「ライオン王者への道」~番組を2度楽しむ方法!~

NHK
2023年4月23日 午後7:55 公開

◎制作こぼれ話「赤ちゃんの母親は誰?」

番組の主人公である3頭の若いオスたちの中の1頭、“お坊ちゃま”川辺のマヒリ。母親たちに置いてきぼりにされ、独り立ちしたか?と思って探したところ、藪(やぶ)の中で発見。そのマヒリの近くに赤ちゃんがいるのを撮影スタッフが見つけるシーンを覚えているでしょうか?番組では赤ちゃんが紹介されたすぐあとで、「赤ちゃんを産んだのはマヒリのお母さんだったんです」とナレーションで説明していますが、実は、赤ちゃんを産んだのがマヒリの母親だと確認できるまでには長い時間がかかっていました。お母さんが「産屋」として使っている藪の中に入ったまま姿を見せなかったからです。当初、赤ちゃんを産んだのはマヒリの群れの他のメスかもしれない、と考えました。

しかし、その後、マヒリの母親と一緒に姿を消していた「マヒリのきょうだいのメス」が現れ、産屋に出入りするのを見て、状況を察しました。ライオンのメスが出産するときには、そのメスの娘や母親が出産子育てを手伝う「ヘルパー役」を果たすことがわかっていたからです。マヒリのきょうだいのメスは出産するには若すぎるため、ヘルパーに違いありません。産んだのは、マヒリの母親のはず。でも、一向に姿を見せません。赤ちゃんのお母さんがマヒリの母親だと最終確認できたのは、藪の外へ出ようとする赤ちゃんを連れ戻す母親の顔を撮影できた時でした。

藪の中に映った母親の姿。この映像が決め手となった

「撮影できた」といっても、草の陰から見え隠れする短い映像です。宿に戻ってその映像の静止画と以前撮影された母親の顔を見比べて、ようやくマヒリの母親だと確認できました。マヒリの母親の顔の特徴は、目の下に白く見える線があることです。この特徴が決め手となりました。

◎撮影の現場から「取材道具の紹介」

今回、若いオスのライオン3頭の追跡にはGPS発信器を使っています。それ以外にも、撮影現場では取材に欠かせない道具がいくつかあります。それらをご紹介します。

1995年から使っている双眼鏡です。左が8倍。右が10倍の双眼鏡です。右は4年ほど前にオーバーホールしたので新しく見えます。私が普段使っているのは8倍の方です。動物を発見するためや個体識別をするのに双眼鏡は欠かせません。日が暮れてもこの双眼鏡を使うと肉眼より明るく見えるので重宝しています。

動物を探すだけではなく、日中、双眼鏡で見る風景は肉眼とは違った美しさがあります。休憩時には映画の世界のような切り取られた風景を見て楽しんでいます。上の写真のようにしてスマホで望遠写真を撮ることもできます。

双眼鏡とスマホで撮った写真:ブサーラの兄(左)100m先の鳥(右)

双眼鏡とスマホで撮った写真:ブサーラの右後ろ足

最近の取材ではスマホが欠かせません。使っているスマホは3台。地図アプリや、GPSアプリ、位置情報収集アプリを使い分けています。大草原では自分がどこにいるのかわからなくなることがあります。夜になると山など目標物が見えなくなるので地図アプリで道路のある方向を調べて宿に戻ります。GPSアプリは動物たちが集まる水場や目印となる岩山などの位置をインプットしておいて迷わずその場所へ行くために使います。

使用しているスマホは3台

今回の番組のようにライオンのいる場所へ導いてくれるのもこのアプリです。位置情報アプリは衛星から届くライオンの位置を緯度と経度で知るために使います。このアプリで得た位置情報をGPSアプリに打ち込んでライオンのいる場所へ導いてもらいます。

ライオン追跡用電波受信機(左)と八木アンテナ(右)

もうひとつ、大事な道具はライオンを見つけ出すのに使う電波受信器と指向性のある八木アンテナです。受信機はラジオのようなものです。アンテナはライオンの首輪から発せられるピッ、ピッ、ピッというビーコン信号の周波数に合わせた特注品です。GPS情報でライオンのいるおおよその場所へ行き、アンテナでライオンのいる方向を探します。ピッ、ピッ、ピッという音が強く聞こえる方向にライオンはいます。GPS情報は1時間に1回なので、その間にライオンが移動していることが多いのです。受信機と指向性アンテナはライオンをピンポイントで見つけ出すのに欠かせません。

八木アンテナでライオンの位置を絞り込む様子

◎ディレクターのお気に入り「番組を2度楽しむ!」

番組を続けて2度見ることは少ないと思います。でも、あえて見てもらいたいのが今回の番組です。撮影場所は世界屈指の野生の王国として知られるセレンゲティ国立公園です。ライオンを撮影していてもほかの生きものたちが同じ画面に映っていることがあります。そんな生きものたちを見つけ出すのって意外に面白いですよ。私が見つけた生きものはライオン以外にバッチリ映っているものも含めて20か所14種類ほど。獲物になっている動物も数えています。映っている動物の名前とおおよその経過時間を拾い出してみました。このほかにも見つけることができるかもしれません。録画をしていなくてもNHKプラスで見ることができます。もう一度、違う角度で番組を楽しんでみてください。

ディレクター 橋場 利雄

(※NHKプラスの配信は終了しました)

4:35ダチョウ3羽

6:57ヌー大群

7:31イボイノシシとトムソンガゼル

7:38画面右中央より少し上アリ塚に登っているトピ

8:21イボイノシシ

9:35画面左下小鳥 水の中の食べ物をつついている

9:56アフリカゾウ

12:33カバ

13:30カバ

13:31トムソンガゼル

13:41シマウマ

15:04トピ獲物15:52

18:41キリン画面下中央と画面左下(頭を下げている)

22:10アフリカゾウ

24:36牛

27:30トムソンガゼル

31:43小鳥たち

33:18獲物アフリカスイギュウの子ども

35:04ハゲワシ

36:03アフリカゾウ

☆ブログ担当スタッフから☆

さすがセレンゲティ国立公園、本当にたくさんの生きものが映っていますね。「よ~し、橋場ディレクターのリストにない動物を見つけるぞ~!」というのも、一つの楽しみ方かも知れません。そして今回、ライオン以外に番組に映っていた中で、私が一番魅力的に感じた生きものは、リストに載っていませんでした。それは・・・、たぶん多くの方が同じ気持ちではないかと思いますが、「人間」であります。

橋場利雄ディレクター渕上健一カメラマンのいきいきとした姿、まるで自分も一緒にライオンを追っているような気分になりました。そして、橋場さんの臨場感あふれる現場リポートを引き出していたのが、小坂一之ディレクター。長年、一緒に動物たちを追ってきたチームだからこその雰囲気が最高でした!3頭の若いオスライオンたちの今後が気になりますが、それを追いかけるロケ隊の面々からも目が離せません。

5/25追記:番組公式ツイッターで「#セレンゲティだより」を発信中です。道でカメレオンやカメを救い、お弁当を持って草原を駆け巡り、日々ライオンを追っている橋場ディレクターたちの日常を切り取ります。サバンナの風をぜひ感じてください。

https://twitter.com/nhk_darwin (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます

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ブログ担当スタッフ