NOTHING ABOUT US WITHOUT US! 国連勧告を受けて(2)

NHK
2023年1月20日 午後3:11 公開

障害があってもなくても、一人ひとりの尊厳が大切にされる世界を目指すために制定された国連障害者権利条約。2006年に国連総会で採択され、日本も2014年に批准、締結している。今回、国連の障害者権利委員会が日本の現状を初めて審査した。国連で問われたさまざまな課題とは?2週目の今回はインクルーシブな社会を実現する道筋について考える。

<番組の内容>

▶︎インクルーシブ社会実現のポイント「合理的配慮」とは?

▶インクルーシブ教育実現へ当事者の思い

▶問われる日本の教育システム

▶インクルーシブ教育と特別支援教育

▶インクルーシブ社会と情報保証

▶︎インクルーシブ社会実現には何が大事なのか

<出演者>

川端舞さん(脳性まひ)

南由美子さん(難聴)

レモンさん(番組MC)

玉木幸則(番組ご意見番)

あずみん(番組コメンテーター)

<VTR>

中世の街並みが残る、スイス・ジュネーブ。去年8月、日本の障害者がおおぜい集まっていた。

女性「なんでこんなバリアだらけ?」

男性「階段で行かないといけない」

観光地、レマン湖。湖畔には、階段や段差がいっぱい。困っていると、そばにいた人たちが集まってきた。

女性「できたー」

男性「イエーイ」

みんなが当たり前に手を貸せば、段差も、仲よくなるきっかけだ。

おおぜいの障害者が日本からやってきたのには、訳がある。国連欧州本部で開かれる、ある条約に関する会議に参加するためだ。

一同「CRPD!」

国連障害者権利条約(Convention on the Rights of Persons with Disabilities)。障害があってもなくても、一人ひとりの尊厳が大切にされる世界を目指すための条約。

2006年、国連総会で採択され、日本も2014年に批准、締結している。

条約に沿った社会は実現されているのか。国連の障害者権利委員会が、日本の現状を初めて審査した。

国連障害者権利委員会 委員「教育や医療などの現場で、障害のある子どもたちが、自由に意見を言えるようにするため、(日本は)どのような施策をとっていますか?」    

文部科学省「障害者差別解消法が、社会モデルの考え方に沿って策定されており、『心のバリアフリーノート』(文科省作成の教材)でも障害の社会モデルを扱い、その概念の理解啓発に努めているところです」

国連で問われた、障害者をめぐる日本のさまざまな課題。今日は、インクルーシブな社会を実現する道筋について考える。

インクルーシブ社会実現のポイント「合理的配慮」とは?

<スタジオ>

レモン:イエーイ、バリバラ。今日は先週に引き続き、ジュネーブ、国連障害者権利委員会からの勧告を受けて、日本の課題について考えます。玉木さんの後ろには、ご覧ください。玉木さん、自分で書いたんですよね、「NOTHING  ABOUT  US  WITHOUT  US !」これはどういうことでしょう?

玉木:これは、国連で障害者権利条約の採択を目指したときの、世界中の障害者の合言葉なんやね。「自分たちの事を自分たち抜きに決めるな」という意味。(障害者権利条約の理念は)障害のある人もない人も、ともに社会参加し平等に暮らせる社会、いわゆるインクルーシブ社会を目指すものっていうこと。

インクルーシブ社会実現のポイントとなるのが「合理的配慮」。例えば、階段があって、車いすの人が入れるようにしてほしいと訴えた場合、スロープやエレベーターをつけるなどの配慮をすること。でもそれが難しいときには、今できることを工夫するのが大事なの。    

レモン:今日はこの「合理的配慮」というのをキーワードに、国連で日本の課題とされた2つのテーマについて考えていきたいと思います。まずは「インクルーシブ教育」。これ、どういうこと?あずみん。    

あずみん:インクルーシブ教育は、障害のある無しに関わらず、誰も排除されない、ともに学べる教育のことを言います。

レモン:実際は、日本では?

