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#ふつうアップデート 「俳優になれるのは心身ともに健康な人?(後編)」

NHK
2021年7月22日 午後8:29 公開

前半のふりかえり

俳優になることができるのは、「心身共に健康な人」というのは「ふつう」なのか? 先週放送した前編では、俳優や声優を目指す障害のある人は、そもそも健常者と同じ土俵に立たせてもらえない…そんな事例があることが分かった。そうした中、番組は障害のある俳優のパイオニア、神戸浩さんとともに、俳優養成塾「神戸塾」を旗揚げする。今回は入塾オーディションの後半戦の模様をお届けする。

「己をさらけ出す」ことから始まる表現

オーディションの後半では「本当の私を見て」と題したアドリブの芝居に挑戦する。オーディション参加者9人がそれぞれ、過去に実際に経験した辛いエピソードを元に会話劇を繰り広げていく。己の内面と向き合いながらの演技が要求される「痛み」を伴う課題だ。

審査員のひとり、常盤貴子さんがこの課題について話してくれた。「大前提として、俳優はすべてをさらけ出す仕事でもある。リハーサルだったりお稽古の場でも、いかに恥をかくか、いかにかっこ悪い自分を見せられるかが求められる。それが俳優の個性につながっていく」続けて、審査員の三島有紀子さんも「この(課題の)痛みを経験するのは、絶対に必要なプロセス。表現者になったときに全部プラスになる」と話す。

自分と同じように車いすにのった俳優を目指す男性を演じた関岡勇人さん。聴覚障害を理由に職場で邪魔者扱いされた悔しさを手話で表現したNyankoさん。発達障害で空気が読めないことを他人に理解されなかった経験を演じた大塚哲宏さん。

筋力が少しずつ弱くなる病気で、友人に遠慮してきた中で言えなかった本音を演技で表現する藤原ももなさん。実際に、参加者の内面に秘められていた思いが次々に「演技」として披露されていった。

「痛み」をどのように受け止めていくか

参加者それぞれ迫真の演技に胸を打たれた審査員たち。だが、番組ご意見番の玉木幸則さんは、しっくりきていない様子。これは「演技」でありながらも、「自分の痛み」をさらけ出すことが求められる課題。「俳優になりたい」とは言え、番組が設定したこの課題は、過去に障害を理由に壁に直面したことのある参加者にとっては、あまりに苦しいものではなかったか?と指摘する。「ぶっちゃけ、ちょっとしんどかったなぁっていう人どれだけいる?」と参加者に問いかける。

「つらかった」と関岡さん。しかし「あえて傷を負うことで自分が成長できるように今は思えている」と語ってくれた。藤原さんも「思い出したくない記憶」だったそうだが「新しい扉が開き、風が吹いた気がした」と話してくれた。

三島監督は彼らの意見を受けて、俳優や制作者、自分のような映画監督も含めて

「表現に携わることは本質的に残酷さを伴う」と話す。「表現することをやらなければ、自分の痛みだったり、嫌なことって思い出す必要がないんですよ。なるべく忘れておきたい。けど、表現する限りは、映画監督もそうなんですけど、自分と向き合わなきゃいけないんです」

オーディションの終わりに、常盤さんと三島監督はこんな感想を話してくれた。「お芝居を超えた、でもただの会話ではない、その狭間にいる『あわい』みたいなものを見せていただいた。自分も勉強になった」と常盤さん。三島監督は、「嘘がない瞬間がものすごく撮りたいって思うんですよ。今回、みなさんが表情で素直にリアクションしたり、素直に出た言葉は、最高に素晴らしい瞬間でした」と話してくれた。そして結果は、9人全員が合格!

大事なことはいつでも準備をしておくこと。次はあなたの番だ。

アメリカで活躍する身長117cmの俳優、ニック・ノヴィッキーさんから9人の塾生に贈られたコメントを紹介する。20代前半の頃は身長を理由にオーディションすら受けることができなかったニックさん。だが夢を諦めなかった。「僕に必要だったのは機会が少ないと不満に思って待つのではなく、自分でチャンスを作り出すことだったんだ」彼は、自ら映画を作りプロデューサーに売り込んでいったという。それを続けたことで「新たなドアを開くことができた」と振り返る。「仕事を得るために一番大事なことは、常に準備しておくこと。私たちが画面の中に現れるのを待っている人たちが世界中にたくさんいる。次はあなたの番だ!」

言いなりになるな、見せ物になるな、自分がその場に立つ意味とは何か

番組のラスト、玉木さんが参加者に「自分が俳優になることの意味、自分が制作現場にいることで社会に対して何を伝えることができるのかを考えていってほしい。俳優になるということは誰かの言いなりになるということではない」と語った。実はオーディションの最中、神戸さんも同じようなことを参加者に語っていた。「障害者を見せ物にするテレビは大嫌い。健常者が持っていない何かが自分にはあったから、40年近く俳優を続けてこられたかなと思っている」玉木さんと神戸さんの言葉をどう受け止めて、そして三島さんと常盤さんが指摘する本質的に厳しさに向き合うことが要求される世界に、参加者はこれからどう対峙していくのだろうか。

ついにスタートラインを切った神戸塾、これからどうなっていくのか、乞うご期待!