#ふつうアップデート 「俳優になれるのは心身ともに健康な人? 進路相談編」

NHK
2022年5月27日 午後11:00 公開

2021年の夏にスタートした、プロの俳優になりたい障害のある人たちを発掘・育成する前代未聞のプロジェクト「神戸塾」。俳優になれるのは心身ともに健康な人?をテーマに、さまざまな稽古などを試みてきたが、今回は進路相談を塾長・神戸浩さんと番組レギュラーの玉木幸則さんが担当。塾生たちの悩みと社会の壁が浮き彫りに!?

<番組の内容>

▶︎前回までのあらすじ

▶︎ゲスト・番組テーマ紹介

▶︎手話通訳にはお金がかかる

▶︎撮影現場に行けない!

▶︎ヘルパーが利用できない!

<出演者>

神戸浩さん(俳優)

秋元才加さん(俳優)

大城桜子(神戸塾塾生)

藤原ももな(神戸塾塾生)

レモンさん(番組MC)

玉木幸則(番組ご意見番)

あずみん(番組コメンテーター)

前回までのあらすじ

<VTR>

神戸「神戸塾、はじめまーす!」

去年夏、プロの俳優になりたい障害のある人たちを発掘・育成する前代未聞のプロジェクトがスタート!

藤原「いらない存在って思われるんじゃないかって」

大塚「ここにもし宇宙人がいるとして、宇宙人が変なこと言ったら、お前空気読めよって言うかぁ!?」

俳優の常盤貴子さんや、映画監督の三島有紀子さんらがオーディション形式で演技を審査。

神戸「(合格者は)全員です!」

結果、9人が合格。障害者専門の俳優養成塾・神戸塾へ入塾した!

鴻上「演技っていうのは自分の一番「実感」を表現するもの」

その後、演劇界のトップランナー・鴻上尚史さんのレッスンを受けたり、稽古を積んで自主公演を開いたり。さらに、ドラマや映画のオーディションにも挑戦してきた塾生たち。活動開始からまもなく1年。そんな神戸塾に、最大の危機が・・・!  「俳優一本で生活は難しい。アルバイトと両立するのも難しい。進行性の病気があるため、俳優の活動と生活を両立できるか・・・。何をどう行動したらいいかわからない・・・」頑張れば頑張るほど、突きつけられた厳しい現実。塾生たちの心が折れかけている…そこで!

神戸「神戸塾、進路相談室を始めます」

塾長で、障害のある俳優のパイオニア・神戸浩さんが進路相談会を開催!プロの俳優をめざす中でぶつかった「社会の壁」に迫る!

太田「「障害のある私」という壁を作っちゃって、自分のことを自分が一番認められてないだろうなって……」

神戸「(世の中を)アップデートすればいいじゃん 一年やってきたんだから。」

ふつうアップデート俳優編。今日は塾生たちの本音にじっくりと向き合います。

ゲスト・番組テーマ紹介

<スタジオ>

レモン:さぁ!「俳優になれるのは、心身ともに健康な人」という“ふつう”をアップデートしていくシリーズの最新作!ゲストは、秋元才加ちゃーん!

秋元:よろしくお願いします。

ゲストは、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で巴御前(ともえごぜん)を演じている俳優の

秋元才加さん。

そして! 神戸塾の塾長・神戸浩さん。日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞したこともある障害のある俳優のパイオニア!

レモン:っていうか、塾長。塾生が大変なことになってるみたいですね。

神戸:悩んでるけど、どうしたらいいんだろう。

あずみん:塾生たちは大きな壁に直面しているんです。

レモン:壁!?

あずみん:それが、こちら!「プロの俳優を目指し続けるべきか、わからなくなっている…」

レモン:え? 塾長、これどういうことなんですか?

神戸:塾長は目指せばええと思うんだけどなぁ。

神戸塾の塾生9人にアンケートをとったところ…なんと、8人が「プロの俳優を目指し続けることに不安や迷いがある」と回答! そこで!塾長・神戸浩さんと、バリバラのご意見番・玉木幸則さんが塾生たちの悩みに耳を傾ける!

手話通訳にはお金がかかる

<VTR>

神戸「神戸塾、進路相談室を始めます。玉木先生、よろしくお願いします」

玉木「よろしくお願いします」

まずは、大城桜子さん。子どもの頃から、耳がほとんど聞こえない。

神戸「こんばんは」

玉木「こんばんは」

神戸「大城さんは今後もプロの俳優を目指し続けますか?」

大城「できることであれば、続けていきたいと思います」

神戸「オーディション、いい役をもらったことはありますか?」

大城「ほとんどないです。小さい役はいただいたことがあります」

神戸「そうですか。厳しい状況ですね」

「映画やドラマで活躍したい」と20代からプロの俳優を目指している大城さん。

自分の武器である手話の表現をさらに磨こうと、半年前から手話教室に通い始めた!