あずみん:日本では大きく普通学校と特別支援学校があります。さらに普通学校には普通学級(通常学級)の他に、特別支援学級が設置されることもあります。

レモン:ジュネーブでどんな会議が開かれたのか、ご覧ください。

インクルーシブ教育実現へ 当事者の思い

<VTR>

川端舞さん。国連での日本の審査に参加するため、ジュネーブにやって来た。

会場では、障害者権利委員会の関係者や取材に来たジャーナリストに接触。手作りのカードで、日本でのインクルーシブ教育実現への課題を伝えようとしていた。

川端「変えないといけないのは、学校の環境だと分かって」

茨城県つくば市。川端さんは、ヘルパー制度を使い、アパートでひとり暮らしをしている。

小学校に入学するときには、教育委員会から、特別支援学校への進学を強く勧められたという。しかし、川端さんの両親は、みんなと同じ普通学校に入れたいと粘り強く交渉、入学が認められた。

学校では、移動や食事などを手伝うため、教育委員会がつけた介助員(特別支援教育支援員)が、ずっと付き添った。学校の先生とは、いつも介助員を通じて話をするようになってしまったという。

川端「先生が、介助員のほうを向いて、(私が)今なんと言ったのかを介助員に聞くのが、当たり前になって」

川端「自分は言語障害があるから、学校では、話してはいけないんだと思ってしまって」

みんなと一緒に学校生活を楽しみたかった川端さん。しかし、先生とも同級生とも馴染むことはできなかった。

川端「教科書を鞄(かばん)から取ってもらったりとか、そういう簡単なことでも友達に頼もうとすると、“何で介助員がいるのに介助員に頼まないんだ”って言われて。友達が手伝うと先生に怒られるので、友達も、あんまり私のまわりに来ないようになった」

インクルーシブ教育とは、ただ、障害のある子どもが同じ教室にいればよいというものではない。川端さんは、自らの経験を通して、日本の教育のあり方を変えたいと思っている。

ジュネーブでは、国連の障害者権利委員会が行う日本政府の審査を傍聴した。審査では、日本の障害児に関わる教育に注目が集まった。

問われる日本の教育システム

国連障害者権利委員会 ゲレル・ドンドフドルジさん(モンゴル)「(日本では)隔離された環境で教育を受ける障害児が増えているようですね」    

国連障害者権利委員会 ヨナス・ラスカスさん(リトアニア)「差別的な医学モデルと、障害児を分離する教育が進められることにより、インクルーシブ教育の否定につながっています」

日本政府の立場は、文部科学省が説明。

文部科学省「健常児と同じ場で学ぶ障害児が大きく増え、インクルーシブ教育も大きく進展しました。一方で、合理的配慮で、特別支援学校を選ぶ当事者を全面的に減らすことは困難であると考えております。発達に応じた教育をおこなう特別支援学校では、知的障害児も積極的に発言し、リーダーシップを発揮することができる。こういった理由から選ばれております。そういう状況ではありますが、文部科学省では、引き続き、インクルーシブと合理的配慮を一層充実させていきます」    

インクルーシブ教育と特別支援教育

<スタジオ>

レモン:ジュネーブに行ってきた川端舞さんです。よろしくお願いします。

川端:お願いします。

レモン:ジュネーブは、どうでしたか?

川端:世界と日本の障害者が自分たちの権利について話し合う場に参加できて刺激を受けました。

レモン:国連からはどんな勧告が出たんでしょうか?

あずみん:「分離教育をやめる目的で、すべての障害児が合理的配慮を個別に受けられるよう質の高いインクルーシブ教育の国家行動計画を採択するように」と勧告がありました。

日本では、普通学級で学ぶ障害児の数が増えていると国は言っている。一方、特別支援学校や特別支援学級で学ぶ子どもの数が増え続けている現状もある。

国連の勧告を受けて、文部科学省はこう言っている。

「特別支援教育を受ける子どもが増えているなか、多様な学びの場において行われている特別支援教育を中止することは考えていないものの、引き続き、勧告の趣旨を踏まえ、インクルーシブ教育システムの推進に努めていきたい」

レモン:文部科学省はどういう考え方なんですか?玉木さん。

玉木:普通学校の特別支援学級、特別支援学校。障害のある子どもがどこで学ぶのか、選択肢を用意しているというのが、文科省が言うてる立場。

レモン:つまり、「行きたかったら普通学校でもいいですよ」ということですか?

