◎制作こぼれ話 「スッポンの“クチビルの秘密”を解き明かすのはアナタ!」
野生では見つけることが非常に難しい「スッポン」。でも、養殖や飼育もされているので研究は進んでいる・・・と思ったら、どうやらそうでもなさそうです。研究者に聞いても、スッポンの生態は謎だらけ。撮影中も分からないことがいっぱいでした。例えば、甲羅干ししているスッポンの多くは、なぜか口を開けています。お気づきだったでしょうか?番組内で甲羅干しをしているカット、すべてで口を開けています!他のカメにはあまり見られない行動で、理由はよくわかっていません。海外の研究では、スッポンが口から尿素を排出していることが報告されています。尿素は、その名の通り尿に含まれる成分で、生きものが代謝した際の廃棄物のようなもの。いわば、口から“おしっこ”しているような状態ですが、その研究では水の中で口をすすいで排出するとのことで、甲羅干しの際に口を開けていることと関係があるのかは不明です。
スッポンが本当に口を開けているか確認したい方は…
→ここをクリック 放送後1週間、見られます。(該当箇所から再生)
※配信は終了しています↑
(※なお、他に2か所ある模様です。ご興味がある方は4分11秒付近、13分44秒付近をどうぞ)
もう1つの謎は、クチビル。スッポンの口の周りには柔らかい唇のようなものがあり、その内側に鋭いくちばしがあって、これを使って硬いザリガニを食べています。普通のカメはくちばしが外に出ていて、唇があるのはスッポンだけ。一説に、鋭いくちばしを保護するため、ともいわれますが、なぜスッポンだけなのか理由はわかりません。そして、さらなる謎は、スッポンの赤ちゃんの色。おなかが鮮やかなオレンジ色をしています。大きくなると色が薄くなり最後は白っぽい色になりますが、小さい頃の目立つ色になにかメリットがあるのか?理由はわかっていません。とにかく謎だらけのスッポン。この謎を解くのはあなたかもしれません。
◎撮影の現場から「高級食材?身近なカメ?意外と長~いおつきあい」
スッポンの生息地で目撃情報を取材していると、「あの高級食材がここにいるんですか?」と逆に質問されることが多くありました。スッポンは姿をなかなか見せませんが、小さな川や公園の池にも暮らす身近な生きものです。日本人との関わりは古く、縄文時代の貝塚から食用にされたと思われるスッポンの骨や甲羅が出土しています。さらに、平安時代の書物『和名類聚抄』(わみょうるいじゅしょう)には、スッポン(=鼈)のことを「加波加米(=カワカメ)」と記載しています。これは当時カメといえば「ウミガメ」という認識があり、川にいる甲羅を持ったカメといえばスッポンだったからなんだそうです。“川に暮らすカメ”の代表ともいえるスッポンは古くから日本人のそばで暮らしながらも、その臆病な性格でなかなか人と接する機会がなかったようです。だからこそ、突然出会ったスッポンに驚いた昔の人は、カッパと間違えたのかもしれませんね。
◎ディレクターのお気に入り 「イシガイ発見!つながりあう川の自然」
今回撮影で訪れた和歌山県・紀の川には多種多様な生きものがいました。なかでも私のお気に入りは「イシガイ」。番組の中で水中写真家の内山りゅうさんが見つけた淡水性の二枚貝です。今回はスッポンの番組なので、イシガイが映ったのはほんの少しでしたが、とても面白い貝です。というのは、川で暮らす魚たちと深いつながりがあるから。日本の川にすむ「タナゴ」という魚は、ご存じの方が多いと思います。実はタナゴの仲間は、「イシガイの中」に卵を産むんです!長い産卵管を使って、生きた貝の中に卵を産みつけます。イシガイの食べ物は水中の有機物なので、タナゴの卵が食べられることはありません。卵から孵化したタナゴの赤ちゃんは、その後もイシガイの中で過ごし、産卵から1か月程経って、準備が整うとようやく出てくるんだとか。時期によっては、半年も貝の中で過ごすこともあるそうです。確かに、硬い殻で守られた貝の中は、これ以上ないくらい安全な場所。タナゴはちゃっかり、保育園として利用しているわけです。でも、こんな風にタナゴに利用されているイシガイも、自分が赤ちゃんの頃は、逆に魚を利用しています。イシガイの幼生は、ヨシノボリやドジョウ、オイカワといった魚のえらや背びれ、胸びれなどに寄生し、栄養分をもらいながら成長します。貝と魚、大人になった後は、一見、ほとんど交流がなさそうな生きものたちですが、川の生態系の中で密接につながっているんですね。
そんなイシガイ、近年急速に姿を消しつつあります。日本の川で確認されているイシガイ目の二枚貝18種のうち13種が絶滅危惧。主な原因は、河川改修などで川底の環境が大きく変わったことだと言われています。和歌山県内の川をめぐって調査してきた内山さんも、紀の川でイシガイを見たことはなく、もういなくなったと思っていたところでの発見に大興奮!あの後、県立自然博物館にも報告したとのことでした。今回の取材を通して、紀の川の豊かさを実感する一方で、その豊かさは決して安寧ではない、とも感じました。この番組を、川のことや自然のことをもう一度考えるきっかけにしていただければ幸いです。
ディレクター 畠山 佑一