大城(手話俳句実演)

俳句講師「すごい、わかりやすい」

そんな大城さんを長年悩ませている深刻な問題がある。それは…。撮影現場に手話通訳を連れて行くお金が足りない! 「ふつう」、俳優は監督の指示に的確に応えたり、共演者と演技の相談をしたりする。一方、大城さんは、一対一であれば、口の動きを読むことで相手の言うことを理解できるが・・・大勢のスタッフや出演者がいる撮影現場ではコミュニケーションが超大変! そんな時、手話通訳がサポートしてくれれば、安心して芝居に集中できるという。しかし、手話通訳を雇うには、お金がたくさん必要!!

大城「一番困ってるのはやはり手話通訳。(3人派遣の場合)1時間だいたい1万4000~1万5000円ぐらいなので、これが例えば撮影で8時間とかなると、やっぱり10万円ぐらいの通訳料がかかりますよね。なかなか手話通訳を自己負担でっていうのはやっぱり難しいですよね」

「心身ともに健康な人より、自分は多くの活動資金が必要」と考えた大城さん。そこでアルバイトに励むように!

大城「おはようございます。」

大阪にあるカフェで週に2回、店員として、簡単な調理や接客を担当。

大城手話(お疲れ様です お先に失礼します)

朝9時から夕方5時まで働き、勤務終了。と思いきや、向かったのは、次のアルバイト先!

大城「乾杯!!」

よる8時から、繁華街にあるラウンジで接客の仕事。

大城「お疲れ様でした」

この日の終了時間は、なんと夜11時!他に居酒屋の仕事も掛け持ちしていて、週に6日、アルバイトをしているという。プロの俳優を目指し続けるために、お金を稼がないといけない。大城さんの考えを聞いた塾長・神戸さんは?

神戸「バイトを3つやるっていうことは、お芝居のこと考えれんのじゃない?大丈夫?」

大城「仕事終わってからお芝居の本を読んだり、お風呂入りながら読んだりしています」

神戸「稽古しないと役が来た時になんにも体が作れないもんな、みんな体作ってるけど、(大城さんは)作ってないよな。バイトバイトバイトで。それはどうなのかなと」

大城「そうですね。だから…なんていうか夢をあきらめた方がいいのか、いや頑張るんだってするのか、いろいろ悩みます」

玉木「けっこうその気持ちって不安よね」

大城「仕事をがんばっているのか、自分にできるやりたいことに挑戦できているのか、楽しめているのか。分からなくなって、もう何も見えない状況。将来が見えない状況になって、何をがんばっていったらいいのか、がんばるっていう言葉が分からなくなる」

<スタジオ>

レモン:大城さん。めっちゃくちゃ、バイト頑張ってましたけど。生活費は切り詰めてるんですか?

大城:はい、そうですね。切り詰めています。いろいろと工夫をして、あまりお金を使わないように注意しています。

レモン:秋元っちゃん、どうですか?

秋元:難しいですね。一言で言えないんですけど。お芝居を続けたくて、いろんなバイトとかしてらっしゃることが、またお芝居のこと考えられないって。本末転倒みたいな感じになってる。

大城:コロナになる前はマスクがなかったので、とにかく口を一生懸命読み取って頑張って、追いついていたんですけど、今コロナになってからは、みんなマスクをするようになったので、読み取ることができなくなったりとか、アドリブが変わったりとか、セリフの内容が変わったりとかっていうのが一人一人に対応できないので、そういう時に手話通訳がとても大事になります。

レモン:現場でのコミュニケーションいうのも、絶対必要。大事ですよね。

神戸:大事だね。私はどこに座ればいいのかわかんないしね。コミュニケーション。

撮影現場に手話通訳がいないとコミュニケーションが大変。大城さんの話を聞いた秋元さんは…。

秋元:海外に行った時に、通訳の方も一緒についてもらって撮影臨んでたんですけど。

レモン:はいはい。

秋元:英語のセリフがニュアンスとして、ちゃんと伝わってるのかとか。そういう不安感がだいぶ軽減されたので、俳優は俳優の自分の仕事に集中ちゃんとできて取り組めるんだろうな、ありがたい存在だろうなと思います。

秋元さんは海外の作品に出演した際、制作者が手配した通訳が付いたそう。一方、耳が聞こえない大城さんが手話通訳なしで仕事をするのは「ふつう」のこと??

レモン:つまりあれですか? ドラマや映画のいわゆる現場、制作者側に「私、手話通訳が必要なんですけど」って相談はしてるんですか?

