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玉木幸則のマイノリティーワンダーランド

NHK
2021年11月11日 午後8:30 公開

未知の体験を楽しむ新企画、マイノリティーワンダーランド! 今回は当番組のご意見番・玉木幸則が「さわる」展覧会へ。目が見えない人にとっての「さわる」とは? 「触覚」の世界を味わう。

「さわる」ことで分かること

「さわる」展覧会が開催されているのは国立民族学博物館。企画したのは全盲の研究者、広瀬浩二郎さん。さわって楽しむ抽象画や、全身でふれて楽しむ作品など、300近い作品がすべて「さわれる」世界でも珍しい展覧会だ。現在、コロナ禍でも来館者が絶えず、話題となっている。

広瀬さんの案内で会場を巡る玉木さん。まずは立派な力士のブロンズ像にさわってみる。「まげの大銀杏(おおいちょう)なんて、さわる機会ないね」と興味津々にさわる玉木さん。「さわった方が、迫力がより伝わってくる」と言う。

視覚にたよらず楽しむ

次は、視覚障害者用の立体コピー機で印刷した抽象画の作品。目をつむってわずかに盛り上がった点や線をさわり、何が描かれているのかを想像して楽しむ。早速さわってみる玉木さんだが、目を閉じると何が描かれているかよく分からないという。触覚のプロフェッショナルである広瀬さんが触ってみると「点対線みたいな印象。タイトルをつけるなら点と線の戦い、 共存、かな?」とのこと。その言葉を受けてあらためてさわってみると「ほんまやね。僕なんて目にかなり頼ってるということが分かる」と感心する玉木さんだった。

全身をつかって“ふれる”

続いては約2000本の白い布が垂らされている作品を体験。布をかきわけながら歩き回ることがでる。体全体でふれて楽しめるアート作品だ。玉木さんいわく「布のにおいとか、すれる音とかがして不思議な感覚。やみつきになりそう。さわるっていうのは手で触るだけじゃなくて全身で感じるってことなんだ」と気づきがあったよう。

この作品について広瀬さんは「ふだん頼っている視覚に頼らず、体全体で触覚を楽しむ体験を誰もが平等にできる作品」と話す。つまり「白い布の中に入ると、見える人も見えない人も視界が閉ざされる。見える人と見えない人が同じ立場になる。布が自分の体に当たっている間は他のものにぶつかる可能性はないので視覚に障害がある人も思い切って進める。思うまま自由に歩ける空間」だと解説してくれた。

眠っていた触覚が“ひらく”

広瀬さんは中学1年生のときに病気で失明。通い始めた盲学校で触覚の奥深さに目覚めたそうだ。最初は、習い始めた点字を文字とは思えず、読めるわけがないと感じていた。しかし一生懸命読んでいたある日「あっ、なんか分かるぞ、って。眠っていた触覚の感覚が開く瞬間」があった。目の見える人にもそんな経験をして欲しい、とこれまで何度もさわって楽しむ展覧会を開催してきた。

コロナ禍の今だからこその意義

さらに広瀬さんは「非接触」といわれるコロナ禍にこの展覧会を開催したことにも意味があるという。「感染リスクを避けるために、非接触を徹底することは理解できる」としつつも、「ぼくら視覚障害者は人や物との接触を日常的にしてきた。その立場からすると、接触がない社会は非常に危うい。ある意味、自分の存在自体が否定されているような気にもなる」と言う。

玉木さんは「非接触ばっかり言い過ぎると視覚障害者にとってはバリアがさらに大きくなることもある。街に出て買い物をする中でさわって品物を見たりさわって場所を確認したりすることが必要な人もいっぱいいる。その人たちに「非接触」と言うと、「外出するな」という風に聞こえてしまうこともあるかもしれない。この展覧会が、そのことを考えるきっかけになったらいい」と語った。

視覚に頼らないからこその作品

続いてさわったのは広瀬さんいちおしの作品。視覚障害のある中学生たちが作った「笛吹ボトル」だ。これは古代アンデス文明が生んだ音の鳴る土器で、中学生たちがその土器にさわった感触をたよりに、それぞれ思い思いの作品を制作した。「ひとりひとり独特の形があって、同じものを作っているはずなのにいろんな個性が見えてくる」と感心する玉木さん。広瀬さんも「これは“タッチアート”さわるアート。ふだんから、さわることをよくしている人たちがどういうイメージを持っているのかを訴える作品」と広瀬さんは解説。視覚に頼らない彼らの作品はどれも個性的なものばかりだ。

最後は、薄く切った石が大量に積み上げられた立体作品群。さわってみると「ちょっと痛いですね。ああ、痛いなぁ」と硬いさわり心地に反応する玉木さん。広瀬さんいわく、優しくさわらないと痛いので、さわり方を練習する作品でもあるそう。さわっていると音が出る作品と出ない作品があることが分かってくる。「これは会場に来て、さわってもらわないと分からないと思う」と玉木さん。眠っていた感覚が開くとこれまで見過ごしてきたものに気づくことができるかもしれない・・・?

目で見えるものがすべて?

広瀬さんは、視覚の不確かさとその価値観について疑問を投げかける。「目で見るというのはすごく便利だし情報がたくさん入ってくるんですけど、ある意味ぱっと見てわかったような気になる。“可視化”という言葉がありますけど、見えないはずのものを見えるようにしていくっていうのが社会の進歩だと言われる中で、見えるものがすべてだ、見えるものが正しいんだ、っていう価値観がどこかにあると思うんですよね。」

新しいユニバーサルを生み出す

広瀬さんは「目で見て楽しむことを前提とした美術館や博物館で,ぼくのような目の見えない者が働いているのは考えてみたら変なこと」と話す。しかし、だからこそ「マイノリティーの立場からこんな楽しみ方もあるよ、こんな生き方もあるよっていうことを発信することによって、マジョリティーが考えていた従来の普遍性、常識を変えていく。新しい普遍性、新しいユニバーサルを生み出していくために、ぼくや玉木さんのような人たちがもっともっと発信していく意味と役割があると思います」と言う。

ふだんと違う“感覚”で世界を捉えてみると、さまざまな発見があるかもしれない。