「新種発見」制作ウラ話~ペリーが黒船で新種発見?あの魚~2022年8月18日放送

NHK
2022年8月18日 午後8:35 公開

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◎制作こぼれ話「あの人が見つけた生きもの」

日本の動植物を採集し、ヨーロッパに紹介したことで知られる有名人と言えば、江戸時代に医師として来日したシーボルト(1796-1866)。モミやアカマツ、サワグルミなど、私たちになじみの深い植物も、シーボルトによって学名がつけられました。また、シーボルトが持ち帰った標本から、ニホンジカ、ニホンカモシカ、ニホンリス、オオサンショウウオなどが新種として発表されています。なお、日本で知り合った女性・お滝さんの名前にちなんで、アジサイにHydrangea otaksa(ヒュドランゲア オタクサ)という学名をつけた、という話は有名ですが、現在、アジサイの学名を調べてみるとHydrangea macrophylla(ヒュドランゲア マクロピュラ) となっています。シーボルトが命名する以前に学名がつけられていたので認められなかったようです。ところで、ちょっと意外な人物も、日本での新種発見にひと役かっています。番組でも話題にのぼった、北海道の巨大な淡水魚・イトウ。学名は、Parahucho perryi(パラフーコ・ペリイー)といいます。実は、この学名は黒船でおなじみのペリー提督(1794-1858)に由来しています。

ペリー提督一行が描いたイトウ

ペリー提督一行が描いたイトウ(上)とサクラマス(下)(『ペリー提督日本遠征記』第2巻(1856年刊行)より)

ペリー提督の一行は、日本の魚を絵に描いて記録し、持ち帰りました。その後、その絵をもとに、専門家がサンマやサクラマス、マアナゴ、そしてイトウなどを新種として発表しました。イトウの学名perryiは、ラテン語で「ペリーの」という意味で、ペリー提督に敬意を表してつけられたんです(iはラテン語で所有格を表す)。歴史上の有名人にも、意外な新種ハンターの一面があったんですね。

江戸時代後期から明治にかけて、日本にやってきた欧米人は哺乳類や樹木、大型の魚類など、目を引く新種を発見し放題だったことでしょう。なにしろ、日本人は既に知っている生きものであっても、欧米では未知の生物。世界共通の「学名」をつければ新種になるのです。でも、ごく小さな目立たない種まで見つけようとがんばった人たちもいます。番組の中でヒゲじいが「新種かも!?」と注目した丸い虫。昆虫研究家の阪本優介さんが調べると、ルイスジンガサハムシであることがわかりました。どこに切れ目があるかわかりにくい、長~い名前ですが、「ルイス」「ジンガサ」「ハムシ」に分けられます。

ルイスジンガサハムシ

ルイスジンガサハムシ

「ハムシ」(葉虫)とは、葉を食べる甲虫のこと。「ジンガサ」とは、足軽が戦場で頭にかぶる陣笠。こんもりした丸い姿は、確かに陣笠に似ています。そして、「ルイス」の由来は、イギリス人の昆虫学者ジョージ・ルイス(1839-1926)。ルイスは明治初期に日本を訪れ、この昆虫を兵庫で採集し、イギリスに持ち帰りました。1874年、昆虫学者のジョセフ・シュガー・ベリー(1816–1890)がこの虫を新種として発表。発見者のルイスに敬意を表し、学名に「lewisii(レウィシー:ラテン語で“ルイスの”という意味)」を入れました。和名の「ルイス」も、この学名にちなんでつけられたんです。はるか遠くの国の、小さな虫にも興味と情熱を持って学名をつけていった人たちのおかげで、私たちが今、身の回りの自然を把握する土台ができていると言えそうです。

◎撮影の現場から「スーパー漁師・伊東さん」

漁師の伊東正英さん

小枝圭太博士に頼まれて、新種・モノノケトンガリサカタザメを捕獲した漁師の伊東正英さん。当時のエピソードを聞きに、伊東さんが働く鹿児島県の笠沙漁港を訪ねた時のこと。インタビュー中に、「実は私の名前のついた新種の魚もいるんですが…」と切り出されて、びっくり!まったくの想定外でしたが、さっそく番組に取り入れさせていただいたのが「サクヤヒメジ」のお話でした。実は、伊東さん、定置網で珍しい魚を発見するたびに図鑑で調べ、標本も作るスーパー漁師さん。ある日、見慣れないヒメジの仲間を見つけ、標本を魚類学者に送って調べてもらったところ、新種と判明したんです。学名は発見者の伊東さんのお名前をとって「Upeneus itoui(ウペネウス・イトウイー:ラテン語で“伊東さんのヒメジ”)」となりました。そして、和名のサクヤヒメジにも、すてきな由来があります。日本の神話に登場するコノハナサクヤヒメ(木花咲耶姫)にちなんでいるのです。この魚が採集された笠沙町のあたりでニニギノミコト(瓊瓊杵尊)とコノハナサクヤヒメが結婚したという伝承があることから、その名がつきました。まだ見ぬ新種の魚に出会えるかも!?と、伊東さんは毎朝ワクワクしながら定置網をチェックしているそうです。

サクヤヒメジ

サクヤヒメジ

◎ディレクターのお気に入り「ハバチのおもしろ護身術!」

私は子どもの頃から昆虫や魚、鳥などの生きものが好きで、幼いころは特にチョウやガ、ハチなどの幼虫(いわゆるイモムシ)に興味を持っていました。たぶん、飛ばないので観察しやすく、色や模様がきれいで、葉を食べる動きがかわいかったからでしょうか。今回番組でさまざまなハバチの幼虫を紹介できたことは、個人的にはとてもうれしかったです。私が見つけた新亜種の「シモツケハバチ」は、実は、正式な学名は付けられていなかったものの、専門家には以前から「シモツケの葉を食べるハバチ」として知られていました。しかし、今回私が目撃した体から長い突起を出す幼虫の行動は、専門家の方々も見たことがなかったそうです。天敵のアリに向けて幼虫が突起を出す様子は、まるで歯車のようで、芸術的にさえ見えます。2021年6月、この幼虫との出会いによってスペシャルの企画が始まったこともあり、思い入れもひとしおです。

ディレクター 中島 未由希

シモツケハバチ

シモツケハバチ

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