モハメド・アリ 勇気の連鎖
黒人初のアメリカ大統領となったバラク・オバマ。彼が性的少数者への支持を示した際に使った言葉があります。“be on the outside”、すなわち「外側にいる」。
自らも黒人として社会の外側に追いやられてきた体験を踏まえ、同様の立場を強いられてきた性的少数者に共感を表したのです。
「ザ・グレイテスト」と呼ばれたボクサーのモハメド・アリや、オリンピックの表彰台で人種差別への抗議を行った3人のアスリートら、この番組の他の登場人物たちも様々な理由で「外側」に追いやられた人たちでした。
偏見や戦争、人々の無理解など、ひとりの人間にはどうしようもできないような巨大な力によって押し流された彼らが拠り所としたものこそ「勇気」です。
窮地にあっても勇気を失わず、信念を貫いたからこそ、やがて彼らは周囲の見る目を変え、世間の常識すらも変えていきました。
外側に追いやられた“弱者”にこそ、勇気は力をくれるーそんなことを感じさせてくれる物語です。
(ディレクターG)
アインシュタイン 科学者たちの罪と勇気
天才アインシュタインは、26歳を迎えた1905年を皮切りに、立て続けに重要な論文を発表しました。
有名なE=mc2の方程式は核というパンドラの箱を開き、ブラウン運動についての考察は、のちの金融市場に革命をもたらしました。やがて原子爆弾が日本に投下され、その破壊力と惨状を知ったアインシュタインは衝撃を受け、以後核廃絶を掲げます。
冷戦下でアメリカとソビエトの核開発競争が激化する中、湯川秀樹ら他の科学者と連帯し、死の間際まで核の脅威を訴え続けました。
アインシュタインたちが警告した危機は今なお去っていません。
まさにこの番組の制作中に、ロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。プーチン大統領はたびたび核兵器に言及し、現在ベラルーシへの核配備に向け準備を進めています。
人類は今も核の恐怖のただなかにいます。
科学者たちが残した言葉は、今を生きる私たちに何を問いかけるでしょうか。
(ディレクターN)
ベルリンの壁崩壊 宰相メルケルの誕生
1989年のベルリンの壁崩壊。
その瞬間、東ドイツの若き物理学者だったメルケルが偶然そこに居合わせたことはすでに知られていました。その時、同じ場所にいた何千、何万の群衆の中にはどんな人がいたのだろうか。番組はそこから出発しました。
リサーチを進めると、2人の女性が現れました。
ニナ・ハーゲンとカトリン。2人はメルケルと同じ時代、東ドイツの秘密警察に追われるという、過酷な青春を過ごした過去がありました。
そして驚くべきことに、2人の人生は、統一後のドイツで政治家として頭角を現していくメルケルと交錯し、数奇な運命で結ばれていくのです。
番組を作りながら、そうした運命の不思議さを感じずにはいられませんでした。
放送後、私たちはメルケル前首相にコンタクトをとり、番組録画を送りました。
日本語の放送のままですが、きっとメルケルは感じ取ってくれたはずです。これは、目の前の高い壁に絶望せず、それを乗り越えて行った女性たちの希望の物語であると。
(ディレクターK)
スペインかぜ 恐怖の連鎖
100年ほど前、世界中で“スペインかぜ”という疫病が流行しました。
当時は原因不明の病と恐れられ、多くの人が高熱で倒れました。感染者は推定5億人、死者は4000万人を超えたといわれています。
第一次世界大戦の兵士が次々と罹患したことから、戦争の終結が早まったとも考えられています。当時の科学者たちは、この未曾有のパンデミックを引き起こした原因を突き止めようと懸命に闘いました。
そして現在、新型コロナウイルスのワクチン開発に携わったカタリン・カリコ氏は、「スペインかぜから続く経験と発見がなければ、私たちはコロナ用のワクチンを得られていなかった」と、番組にメッセージを寄せてくれました。
恐怖を乗り越え未知の病に果敢に立ち向かう勇気は、さらに100年後も人類を救うことになるかもしれません。
(ディレクターO)
ヴェルヴェットの奇跡 革命家とロックシンガー
アメリカのロックバンド「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」の音楽が、時と場所を超え、ソ連の弾圧に苦しむチェコスロバキアでビロード革命(ヴェルヴェット・レボリューション)を起こすという壮大な連鎖の物語。
番組は、“プラハの春”に沸くチェコにソ連の戦車が侵攻してくる場面から始まります。
実は、この回の編集を始めたのは、ロシアがウクライナに侵攻する3日前のことでした。
歴史がいかに繰り返すものか、身に染みて感じさせられる制作期間となりました。
見どころは、ハヴェル大統領とルー・リードが初めて対面したときの会話音声。
この世に存在するのかしないのか、微妙なところでしたが、リサーチチームの懸命な大捜索の末、ニューヨークのアーカイブスから発見されました!
その知らせを受けたときは、年甲斐もなくガッツポーズしてしまいました。必聴です。
(ディレクターO)
宇宙への挑戦 夢と悪夢 天才たちの頭脳戦
20世紀は科学技術が急速に発達した時代でした。
1903年、ライト兄弟が有人動力飛行に成功。大空へはばたいた人類の次なる夢は「宇宙」でした。『海底2万マイル』などで知られるSF作家ジュール・ヴェルヌの小説『月世界旅行』が世界の少年少女たちに「宇宙への夢」を植えつけました。
しかし、その夢は、呪われた夢でもありました。
宇宙ロケットの技術は、そのまま弾道ミサイルの技術へとつながります。世界初の宇宙ロケットは、ナチスドイツの兵器開発研究の一環として誕生しました。
さらに冷戦の時代には、国家の威信を賭けた米ソの宇宙開発競争へと発展していきます。
互いの国力を見せつけあうような競争の果てに、人類は月へ降り立ったのです。
科学の力は、我々の暮らしを豊かにし同時に脅かしもする。
宇宙に憧れた科学者の功罪の物語です。
(ディレクターO)
スターリンとプーチン
ソ連を超大国へ導いたスターリン、その崩壊を目の当たりにし、大国ロシアの復活を誓ったプーチン、発掘映像によって、ふたりの権力者の実像に迫る。
独裁によって2千万の命を奪ったスターリンンの狂気、最大の犠牲となったウクライナの人々の悲劇とは?
スターリンの死去の半年前に生まれたプーチン。
スパイから大統領にまで押し上げたのは、国家崩壊の絶望の中で誓った大国ロシア復活への執念とKGB仕込みの権謀術数だった。
(ディレクターT)
我が心のテレサ・テン
「鄧麗君(テレサ・テンの中国語名)の存在は、中華世界のビートルズ、いや、それ以上だった」番組で取材した、中国出身の現代アーティストの言葉です。
歌が大好きなひとりの普通の女の子の歌声が、体制を揺るがすほどの力を持っていた…。
テレサ・テンをめぐる台湾・中国・香港の歴史は、まさにバタフライエフェクトの連続でした。
(ディレクターK)