視覚に障害のある親の子育て、第2弾。今回は、もやもや編。見えない・見えにくい親は、何に迷い、葛藤するのか聞いてみた。
<番組の内容>
▶︎弱視のママのもやもや「“ふつう”の子育てができない」
▶︎“ふつう”の子育てって、なんだろう?
▶︎もやもや座談会「私、親としてみられていないの!?」
<出演者>
菊地亜美さん(タレント)
菊地美由紀さん(視覚障害のある親の会代表)
谷口真大さん(全盲)
美保子さん(弱視)
レモンさん(番組MC)
玉木幸則(番組ご意見番)
あずみん(番組コメンテーター)
<VTR>
視覚に障害のあるパパ・ママの子育て、第2弾。
前回は、見えないなかでの赤ちゃんのお世話で直面する、“あるある”をご紹介。
真大「汚れを拭いても残ってたり、(見て)わからないので」
でもそんなときは・・・
真大「霧吹きで最初に濡らしてからやると全体的にとれやすいので、ひと工夫という感じで」
どうすれば、みんなが子育てしやすくなるか、考えた。
今回は、もやもや編。見えない・見えにくい親は、何に迷い、葛藤するのか。
美保子「子育てって、目が悪いからっていう配慮はないんですよね」
心の内を、聞いてみよう。
<スタジオ>
レモン:今日はですね、「もやもや」編です。親として傷ついた経験や葛藤など、心の内にある悩みを聞いていきますよ。ゲストは菊地亜美ちゃん。
菊地:お願いします。
レモン:いま2歳の娘さんの子育て中ですが、もやもやすることってありますか?
菊地:私ね、子ども産まれてから、夜って出れなくなるじゃないですか?
レモン:そうね。
菊地:ご飯行ったりとか飲みに行ったり。それを「あ、夜飲みにいけなくて可哀想だね」って言われすぎると、「いや、わかって産んだんだけど」って思って。なんかもやもやする時あるんですよね。
スタジオには、視覚に障害のあるみなさんも。新米パパの谷口真大さんと、視覚障害のある親の会代表の菊地美由紀さん。
弱視で1歳の女の子を育てる美保子さん。
レモン:真大さん、どうですか?
真大:はい。うちはですね、まだ産まれて2か月経たないので、あまり社会との接点がまだなくて。もやもやっていうのをまだ感じたことがないですね。
レモン:美保子さんはどうですか?
美保子:はい、私のもやもやは「“ふつう”の子育てができない」です。
レモン:これ一体どういうことなんでしょうか?
弱視のママのもやもや「“ふつう”の子育てができない」
<VTR>
美保子「こんにちは~」
兵庫県に暮らす、美保子さん。
娘のほのかちゃんは、1歳。いろんなことに興味がでてくるお年頃だ。
美保子さんの視力は、0.01。見える範囲は、7歳ごろから、狭くなり続けている。
ほのかちゃんと遊んでいるときも・・・
美保子「私、普通にしたときにここが見えるんで、この立ち位置にいると、ほのかが(視界に)入ってくる」
お昼どき。美保子さんが、ほのかちゃんの離乳食をつくっているときも。ほのかちゃんが視界からいなくなってしまった!
美保子「あんまりそっちいかんといて。こっち」
食べさせるのも、試行錯誤。
ディレクター「離乳食が始まった時は、大変でした?」
美保子「スプーンを口に持っていってあげられなくて(口を)触って入れるんですけど、終わる頃にはぐっちゃぐちゃになってました」
美保子「ママが欲しいスプーンがない。ちょっとまってな」
見えにくいなかでの子育て、手探りの毎日だ。
出産するまで、美保子さんは10年以上、マッサージ師として働いてきた。見えにくいなか、仕事も生活も自分の力で乗り切ってきた。
そして去年、36歳で結婚。ほのかちゃんが産まれた。ところが、子育てが始まると、美保子さんの心に「もやもや」が広がり始めた。
夫は、となり町で働くため、平日は、ほのかちゃんと二人きり。コロナの影響で、保育園の一時保育や産後ケアなど行政の子育て支援サービスも使えなかった。
見える人なら、なんとか乗り切れるのかもしれない。でも自分には難しい。美保子さんのなかで、理想の子育て像が崩れていった。
美保子「3回ごはん作って片づけてっていうのができなかったんですよ。子どもの命がかかってるって思って、どうしようって思いました。何かもう、あれもせなあかんのにこれもせなあかんのにって思いながら、家の中ぐっちゃぐちゃ状態でした」
