「登山ガエル」~毒をもつ生きものたちの不思議!~

NHK
2022年11月27日 午後7:55 公開

◎制作ウラ話「カエルの威を借りるヘビ?!」

皆さん、ヒキガエルには毒があることをご存じですか?身近なカエルですが、うかつに触らないようご注意ください。目の後ろの膨らみ(耳腺・じせん)や体のイボに毒をもっています。そして、敵に襲われると、毒がある部分を見せつけて防御姿勢をとります。そのため多くの生きものは、ヒキガエルを好んで食べません。でも、そんなヒキガエルが大好物という生きものもいます。それが番組にも登場した毒ヘビのヤマカガシ。実は、ヒキガエルに「毒があるから食べている」らしいのです。一体、どういうことか?

ヤマカガシ

なんとヤマカガシは、ヒキガエルを食べることで、その毒を自分の体にため込み、身を守るために使っていると言います。ヤマカガシの毒には2種類あって、1つは、毒牙から出すもの、もう1つは、首の周辺の皮膚から分泌するものです。このうち、首から出る毒の方は、もともとヒキガエルが持っていた毒に由来すると考えられています。ヤマカガシにとって、ヒキガエルは単なる食料ではなく、毒の供給源でもある大切な存在なのです。ヒキガエルがいっぱいの宝満山に、それを利用するヤマカガシが多いのも、うなずけますね。そんなヤマカガシから身を守るためにも、子ガエルたちは群れを作って登山をするようです。

◎撮影の現場から「登山ガエルならぬ登山スタッフ」

機材を背負って登る撮影隊

登山ガエルの撮影が始まったのは麓の池から。車をとめた場所から徒歩5分くらいの場所だったので、初めのうちは「撮影現場が近くて楽ちん!」と思っていました。でも子ガエルたちは日々、山の上の方へ登っていきます。それに伴いスタッフの登山も30分、1時間、さらには2時間と増大。重い機材を担ぎ、撮影ポイントにたどり着いた時には、すでにヘトヘト。しかも子ガエルがいるはずの場所でも、快晴だと岩陰や落ち葉の下に隠れてしまい、全く動きがありません。そんな苦労を続けて、いよいよ登頂を狙う撮影に。さすがに山頂まで機材を背負って毎日、登山していたらスタッフの体がもたないので、近くの山小屋に泊まり込みで子ガエルを待つことにしました。お陰でスタッフは元気いっぱい、子ガエルたちの登頂の撮影に全力を出すことができました。

◎ディレクターのお気に入り「新種?真っ赤ガエル」

ブラックライトで光る子ガエル

宝満山の登山ガエル。登っているのは確かですが、1日どのくらい登っているのか? 誰も知りませんでした。そこで研究者と大調査!無害の蛍光塗料を子ガエルに塗り、1日の動きを調べることに。ブラックライトで照らすと塗料が光るので、暗闇でも簡単に見つけられるはずです。夜、捜索を始めると予想以上の光景が!塗料を塗った子ガエルが、マグマのように赤く光っていたんです。まるで南米にいるヤドクガエルの仲間?と見まがう鮮やかさに、新種発見か!と思ったほど。この調査のお陰で、夜の間、子ガエルが枝の上などの高い場所で休んでいることや1日で最大150メートル以上の距離を移動していることなど、これまで全く知られていなかった新事実が次々と明らかになりました。それと、もうひとつの意外な収穫が、ヤスデの映像。ブラックライトで水色に光り輝く性質をもともと持っているヤスデがいることに、ビックリ。今回のお気に入りです。

ディレクター 矢野 晴隆

ブラックライトで光るアマビコヤスデの仲間

◎ブログ担当スタッフから

「毒があるから食べる」とはヤマカガシ、恐るべしですね。この話を聞いて思い出したのは、ダーウィンが来た!で2021年1月10日に放送した「さかなクンと大研究!フグ最強伝説」。フグの毒は、フグ自身が作るのではなく、オオツノヒラムシなどの毒を持つ生きものを食べて体にため込んでいるという、よく似た話が出てきました。日本大学の糸井史朗さんのご研究です。こういうケース、多いみたいですね。生きものの毒って本当に不思議!興味がわいてネット検索していたら、新たな研究成果を発見しました。中国にいるヤマカガシの仲間は進化の過程で主食がカエルからミミズへ変化していて、じゃあ毒はどこから集めるの?というと、なんとホタルを食べて集めていることが判明したんだとか。うーん、まったく違う毒の供給源を、ヘビはどうやって見つけたんでしょうか。すごいことですね。面白そうなのでディレクターに教えてあげたい。でも番組になるかなぁ・・・。実は時々、「ぜひヘビを取り上げて!」という熱い声をいただきます。ディレクターの中にも「やってみたい」という人はいるんですが、その一方で、「ヘビの映像を流さないで!」というご意見も、時々いただいています。確かに、ヘビがお嫌いな方にとっては、この時間帯にテレビにどーんと映ると、かなりのショックでしょう。脇役でちらっと登場する際にも、なるべくショックが小さくなるように配慮していますが、「ヘビが主役」となると、もう、どうにもこうにも・・・。でも、ヘビだって興味深い生きものであることは間違いありませんよね!悩み深き、自然番組制作の現場です。

そんなわけで、今回ブログに掲載するヤマカガシの写真も小さめにさせていただきました。ヘビのサポーターの皆様、恐縮ですが、何卒ご容赦ください。

ブログ担当スタッフ

<番組情報>

「大追跡!謎の登山ガエル」

初回放送日: 2022年11月27日

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林 浩介ディレクターの記事です。↓