きつ音のある 子どもたち

NHK
2022年10月14日 午後11:00 公開

なめらかに言葉を発することができない症状、きつ音。100人に1人の割合できつ音があるといわれている。そんなきつ音と向き合って生きる、3人の10代が登場。きつ音があっても、ありのままで生きていける社会について考える。

<番組の内容>

▶︎きつ音のある子どもたちが集合

▶︎人それぞれの症状

▶︎言葉を出しやすくするための工夫“きつ音ライフハック”

▶︎学校でのきつ音の悩み

▶︎きつ音を伝えること

▶︎ありのままで生きていける社会とは

<出演者>

ベッキーさん(タレント)

菊池良和さん(医師)

桔平くん(小学生)

彩夏さん(中学生

逸樹さん(高校生)

レモンさん(番組MC)

玉木幸則(番組ご意見番)

あずみん(番組コメンテーター)

きつ音のある子どもたちが集合

<スタジオ>

桔平:みなさんは、きつ音って知っていますか?

彩夏:何かを話そうとすると、言葉がなめらかに出ないことがあるんです。

逸樹:今日はきつ音のある僕たちのこと、ふだん感じてることを知ってほしいと思っています。

レモン:きつ音のある10代の3人がスタジオに来てくれました。なんでスタジオに来てくださったの?

桔平:自分は学校のみんなに発表して、(学校の)みんなは分かってくれてるけど、世の中の人にも知ってもらいたいから。

ゲストはベッキー。

そして、医師の菊池良和さん。きつ音の当事者でもある。

菊池さんによれば、きつ音とは、なめらかに言葉を発することができない症状のこと。100人に1人の割合で、きつ音があると言われている。さらに、きつ音のある子どもには、大人とは違う大変さがあるそう。

菊池:大人の場合は自分が居心地のいい場所を見つけて動けるんですけど、子どもの場合は学校であったりとか決められたところで過ごす。いろいろ配慮しないといけないという大きな問題があります。

人それぞれの症状

<VTR>

1人目は桔平くん!

桔平「こんにちは」

動物が大好きな小学4年生。

桔平「くすぐったい」

きつ音が出るのはどんなとき?

桔平「これは俺が名前つけたんだけど、ミドリガメの “ドリ”って名前。“ドリ”って名前」

カメの名前“ドリ”の“ド”が出しづらい。これは言葉がなかなか出ない“難発(なんぱつ)”という症状。口を叩くと言葉が出やすいそう。

4歳の頃には、きつ音の症状が出ていたという桔平くん。

桔平「いただきます」

症状の強さは、日によって違うらしい。

桔平「うん、おいしい」

「夏休み中のきつ音の調子はどうだった?」

桔平「ちょっとひどくなってる。今日、どっちかというといいほうだったんじゃないかな」

ディレクター「今日は出ない」

桔平「出ないってわけじゃない」

「夏休みでいつもお家にいるから、夏休みに改善するのかなと思えば、そうでもなくて、だからあんまり関係ないのかなって思いますね」

続いては…。

彩夏「あ、え、い、う、え、お、あ、お」

演劇部に所属する彩夏さん、中学1年生。

3歳のときに、きつ音の症状があるとわかった。

彩夏「電話するなら私がやりたい」

きつ音が出たのは、メモを読もうとしたとき。

彩夏「ええええ、えーとピザの注文をしたいんですけど」

言葉を繰り返す“連発(れんぱつ)”という症状。特に出やすいのが、母音で始まる言葉。

彩夏「アアアア、アイムノットシュア、バット、ロウズ、エンド、アザーワンズ。ディスイズ、アアアアアア、アナザー、ピクチュア、オブ、マイ、グランドペアレンツ」

彩夏「授業で発表とか、そういう時にどもりやすい。話しているときはどもらないです」

最後は逸樹さん。高校1年生。

逸樹「オラ」

男性「ジャンボ、オラ」

やってきたのは、いろんな外国語を話して楽しむサークル。

男性「アイ、ライク、クッキング、男の手料理」

続いて、逸樹さんの番。

逸樹「ハロー。マイネームイズ、イツキオク」

きつ音の症状は、連発と難発。さらに、言葉を引き伸ばす“伸発(しんぱつ)”も。

逸樹「家から言ったら、徒歩にーじゅっ分ちょっとで、交通費ゼロ円だから、めっちゃなんか、そーそこだけ、得した気分です」

逸樹「この会自体が、外国語をしゃべるって言っても、間違えても全然大丈夫みたいな感じだし、みんなが受け入れてくれる雰囲気です」

<スタジオ>

レモン:ベッキーどう?

