「東京生きもの調査隊⑥」~超激レア映像!アカショウビンの巣の中を大公開~

NHK
2023年2月26日 午後7:55 公開

◎制作こぼれ話「また来た!地面を走るオス」

東京・八王子のムササビがやってくる幼稚園。「ダーウィンが来た!」では、園児の皆さんと一緒に観察を続けています。2022年の12月下旬、面白い出来事がありました。まだ明るい時間に、夜行性のはずのムササビが巣箱から出てきたんです。実はこれ、オスのムササビでした。日中はタカなどの猛禽(もうきん)類やカラスなどの天敵が多いため、普段、こうした行動をしませんが、繁殖期の数日だけ見られます。なぜわざわざ昼間に外に出てきたのか?

午後3時、巣箱から出てくるオス

理由は、メスのところに行くためです。ムササビのメスがオスを受け入れるのは、一年のうちでも夏と冬2回の繁殖期だけ、しかもそれぞれたった1日だけと言われています。うっかりメスを見逃したり、ライバルに先を越されたりすると子孫を残せません。だから、このオスは、メスの「すーすー」が寝ている巣箱のそばで待ち伏せようと、危険を承知の上で昼間に外へ出てきたんです。さらに、このオスは驚きの行動を見せます。

ダイブするオス

なんと巣箱の上からダイブした後、地面を走って、すーすーのもとへ向かったんです。この行動、私たちには見覚えがありました。2022年7月放送のダーウィンが来た!で紹介したオスです。このときも同じ行動をとっていました。前回は、地面を走るオスに驚いたすーすーが巣箱から飛び出してしまい、その瞬間を狙ったオスが交尾に成功しました。そのおかげで2022年3月、すーすーは無事に赤ちゃんを出産したんです。でも今回、すーすーは巣箱から飛び出ませんでした。オスは待ち続けるしかありません。

地面を走るムササビのオス

しばらくすると、森からやってきた別のオスと激しいケンカになったりしましたが、なんとか追い払うと、オスは再び巣箱のそばで待ち続けます。午後6時頃、ついにすーすーが出てきました。子どもも一緒に出てきたのですが、オスの姿に驚いてすぐに巣箱の中に隠れてしまいました。すーすーは木の上へ一気に駆け上がり滑空。オスは慌てて追いかけます。

巣箱から出るすーすーと待ち伏せるオス

ムササビのメスは森の中を飛び回り、オス同士を争わせて最後に残ったオスと交尾すると考えられています。さて、森の中では、どんなバトルが繰り広げられ、一体どんな結末になったのか・・・。無事に交尾を終えただろうすーすーは、順調にいけば春に出産します。元気な赤ちゃんを産む日が楽しみです。

◎撮影の現場から「空っぽの巣が意味するものとは?」

アカショウビンが巣として使ったスズメバチの古い巣

今回、“幻の鳥”とも呼ばれる「アカショウビン」が、スズメバチの巣を利用して繁殖行動をしていたスクープ映像を紹介しました。巣の中は一体どうなっているのか、ぜひ、見てみたい!でも、アカショウビンがいるうちは、お邪魔をするわけにはいきません。じっと我慢して、アカショウビンが渡りでいなくなった時期を見計らい、巣の中に小型カメラを入れてみました。めったに見られない、超激レア映像です!

小型カメラをスズメバチの巣に入れる

・・・ところが、中は完全に「空っぽ」。鳥の巣らしきものは見当たりませんでした。一体どういうことなのか?東京大学名誉教授の樋口広芳博士に映像を見てもらうと、この「空っぽ」の空洞こそが子育てしていた証拠だといいます。

巣の中は“空っぽ”だった!

アカショウビンがスズメバチの巣で子育てする場合、まず巣の中に残っている何層もの巣盤を壊して外に捨て、空洞を作ります。そして、巣の底に直接、卵を産んで温め、かえったヒナもそこで育てると考えられています。だから、何も残ってない巣の中こそが、アカショウビンが繁殖行動していた証拠だといいます。さらに、アカショウビンが使ったスズメバチの巣は、他の鳥にとっても天然の巣箱。シジュウカラやキセキレイなどの小鳥の絶好の繁殖場所になります。アカショウビンが奥多摩にやってきて、スズメバチの巣をリフォームすることで、野鳥の住みやすい環境を作っていることが分かりました。

樋口博士によると、民家の軒下にスズメバチの巣を残す風習がある地域は奥多摩以外にも全国各地にあるそうです。でも、東京の奥多摩がアカショウビンの繁殖地に選ばれたのは、スズメバチの巣があること以外にも、アカショウビンをひきつける何かしらの魅力があるのだろうとのことでした。今後、取材を進めていく中で、その理由が明らかになることがあれば、ぜひご紹介したいと思います。

◎ディレクターのお気に入り「人工物を上手に使うムササビ」

今回の取材で興味深かったのは、人工物を積極的に使うムササビの行動でした。マンションのベランダと鉄橋の穴を利用するムササビを紹介しましたが、驚きだったのは、どちらも「子育て場所」として使っていたことでした。ベランダでは、2022年の夏に、出産したばかりのメスのムササビが子どもと一緒に就寝。鉄橋の穴では、親子と思われるムササビが同じ穴を一緒に使っていました。さすが東京のムササビ!たくましいですよね。ところで、鉄橋の穴の中はどうなっているのか?こちらもカメラを入れてみたところ、面白いことがわかりました。

鉄橋の巣穴に戻るムササビと待つムササビ

小型カメラを使って鉄橋の穴の中を観察すると、なんと空洞の中は「個室」でした!強度を上げるための鉄板で仕切られ、ムササビにとって安全・安心な快適空間となっていたことが明らかになったんです。

「鉄骨の穴」の中に広がるムササビの快適空間

ムササビは、日本にしか生息しない固有種。八王子市南部では準絶滅危惧種に指定されるほどの希少な動物です。一方で、民家の天井裏にある電気ケーブルをかみ切ったり、送電塔の上から滑空したムササビが送電線に衝突して大規模な停電を起こしたりしたケースもあるそうです。華麗に滑空する姿から天狗伝説が生まれたという説もあるなど、古くから身近にいた生きもの。ムササビは日本で暮らす人に愛されてきました。番組をご覧になってムササビに愛着を感じて下さる視聴者が一人でも増えると幸いです。

最後に、番組内で足を滑らせて転落するムササビのみっともない姿を紹介してしまいましたが、実は本当は華麗に飛び移れるんです。名誉挽回の動画もぜひご覧ください。

ディレクター 横尾 正博

【動画】ベランダのムササビの華麗なジャンプを動画コーナーで公開中。

失敗の映像の方も、もう一度見てみたい、という方は・・・

→ここをクリック 放送後 1 週間 NHK プラスで見られます!(該当箇所から再生)

※配信は終了しています

☆ブログ担当スタッフから☆

いや~、今回はいつもにも増して情報充実。「えっ、そんな映像があったのなら、番組でも紹介して良かったんでは??」と思うような追加映像が満載でビックリしてしまいました。う~む、これは「ダーウィンが来た!」のファンにとっては、ブログもますます見逃せない存在になってきたのでは・・・?皆さま、周囲にまだブログを知らない人がいたら、ぜひお知らせください!!

・・・と、担当者としてはついつい宣伝方向に走ってしまいましたが、ディレクターさんたちの熱い思いと、生きもののディープな情報が毎回つまっていますので、これからもよろしくお願い致します。ムササビ動画、かわいいです。身軽ですね~。

ブログ担当スタッフ

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