映像の世紀バタフライエフェクト各担当Dの見どころ紹介 第5弾 Ep.33~38

NHK
2023年5月9日 午後4:05 公開

戦争の中の芸術家

自分の属する国家が戦争を起こしたとしたら、私たちにはどのような責任があるでしょうか。
報道機関には、政治家にはどのような責任があるでしょうか。
その責任の重さは、他の職業の人びととどれほど違うのでしょうか。

著名な芸術家の場合はどうでしょう。
ヒトラーと対峙し、時に距離を置きながらも、ナチスドイツの宣伝に使われた指揮者・フルトヴェングラー。
スターリンの粛清に脅えながら、面従腹背のしたたかな姿勢で作曲を続けたショスタコーヴィチはどうでしょうか。
また、日中戦争で出兵中に芥川賞を受賞し、戦場を描いた小説で国民的作家となった火野葦平の場合はどうでしょう。

芸術の才能によって世に出た彼らを、権力は放っておきません。
国家権力に運命を翻弄された、芸術家たちの苦悩の物語です。

(ディレクターO)

満州帝国 実験国家の夢と幻

直木賞を受賞した「地図と拳」で注目を集めている“満州国”。

20世紀初頭、ロシアが清朝(現在の中国)の東北部に鉄道の敷設というかたちで進出を始めたことから、にわかにこの地方にキナ臭さが漂います。
この情勢の中で、国際社会の反対を押し切って軍主導で傀儡国家を建国したのが日本でした。

当時を記録した映像は、ほとんどが宣伝目的のものに限られており、検閲の厳しさが伝わってきました。それでも、実現できない夢を満州に賭けようとした人々が確かにいたことを、映像は映し出していました。

(ディレクターK)

ベルリン 戦後ゼロ年

1945年4月30日、ソ連軍の猛攻を受けてヒトラーが自殺し、ドイツは敗戦。
それを境に首都ベルリンでは、正と悪が逆転する。

連合軍の豊かな配給を受けたユダヤ人が安息の日々を送る一方で、ドイツ人は飢餓に苦しむ。ドイツの支配下にあった国々でも、立場が逆転、ドイツ系住民や兵士は激しい報復を受けた。リンチ、略奪、暴行…。

しかし、荒廃したドイツは、どん底のカオスから経済復興を成し遂げる。
絶望と希望が交錯する、ベルリン戦後ゼロ年の物語。

日本とドイツは、同じ第二次世界大戦の敗戦国でありながら、戦後別々の道を歩んだ。
日本は、アメリカによる単独占領だったが、ドイツは、米英仏ソの4か国による分割統治。
そして冷戦が激化するなか、東西に分裂し、ベルリンの壁が作られ、苦難の時代が長く続く。

その一方で「戦後ゼロ年」は、民主主義、国際協調に価値を置き、移民受け入れに積極的な今のドイツ社会につながる、はじまりでもあった。

(ディレクターI)

大東亜共栄圏の3年8か月

<大東亜共栄圏は、何を残したのか?>

アジアの解放という理念と軍事的占領の実状に翻弄された人々を描こうと試みた今回の番組では、オランダのアーカイブで見つかった貴重な映像を使用しています。

インドネシアで大東亜共栄圏の意義を訴えた日本軍の宣伝部隊の映像です。
彼らはオランダ統治下で禁止されていた民族歌「インドネシア・ラヤ」を街中に流し、民衆を鼓舞しました。アジアの団結を宣伝しながら、戦況が悪化すると現地住民を日本の戦争遂行に駆り立てます。

理念のみで、具体的な実像を築くことが出来なかった大東亜共栄圏。
その評価は今も様々、議論があります。だからこそ、その時代を生きた人々の、それぞれの視線と心情を拾い集めようと試みました。

理想を信じた日本軍人、人生を翻弄された南方特別留学生、傀儡政権の大統領。映像の中の彼らの葛藤が、今も大国の力学によって、個々の人間の運命が飲み込まれるという現実を思い起こさせてくれます。

(ディレクターC)

ハリウッド 夢と狂気の映画の都(5/15放送予定)

ハリウッドの誕生と、当時から存在した忌まわしい習慣、そして強烈な世界で輝いたスターや名作の知られざるエピソードなどを貴重なアーカイブ映像で紹介しています。

「映像の世紀」にしては珍しく(?)思わず笑ってしまうような楽しい映像もたくさんあります。

スタッフ全員で番組の試写をするのですが、「面白すぎてナレーションが入ってこないのでは?」という理由で差し換えの危機に瀕した映像がありました。

皆さんどれだと思いますか?

この回はエンドロールで、テーマ曲「パリ燃え」を流さず、ジュディ・ガーランドの「Over the Rainbow」で終わっています。

彼女が自分の選択を受け入れる力強い言葉と一緒に、歌詞にも注目して、是非もう一度見て頂けたら幸いです。

(ちなみに正解は…本編33分40秒あたりからです!)

(ディレクターT)

独ソ戦 地獄の戦場(5/22放送予定)

ロシアのウクライナ侵攻が続く現在、独ソ戦に注目が集まっています。

しかしながら世界の戦争・紛争史上最大の犠牲者を生んだ独ソ戦は以前からクリエイターの創造力を刺激してきたものであり、番組を作るに当たり手に入る限りの独ソ戦を描いた劇映画を見ました。

劇映画はヒロイックな脚色が施されているうえ作った側の都合の良い解釈も多いのですが、どの映画も根底には《こんな地獄は二度とあってはならない》というテーマが流れていました。

三冊の詳細な取材ノートを作りましたが、その余白には僕自身の字で何度も「(この戦争は)めちゃくちゃだ!」と書かれています。

戦争反対・世界平和を訴えるのは簡単ですが、好むと好まざるにかかわらず戦争に踏み込んで行った兵士たちの生の現実を直視することなしにそれは成し得ないと感じました。

(ディレクターH)