玉木:と、聞こえるやんな。

あずみん:私は中学校まで普通学校に通っていたんですけど、実は小学校の途中で手術せなあかんくって、学校を離れていたんですよ。復帰したら、今まで仲よくやっていた友達が、ちょっと距離が・・・。

レモン:あらら、距離できた。

あずみん:で高校選ぶときに、ちょっとこのまま、健常者の友達とつきあうのがしんどいなあとなって、自分で(特別)支援学校を選んでしまったわけなんですけど。

レモン:そもそも“みんなで一緒に”っていう生活ができる(普通)学校になってないから、「こっち(特別支援学校)どうですか?」ってなってる。いやいや、逆や逆やと。こっち(特別支援学校)じゃなくて、こっち(普通学校)をいろいろ変えて、みんなが行けるようにしたら、あずみんもこっち(特別支援学校)を選ぶ必要もなかったかもしれん。

あずみん:そうです。

玉木:文科省が「インクルーシブ教育」というときは、どうもね、国の会議でも出てると、障害児の教育のことだけ、障害児のことだけしか言ってないんちゃうかなって思うねんな。

レモン:感じたわけですね。

あずみん:確かに。

玉木「インクルーシブ教育」っていうのは、“障害のある子とない子が、どうやったら混じりあって勉強したり遊んだりできるか”を考えていくことやから、決して「障害児教育」のことを言っているわけじゃないっていうことが、なかなか通じへん。

文部科学省は、「障害者権利条約に規定されているインクルーシブ教育システムとは、障害者の精神的、身体的な能力を可能な限り発達させる目的のもと、障害者を包容する教育制度だと認識している」と言っている。

レモン:一緒に生活、一緒に学ぶことで、1人でも障害がある子が入ってくれたことで、いろんなことを知れる。こういうコミュニケーションしたらいいんやと知恵がついていく。舞ちゃんはどう感じますか?

川端:小中学校まで、同じ学校に特別支援学級があって、知的障害のある子は、学校にいる間は、ほとんどの時間をその教室(特別支援学級)で過ごして。私は自分にも障害があるのに、「自分は勉強ができるから、あの子たちとは違うんだ」って思ってしまっていた。

同じ教室で学んでいないと、同じ学校にいても仲間だとは思えないので、障害がある子もない子も、同じ教室にいるのが大事だと思います。

レモン:そういう意味で、求められる合理的配慮って、ずばりこれがあったらええんちゃうのって、まずどうしてほしい?

あずみん:私は「入院してしまって障害が重くなりました。電動車いすに乗るようになったけれども、気持ちは前と変わらないから、これからも仲よくしてください」って言えるような場があったらうれしかったかも。

川端:私は、高校(普通学校)では、ちゃんと先生が私の話を聞いてくれて、それを見ていた友達も、だんだん私に話しかけてくれて、高校時代の友達とは今でもつきあえているので、本当に普通学校に行ってよかったと思っています。

玉木:なるほど。

レモン:さて、インクルーシブ社会を作るためには、どんなことが大事なのか。ジュネーブでは、ほかにも議論されたことがあるんです。どうぞ。

インクルーシブ社会と情報保障

<VTR>

ジュネーブには、耳が聞こえにくい難聴者の団体も来ていた。メンバーの1人、南由美子さん。

難聴者が補聴器や人工内耳をつけても、それで健聴者のように聞こえるわけではない。

「やっぱり人工内耳とか補聴器をしてても、完璧に健聴レベルにはならなくて」

女性「ならない。私、この話でぎりぎり入るかなっていうぐらいなんですけど」

聞こえていないことに気づいてもらえず、情報から取り残されがちなのだという。

「まず本当に私は理解が必要だと思うんですね。あとは環境ですかね。教室の環境であったり、最近だったらタブレット、事前に資料をいただくとかね。できることがあるんですよ」

さらに、補聴器や人工内耳では、音の方向や特徴などを聞き分けることも難しい。

男性「音の方向性がね、分かんない。そういうあの、音の聞き分けができないから、誰がしゃべってるか分かんないよね。会議のとき、とっても困るよね」

国連では、南さんたちが命綱と考えている情報保障の問題についても、審査された。

国連障害者権利委員会 ロバート・マーティンさん(ニュージーランド・知的障害)「障害者権利条約に関する情報には、私たちが分かる“読みやすい版”も用意されていますか?」    

