「生きものたちの“恋愛事情”」~バレンタインだから?~

NHK
2023年2月12日 午後7:55 公開

◎制作こぼれ話「負けるが勝ち!?恋のかけひきは超・複雑!」

今回番組に登場したエリマキシギの繁殖行動。「フェーダー」と呼ばれるオスが、メスそっくりの姿でライバルの隙を突いて交尾をしようとする姿を紹介しましたが、実は他のオスたちにも驚きの戦略があります。

メスそっくりの見た目でライバルを出し抜く「フェーダー」

飾り羽に注目してください。色付きのものと真っ白なものの2種類に分けられるんです。色付きの方は「縄張りオス」と呼ばれ、闘いを経て自分の縄張りを獲得し、そこにメスを誘い込みます。一方、白い方は「放浪オス」と呼ばれ、縄張り争いはしません。そのかわり放浪オスは縄張りオスのもとを訪ね、なんと「けんかをするふり」を申し込みます。

縄張りオス(左)とのけんかに“わざと”負けておこぼれを狙う放浪オス(右)

お芝居をすることで、縄張りオスは強さをアピールでき自分の縄張りにたくさんのメスを誘うことができます。一方、放浪オスは、いわば“わざと”けんかに負ける代わりに、集まったメスとこっそり交尾することで、縄張りオスのおこぼれにあずかることができると考えられています。「縄張りオス」「放浪オス」「フェーダー」という3つの異なる作戦をもつオスたち。ぜひそれぞれに注目して恋の成り行きを見守ってみてください。

◎制作の現場から「生きものの“恋”ってどう伝える?」

バレンタインデーが近づく2月12日の放送。せっかくなので、生きものたちの繁殖に関わる悲喜こもごもの営みを“恋愛事情”と題して特集することになりました。今回は、NHKとイギリスBBCの国際共同制作で3年かけて撮影した映像をもとに番組を作ったので、世界の生きものたちの映像が盛りだくさんの華やかなものになりました。とはいえ「バレンタインだから恋しなきゃ!」なんて時代ではない2023年。動物たちの“恋愛”をどう伝えるか、制作チーム一同とっても悩みました。「そもそもオスとメスって何?」、「どうして“オスとメス”って、オスを先に、メスを後に言ってたんだっけ?」一つ一つ立ち止まりながら制作を進めました。そんな悩める番組の救世主が、おなじみの生きものを代表するキャラクター、マヌ子ママとツノミンです。2匹の痛快なつっこみが加わったことで、繁殖をテーマにした過去の番組とは一味違う多様な“恋”の世界をお伝えできる内容になっていましたら幸いです。

マヌ子ママとツノミンが“恋愛事情”につっこみ

◎ディレクターのお気に入り「生きものだって好みはさまざま“個性”があるんです」

今回、世界中で最新の機材を駆使して撮られた素材を見て、最も衝撃を受けたのが、オオカンガルーたちの恋の結末です。体格の良いオスたちがアピール合戦を繰り広げるなか、メスは小柄で、闘いにも消極的なオスをパートナーに選びました。

意外(?)な相手を選んだカンガルーのメス

一般的に、オオカンガルーのメスがオスを選ぶ基準は「強さ」とされます。実際、オスたちは、ボディービルダーのようにポーズを決め体格を示したり、命がけでライバルと闘ったりして、メスに選ばれようと必死で「強さ」をアピールします。

メスを射止めようと命がけで闘うオス

それなのに、どうしてこのメスは一見弱そうなオスを選んだのでしょう。もしかするとライバルの目を盗む判断力や計画性も一種の「強さ」として魅力的だったのかもしれません。生きものにも個体差があり、好みも均一ではないはずです。このメスの選択から、「強さ」の基準も多様であると気づかされ、なんだかほっとしました。

ディレクター 柴垣 文香

☆ブログ担当スタッフから☆

柴垣ディレクターは、先日「キツネとガン」でデビューした野口ディレクターと同じく、ダーウィン制作班の新人さんです。少し前まであたりまえだと思っていたことが、ふと考え直してみれば意外とあたりまえではないかもしれない、そんな気づきがはじまった時代に、若い感性がとても頼もしいです。次回作を期待しております!

ブログ担当スタッフ