#ふつうアップデート10  俳優になれるのは心身ともに健康な人? 魅力発見編

NHK
2022年1月20日 午後8:30 公開

「俳優になれるのは心身ともに健康な人」、そんな業界のふつうをアップデートするためにバリバラが立ち上げた障害者専門の俳優養成塾・神戸塾。今回はプロの若手演出家とコラボレーションして、2回目となる演劇公演に挑む!スタジオには前回に引き続き、演劇界のトップランナー・鴻上尚史さんも来てくれた。

俳優としての武器や魅力を見つけることがゴール。

いよいよ「神戸塾」第二回公演プロジェクトが動き始めた。公演を成功に導くためのゲストは佐藤慎哉さん。鴻上さんの演出助手としても活躍しており、いま演劇界で注目される若手演出家のひとりだ。

今回の公演にあたって佐藤さんはこう考える。「俳優としての武器や魅力はなんなんだろう? そこに気が付けることがゴールなんだろうと思ったんですよね」。

そこで佐藤さんが書いた台本が『拾った指輪』。ある女性が指輪を無くし、それを拾った男性が他の女性にプレゼントしようとしたことから始まるドタバタ劇。塾生たちの障害を前提としたリアルな日常を描き俳優としての魅力を引き出す、というのが狙いだ。

俳優としての魅力。しかしそれ以前に壁が。

今回の演劇に参加する塾生は3人。Nyankoさん、リブさん、大塚哲宏さんだ。俳優を目指す熱い気持ちはあるものの、まだまだ演技経験は少ない。

聴覚障害のあるNyankoさんは声を出さずに手話と身振りで演じる。手話の体験型イベントのスタッフとしても活動しているため、体を使ったダイナミックで豊かな表現が持ち味。俳優としての魅力につながるかもしれない・・・・・・が、「自分の魅力を見出すことが(稽古では)どんなものか?っていうのが分かんなかったかなぁ」とNyankoさん。

リブさんは視覚障害があり義眼ユーザー。職業はクリエイターで演技経験は一度もない。そのため、稽古ではセリフや動きを意識し過ぎて演技が少々ぎこちない。「自分の魅力は外見上だけだと義眼かなぁとは思うんですけど、内面の魅力が全然思いつかない」。

そして会社員の大塚さんは脳に損傷がある高次脳機能障害で、複雑な情報をまとめて処理するのが苦手だ。稽古では台本の情報がごちゃごちゃになり、セリフに集中できない。そもそも台本が読み取りづらかったそうだ。

稽古場の様子を見たバリバラご意見番の玉木幸則さんはあるムードを感じ取った。「お互いが遠慮したり気を遣ってたり、っていうのが見えてきたけど、どうやったんかな?」。みんな俳優として自分の魅力を見つける以前にどこか壁を感じていたようだ。

コミュニケーション方法をアップデート。

塾生、そして佐藤さん、お互いに遠慮し合っていた稽古場。コミュニケーションの壁をどう打ち破れるのか? 佐藤さんのチャレンジが始まった。

まず意思疎通を円滑にするため、対話をそれぞれの特性に合わせた方法にアップデートする。Nyankoさんとはワープロで対話し、複雑な指示を理解するのが難しい大塚さんにはシンプルに短い言葉で伝えることに。

コミュニケーションがうまく取れるようになってきた稽古場。だが、次なる壁が。台本どおりにセリフを言うことができるようになった大塚さんだが、何かが足りない。大塚さんは佐藤さんに思い切った演技ができないことを打ち明けた。障害が原因で演出の意図を汲み取りにくく、セリフに気持ちが乗せられないのだという。

佐藤さんも、大塚さんに障害があるからといって演出の考えをすべて伝えるのも違うのでは?と悩んでいたそうだ。つまり「障害があってもなくても、面白いと思うものは自分で見つけるしかない」。

佐藤さんとコミュニケーションを続け、大塚さんは自分が面白いと思う演技をのびのびと表現し始めたのだった。

大塚さんはこの時のことを「すごく軽くなった」と話す。「なんか枷が外れたような感じで。プライベートでも会社でも常に周りに合わせる自分がいるんですね。だから俳優でも自由じゃなかったっていうところだったと思うんですね。自分が」。

自分の魅力、見つかった?

スタジオで『拾った指輪』を披露する。 ゲストの鴻上さんも「作品として実に素敵でしたね。面白かった」と評価。演技後、塾生の3人はこんな感想を話してくれた。

大塚さんは「自分の魅力を持っていないなって思ってたんですよ。けど、もっと楽しくやっていいよって言っていただいて。演じてる間ってすごい幸せな感じです」。

リブさんは「自信ないってところからちょっと一歩踏み出せたかなっていう感じですね」。

そしてNyankoさんは自分の魅力を見つけるのがまだ難しいと感じたそう。だけれど鴻上さんは最後に彼らのチャレンジを勇気づけてくれた。「大事なことは稽古の初日の本読みからどれくらい変われたか、っていうこと。それで言うと3人は、本当に変われてるから」。

塾生たちの挑戦はまだまだ続きます。これからも俳優を目指す神戸塾の挑戦をお見逃しなく!