「大阪生きもの調査隊」~日本の海を豊かにするカンケイシャ?~

NHK
2023年3月5日 午後7:55 公開

◎制作こぼれ話「不思議いっぱい!コブダイの生態」  

関西空港の海の主役として登場したコブダイ。貝殻をバリバリとかみ砕いて食べる様子、とっても迫力がありました。しかし、いくら好物とはいっても、一体どうしてこんなことができるのか、砕いた貝殻は飲み込んでいるのか、などなど不思議に思いませんでしたか?

実は、コブダイの歯には秘密があります。写真に写っている口元の歯だけでなく、なんとのどの奥にもうひとつ歯があるんです。「咽頭歯(いんとうし)」と呼ばれるこの歯があることで、あんなに大きな貝も粉々に砕いてしまうことができます。

そしてのどの奥で粉々になった貝殻は、エラから吐き出してしまいます。下の写真はその瞬間。エラの周りに白い破片が見えますね。見た目もイカツい(失礼!)コブダイですが、のどの奥にまで驚きの部位を隠し持っていたとは・・・映像には咽頭歯を映すことはできませんでしたが、口元以外にも歯がある、と思って見ると、コブダイの食事シーンがまたひと味違って見えるかもしれません。

エラから貝殻を吐き出すコブダイ

さらに、コブダイの生態で興味深いのは性転換をする魚だということ。生まれたばかりのコブダイはみんなメスなんです。そして、貝をたくさん食べ、大きくなった個体だけがある日突然オスに変わるという、不思議なシステムです。

成魚と子ども、オスとメスでは見た目もかなり違っていて、コブダイの幼魚は、下の写真のようにカラフルな体でかわいい顔をしているんですよ。コブもあごも目立たず、これがあの成魚になるなんて想像もつきませんね。

コブダイの幼魚

そしてこちらがコブダイのメス。このときもまだコブは目立ちません。関西空港の周りで撮影されたコブダイは、専門家の方とともに映像から性別を確認していましたが、ほとんどが立派なコブを持っていたことからオスの割合がかなり高かったと考えられます。たまたまオスばかりが写っていたのか、オスが多くなる理由がなにかあるのか、理由はわかりませんが、まだまだ調査のしがいがありそうな関西空港の海です。

コブダイのメス

◎撮影の現場から「消えたコアジサシ、焦る調査隊」 

夢洲から姿を消したコアジサシ。番組では、すぐに新島にいるかも、というヒントをつかんだように見えたかと思いますが、ここまでの道のりが実はけっこう長かったんです!前年までは20年近くにわたって、ほぼ毎年、夢洲で繁殖が確認されていたので、私たちは確実に撮影できるだろうと思い込んでいました。ところが、飛来する数が増え、いよいよ繁殖!という段になって、夢洲からいなくなってしまったのです。このとき既に撮影を始めて1か月以上が経過していましたが、「ここまでの撮影が無駄になるのでは・・・」と焦りでいっぱい。カメラマンとともに頭を抱えました。野生動物のことはなかなか思った通りにいきませんね。不安も大きかったですが、変わっていく大阪の街に対応するように、コアジサシも生き方を変えていく瞬間にまさに立ち会えた喜びはひとしお。これから先も、コアジサシが飛来する季節に、繁殖に適した土地がありますようにと願ってやみません。

◎ディレクターのお気に入り「埋め立て地に革命?藻場をつくる護岸」  

今回、大阪の海を豊かにしている秘密の1つとしてご紹介した、関西空港の「護岸」。船が停泊しやすいよう、埋め立て地の護岸の多くが、水面に対して垂直に作られていた中、関西空港では、緩やかな傾斜をつけた護岸を取り入れました。浅場を増やして藻場を作り出そうという試みで、専門的には緩傾斜(かんけいしゃ)護岸と呼ばれています。その成果は、番組でごらんいただいた通り、大成功。設計段階から将来を見据えていた関係者の皆さんには頭が下がります。緩傾斜護岸は、関西空港が導入して以降、全国各地の埋め立て地でも取り入れられるようになったそうです。実は、今回コアジサシの営巣が発見されたゴミ処分場の新島も、護岸は斜めになっています。埋め立ての人工護岸はどんどん増えていますが、その中でも生きものが暮らしていけるよう工夫がされているんですね。

もちろん、自然の藻場を残しておけるに越したことはありませんが、人が暮らしていく中で、どうしても埋め立て地を作る必要も出てきてしまうもの。緩傾斜護岸は、開発の中でも海の生きものと共存するための一つのヒントになるのかもしれません。

ディレクター  小林 あかり