映像プロパガンダ戦 嘘(うそ)と嘘(うそ)の激突
映画史に残る名作、エイゼンシュテイン監督の「戦艦ポチョムキン」から始まる連鎖の物語。
観客に感動を与えるために生み出されたモンタージュ技法が、戦時中いかに悪用されたか。日本・ドイツ・アメリカのなりふり構わぬプロパガンダ合戦からは、映像が持つ巨大な影響力と危険性がありありと伝わってきます。
一方で、映像には子供たちに夢を与える力や、物事の真実を伝える力も秘められています。最後にエイゼンシュテインが語っているように、「映像には、こうした複雑な可能性が横たわっている」のです。
そのことを、作る側も見る側も忘れてはいけません。
見どころは、エイゼンシュテインの日本語練習ノート。
今の社会情勢もあって、ロシア側からなかなか返答がなく、資料が届いたのは編集期間終了の一日前でした。丁寧に書きつけられた漢字の数々からは、彼がどれだけ日本語に感銘を受けたかが見て取れます。
地味な部分ですが、是非目を凝らしてみてください。
(ディレクターO)
9.11 同時多発テロへの点と線
ロシアのアーカイブで、貴重な映像が見つかりました。
1950〜60年代、サウジアラビアの建設現場を記録した映像です。サウジ国王と並んで歩くのは、ムハンマド・ビンラディン。
貧しい移民から身を起こして立ち上げた建設会社が、当時急成長を遂げていました。
ビンラディン・グループの成長を支えたのは、アメリカの巨大財閥ロックフェラーが創設した石油会社です。巨大なオイルマネーが、貧しい砂漠の国サウジに建設ラッシュをもたらし、ビンラディン家を富豪へと育てたのです。
そのムハンマドの17番目の息子オサマ・ビンラディンは、テロリストに変貌し、ジェット機突入という衝撃的な方法でワールドトレードセンターを倒壊させ、3千人の命を奪いました。
豊かさをもたらすはずの事業が、憎悪となって逆流したことに改めて戦慄します。
小さな因果が、100年分凝縮されて生まれた悲劇の記録です。
(ディレクターN)
ルーズベルトVSリンドバーグ 大戦前夜 アメリカは参戦すべきか
第二次世界大戦が勃発したのは1939年。アメリカが参戦したのは1941年です。
実はこの2年間、アメリカでは国論を二分する大論争が巻き起こっていました。ヨーロッパの戦争に介入するべきか、それとも中立を貫くべきかという論争でした。
中立派の旗頭になったのは、チャールズ・リンドバーグでした。
初の大西洋単独無着陸飛行を達成した“空の英雄”です。彼は、アメリカの国益を最重視し、ヨーロッパの戦争には関わる必要がないと力説します。
一方、ルーズヴェルト大統領は「自由と民主主義を守る」という大気を掲げ、イギリス支援の色を濃くしていきます。
ひとたび始まった戦争に、どのようにかかわっていくのか。
ヨーロッパや世界全体に対するアメリカの基本姿勢を決めたともいえる、2年間の大論争を描きます。
(ディレクターO)
ひとつの友情がアメリカを変えた
〈数奇な縁で結ばれたふたり〉
アメリカで差別撤廃に尽力した2人の連邦議員、その不思議な縁を描いた番組です。
黒人解放を呼びかける過激な武力組織に身を投じたロナルド・デルムス。そして日系人差別を跳ね返すために軍に志願し、銃撃戦の末に右腕を失ったダニエル・イノウエ。
2人は予期せず議員に転身します。そして、互いに面識がなかったにもかかわらず、見えない糸で結ばれたように、互いを助け合い、差別撤廃の法案を実現させます。
番組のハイライトは、イノウエが提出した法案に、賛同を表明して立ち上がったデルムスの名演説。彼が語ったのは、6歳の時の思い出、強制収容によって連れ去られた日系人の親友との痛切な別れの記憶でした。
幼き親友の恐怖と悲しみを代弁する彼の訴えは、パワフルで、見る者の心を撃ち抜きます。人間の尊厳というものを、真摯に訴えかけてくる言葉を、ぜひご覧ください。
(ディレクターT)
ジェノサイド 虐殺と黙殺
第二次世界大戦、ナチによるユダヤ人の集団虐殺を、チャーチルは「名前のない犯罪」と呼んだ。
この悲劇を繰り返さないため、「ジェノサイド」という概念が新しく作られ、戦後の国際社会は未然に防ぐ条約に賛同した。
しかし、現実の前に限界を露呈。アフリカ・ルワンダの集団虐殺に直面した国連の部隊は、世界から黙殺され、孤立する。なぜジェノサイドを止められないのか?
人類の悲劇と失敗の物語。ロメオ・ダレール(ルワンダPKO部隊司令官)の言葉。
「私は何度も問いかけてきた。『私たちは同じ人間なのだろうか』『人間としての価値に違いはあるのだろうか』。もし私たちが、全ての人間が同じ人間であると信じているなら、私たちはどのようにしてそれを証明するだろうか」。
(ディレクターI)
大恐慌 欲望と破滅の1929年
「ジョーが手に入れたものはすべて金で買ったものだ。勝つためには3つのものが必要だ。 第一に“金”、第二に“金”、第三に“金”である。」
1929年10月24日、ニューヨークでの株価大暴落を発端に起こった大恐慌。
大衆を夢心地にさせた資本主義が初めて牙を剥いた出来事でした。
株取引に熱狂していた投資家の多くが家や財産を失う中、相場師ジョセフ(ジョー)・ケネディは暴落をいち早く予想して売り抜け、莫大な利益を守り抜きました。
インサイダー取引や株価操作を行ったと噂され、悪名も高かったジョセフの財産が、ケネディ一族の礎を築き上げます。
JFKをはじめ9人の子どもに恵まれたジョセフ・ケネディ。一族に暗殺や事故死が続いたことから、やがて「ケネディ家の呪い」という都市伝説も生まれます。
金で得られる幸せとは何なのか…、考えずにはいられませんでした。
(ディレクターM)
ソ連崩壊 ゴルバチョフとロックシンガー
ソ連崩壊はアフガニスタン侵攻によって始まった。
数週間で終わらせるはずだった軍事作戦は10年に及ぶ泥沼の戦争となった。
西側諸国の経済制裁と戦費拡大で、危機を迎えたソ連に登場したのが、ゴルバチョフだった。
ペレストロイカの中で若者たちの絶大な支持を集めるロックバンド「キノー」が誕生する。ヒット曲「変化を!」は、自由を求める人々を鼓舞し続ける。
超大国を崩壊に導いた指導者とロックシンガーの知られざる物語。
(ディレクターT)
世界を変えた“愚か者”フラーとジョブズ
1960年代に一世を風靡した発明家にして思想家のバックミンスター・フラーと、アップル社を創業したスティーブ・ジョブズ。実は深いところで繋がっているものの、その繋がりを簡潔に説明するのは困難なふたりの人物。
彼らを主人公にして番組を作るときにお手本にさせてもらったのが、村上春樹さんの小説『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』でした。
一見関係のないふたつの物語が交互に進んでいき、次第に近づいていったかと思うと、予想外のところで交錯する…十代の頃にワクワクしながら読んだ物語を思い返しながら、“愚か者”とよばれた二人の男の人生を撚り合わせていきました。
フラーは、「政治家たちは地球環境を改善しようとする提案は退けるのに、戦争になると膨大な富を用意する」と嘆きました。現代に生きる私たちにも響く言葉です。
数十年を経ても色褪せないフラーの思想に、この番組を通してぜひもう一度触れていただければと思います。
(ディレクターG)