美保子「たぶん私、人一倍ふつうに生きていきたい と思ってたんです。障害者として生きてるんですけど、それでもふつうに出かけて人と関わりを持って生きていきたいって思ってたんですけど、(子育ては)この子の人生に関わるって思ったら「目が見えなくても私は楽しく生きています」とは、よういわんなと思いました」
美保子さんは、“ふつう“の子育てができないと自分を責めるようになった。
そんな美保子さんの背中をおしてくれたものがあった。
美保子「YouTubeで、菊地亜美さんのチャンネルをみせて」
菊地亜美さんが配信する動画。離乳食のレシピや1日の過ごし方など、子育ての日常を紹介している。
その動画のなかで、亜美さんが発したある言葉にはっとしたという。それは、亜美さんが、キッチンから、リビングの子どもを見ているシーン。
菊地亜美「私は食器を洗ってるんですけど、食器を洗ってる間は、対面キッチンなので見えてるんですが、こんな感じで(娘は)ソファで遊んでまーす。ソファから落ちるのが怖いので目が離せません」
見えていたら、少し離れても、家事ができること。街のなかで、自由に歩かせられること。見える人にとって当たり前の育児は、自分のがんばりだけではたどり着けないと、改めて気づいた。
美保子「あ、そうかと思いました。見えてるお母さんはいいなとかじゃなくて、私は見えないからこの状態なんだって思って」
美保子「子育てって目が悪いからっていう配慮はないんですよね。子どものためにしてあげないといけないことは同じで。私が育てることによって、(娘の)ほのかの可能性をつぶしたらいけないなって」
自分を責めてばかりいても仕方ない。美保子さんは最近、自分にできることを探し始めた。ほのかちゃんを連れたお出かけに、挑戦している。
美保子「スーパーの買い物とかちょっと難易度が高いので、ここのパン屋さんだったら、ドアを開けたときに(店員が)とりますねって言ってくださるのでよくきます」
美保子「私が母親なんで、ずっと一緒にいていっぱい教えてあげたいっていう気はあるんですけど、それができないのであれば、周りに助けてもらうなり工夫もしないとあかんなって思いました」
“ふつう”の子育てって、なんだろう?
<スタジオ>
レモン:どないしたーん!
菊地:うれしい~~。視覚障害のある方が、私のしゃべる声を聞いて、見てくださってたなんて初めて知って。感動しました、うれしい。
レモン:感動してんのええけど、もっとすごいこと言ったんかなと思ったら、さりげない当たり前のこと言うてただけや!
菊地:「目が見えるお母さんがいいな」じゃなくて、「目が見えるお母さんってこうなんだってわかった」って言ったのが、私も視覚障害のある方に対してすごく勉強になった。
レモン:美保子さんが思う「“ふつう”の子育てをしたかった」っていうのはどんな子育てなんですか?
美保子:ひとつは、ほかのお母さんと同じようにっていうことと、もうひとつは、子どもが「あれ何?」って言った時に、「あれは何々だよ」って教えてあげるとか、子どもが求めるものを、視覚の面でもちゃんと与えられるっていうところかなあと思います。
“ふつう”の子育てって、いったいなに? みんな思うところがあるみたい。
あずみん:私も、生まれたときからこの障害で、自分の障害をどうにかこうにかとか、別に何も思わないんですけど。ただ、自分が子どもをもし育てるってなったら、美保子さんもおっしゃってたように、いろんなことをしないといけないけど、ほかのお母さんたちと同じように私はできないから、ちょっとちゃんと育てられるかって聞かれたらちょっと心配やし、自信ないなあって思っちゃいました。
レモン:2人の子どもを育てている玉木さん、どう聞こえてますか?
玉木:僕も不安があるのは前提で、ちゃんと育てられるんやろかとか、なんか変なことしておかしい方向行ったらどうしようとか、それはあるんやけど。でも僕は僕やから、僕だけでできへんから、いろんな人の力を借りてやってきたつもりやねん。僕なりに、“ふつう”に子育てやってきた。
菊地:私、滑り台がちょっと苦手なんですよ。
レモン:マジで!?
菊地:「ママ一緒にやろう」って言われても、怖いし「ちょっと待ってくださいねー」ってなっちゃうから。パパにやってもらってるんですよ。
レモン:そうなん!?
菊地:全部やりたいとか、頼る前に自分でやってみたい、ちゃんとやりたいっていうのがすごい強かったんですけど、あるとき、「あれ? 私そもそもそんなにできてたっけ」って思ったんですよ。見方を変えた時に、「ママできないのこれ」って言えるようになって。
レモン:言えるようになったん!
