診証明書やカルテのコピーの入手にあたっては、この制度に申請することを医療機関に伝えた上で手数料も支払う必要があります。

そして、こうして申請しても、審査には数か月から1年ほどかかることもあり、そもそも審査で認められない可能性もあるそうです。

こうした声を受けて、今回私達は、救済制度を担当する、厚生労働省の予防接種室に取材を行いました。

Q.新型コロナワクチン接種後に副反応が原因と疑われる体調不良に長く悩む方についてはどのような見解ですか?

A.副反応全般について厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会で審議されており、長期的な副反応が疑われる症状についての報告もあることは承知していますが、現状においてワクチン接種が原因と判断されたものはありません。

Q.医師からの病名の診断に至っていない方については 予防接種健康被害救済措置制度の対象となりますか?

A.診察した医師によりワクチン接種との因果関係について不明あるいは否定的と判断された場合であっても、予防接種を受けた方に健康被害が生じたと考えられる場合には同制度の対象であり、申請することができます。

Q.審査にあまりにも時間がかかるため申請を諦めたという声もありましたが なぜ長い時間がかかるのですか?

A.健康被害について医療を受けたことを証明いただくため、予防接種との因果関係について審査会で検討するため、公開している書類の提出をお願いしています。各市町村へ申請いただいた書類は、都道府県を通し、厚生労働省へ進達され、進達受理後に書類の整理や書類の再依頼を行い、審査会で審査され認否が決定されます。申請書類が厚生労働省に進達受理されてから自治体へ通知されるまでに、半年から1年程度かかることが想定されますが、個々の事例により異なるため一概には言えません。

※新型コロナワクチンに係る申請については、迅速に救済できるように、アナフィラキシー等の即時型アレルギーに限り、申請書類等を簡略化できるような措置をとっています。

■取材を通じて

今回の取材を経て、私たち取材班が感じたことは、今後も新型コロナとの戦いは長期化が見込まれ、ワクチンが欠かすことができないからこそ、リスクについてもきちんと検証されて、万が一のフォローアップ体制も整えた上で、接種を行うことだと感じました。

そして何より、アンケートや取材に応じてくださった、今も原因不明の体調不良に悩んでいる方々に、元の日常が少しでも早く戻ってほしい、ということです。 

    (あさイチ新型コロナ取材班)