バリアフリー・エイジング結成!老い方研究会

NHK
2022年9月9日 午後7:49 公開

人生100年時代とわれているものの、これから老後を迎える障害のある人の声を聞くと、「老後の情報がない」「高齢の障害者が周りにいない」など、老いにまつわる情報から取り残されていた。そこで今回は、高齢化社会を生きる障害者の老後について、みんなで考えていく。

<番組の内容> 

▶︎ 玉木さんの老いの現実・・・“気がつけば○○”

▶︎ 自立生活に忍び寄る影

▶︎話すは手間だが役に立つ

<出演者> 

秋元才加さん(俳優) 

河本満幸さん(ポリオ/車いすユーザー) 

森田かずよさん(二分脊椎症・側弯症/車いすユーザー) 

小笠原由起さん(脳性まひ/車いすユーザー) 

岩隈美穂さん(京都大学大学院医学研究科准教授/車いすユーザー) 

レモンさん(番組MC) 

玉木幸則(番組ご意見番) 

あずみん(番組コメンテーター)

<スタジオ>

レモン:今日のバリバラは、「障害者の老い」について考えていきますよ。ゲストは秋元才加ちゃん。

秋元:よろしくお願いします。

レモン:秋元ちゃん、「障害者の老い」ってイメージあります?

秋元:正直あんまりイメージが浮かばなくて、障害の種類によってもたぶん違うだろうし。全然想像ができないかも。

というわけで、スタジオには「老い方研究会」のメンバーが集結!

1人目は、バリバラのご意見番、玉木幸則研究員。なんともう53歳!

2人目は、河本満幸研究員、65歳。長年、障害者の自立に携わってきた。

3人目は、森田かずよ研究員、44歳。ダンサーとして踊り続けるために、老後について考え始めたそう。

4人目は、小笠原由起研究員、63歳。老後の制度について興味があるそう。

そして、自身も車いすユーザーの岩隈美穂さん。障害者の老いについて、さまざまな研究をしてきた。

レモン:障害のある人は長生きするのが難しいという話も聞いたことがあるんですけれども、ぶっちゃけどうなんですか?

岩隈:皆さんすごく長生きできるようになってきています。医療の進歩がものすごく日進月歩っていうことがありまして、昔はなかなか長く生きられなかったのが、今ではどんどん寿命が延びてきているっていうのが最近の研究でわかってきています。

レモン:玉木さん、実感としては?

玉木:僕らの周りでは、脳性まひの人は、(寿命が)50歳ぐらいかなって言われていた。それが今、僕53歳やけど。だからどんなふうに年とっていくんかっていうのも、まだイメージできへんかなって感じ。

森田:私も生まれたときに、自分が20歳くらいまでしか生きられないって言われて。でもだんだん、20歳をクリアして、今44歳になって、(老いに直面するのは)これからかなーって思いますね。

あず:最初の研究テーマはこちらです。気がつけば○○。

玉木:気がつけば…おじいちゃん。

玉木さんの老いの現実・・・“気がつけば○○”

<VTR>

玉木さんの老いの実態を調査しようと、この日訪ねたのは…。

玉木「おはようございます~」

福祉センターの一角にある、玉木さんの職場。人前に出る仕事がない日は、ここでデスクワークをしている。

固定カメラで、その様子を見てみると…。作業を始めて、6分。

玉木「痛い!」

右腕をおさえ、深刻そうな表情の玉木さん。

さらに7分後…。突然、いすを倒して横になった。右腕の激痛に耐えられず、仕事を中断することに。

気がつけば、体のあちこちが痛い。

玉木「ずっと集中したいのに、痛すぎたり気持ち悪すぎたりして、なかなかそれができない」

20代のころは、元気はつらつだった玉木さん。友人たちと、毎日遊び歩く日々だった。趣味のボウリングでは、なんと全国大会に出場したことも。

そんな玉木さん、10年ほど前までは、どこへでも歩いて出かけていた。しかし今では、数メートル歩くのが限界。

気がつけば、いつも車いす。

玉木「僕らの世界では、だいたい実年齢にプラス20歳ぐらい乗っけた年齢の状態が、今やって言われている。僕やったらもうすぐ54歳になるけど、感覚的には74歳ぐらいの体の機能ちがうかって」

年を重ねるにつれ、増していく体の不調。毎日服用する薬は、筋肉の緊張を和らげる弛緩剤(しかんざい)や、整腸剤、睡眠薬など、20種類近くに及ぶ。

気がつけば、薬づけの日々。

玉木「人間生きとったら老化は進むんやけど、でも、(脳性まひの影響で)いろいろ動いているぶん、消耗が早いっていうか、いろんなとこに負担かかってきているから。いつまで生きるんやろうなって思うねん」

<スタジオ>    

レモン:どうですか体調は? 大丈夫ですか?