ベッキー:なんかみんなそれぞれ楽しんでる瞬間があるのがいいなあって思ったのと、症状に種類があるのを知らなかったから勉強になりました。

きつ音の主な3つの症状をおさらいする。

言葉を繰り返す連発(れんぱつ)。言葉を引き伸ばす伸発(しんぱつ)。そして、言葉がなかなか出ない難発(なんぱつ)。どの症状が強く出るかは人それぞれ。

そんなきつ音のこと、スタジオの3人はどう感じている?

彩夏:なんか繰り返してるっていうのはわかるんですけど、なんかなぜか止められないみたいな感じで、きつ音が出ることには正直、面倒くさいなって思ってます。

レモン:面倒くさい!

あずみん:面倒くさいんやー

逸樹:きつ音自体はもう、面倒くさいっちゃめんどくさいけど、隠し通せるもんじゃないから、なんか、困ってるけど悩んでないみたいな。

ベッキー:たとえば治療とかってあるんですか?

菊池:一時的なものはあります。例えば決められた文章を、スラスラ読めるっていう方法はあるんですけど、それを、日常会話でうまく使うっていうのがなかなか難しいっていうのがあって「自分のきつ音とうまくつきあっていけるといいね」っていう話をしています。

ベッキー:治すものとかじゃなく、つきあっていくものっていう。

菊池:そうですね。

言葉を出しやすくするための工夫“きつ音ライフハック”

レモン:ということで、3人がこのきつ音とどうつきあっているのか、深堀りしていきたいと思います!題して、きつ音〜!ライフハック!ハック!ハック!

桔平:何回言うの!

実はみんなには、言葉を出しやすくするための工夫があるそう。そんな“きつ音ライフハック”をご紹介!

まずは、彩夏さん!

彩夏:どもりそうな言葉がある時にも「えーっと」って言って、「えーと」を発射台みたいにして、そんな感じで話してます。

レモン:「発射台みたいに」、菊池さん、これどういうことですか?

菊池:やっぱり苦手な言葉と言いやすい言葉があるので、苦手な言葉が言えない場合は、ちょっと言いやすい言葉を前につける。え、え、ええ、「えーと」とか、「あのー」をつけて言うと、言えるっていう特徴があります。

ちなみに、菊池さんの“きつ音ライフハック”は?

菊池:指折りながら話す。例えばですね、わたし、自分の名前が言いにくいので、何も使わなかったら、き、き、き、き、き、き、菊池ですってね、なるんですけど、ちょっとこれ(指)見ながら、「きくち」ですって言えるっていう。

続いては、桔平くんのきつ音ライフハック。

桔平:うまく言えてないと、自然と口たたいたり(した)あと、(きつ音の)ない状態になる

口をたたいてタイミングをはかると、つまらずに言葉が出てくるそう。さらにもうひとつ、ライフハックが。

<VTR>

桔平「マンガ?」

マンガが大好きな桔平くん。自慢の本棚を見せてくれたときのこと…。

桔平「おれとパパがマンガ好きだな」

自分のことを“おれ”と呼ぶ。これが、桔平くんの“きつ音ライフハック”。

桔平「おれ、上の方、食べたい。おれが一番最初に作ったのは、生姜焼き」

ディレクター「桔平くんはさ、自分のことを“おれ”って言うじゃない。“ぼく”とか“わたし”とか言いにくい?」

桔平「うん。“ぼ”も、こういう風になっちゃう」

ディレクター「“ぼ”の音?」

桔平「うん。…ってなっちゃう」

ディレクター「言葉自体が出づらい?」

桔平「うん。ぷって。吐き出すのが、どもっちゃう」

ディレクター「“おれ”は難発にはなんないんだ」

桔平「うん、おれ」

きつ音が出そうになると、頭の中で言葉を言いかえていた。

<スタジオ>

みんな、それぞれのやり方で、きつ音と向き合っている。

そして、もう一人。自分なりの方法で、きつ音と向き合っている10代がいる。

過心杏(すぐる・このん)さん、18歳。歌う時は、きつ音が出ないという心杏さん。胸の内を歌詞に込めたオリジナル曲を披露。

1番好きで大嫌いな音(作詞・過心杏、作曲・秋田雄太)

毛玉だらけの親友にだけ

ひっそり「諦めたよ」

「頑張れ自分」3回唱えても

もう効かないみたい

言葉の砂はうまく流れない

自分をたたいても流れなくて

あの時置いてきた夢を

もう一度持ってもいいかな?