大城:言っていますけど、ほとんどお金のことを聞くと、制作費に大変なお金がかかってるので、すみませんって言って断られることが多いです。

レモン:そういうサポートが自腹ですって言われるのはどう思いますか?

大城:自分で負担するのは、やっぱり難しいと、はっきり言います。理由は、役者としての給料が減ってしまいますよね? 通訳料を払ってしまったら。

レモン:そりゃそうですね。

日本には、通院など日常生活で手話通訳が必要な場合、自治体から派遣してくれる福祉制度や、聴覚障害者が働く企業に、手話通訳の助成金を出す仕組みがある。しかし、俳優など決まった組織に属さないフリーランスで働く人を支援する制度や仕組みは無い。玉木さんは、「大城さんが安心して働けるよう、今すぐできることからやってみては?」と考える。例えば情報が変わった時に、急きょ「時間こう変わったよ」っていうメモをもらうだけでも、そういう工夫ぐらいは今出来るん違うか?って。手話通訳がすぐつかんでも、ちょっとでも変わってくるやろっていう話かなって。手話通訳を連れて行くお金が足りないという大城さんの悩み。「今すぐできる工夫もあるのでは?」という玉木さんの意見、みなさんはどう思いましたか?

「ふつうアップデートニュース」。今日は、海外の最先端の取り組みをご紹介します。

今年、アメリカのアカデミー賞で作品賞を受賞した映画「コーダ あいのうた」

両親と兄の4人家族の中で、1人だけ耳が聞こえる高校生が主人公。家族の役は全員、実際に聞こえない俳優たちが演じています。この映画の制作現場で活躍したのが「手話監督」のアレクサンドリア・ウェイルズさんです。手話監督の仕事は、「ろう文化の取材・調査」「台本の翻訳や監修」「撮影現場での俳優とスタッフの橋渡し」などがあります。「ろう文化と演技両方に精通したスタッフが必要」というシアン・ヘダー監督の希望で配置された手話監督。自身もろう者で、母親役のマーリー・マトリンさんは、「手話監督がいたおかげで、俳優のキャリアのなかではじめて演技に集中することができた」とコメント。「良い作品を作りたい」という制作者と俳優の思い。手話監督が両者の架け橋となりました。

あずみん:続いての塾生のお悩みはこちら。「撮影現場に行けない!」

撮影現場に行けない!

<VTR>

藤原「高校入学して私が同好会作るとき、君の帰宅する姿応援するよって言ってくれたよね」

大学3年の藤原ももなさん。全身の筋力が徐々に低下していく難病で、車いすを利用している。俳優を志したのは、高校の時。先生や家族から反対されるも、説得し演劇部へ入部。去年、神戸塾の門を叩いた。

藤原「めんどくさいとか思われて、いつかいらない存在と思われるんじゃないかなって」

あなたは、今後もプロの俳優を目指し続けますか?

藤原「はい。目指し続けようと考えています」

神戸「1年楽しかった?」

藤原「神戸塾楽しいです、毎回。でも、収録中とか、公演の練習とか、そういうときはすごい楽しいんですけど、家にいったん帰って、これからどうしようって考えるときは今後どうなっていくんだろうなっていう不安は感じます」

2年前から親元を離れ、大阪で一人暮らしをしている藤原さん。

介助者「あがります。せ~の」

食事や着替え、入浴など、生活の全てでヘルパーの介助を受けている。一人暮らしと学業、神戸塾での活動に加え、4か月前から、外部の俳優スクールにも通い始めた。さらに、映画やドラマのオーディションも積極的に挑戦を続けている。そんな藤原さんには大きな悩みがある。それは…。撮影現場に行きたくても行けない!

藤原「お願いしていいですか、開けてもらって」

自治体の福祉サービスを使って自宅での生活や大学への通学でヘルパーの介助を受けている藤原さん。撮影現場にもヘルパーを連れていきたいけど、サービスを利用することは、事実上ほぼ不可能なんだそう。

藤原「ヘルパーさんに来てもらって生活を成り立たせている現状ではそれをすぐに解決できないので、悩んでいる……」

さらにもう1つ、藤原さんを悩ませる厳しい現実が・・・。

神戸「ヘルパーさんは24時間一緒の人でいいの?」

藤原「いや、一日で何回か交代します」

神戸「交代しなきゃいけないの? 3時間ごととか4時間ごととか」

藤原「そうですね」

藤原さんは今、5つの事業所から、合わせて20人のヘルパーに来てもらって生活している。というのも、ヘルパーはふつう、1日で複数の利用者の家を回って介助を行う。泊りがけも想定される俳優業。専属のヘルパーでもいない限り、撮影現場に行くことは難しいんだそう。