菊地:それで、自分の不得意なこととかをお願いするようになった。完璧でいたいって思っちゃいません? 美保子さんも。
美保子:そうですね、もともと出来てたかって言われたらできてないのに。
菊地:そう。
美保子:菊地亜美さんもそうなんやと思って、なんか安心しました。
「正解」や「完璧」にとらわれず、誰もが自分らしく子育てできますように。
ちなみに、誰かの力を借りたいとき。視覚障害のある親も使える福祉サービスがある。
移動するときの情報提供や外出のガイドをしてもらう「同行援護」と、自宅で入浴や家事のサポートなどをしてもらう「居宅介護」。
この「居宅介護」には、「育児支援」も含まれていて、もく浴や授乳、保育所からのお知らせの代読などをしてもらえる。美保子さんも、さっそく制度を利用してみたそう。
美保子:前から行きたかった子育てプラザに行きまして、イベントの、子どもの靴のサイズを測ってもらうっていうのに参加できて、すごいよかったです
レモン:なるほど。この制度のことはね、前から知ってらっしゃったんですか?
美保子:居宅介護の中に、正式に子育て支援っていうのがあるっていうのは知らなくて。
レモン:なかなか入ってこないんですね、そういう情報は。その点、見えないママの先輩である美由紀さんは、日々制度を活用されていますか?
美由紀:そうですね。ただ、事業所によって、あるいは個々人のヘルパーさんによっても、考え方とかできる範囲が変わってきまして。だからこないだのヘルパーさんはここまでやってくださったけど、今日はここは断られちゃうんだとか。統一してほしいなあとは思います。
※障害福祉サービスに国の基準はありますが、支援の対象や内容は自治体や事業所により異なっている場合があります
レモン:続いては、美由紀さんのもやもやです。どんなもやもやでしょうか?
美由紀:私のもやもやは、「親としてみられていないの!?」です。仲間と一緒に話してきたので、ちょっとお聞きください。
もやもや座談会「親としてみられていないの!?」
<VTR>
集まってもらったのは、視覚障害のある親とその家族の会「かるがもの会」のみなさん。
子育てするなかで「親としてみられていないの!?」ともやもやした経験があるそう。当時の気持ちを思いだして、語り合ってもらった。
最初のエピソードは、美由紀さん。4年前、娘さんを出産したとき、病院であることを言われたそう。
美由紀「最初のころはとっても丁寧だったんですが、いざ産む話になると、全く見えない方を受け入れるのは病院としてリスクが高いため、「母子分離を提案します」ということで、見えないあなただけが病室にいる時は、赤ちゃんは預かってこちら(病院側)で面倒みます」ということを提案されました」
多くの場合、出産した母親は、赤ちゃんと同じ部屋でお世話の仕方を学ぶ。美由紀さんも、赤ちゃんと2人で過ごせると思っていた。ところが、美由紀さんは病院から「目の見える身内の人が一緒じゃないと赤ちゃんと過ごせません」と言われてしまった。
美由紀「とてもショックで、どうにかしていただけないだろうかと一生懸命考えたんです。私なりの対策をとりますので、せめて10時から夜7時までは赤ちゃんと一緒に過ごすことを許可していただけませんか、とお願いをしました」
美由紀「理由が、「見えないから赤ちゃんをベッドから落としてしまうでしょ」と最初から決めつけられてしまったんですよね。私の話も聞いていただくことができずに、病院側だけで判断をされてしまったのが、まずとてもさびしくて悔しくて。本当にこれから自分が出産して親になっていくことができるんだろうかと、一気に自信がなくなったのを覚えています」
弓子「美由紀ちゃんの話聞いてて、世の中見えてへん親っていっぱいいるけど落としたなんて話聞いたことないし。うちらのほうが絶対慎重やしって思いました」
聖子「私もそう思う」
美由紀「手できちんとベッドの縁を探ったりとか、そっと赤ちゃんだっこしようと私たち一生懸命気をつける。それは当然だと思っているから、そう簡単に落とさないですよね」
続いては、ふたりの娘を育てる、聖子さん。長女の幼稚園探しで苦労したそう。
聖子「市内の幼稚園の説明会に3、4か所行きまして、ここすごく行きたいって思う幼稚園見つけたんですけど、ちょっとうちの方には(送迎)バスが来ないっていうんですよ。ヘルパーさん使うかファミリーサポート使うか訪ねても、いろんなところで断られて」
当時、聖子さんは、急激に視野が狭くなっていた時期だった。正直、遠い停留所まで通うのはハードルが高い。でも我が子には、納得する教育を受けてほしい!