玉木:(ディレクターの編集に)若干、悪意がある(笑)

ただ、さっきVTRで気がつけば車いすとかって出てきたけど、別に車いす乗ることがあかんわけじゃない。あんだけ薬飲んどったら飲みすぎやって言う人もおるけど、でも、僕は飲むことによってバリバラも出ているわけで。

レモン:玉木さん、50代でこれだけね、体の老いが進んでいるんですけど、理由に心当たりってあるんですか?

玉木:人間ってだいたい首でバランスとって歩いている。僕らもそうやって歩いていて動きも大きいから、首の動きも激しくて、負担がかかって。

レモン:小笠原さん、どうなんですか?

小笠原:(指で膝に文字を書いて答える)

西山:(小笠原さんの答えを読み取る)わ、か、い、こ、ろ、に…。若い頃に、無理はかなりしていたりとか、結構どうしても、玉木さんおっしゃるように、負担はかかって。

2人のように、年をとるにつれて、もともとの障害がきっかけで体に痛みや不調が出たりすることは、「二次障害」と呼ばれている。でも、医療の現場では二次障害についてあまり知られていないため、障害者に対応できる医師や医療機関が限られているそう。

森田:お医者さんの話は本当に大変だなと思ったことが一度だけあって。それは8年前に左卵巣をとっているんですけど、もしガンだった場合、この体だとどこまで抗がん剤治療ができるかわからないって言われたんですよ。つまり、障害があるっていうことによって、治療の選択肢がもしかしたら普通の方よりも狭まる。そのときに、初めて障害っていうものの、年をとっていくことによって起こることの怖さっていうのを感じて。

秋元:大きな病院に行ったら、障害のある方は障害のある方の、そういった方法で検査を受けられるとか治療を受けられる、もう当たり前にそういうものがあると思っていたから…

レモン:岩隈さん、いかがですか?

岩隈:私は二つの両輪で二次障害と付き合っていくことがいいのかなというふうに思っていまして。自分にとっていい医療者を探すことがひとつですよね。もうひとつは、身近な人にすでに二次障害をもっている人であるとか、自分と近い障害をもっている人がいるっていうことも、すごく助けになると思うんですね。例えば5歳上とか10歳上とか、そういう知り合いがいると、あ、あそこまで5歳上がってもできるんだとか、リアルなイメージがつかめるし。

自立生活に忍び寄る影

あずみん:続いての研究テーマはこちら!

自立生活に忍び寄る影。まずは小笠原研究員の自立生活の様子をどうぞ!

<VTR>

大阪でひとり暮らしをしている、小笠原由起さん、63歳。部屋は大好きな特撮グッズで囲まれている。

小笠原さんがひとり暮らしを始めたのは、48歳のとき。以来、自立生活を満喫してきた~。大好きな歌手のものまねで、NHKに出演したことも!  

そんな小笠原さんの自立生活を支えているのが、「重度訪問介護」という障害福祉サービス。重い障害のある小笠原さんが自分らしく生きていく上で、なくてはならないものだ。

これは、小笠原さんのある1日。

24時間、2人のヘルパーが交代で介護する。食事や洗濯といった、基本的なサポート。さらに、希望するタイミングでの外出への付き添いや、不測の事態に備えてヘルパーがそばにいる「見守り」などがある。

ヘルパー「ごはん食べれます?」

小笠原「(指で膝に文字を書く)」

ヘルパー「く、す、くすり。あ、薬飲まなあかんから、絶対何かしら入れなあかんと」

脳性まひの影響で、小笠原さんには重い言語障害がある。指で文字を書いたり、身振り手振りで表現したりすることで、ヘルパーとコミュニケーションをとっている。

そんなヘルパーたちのサポートで、シニアライフを満喫中の小笠原さん。昼ごはんの後は、ヘルパーにレコードをかけてもらい、大好きな歌謡曲でリラックス。

そして、いちばんの楽しみは、20年近くつきあっているパートナーの敬子さんとのデート。この日のデートは、ボウリング!

ラブラブな2人を、ヘルパーもそっと見守り中。

しかし、そんな自立生活に、ある影が忍び寄っている…。

<スタジオ>

秋元:え? 忍び寄る影ってなんなんですか?

あずみん:その影とはこちら!「65歳問題」と呼ばれるものなんです。

実は小笠原さん、65歳になると、好きな時間にレコードをかけてもらったり、ボウリングデートへ出かけたりといった、重度訪問介護ならではのサービスが受けられなくなるかもしれない。

というのも、65歳になると、障害者は重度訪問介護などの今まで通りの障害福祉サービスよりも、健常者と同じ介護保険サービスを優先して利用するよう、法律で決められているからだ。

レモン:秋元ちゃん、どう思いますか?

秋元:なんでこういうことが起こるのか正直…。我慢を強いられてずっとこれから生活していくのかなみたいな。

玉木:もともと障害福祉サービスと介護保険サービスは、そもそも法律に書かれてる制度の目的が全然違う。

レモン:目的が違う?

