#ふつうアップデート 「俳優になれるのは心身ともに健康な人?レッスン編(1)」

NHK
2021年11月4日 午後8:29 公開

俳優のオーディションの募集ページには「心身ともに健康な方」という条件が記されることが少なくない。そこでバリバラでは「障害があると俳優にはなれないのか? 」 と今年6月、俳優・神戸浩さんを塾長に、障害者専門の俳優養成塾「神戸塾」のオーディションを開催、9人が入塾を果たした。今回は先週に引き続き、演劇界のトップランナー、演出家・鴻上尚史さんによる演技レッスンが行われた!

「対話」が生み出す、障害者としての“リアルな”演技

障害者でありながら「健常者を演じたい」というナゾ願望をもつ塾生がいることがあきらかになった前回放送。ワークショップ2日目では、鴻上さんがそうした塾生たちの悩みを解消し演技力アップにつなげていく。

まずは、塾生たち二人一組での課題演技を行っていく。演じるのは「コンビニの傘」というお話。ある雨の日、コンビニで買い物を終えたAさんは傘立てから傘を取る。そこにBさんが店から出てきて「それ、私の傘です」と声をかける、というストーリーだ。

しかし、この台本は「心身ともに健康な健常者」が演じることが想定されている。そこで鴻上さんがとった行動は塾生たちとの「対話」。塾生の電動車いすユーザー3人に話を聞いてみると「雨の日にはコンビニには行かない」という言葉が。ということで設定を「雨が降りそうな日」に変更。加えて「1人で買い物に来た」のではなく「親やヘルパーと来た」設定に変更。つまり無理に健常者を演じるのではなく、障害者としてリアルな日常を演じて欲しい、という鴻上さんの考えだ。

手話やジェスチャーで演技するNyankoさんの場合には、「筆談」を芝居の中に組み込んだ。軽度の知的障害がある田宮さんは状況が具体的であるほど演技がしやすいということで、コンビニの店員役を追加。鴻上さんは塾生と話し合い、彼らの現実に近い設定を考え、台本を書き換えていった。

2日間に渡るワークショップを終え、車いすユーザーの前田さんはこう話す。「今まで『健常者ならどうするか?』っていうことを考えていたんですけど、障害者なら自分なら、どう実感するのか?っていうことを先に考えていきたいと思います」。そして関岡さんは「車椅子ならこんな動きができるということを考えながら、演技ができたのですごくやりやすくて。演技って楽しいなってことを久しぶりに思い出しました」と話してくれた。

俳優を待ちうける厳しい競争――その絶望と希望

ワークショップでは健常者でなく障害者の役を演じ、手応えをつかんだ塾生たち。しかし今の日本のドラマや映画で障害のある人を演じるのは心身ともに健康な人気俳優がほとんど。この先、待ち受けるのは厳しい競争の世界だ。鴻上さんは実力をつけない限り、未来は切り開けないと考えている。

たとえば車いすの役(の募集)がひとつあったとして、そこには健常者の俳優や、実際に車いすユーザーである俳優などいろんな俳優がたくさん応募してくるだろう。車いすの俳優を現場に呼ぶことには、健常者の俳優を起用することに比べて“手間”がかかると制作者は考えるかもしれない。それでも当事者の俳優がその役を演じることに説得力やリアリティーがあれば選ばれるはず。「いたずらに希望を語ることはできないけれど、簡単に絶望することでもない」と鴻上さんは語った。

大切なのは「場数」……スタジオで舞台に挑戦する塾生たち!

ワークショップの最後に、鴻上さんが9人の塾生にこれから俳優をやっていく上でのアドバイスを話してくれた。「野球がうまくなるためには何回もバッターボックスに立つっていうのと同じで、やればやるだけ演技はうまくなる。劇場だけでなく、今は喫茶店やバーで芝居をやることも普通になってきている。ここから先、どうやって場を作れるか。自分で場を作っていくことがすごく大事」というのだ。

神戸塾の塾長を務める神戸浩さんは日本アカデミー賞・優秀助演男優賞にも輝いたこともある、障害のある俳優のパイオニア。40年以上前から小さな舞台でコツコツと腕を磨き、活躍の場を切り開いていったそうだ。

ということで、神戸塾の塾生たちもスタジオでミニ演劇を披露することになった。「高校の帰宅同好会」という、ちょっと不思議な部活動をテーマにした青春劇で、それぞれ障害のある高校生の役を演じた。

演技後、塾長の神戸さんは「うーん、もうちょっと場数を踏まないとあかんな」と厳しい感想。しかし「でも、俳優になれるのは心身ともに健康な人だけじゃない、と今のお芝居を見てわかった。演技が上手になれば誰でもいけるぞ、この世界は」と力強い言葉も語ってくれた。

鴻上さんは今回のテーマを振り返り、こう話してくれた。「この国で何年かかるか分からないけど、車椅子や耳が聞こえない人のドラマが多くなると思う。やがて、障害のあるなしに関わらず、“恋愛の話なんですよ”とか“生き様の話なんですよ”っていう時代が来ると思う」。

2週に渡りお届けした、ふつうアップデート俳優編はまだまだ続きます。次回の舞台は東京!? これからの神戸塾の活躍をお見逃しなく!

※おしらせ

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