困った聖子さんは、市役所に相談をしてみた。すると、担当者から思いがけない答えが返ってきた。
聖子「幼稚園はいかせないという選択肢もありますよ」とか「幼稚園じゃなくて、集団生活は小学校からでもいいんじゃないですか」と言われてしまいました。いや、ありえないと思いましたね。(親に)視覚障害があるだけで、自分の行きたい幼稚園にいかせられないなんて、なんだそりゃって」
親として抱く、子育てへの希望や考え。それを尊重されなかったと感じる経験があったのだ。
さらに、弓子さんが忘れられないのは、地域のイベントに参加しようとしたときのこと。
弓子「子どもがまだ幼稚園のときに、地域の区民センターで、「地域の障害者やひとり親家庭を招いたクリスマスチャリティーコンサート」が開催されたんですね」
ふだん外出するときは、盲導犬と歩いている弓子さん。地域で、障害者を招いたクリスマス会が開かれると知り、親子で楽しみにしていたそう。ところが、前日。
主催する団体から、衝撃の電話が・・・「参加は、本人と介助者ひとりまでがルール。盲導犬か子どもか、どちらか選んでください」と言われたそう。
弓子「私にとって盲導犬は3本目の足だし、4歳になったばかりの娘をひとり置いていくわけにいかないし、もし1席しか用意できないのであれば、いすの下に盲導犬、私の膝の上に娘でもいいのでって言ったんですけど、「だめです、お子さんが盲導犬かどっちかだけできてください」とか言われて。もうそれはね、もう思い出すだけで、悔しい気持ちでいっぱい」
智美「弓子さんはお子さんと一緒に参加したかったのに、子どもを連れてくるか盲導犬かっていったら、なんていったらいいんだろ、お子さんも盲導犬も「弓子さんのガイドをする人」みたいにみられてる?」
弓子「そう思うよね」
智美「そういう見方をされてしまうことってすごくある」
美由紀「見える=介助者って思っちゃうんですよね、みんな」
聖子「私も2歳の娘を連れて市役所に行ったときに、通りすがりの人が「お母さんを連れて偉いね」とか言ってて。そうなの?私が連れられてるひと? みたいな」
ディレクター「どうしてそういう声かけになってしまうと思いますか」
美由紀「やっぱり知らないんだと思います」
聖子「私も知らないんだと思う。身近にいないんじゃないかな」
智美「知らないってこと以外にも、(できないと)思い込んでしまうっていうのはあると思うんですよね。こうなったらどうしよう、ああなったらどうしようっていうので」
<スタジオ>
あずみん:もやもやした気持ちを仲間でしゃべったり、打ち明けたりすることって、ふだんはあんまりないんですか?
美由紀:差別されがちなことは、しょうがないとか、あるあるだって思いながら生きているところもあって、結構飲み込んでしまうんですよね。怒ってもしょうがない、泣いてもしょうがない、ちょっと冷静になってから考えようと思って一回飲み込む癖があるので。
ちなみに気になるのが、みなさんのその後。
美由紀さんは、結局母子のみの入院生活は認められず。ただ、身内やヘルパー、友人のつきそいがあればOKに。幼稚園探しで苦労した聖子さんは、別の幼稚園へ。弓子さんは、コンサートへの参加を断念したそう。
真大:今までの話を聞いてて、ひとつ思い出したことがあって。
レモン:なんでしょう?
真大:1か月検診にわが子を小児科に連れて行ったときのことなんですね。妻と僕と、そのときに一緒にサポートしてくれてた僕の両親も一緒に行ったんですけれども、病院の方がうちの娘の話をするときに、私たちではなく、僕の両親に向かって話をされていたんですよね。
あずみん:えー。
菊地:それ、もやもやしますねー。
真大:「この子の親は私たちです」というのはその時は伝えてはいるので、だから次回は私たちだけで行こうかなっていう話を妻としているんですけれども…。
レモン:子どもが介助者に見られてしまうっていうエピソードを聞きましたけれど、美由紀さんはそういう経験ありますか?
美由紀:そうですね、結構ありましたね。例えば(娘が)2、3歳のときなんですけど、病院とか市役所とか公的な場所で、私が文字を書けないとあちら側が決めつけてしまって、娘のほうに「ここにサインしてね」とか(笑)
菊地:3歳とか!無理(笑)
美由紀:私、場所さえ教えてもらえれば文字は知ってるから書けるんで、場所を教えてくださいってお願いし直しましたけれども。
菊地:美由紀さんの口から聞くと、「そんなの3歳なんて書けないよ。なんでそんなこと言うの区役所の方って思うんですけど、美由紀さんに「書けますか」って聞くのすら失礼なんじゃないかって思ったりとかして。こっちが気をつかって逆に(やりとりが)変になるっていうのもあると思うんです。
あずみん:将来、私も子ども好きなんで、子育てしたいなとか思ってるんですよ。でも障害者であること、プラス女性であることの複合差別的なものって、まだまだあるなって思うので。社会がもうちょっと「障害あるけど、子育てできるよ」っていうことを知ってほしいし、変わってほしいなってすごい思った。
玉木:最後に言っておきたいことがあって、特別なことじゃないよ、ごくごく当たり前のことを言うけど。「子どもを産んで育てる権利はみんなにある」っていうこと、もう1回確認しようね。
レモン:今日は皆さんありがとうございましたー。ばいばーい。
※この記事は2022年12月16日放送「見えないパパ・ママの子育て もやもや編」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。