玉木:介護保険サービスは家事や入浴介助というような日常生活の支援だけ。だから例えば地域の集まりに参加したり、友達と遊びに行ったりする社会生活の支援は含まれてないねんな。障害のある人は65歳になったとたん、外に出て社会参加をする必要がないという話になりかねない。

ここで、65歳問題についての補足。

国は利用者の個別の状況に応じて、障害福祉と介護保険、二つのサービスの併用を認めるなど、柔軟な運用をするよう自治体に求めてきた。でも、自治体や窓口の担当者によって、その対応に差があるのが現状だ。

あずみん:実はですね、河本研究員が代表を務める自立生活センターの取り組みに、65歳問題を解決するヒントがあったんです。

ということで研究テーマはこちら!

話すは手間だが役に立つ

話すは手間だが役に立つ

<VTR>

山口県下関市。河本満幸さんは、この町で自立生活センターの代表を務めている。

河本さんが65歳問題に直面したのは、今から3年前。自立生活センターの利用者、片山さんから相談を受けたのがきっかけだった。

河本「片山さんが、(それまで利用していた)障害福祉の制度を65歳になっても使いたい、っていうのが最初のことだったんですね」

当時、片山さんは64歳。脳性まひの影響で、体を思い通りに動かすことが難しく、24時間の重度訪問介護を利用していた。どんなときにもヘルパーが欠かせない片山さんにとって、重度訪問介護はなくてはならない。

しかし、65歳になって介護保険の利用が優先されると、ヘルパーが来る時間は減り、「見守り」のサポートもなくなってしまうのではないかと不安を感じていた。

そこで河本さんは、片山さんが65歳になる半年前の2020年5月、市役所を訪ねた。今回、その様子を再現してもらった。

当事者の困りごとを解決するため、20年以上、行政とのやり取りを続けてきた河本さん。当時対応に当たった、障害者支援課の蒼下さんとは、以前からの顔見知りだった。

蒼下「(河本さんは)いろんな事業の相談や取り組みに参加してくださっていたので、非常に話しやすかったというか」

話し合いの席上、河本さんは、片山さんが65歳になってもこれまで通り重度訪問介護を利用できるよう、その必要性を訴えた。

河本「片山さんの場合は、例えば料理を作っているときに、(筋肉の)緊張とか出るわけですよ。そこで倒れたりしたら、重度訪問の“見守り”っていうふうな考え方が、そこに必要になってくるっていうことです」

直接話を聞くことで、片山さんに必要なサポートが何か、具体的に知ることができたという蒼下さん。その後、河本さんは、蒼下さんとも連携しながら、市の介護保険課や、介護保険に関わるケアマネージャーなど、関係する人たちとの話し合いを重ねていった。

そして、市役所を訪ねてから半年後。希望通り、これまで同様、重度訪問介護を利用できることが決まった。

河本「対話ですよね、敵対関係ではなくて。対話をしていく、自分からの働きかけというかね、必要かなって僕は思います」

<スタジオ>

レモン:なるほど~。イケメンじゃないですか。丁寧に説明したら向こうの人も「そうですね」っていうことで、検討してもらった。

河本:そうですね。自由に生きることっていうのは、誰もが本当はできないといけないわけじゃないですか。

レモン:そうですよね。人権ですね。

河本:それが65歳を迎えて、自由に生きられなくなっちゃったとかって、ありえないでしょ。誰もが制度をきちんと理解すれば同じような暮らしができるって僕は思っているんですよ。

森田:やっぱり、対話をしていくことを諦めたらだめなんだなって思ったんですよ。自分のやりたいこと、相手を受け入れる部分と、あと法律・制度っていうものと、本当に話し合っていくことをやめないでいきたいなって思いますね。

玉木:本来は障害者の生活に制度がついていくのが理想なんやけど、障害者が制度に合わせなあかんこと自体がホンマにおかしい話やね。

あずみん:こっちが頑張って情報を集めるのではなく、誰もが同じように制度を使えるようにしていかないといけないんじゃないかなってすごく思いました。

玉木:だからたぶんね、いろんな考えんでええことを考えんで済む生活が、老後にとっては必要なんかなって。

レモン:安心できるね。岩隈さんにもお伺いしたいと思いますが。

岩隈:健常者が高齢になってから経験することを、障害のあるひとたちは若いうちから経験しているんですね。私たちが今経験していることはいずれ誰でも経験するってことを、もっと世の中に知ってもらうことが、これから年を取る人たちにとってもすごく有益な情報になるんじゃないかなと。

レモン:さあ、秋元ちゃん。

秋元:いや~、知らないこともたくさんあって、私の老後のことも考えたし。みんなの願っている老後が当たり前に叶っていく、そういう日が来たらいいな、すぐ来てほしいって思いました。

※この記事は2022年9月2日放送「バリアフリー・エイジング 結成!老い方研究会」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。