台湾総統選挙 その選択は 専門家に聞く

NHK
2023年11月24日 午後4:54 公開

2024年1月に行われる台湾の総統選挙。台湾情勢は、11月に行われた米中首脳会談でも焦点のひとつとなり、日本を含めた地域の安全保障への影響も指摘されています。こうした中で、候補たちの間で今、新たな動きが出ており注目がいっそう高まっています。

台湾の政治に詳しい、法政大学・法学部教授の福田円(ふくだ・まどか)さんに話を伺います。

(「キャッチ!世界のトップニュース」で11月20日に放送した内容です)
 

総統選挙の主な候補、11月16日発表時点での支持率です。ここまで世論調査で優勢を保ってきたのは、与党・民進党が擁立した頼清徳氏。その後を、中国との関係改善を重視する最大野党・国民党の侯友宜氏。そして、第3勢力として台頭してきた民衆党の柯文哲氏が追う形でしたが、15日に両党が候補者を一本化することで合意しました。ただ、どちらを総統候補にするかで意見がまとまらず、まだ協議が続いています。
 

・野党候補一本化の動き

別府キャスター:まず、野党側の候補一本化をめぐる動きですが、2人の支持率を単純に足し上げると頼候補の支持率を上回る形となります。これによって選挙の構図が変わってきそうですね。
 

福田さん: 候補者の一本化は一度合意したのですが、なかなか最終的な決定方法をめぐり折り合いがつかず、難しい状況になっています。ただ今回、野党が分裂のまま民進党の候補が勝つと、台湾が民主化してから初めて2期8年以上同じ政権が政党を担うことになります。有権者の間では民進党への批判もありますし、民主主義という観点からも政権交代を期待する声が大きくなっている背景があります。
 

別府キャスター: 最後まで固まらないかもしれないということですが、現状はどうでしょうか。

福田さん: 民衆党の支持者は、主に2大政党の政治に失望して、「政治文化を変える」という柯文哲氏の呼びかけに共鳴してきた人たちです。特に若者たちが多いので、一本化の進め方によっては支持層がゴソッと離れてしまう。つまり、1+1が単純に2にはならずに減ってしまう可能性もあり、非常に難しい状況になっていると言えます。

別府キャスター:しかも、かねてから一本化すると言いながら、どちらが候補になるのかという議論もあるようですね。

福田さん:初めからずっとそうだったのですが、やはり最後の局面で、どちらも「総統候補になることは譲れない」と、非常に不透明な状況になっています。
 

・対応迫られる民進党・頼候補

別府キャスター:一方の蔡英文政権の後継とされる頼氏ですが、こうした野党側の動きを受けて何らかの対応が迫られているのでしょうか。

福田さん: 頼氏はここまで優勢だったとはいえ、なかなか支持率が上がらず、しかもこの1か月ぐらいはかなりこの野党の統一候補の話題に有権者の関心がいってしまい苦戦しています。

蔡英文政権の8年間、不動産価格の問題や若者の雇用の問題などがあって、もともと民進党を支えてきた若年層が特に民進党から離れてしまう状況があります。しかし、頼氏は現職の副総統ですので、現在の政策をそこまで否定しないけれども、新しい問題解決へのビジョンを示さなければいけない、非常に難しい立場に立たされています。
 

・蔡英文政権 対外路線の評価は

別府キャスター:外交面では、「蔡英文政権のレガシーが外交」という言われ方もします。一方で、この8年で台湾と外交関係を持つ国は減っています。中国の外交的な圧力もあるといわれていますが、こうした状況は有権者の目にどう映るのでしょうか。
 

福田さん: 蔡英文政権の基本的な立場は、「中国からの圧力に対してこれ以上挑発することはしないけれども、圧力をかけられたからといって妥協はしない」という方針で、こうした基本的な立場は、割と民進党の支持層以外の広範な有権者から支持されています。

頼氏自身も、「この路線を継承する」とずっと言っていますが、頼氏はもともと政治家としての立場が蔡英文氏よりもかなり独立志向が強いとみなされてきた方ですので、「本当にそれができるのか」と、より懐疑的な見方がある。つまり、より独立に寄って立場をとり、中国からの圧力がさらに強まるのではないかという不安があります。
 

・中国の見方

別府キャスター: その中国は、総統選の現状をどのように見ているのでしょうか?

福田さん: 中国は、表向きは「自国の力もついたので、台湾にどのような政権ができても自分たちがやるべきこと、統一に向けて着々と準備を進める」という立場ですが、やはり本音を言うと、もう少し平和的なアプローチもできるような政権が台湾にできてほしいところがあると思います。

その点野党は、中国との対話の再開や、緊張緩和ということを、どの政党も多かれ少なかれ主張していますので、そこに対する期待があります。今回の野党一本化の話でも、最後の局面で一本化する合意ができた背景には、中国からの働きかけもあったのではないかという報道もあり、中国と野党との関係は、これから選挙の終盤にかけて1つの争点になってくると思います。
 

・アメリカとの関係

別府キャスター: 一方でアメリカはどう見ているとお考えですか?

福田さん: アメリカも、どの候補が総統になっても、しっかりこれまでどおり台湾に関与していくという基本的な姿勢です。ですが、今の蔡英文政権はホワイトハウスや国務省と非常に強いパイプを築いています。  

福田さん: そして、頼氏の副総統候補になる蕭美琴氏は、今の蔡英文政権の駐米代表です。彼女が副総統になる形で民進党政権が続くと、既存のパイプを生かしたコミュニケーションができ、そこに対する有権者の期待は非常に高いです。

他方で、国民党もアメリカとの関係の改善にずっと務めてきましたが、やはり最終的には国民党と中国との距離感というところで、若干、アメリカから、どうなのかという見方があると思います。

別府キャスター: アメリカも来年(2024年)、大統領選挙がありますが、その影響もあるとみていいのでしょうか。

福田さん: そうですね。アメリカでも来年大統領選挙があり、今の政権が続くか分からないということで、新しい台湾総統と、このあとのアメリカ大統領の組み合わせも、台湾の中では結構議論されています。
 

・求められる指導者の姿

別府キャスター: 最後に、台湾の有権者の「民意」はどこにあるのかということです。決して“米中対立”を望んでいないと思うのですが、どうご覧になりますか。

福田さん: 台湾ではこの8年間で、台湾人としてのアイデンティティーや、台湾としての主体性ということを重視する世論が非常に高まっています。他方で、ロシア・ウクライナ戦争が続く中で、「中国からもしも侵攻されたら、最前線に立たされるのは自分たちだ」という危機感のようなものも出てきているので、台湾の有権者は、アメリカとも中国ともしたたかに渡り合えるような指導者を求めていると思います。

別府キャスター: “したたかさ”というのは1つキーワードですか?

福田さん: 非常に重要です。有権者たちも、したたかに候補者を見極めているという状況かと思います。

別府キャスター:もう1つの注目点では議会選挙もありますが、どのような注目点がありますか。

福田さん: 議会選挙はこれから本格化していきます。台湾では議会一院制で、もし総統府と議会である立法院でねじれが生じると、実際の政治外交の運営に大きな影響が生じるので、議会選挙もこれからますます盛り上がり、加熱していくだろうと思います。
 

別府キャスター: ありがとうございました。ここまで、法政大学教授の福田円さんとお伝えしました。
 

―――――――――――――

■キャッチ!世界のトップニュース

放送[総合]毎週月曜~金曜 午前10時5分
※時間は変更の可能性があります。