◎制作こぼれ話「仲間を救ったミツバチは仲間を救いたかったワケではない」
番組でご紹介した、ミツバチvs.カマキリの緊迫したバトル。ある日、巣箱の前で待ち構えていたカマキリが一匹のミツバチを捕まえ、「あー、食べられる!」と思いきや、次々と仲間のミツバチが飛びかかりました。自慢のカマを押さえられたカマキリは大慌て。振り払おうとカマを振り回しているうちに、ミツバチは全員逃れることができました。これはすごい!窮地に陥った仲間を助けようと、自らの危険もかえりみず、ミツバチたちが力を合わせている感動的なシーンが撮影できたと思い、お世話になっている玉川大学の中村純教授にご報告したところ、意外な答えが。それは「仲間を助ける行動とは言えない」というのです。では、どういうことなのか?
カマキリに集団で立ち向かうニホンミツバチ
「捕まったミツバチが警戒フェロモンを出し、反応したミツバチが集まってきて結果的に助かっただけ」とのことでした。確かに、ミツバチには「仲間が敵に捕まってかわいそう」という感情もなければ、「皆で力を合わせて助けよう」という判断をする能力もないのでしょう。敵が来れば警戒フェロモンを出す、フェロモンを受け取ったハチは外敵を撃退するために戦い始める、極めて合理的なシステムであって、そこに感情が入り込む余地はありません。これが科学的に間違いのない解釈。しかし、ミツバチが群れで力を合わせて厳しい自然を生き抜いていることも事実です。ミツバチたちの生き方を象徴するできごとに出会うことができました。
カマキリと戦うミツバチたちの奮闘を見たい方は・・・
※配信は終了しました↑
ニホンミツバチの巣箱では日々さまざまなドラマが
◎撮影の現場から「撮影隊危うし!オオスズメバチに恫喝(どうかつ)される」
今回のテーマは、ニホンミツバチが家族の力でどのように群れを守るか、ということ。撮影のメインは天敵・スズメバチとの戦いとなりました。巣箱によく襲来するのはキイロスズメバチ。大きさはミツバチの2倍ほどで、刺されればもちろん危険です。しかし、ミツバチを狩ることに集中しているので、撮影している人間には無関心。キイロスズメバチは、素早く動くミツバチを空中で捕まえようと四苦八苦しますが、めったに成功しないので、見ているこちらは怖さを忘れて「不器用なハチだな~」と“上から目線”でつぶやいてしまいました。しかしこれが、オオスズメバチとなると、ワケが違います。
ミツバチを空中で捕まえたキイロスズメバチ
近づいてくると重低音の羽音が響き、存在感バツグン。ミツバチの巣箱に降り立つと、大きなアゴで木をかじり、入り口を広げていきます。近くで撮影しようとそろーり近づくと・・・オオスズメバチがフッと飛び立ち、ホバリングを開始。にらむようにこちらを向いて、カチカチとアゴを鳴らしはじめます。「オラオラ、うちのシマで何しとるんや」と、まるでヤクザ映画のワンシーンのように、恫喝(どうかつ)を受けている気分になりました。もちろん防護服を着ているのですが、迫力満点の姿に思わず冷や汗をかく日々でした。
ミツバチをかじるオオスズメバチ
◎ディレクターのお気に入り「日本の森の自然を支えるニホンミツバチ」
ニホンミツバチの秘密を解き明かす番組を春・秋と2本制作した今、思うことは、日本の森を根底から支えているのはニホンミツバチだということです。西洋の広いお花畑ではなく、アジアの森で進化したニホンミツバチは、森に咲く小さな花までくまなく巡って蜜を集め、その過程で数多くの植物の受粉を助けています。そんなニホンミツバチの作るハチミツは「百花蜜(ひゃっかみつ)」と呼ばれ、多様な花から集めたからこその複雑な味わいです。ニホンミツバチが森の植物を支えていることの証拠と言えるでしょう。
そして、ミツバチは多くの動物も支えています。鳥や他の昆虫など、多様な捕食者に食べられているのです。食べられることは一見、かわいそうに思えますが、必ずしもそうではないのかもしれません。働きバチの寿命はおよそ1か月。一生の前半は安全な巣の中の仕事をし、後半は敵が多く危険な巣の外で蜜や花粉を集める仕事をします。仲間と力を合わせてニホンミツバチという自らの種の繁栄を支えつつ、多くの植物の受粉を助けて森を育み、最終的には食べられることで他の生きものの命まで支える。短い一生のうちにこれだけのことを成し遂げるミツバチの最期は立派なものと言えるでしょう。ミツバチはまさに日本の自然を支える要となる生きものなのです。
ディレクター 岡部 聡
◎ブログ担当スタッフから
「熱殺蜂球」いかにも必殺技!という感じですね。番組の予告を見た方から「声に出して読みたい」という反応もありました。「ねっさつほうきゅう」、うん、イイです。
熱殺蜂球は、今回の番組にもご出演の玉川大学教授小野正人さんが1995年に報告したものだそうです。はるか昔からオオスズメバチとともに暮らしてきたニホンミツバチだからこその対抗手段。じつは、外来種のセイヨウミツバチには、これがほぼできないらしいのです。
オオスズメバチに群がるニホンミツバチ
ダーウィンが来た!「オオスズメバチ」の回では、セイヨウミツバチがオオスズメバチに全滅させられてしまう衝撃の光景をお伝えしました。必殺技がない悲しさですね。でも、番組でもお伝えしたとおり、外来種であるセイヨウミツバチが万が一、野生化すると生態系に悪影響を与える恐れもあり、オオスズメバチがこれを防いでいるという面では大切な自然の仕組みの一部と言えます。ちなみに、最近の研究では、セイヨウミツバチも場合によっては蜂球の中でスズメバチを「熱死」させられるケースもあることがわかってきたそうです。
さて、ミツバチの岡部聡ディレクターとオオスズメバチの栗山定ディレクターに聞いた話を知ったかぶりで書かせていただいておりますが、知ったかついでに驚きの情報をさらに2つご紹介させてください。
セイヨウミツバチを襲うオオスズメバチ
今回、「昆虫界のラスボス」ともご紹介したオオスズメバチ。「じゃあ、カブトムシとどっちが強い?」という疑問に、ごく最近の研究で新たな事実が明らかになりました。現在取材中のカブトムシ回の担当、鈴木ディレクターに突撃取材して記事を作りましたので、ぜひご覧ください。
そして、もう1つ。ミツバチをかじっているオオスズメバチが、実は「ミツバチを食べられない」ってご存じでしたでしょうか?キーワードは「栄養交換」。この制作ウラ話ブログの記念すべき第一回でご紹介していました。まだ読んでない!という方は、こちらもぜひご覧ください。栗山定ディレクターの記事です。
ハチの世界は面白すぎて、まったくネタがつきませんね!これからもご期待ください。
ブログ担当スタッフ
◎関連ブログ記事
岡部ディレクターが担当した回のブログです。ぜひご覧ください。