1番好きで大嫌いなこの音で

私が生きるための歌

あの時置いてきた夢を

もう一度つかんで離さない

1番好きで大嫌いなこの音で

私が生きるための歌

学校での悩み

レモン:実はね、番組にはきつ音のある子どもたちから、学校での悩みの声がめちゃめちゃ寄せられてね。ちょっとあずみん、紹介しましょうよ。    

あずみん:かめくん、小学1年生。「クラスのお友だちに自分のきつ音をまねされて、とてもいやだった」

レモン:あー嫌やんな、そんなん。

桔平:おれも自分の名前で「ききききき桔平」ってどもっちゃったのマネされて、みんなから『ききききき桔平』ってどんどん呼ばれちゃって

さらに、先生から受けたこんな対応も…。

高校1年生のレンコンパイさん。

「授業で当てられ、すぐに答えられなかったとき、先生がため息をつき、次の人を当てたのがいやだった。」

小学4年生のすみれさん。

「かけ算を何度も言わされた。わからないのではなく、言葉が出ずストレスだった。」

ベッキー:100人に1人いるわけだから知っててほしいですよね。だって安心して学校行けないですよね。

玉木:まず、きつ音のことを知らないっていうことが問題やと思うねんね。もし知らんかったとしても、その「話し方がおかしいな」とか感じたんやったら、なんか理由があるんちがうかって、それをちゃんと察知するのは、やっぱり先生たちの役割ちゃうかなって思うんやけどな。

きつ音を伝えること

<VTR>

続いては、彩夏さんのお話。きつ音とつきあいながら、学校生活を満喫している姿を見せてくれた。

演劇部に所属する彩夏さん。

部員「それより映画見に行かねえか」

部員「本当ですか?」

稽古中にも、きつ音が…。

彩夏「どういう感じでそろえるんでしたっけ」

部員「右足から上げる?」

部員のみんなは、どう思ってる?

部員「私は気にならないです」

部員「会話の中じゃ、気にならんくない」

彩夏「中学校に上がってから、すごい毎日が楽しいんで、自分が出せる場所ではあると思う」

でも、ここまでには、長い道のりがあった。

小学生のころの彩香さん。友だちには、きつ音のことを伝えてこなかった。

彩夏「わざわざ、きつ音って言わなくても、別にそこまで目立ったのはないから、別に言わなくても、言っても言わなくてもいいんだったら、言いたくないなって感じでした」

そんな彩夏さんを陰でサポートしてきたのが、母親の由美さん。娘がきつ音をからかわれないよう、学校にさまざまなお願いをしてきた。

しかし…。

「今まで(小学校)は彩夏にとっていいと思って、いろいろやっていたけど、でも今(中学校)からは本人の人生、本人が生きていくのを応援しないといけないんだな、していこうって。彩夏がどうするかを見守っていこうと思いました」

一方の彩夏さん。小学校の卒業が近づくにつれ、症状が目立つようになっていた。

このまま、きつ音のことを黙っていてもよいのだろうか?考えるようになっていた。

彩夏「自分だけじゃなくて周りの人にも、きつ音という言葉を知っておいた方が、なんかいいこともあるかなと思ったから」

そして迎えた中学校の入学式。思いきって学校のみんなにカミングアウトした。

彩夏「最初の言葉を繰り返したり、つまってしまったりすることがある、きつ音っていうのを持ってます、みたいな感じで言いました」

彩夏さんのカミングアウトに、みんなの反応は?

部員「最初の方に説明があって、みんな理解してやってます」

部員「今までは知らんかったんですけど、最近知って、サポートしていきたいと思いました」

<スタジオ>

ベッキー:いや、もう最高の仲間と最高のお母さんがいるね、周りにね。心強いっていうか。

レモン:きつ音のこと伝えた時はどうでした?

