映像の世紀バタフライエフェクト各担当Dの見どころ紹介 第4弾 Ep.25~32

NHK
2023年5月9日 午後4:04 公開

ナチハンター 忘却との闘い

ナチ犯罪人を決して赦さず、戦後何十年にもわたって追い続けた3人のナチハンター。

執念の追跡劇はまるでクライムドラマを見ているかの如く、暗黒のナチス時代を忘れたい戦後のドイツ国民が彼らの仕事によって次第に変わっていく様には、ある種のカタルシスすら感じます。
しかしながらナチハンターの評価は現在でも定まっていません。

番組では描ききれませんでしたが、彼らには毎日何十通もの脅迫や抗議の手紙が届いたといいます。もし当時SNSがあったら誹謗中傷はもっと酷いものになっていたでしょう。

それでも頑なに信念を曲げなかったのは何故か?
ラストに紹介した第一のナチハンター、サイモン・ヴィーゼンタールが目に涙を湛えて語る映像にその答えが隠されているのかもしれません。

(ディレクターH)

戦場の女たち

「もし、あなたの国が攻撃されたなら、あなたも戦うでしょう?」

現在、ウクライナで自ら志願して戦う女性兵士。
最前線の戦地から取材に応じてくれたオレーナ・ビロゼルスカさんのこの言葉は、私の心を深く抉るものでした。

女性が本格的に戦場に大量投入されるようになったのは、第二次世界大戦がきっかけでした。
ソ連、ドイツ、イギリス、アメリカ、フランス。多くの女性たちが過酷な戦場を志願し、命を落としました。
彼女たちは何者で、どんな想いで志願したのか、その一端を描こうと試みたのが『戦場の女たち』です。

見えてきたのは、『戦争』という暴力的な行為の最中にいたとしても、それまでに育んだ感性をたずさえたまま戦場に立つ『人間』、平時を生きる私たちと隔たりのない女性たちの様でした。
彼女たちの人生が私たちに教えてくれたことは、個人と歴史の間には、抗うことができない相互作用があるということでした。

(ディレクターA)

危機の中の勇気

見知らぬ誰かを助けるため、名もなき人々の勇気が連鎖した物語。 

2001年、JR新大久保駅でホームから転落した男性を助けようとした韓国人留学生イ・スヒョンさんは、電車にひかれて命を落とした。目撃証言によれば、彼は最後まで逃げようとせず、両手を広げて電車を止めようとしていた。

「息子は、日本人とその技術を信用していました。電車はきっと止まってくれると信じていたのだと思います」と、母・ユンチャンさんが取材に答えて教えてくれた。

6年後、同様のホーム転落事故に遭遇して人命を救助した男性は、偶然にも、その直前にスヒョンさんの本を読んだばかりだった。
「実は、助けられたのは私の方なんです」と彼は語った。
事業に失敗して失ってしまった生きる力を、誰かを助ける行為を通じて取り戻すことができたという。

サンフランシスコ大地震、関東大震災、ロンドン大空襲、NY同時多発テロ、東日本大震災。勇気のバトンが受け渡される瞬間を、映像は確かにとらえていた。

(ディレクターI)

零戦 その後の敗者の戦い

零戦は太平洋戦争の緒戦において連勝を飾った海軍の主力戦闘機でした。

主任設計者は三菱の堀越二郎。宮崎駿監督の映画「風立ちぬ」のモデルとなった人です。
零戦に搭載された技術は三菱一社のものではありません。
エンジンは中島飛行機の「栄」。機体の材料には住友金属の新素材「超々ジュラルミン」が採用されました。零戦は当時の日本の工業技術の粋を集めた結晶だったのです。

