「トナカイ」~食べているのはサンタさんのおひげ?じゃありません!~

NHK
2022年12月18日 午後7:55 公開

◎制作こぼれ話 「クリスマスの夜にトナカイが来たら、あげるのはコレ!」

サンタさんの大切な相棒、トナカイ。手渡しでお食事をもらう姿はなんともメルヘンチックですが、一体何を食べているんでしょう?まるでサンタさんのおひげのようにも見えますが・・・、答えは「地衣類(ちいるい)」。平たく言えば“コケ”の一種です。トナカイが特に好んで食べるハナゴケという地衣類は「トナカイゴケ」とも呼ばれ、寒さに非常に強いため、極北の地でもたくさん育っています。そのため、トナカイにとっては冬の主食とも言えるほど大切な食べもの。触るとスポンジのような不思議な感じ。ほとんどの哺乳類にとっては、食べてもあまり栄養になりませんが、トナカイはおなかの中に特殊な共生細菌がいるおかげで、ごちそうになるんだとか。トナカイたちが北の大地で大繁栄しているのは、共生する細菌のおかげなんですね。一方、食べられているハナゴケの方も「共生」で繁栄しています。

実は、わたしたちが「コケ」と呼んでいる生きものの中には、「植物のコケ」とハナゴケのような「地衣類」の両方が含まれています。両者は一見、似ているのですが地衣類は植物ではなく、菌類の体に藻類が共生することで、植物のコケと同様に光合成で生きていけるようになった生きものなんです。地球上に暮らす生きものは、互いに助け合う相棒を見つけて共生しているものが本当にたくさんいるんですね。

◎撮影の現場から「星野道夫さんの背中を追って・・・」

かつてトナカイの大移動を追った写真家の故・星野道夫さん。今年(2022年)の5月、星野さんの26年間眠っていたパノラマカメラとフィルムが、アラスカのご自宅の地下倉庫から見つかりました。NHKニュースでもお伝えしたので、ご覧になられた方もいるかもしれません。実はこの発見、私たちの取材中の出来事でした。数ある星野さんの作品の中でも、ひときわ美しさが際立つ写真がパノラマ写真です。今回わたしたちは8Kで撮影しましたが、その超高精細映像をも圧倒する美しさがありました。そこでパノラマ写真を撮ったカメラを取材したいと思いましたが、このカメラだけが行方不明であると分かりました。それからしばらくしてご遺族の星野直子さんを訪ねたところ、この立派なパノラマカメラが見つかったのです。今回の「ダーウィンが来た!」では、星野道夫さんが見たトナカイの話が中心でしたが、パノラマカメラについては取材を継続中です。来春にも、成果を皆さまにお伝えできればと思っています。

さて、もう1つ撮影中のエピソードを。トナカイを追って向かったのは、アラスカの北極圏野生生物保護区ですが、北海道ほどの広さに道路は1本もありません。そんなアラスカの原野で撮影するのに欠かせないのが、小型飛行機と専門のパイロット。通称「ブッシュパロット」です。星野さんも最初の旅でこう言っています。「本当にいいパイロットと組まなければだめだ。そうしないと、いつか殺られるぞ。」気象条件が厳しく、舗装された滑走路もないため、常に事故の危険と隣り合わせ。このあたりを自由に飛べるパイロットは数えるほどしかいません。今回、私たちは星野さんと組んだパイロットのツテで、腕利きのブッシュパイロットと最高のチームを組むことができました。が、そんな腕のいいパイロットでも今年の5月、雪解け直後に降りられる地点はたった1か所だけでした。砂利に覆われた河原に着陸するときは緊張で手に汗握りましたが、とんでもない大冒険にワクワク気分も!星野さんも毎回、こんなドキドキとワクワクを感じていたのかもしれませんね。

◎ディレクターのお気に入り「3人の大先輩が導いてくれた奇跡の光景」

ずっと記事にできずにいたことがあります。今回の番組は去年、病気で亡くなったNHKのプロデューサー村田真一さんの企画を実現させたものです。村田さんは30年前、星野道夫さんと一緒にアラスカでトナカイとセイウチの撮影を行いました。セイウチの番組は放送されましたがトナカイ単独の番組は実現できず、ロケの続きをしようと思っていたやさき、星野さんが43歳の若さで亡くなりました。そのため、村田さんは撮影した素材を長年大切に保管してきました。ところが、星野さんの生誕70年の節目に向け、いよいよ本格的に動き出そうとしたころ、今度は村田さんが亡くなってしまったのです。星野さんと同じ命日でした。今回の番組の最後に紹介した星野さんの映像は、村田さんが熱い思いを胸に秘め守ってきたもの。単独行動が基本だった星野さんはフィールドでの記録がほとんどなく、その意味でも非常に貴重な映像です。奇跡のようなこの映像を見るたびに、私は今でもお二人がアラスカの原野で撮影を続けているのではないかと思ってしまいます。そして、もうひとり、星野さんと共にロケを行ってきた大ベテランのカメラマンが、今春のアラスカロケの直前に亡くなりました。かつてテレビ朝日の番組で星野さんと1年間ロケを行っていた前田泰治郎さんです。星野さんのためならばと、今回の番組のサポートを申し出てくれていました。企画の大黒柱を立て続けに失ったわれわれ取材班のショックは大変なものでした。不安が多いロケ中、しかし、たくさんの不思議な出来事が起きました。どんな困難に遭っても、驚くほどに解決への扉が次々と開かれていくのです。取材班全員が同じように感じていました。間違いなく空から星野さん、村田さん、前田さんの3人が見守ってくれているのだと。そして、ついに3人が夢中になった大自然の圧倒的な光景、トナカイの大集結を見たとたんに「3人が伝えたかったのが、これなんだ!!」と、わき上がるほどに胸が熱くなりました。

ディレクター 原田 美奈子

<番組情報>

「星野道夫が見た 幻のトナカイ大集結!」

初回放送:2022年12月18日