彩夏:言ったときにみんな「あー、きつ音ね」みたいな。なんか先輩の中では、

知ってる人もいる感じで。ちょっとビックリしました。

レモン:菊池さん、カミングアウトについてなんですけども

菊池:カミングアウトをしてもいいし、しなくてもいいっていうふうに、人生に選択肢があるといいって、よく言ってまして。先生と本人に、オープンに話し合ってもらって、カミングアウトするかどうかっていうのを決める人生もあっていいのかなと思いますね。

レモン:玉木さんどうですか

玉木:本人がわざわざカミングアウトしなくちゃいけないっていう、その環境自体をそもそも変えていかんとアカンのかなって思ってるのと、それから、友だちから話し方について聞かれたらサラッとな、「え、これが僕の普通のしゃべり方なんですけど、何か?」みたいな形で流せるような社会っていうか、環境が本当は一番いいんかも知れんなーと思うけどな。    

ありのままで生きていける社会とは

<VTR>

8月下旬、きつ音のある子どもたちが、自分で作ったおもちゃなどを販売するイベントが開かれた。

子ども「わからなかったら適当に好きな方を選んで」

ここでは、どれだけきつ音が出ても大丈夫。子どもたちが言葉につまっても、話をさえぎらず最後まで聞くよう、お客さんにお願いをしている。

男性「将来は漫画家になるの?」

桔平「将来の夢は漫画家で、じじ自分がまずマンガ好きなので」

男性「何読んでるの?今、マンガ」

桔平「おれ? おれの部屋、マンガだらけだけど、進撃の巨人、寄生獣…」

イベントを主催する奥村安莉沙さん。きつ音の当事者だ。

奥村「私たち、きつ音当事者は、日々暮らしている中で、変な目で見られたりとか、からかわれたりマネされたりして、心が傷つくこともあると思うんですけど、人と関わるのが楽しいって思い続けられるような活動をしたいと思っていて、始めました」

この日の桔平君、いつもはあまり口にしない本音も話せた。

桔平「俺的に無視されたり、マネされるのが」

女性「マネされるのは嫌だよね。優しいお友だちもいるね」

<スタジオ>

レモン:桔平君、どうでしたか?

桔平:自分の好きなことも話せるし、どもってることも、気にしなくてもいいから、おれ的にも楽しかった。

レモン:大人の人も最後までちゃんと話を聞いてくれるって感じが良かったけども。

逸樹:僕、モンハンというゲームが好きなんですけど、例えば、モンハンの“モ”って言えなかった時に、友達が「モンハンでしょ?」って言ってくれるのが、自分で言えなかった感がすごい出るので。

逸樹:変なフォローはいらないというか。

桔平:よくあるよね。

ベッキー:実は、それいらない、って思ってるってことでしょ? ふつうに待つのがいいんだね。

レモン:菊池さん、3人の話を聞いていかがですか?

菊池:きつ音の支援の基本というのは、待つことっていうことを知ってほしいです。待つっていうことを、僕は、その人を認めることにつながるって思いますんで。話しづらそうだから「この言葉を代わりに言ってあげよう」っていうふうな「話の最中の支援はいらない」って言っていて。「話が終わった後に支援をしてほしい」ってよく言ってます。

逸樹:大人の人には、ちゃんと子どもと相談した上で、フォローがいるんだったらフォローしたりとか、いらないんだったらそっと見守るというか、そういうことをしてほしいなと思います。

彩夏:私たちのようなきつ音の人も、ちょっと言葉が言いづらいっていうだけで、話したいこととかは、なんか、普通にあるから、なんかそういうのを待ってくれたらいいなと思います。

桔平:みんなにきつ音のことを言うのか言わないのか、言ってなくても、みんなが理解してくれることもあるし。安心してってことは(きつ音のある仲間に)言いたい。

バリバラ、今日はここまで!3人ともありがと~

桔平:これを通して、思ったけど、きつ音をテーマにした漫画をちょっと描いてみようかな。

ベッキー:おおー!そうだよー!読みたい読みたい。

レモン:レモンさんも入れといてや。

※この記事は2022年10月14日放送「きつ音のある子どもたち」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。