終戦後GHQの政策により航空産業は解体。
研究開発の一切は禁じられ、技術者たちは路頭に迷いました。

しかし、飛行機で培った高度な技術は、やがて飛行機以外の分野で応用されることになります。

世界初となる胃カメラの設計や、新幹線の高速運転を可能にした台車など、零戦の技術は次々と応用され、日本の科学技術の発展に貢献していきました。

番組では零戦技術者たちの戦後の活躍を追いながら、技術立国日本が誕生していく様を描いていきます。

(ディレクターS)

ブルース・リー 友よ 水になれ

ブルース・リーのことを知っている人は多いと思いますが、彼がどんな人生を送ってきたのかを詳しく知っている人は意外に少ないのではないでしょうか。

32歳の若さでこの世を去り、生前に出演した映画はたったの4本です。

しかし、その人生は世界各国の人々に勇気を与え、ブルース・リーは人種を超えたヒーローになっていきました。
ひとりのアジア人青年が起こした、バタフライエフェクトの物語です。

この回は、映画の権利の関係でNHKプラスやNHKオンデマンドでの配信ができず、テレビ放送でしか見られない貴重な回となっております。

皆様の投票で、再びブルース・リーの雄姿をお茶の間に届けるチャンスをいただけますと幸いです!

(ディレクターU)

朝鮮戦争 そして核がばらまかれた

朝鮮戦争は、第二次世界大戦後の核兵器の広がりに大きな影響を与え、冷戦構造を決定づけた戦争です。

そして日本にも様々なバタフライエフェクトを起こしました。
日本の戦後不況は朝鮮特需で好景気に転じ、トヨタなど大企業も破産の危機を免れます。
日本に駐留していたアメリカ軍が朝鮮半島に送られ、日本が丸腰になったことから、マッカーサーは戦力不保持の占領政策を一転させ、日本は国会の審議を経ずに、のちの自衛隊となる警察予備隊を発足させます。

どこか他人事と捉えがちな、よその国の戦争が、まわりまわって自分たちの「今」に大きく影響している現実。

だからこそ、歴史を知ることは意味を持つのかもしれません。

(ディレクターA)

大統領が恐れたFBI長官

アメリカ連邦捜査局FBI長官の座に、48年間もの間、君臨したジョン・エドガー・フーバー。
FBIという正義の味方のトップである一方、違法な盗聴・監視を利用して大統領の女性関係などのスキャンダルを握り、保身に利用した裏の顔を持っています。

私が感じ入ったのは、カメラが捉えてきた、フーバーの風貌や表情の変化でした。
FBIの前身・司法省捜査局時代の若きフーバーは、一点の曇りもなく澄んだ目をした正義感の強い青年という印象です。

しかし40代を迎え、FBIが次々に凶悪犯を捕らえて国民の人気を集めるようになると、フーバーは、天下無双とでも形容したくなる、自信溢れる表情で、広報映画の主役を自ら務めます。
実際フーバーは、部下に命じて自分が大統領候補に選ばれる可能性を探らせていました。

そして時が経ち、晩年のフーバー。ケネディ大統領と対等な目線で語り合う姿から伺える、強烈な自負心。

歳月とともに変わりゆくフーバーの姿を通して、知られざるアメリカの姿をご覧ください。

(ディレクターO)

運命の恋人たち

〈マリリン・モンローは何を伝えたかったのか〉

死の2ヶ月前に撮影された、マリリン・モンローの未完の遺作「女房は生きていた」。

その撮影フィルムには、セリフを覚えられないほどの精神状態でありながら、何度もカメラの前に立とうとする、懸命な彼女の姿が映されています。
トレードマークの笑顔とは全く違うその表情を見たとき、言いようのない感情がこみ上げ、この思いを核に番組を作りたいと思いました。

映像が、言葉にならないものを、雄弁に物語る瞬間に出会うことがあります。
異人種間での愛を貫いたラビング夫妻の気高さ。ダイアナとエルトン・ジョンの秘めた勇気。そしてマリリンが押し隠していた孤独と強さ。

映像からそれらがわずかでも届いたなら、これ以上の喜びはありません。

(ディレクターT)