アゼルバイジャンとの係争地ナゴルノカラバフで「共和国」と称する組織を作り、これまでこの地域を事実上支配してきた現地のアルメニア系の勢力が、組織を解体する手続きを始めました。統合に向けアゼルバイジャン政府が本格的に動き出すとみられるなか、およそ12万人いたとされるアルメニア系住民が、ナゴルノカラバフから逃れる動きが加速しています。
ナゴルノカラバフは、アゼルバイジャンとアルメニアが互いに帰属を主張し、係争地となってきました。しかし、9月19日にアゼルバイジャンが起こした軍事行動で、およそ30年間続いてきた紛争は大きな展開を見せています。同時に鮮明になっているのが、ロシアの影響力の低下です。
なぜ、ナゴルノカラバフの情勢がこれほど大きな変化をもたらしているのか。別府正一郎キャスターが3つのポイントで解説します。
(「キャッチ!世界のトップニュース」で9月29日に放送した内容です)
①紛争の歴史
この紛争の歴史を簡単に振り返ります。
時は、ソビエト時代末期の1988年。ナゴルノカラバフのアルメニア系住民の間では、自治州の帰属をアゼルバイジャンからアルメニアに変更するよう要求がいっそう強まりました。これを受け、アルメニア系住民の後ろ盾となっているアルメニアと、帰属の変更を認めないアゼルバイジャンとの間で対立が高まりました。
アルメニアもアゼルバイジャンも、ともに旧ソビエトを構成していた隣国でしたが、この隣国同士が争うことになったのです。以来、たびたび激しい武力衝突が起きながら、この紛争は決着がつかないまま、いわば「凍結された紛争」となってきました。
②最新情勢
その状況が今、大きく動いています。9月19日。アゼルバイジャンが軍事行動に出て、アルメニア側が敗北。これを受けて28日、アルメニア系の勢力が作り、この地域を事実上支配していた組織が解体されることになり、その手続きが始まりました。
アルメニア側はこの地域を明け渡し、アゼルバイジャン政府が統合に向けて本格的に動き出すものとみられます。すでに、ナゴルノカラバフからは、12万人いたとされるアルメニア系住民のうち、8万人近くがアルメニアに逃れています。
③ロシアの影響力の低下
この動きが映し出しているのが、ロシアの影響力の低下です。というのも、アルメニアの後ろ盾になってきたのが同盟関係にあるロシアですが、そのロシアが今回の事態を食い止めることが出来なかったからです。アルメニア側が失望し、不満を強めているのは自然なことです。
フィナンシャル・タイムズは「ロシアがアルメニアに対して持っていた影響力は修復できないほど壊れた」と指摘しています。その上で、「ロシアの弱さを露呈し、ロシアの軍事力の神話が崩れている」という専門家の分析を伝えています。実際、アルメニアは欧米に接近するような動きを見せています。
ロシアが、ウクライナに侵攻し、そこで激しい抵抗に直面し、いわば、かかりきりになっている中で起きた、今回の変化。ロシアにとって新たな打撃になっているのは間違いありません。
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