国連障害者権利委員会 ガートルード・オフォリワ・フェフォアメさん(ガーナ)「(障害者が)意思疎通や情報にアクセスしやすくするような最新の政策や取り組みについて教えてください」

それに対し日本政府は…

内閣府「障害者による情報の取得利用、意思疎通に関する施策を総合的に推進することで、共生社会の実現に資することを目的とした新たな法律が施行されています」

日本政府は、去年、施行した障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法の理念を生かしていきたいと説明。この法律は、誰もが同じ情報を、同じタイミングで得られることを基本理念にすえている。

しかし、こうしたやりとりの場でも、南さんたちは、不自由を感じていた。

日本語の字幕がなく、内容を十分に把握できなかったのだ。国連の会議では、公用語以外の情報保障は、それぞれの国の判断で対応することになっている。

法律に基づき、情報保障をしてほしいと考えた南さんたち。日本政府に字幕をつけるよう頼んだが、「直前だったので、今回は対応できない」とのことだった。

男性「(字幕が)付いてないですよね。残念だなって感じがします」

「そこが一番重要なのにね」

インクルーシブ社会をつくるために

<スタジオ>

レモン:南由美子さんにも来ていただきました。よろしくお願いします。

:よろしくお願いします。

レモン:スタジオでも、しゃべっている言葉が聞こえにくいと思うんですけど。

:このスタジオの中ではですね、補聴支援機器と補聴器がつながってるということです。

レモン:その置いてるものがマイクになるんですか?

:そうです。

レモン:大丈夫ですか?僕、声、大きくないですか?

:大きいです。

レモン:すいません。

:助かります。

難聴って、ひと言で言っても、個人差がとても大きい。日本では、聴覚障害の手帳をもらえるのは、聴力レベルが70デシベル以上の人。でもWHOは、日常会話が聞こえるくらいの人でも支援が必要としている。

レモン:えらい差がありますね。ここだけでもびっくりしますけれども。ということは支援が必要だけれども、障害者手帳もないし、支援を受けられないなんてことも、南さん、あるんですね。

:はい。私は長い間、ずっとこの中等度と言いまして。障害者手帳がなかった。

:生まれてから10年前までは、支援を受けることができませんでした。

レモン:つまり70デシベル以下だったってことですか。

玉木:だから、手帳とか何にもなくても困ってたら、支援したらええだけやろっていうこと。

:その通りです。

レモン:障害があって、情報にアクセスしにくい人たちの情報保障についてですけども、国連からは何か勧告が出ているんでしょうか。

あずみん:ウェブサイトやテレビなどの公共の情報に、誰もがアクセスできるよう、法的拘束力のある情報保障の基準を設けるようにと勧告されました。    

一方、日本では去年、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が施行され、障害があってもなくても、同じ情報を同じタイミングで得られる社会を目指すとしている。

レモン:南さんどう生かしてほしいですか?

:やっぱり災害時って突然なので、その時は文字情報です。

レモン:こう文字で案内が来るとか。

:書いてくれるとか。

レモン:補聴器をお使いのかた、たくさんいらっしゃるでしょうしね。

玉木:難聴者以外にも、ろう者とか、盲ろう者とか、知的障害のある人たちなど、さまざまな人たちが、自分はどんな配慮が必要なのか訴えていく必要もある。

玉木:困ってたら「困ってる」と言っていい、「助けて」と言っていいということも、もっと知ってほしいなって思うな。

レモン:2週にわたってやってまいりました。あずみん、いかがだったですか?

あずみん:“最初の分離は一生の分離”っていうふうにもよく言われるので、大人になった先の社会でも、いろんな人がいるっていうことが当たり前になっていくためには、やっぱりインクルーシブル教育が“肝”になってくるんじゃないかなと思いました。改めて。

:補聴器をつけてれば大丈夫と思われてしまっていえ。でも、実は補聴器をつけたからといって完璧ではないんですよ。そういうのもインクルーシブ教育があれば、みんな理解してもらえるきっかけになりますよね。

レモン:バリバラでは今年も、インクルーシブ社会の実現のために、引き続き、いろんなことをあなたと考えて話し合っていきたいと思います。ということで皆さん、今日もありがとうございました。ありがとう。

※この記事は2023年1月13日放送「NOTHING ABOUT US WITHOUT US ! 国連勧告を受けて②」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。