玉木「それって、(ヘルパー事業所に)相談したことある?」

藤原「「今後こういうことがあったら」とか、まだ私もそんなに経験がないので、どういうことがこれから起こるかも分からないなかでは、相談しづらいというか。それを相談すること、相談すること自体も苦手だなと思ってるので、どうしよう…」

「事業所に相談した?」という質問に対し、「具体的に俳優の仕事があるわけでないから相談しづらい」と答えた藤原さん。歯切れの悪い返事に玉木さんは…。

玉木「もう1回自分の言葉で、出してみたらどうかなって話。なにが不安なんだろうかって」

藤原「そもそも……そもそも? たとえば一人暮らしするにしても、前例がないようなことをやりながらやりくりしてきたんで……。俳優を目指したいんだけどといったときに「わざわざやらなくていいし、できないんじゃない」って思われるのがイヤ……イヤっていうか、思われるぐらいだったら相談せずに自分でどうにかやって。

玉木「そんなに苦労してまでせんでええ」みたいなことは、言われたんか、それとも、言われるのがいややから今こんなふうに思ってるのか」

藤原「言われないようにしている」

ヘルパーが利用できない!

<スタジオ>

レモン:秋元っちゃん、どうですか?

秋元:ももなちゃんの前例がないから不安っていう気持ちも仲間がいないっていうことはみんな不安だと思うんですよ、それはすごく思うし。ももなちゃんが選択したんだったら、応援したいなって思うんですけど。

ここからは藤原さんもリモートで参加。詳しく話を聞いてみる!

藤原:やっぱりいろんなことに取り組む中で、俳優だったら役者としての力以外の部分で切り捨てられたり、こう、何か、切り捨てられたりしてしまうことは悔しいなって思うんですけど、一方で自分の他にももっと生活する、何も、ヘルパーさん足りなくて困ってる人がいたり、っていう現状がある中で、そこにもし影響が出てしまったらとか、いろんなことを考えてしまいます。

撮影現場に行きたくても行けないという藤原さんの悩み。一方で国や自治体は、企業などで働く重い障害のある人が、仕事や通勤で利用するヘルパーの費用を助成する制度を2年前から始めた。しかし、今年1月時点で、この制度を利用しているのは、全国で27人とごくわずか。理由の1つに、介護業界の深刻な人材不足が影響している。

レモン:ヘルパーさんが必要な障害のある方が、夢を追いかけるっていう、まずはそこに壁があるってことですね。

藤原:いろんな仕事していく中で、フリーランスとか俳優業って、すごく素敵な力を持ってる仕事だと思うけど、やっぱりまだ職業としては弱いんだなって言うのをすごく感じることもあって。

あずみん:苦手なものが人それぞれあるっていう認識がもっと社会に広がったら、障害者だけ、いろんなこう制度とか、求めたりするのはわがままやっていう、そういう発想にならへんのちゃうかなって。それがその人にとって必要なものなんだよねって声に出せる環境にもなるのになって思いました。

藤原:そうですね、誰かに相談するっていうことだったり、本音をいうっていうこと自体に、すごく不安を、思ってたので今支えてくれてる人とか、いろんな人の顔が頭によぎってしまって、自分がここで悩み話すことで、誰かを責めてしまうんじゃないかっていう必要以上の気遣いが発動してしまって。

玉木:希望を言ってることイコール、自分が今使ってる事業所のことを否定してることではないっていうことは、そこは自信を持って、いうたらええからな。私はこうやっていきたいっていうのを、正々堂々いうだけで、もうオッケーなんよ。

レモン:ももちゃん、今の話聞いてどう感じましたか?

藤原:やっぱり私も俳優になりたいっていう思いは強くあるし、言葉で発信だったり、行動で発信、する、とか、できることはとにかくやっていきたいなと思わせていただきました。

神戸:そうだね、諦めんようにな! 塾生たち。どうなるのかわかんねえけど、今後が楽しみだ。

撮影現場にヘルパーを連れて行けない藤原さんの悩み。「まずは自分の気持ちを伝えることが大事」という玉木さんの意見、みなさんどう思いましたか? 最後は神戸塾長こん身の芝居をご覧ください! 

神戸「俺は……夢見ちゃいけねぇのかよぉ? 役者になって、あいつらを見返せると思ったのによぉ……。社会に見えない壁があるんだよ! 何やっても壊せねぇんだよ! おい、あんた、俺の言ってることそんなにおかしいか? はははは!」

男性「カット!OK!」

※この記事は2022年5月27日放送「俳優になれるのは心身ともに健康な人?進路相談編」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。