「鎌倉」制作ウラ話~鎌倉でウグイスの新曲が大ブーム?~

NHK
2022年8月14日 午後7:55 公開

◎制作こぼれ話「鎌倉ではウグイスにも波乱のドラマ進行中?」

夜の森に響く叫び声の正体を探って、鎌倉中の森をめぐっていた私たちは、昼の森にも異変が起きていることに気づいていました。それはウグイスのさえずり。皆さん良くご存じの「ホーホケキョ」という声で鳴くウグイスがまったくいないんです。どこに行っても聞こえてくるのは、「ホーホケチヨ」とか「ホーホケチョ」「ホーホケッ」といったさえずりばかり。ちょっとカッコ悪い感じに聞こえてしまいます。これはどうしたことか?鎌倉で50年以上、野鳥の保護・調査に携わっている岩田晴夫さんに聞いてみました。すると、「ホーホケキョ」を代表とする、昔から“良い”とされるウグイスのさえずりは何種類かあり、その鳴き分けができるウグイスは、鎌倉にはほとんどいなくなったとのこと。市内数十か所を調査して、見つかったのはなんと1か所だけだったそうです。つまり、昔ながらの「正統派ウグイス」が鎌倉から消えつつあるのです。あのお馴染みの声が聞けないのはさびしい限り。なぜこんなことになったのか、原因はよくわかっていません。岩田さんは、人間が出す騒音や、托卵してくるホトトギスが影響しているのではないかと言います。ウグイスの子どもは、おとなのウグイスの声を聞いて、さえずりを“学んでいく”ため、よく聞こえなかったり、別の声を聞き過ぎたりすると影響が出る可能性があるのです。もう1つ、ロケで鎌倉中の森を歩き回った私たちが可能性を感じたのは、特定外来生物のガビチョウの影響です。

鎌倉のウグイス

鎌倉のウグイス 撮影:池 英夫さん

ガビチョウは近年、鎌倉で急増中、市内全域に広がっており、ウグイスとは比べ物にならないほど、大きな声でさえずります。実際、早朝から夕暮れまで、鎌倉の森でダントツに目立った鳥の声はガビチョウのさえずりでした。しかも、この大声の持ち主の繁殖場所は、ウグイスと同じ薮の中。幼いウグイスが周囲のおとなのさえずりを聞こうとしても、ガビチョウの大声にかき消されているのではないか?と思いましたが、真相はわかりません。でも、岩田さんはこんな話もされていました。実は、「ホーホケチョ」などの鳴き方は、25年以上前から北鎌倉で確認されていたはずで、今に始まったことではない。そして、ウグイスのさえずりの良し悪しは人間が決めるものではなく、ウグイスのメスが判断するもの。新たに人気となったさえずりが文化として継承され定着したのかもしれない、というのです。ウグイスのさえずりの主な役目は、オスがメスにアピールして繁殖をするため。昔は、いわゆる「正統派」で鳴けないオスは人気がなく、なかなか繁殖できなかったはずですが、徐々に人気が出たのか、いまや逆転。かつての「正統派」ではないさえずりの方がメスにモテている・・・、ということなのかもしれません。歌は世につれ世は歌につれ、人間の世界でも時代によって人気の歌は常に変化していくのと同じでしょうか。鎌倉の森でウグイスのさえずりがどう変化していくのか、ダーウィンが来た!では注目していきたいと思います。

鎌倉のガビチョウ

鎌倉のガビチョウ 撮影:池 英夫さん

◎撮影の現場から 「大注目!?ダーウィンパーカー」

実は今回、番組スタッフが着る「ダーウィンパーカー」に変化があったのにお気づきでしょうか?これまで使っていたのは青いものでしたが、森の中では目立ち過ぎるので、緑色を追加したんです。すっかり景色に溶け込んだおかげで森の生きものにも警戒されずスクープ映像をものにできました。でも、街なかではその効果はなし!鎌倉のメインストリート若宮大路でロケをしていると、通りすがりの皆さんが「あ、ダーウィンが来た!だ」と次々に声をかけてくれます。実に1分間で10人くらいの方々に、われわれが“発見”されてしまうほどでした。そういえば、背中には大きくダーウィンが来た!のロゴが。これでは見つけてくださいと言っているようなものですね。改めて番組の認知度の高さを思い知らされ、うれしいやら、気恥ずかしいやら。皆さん、これからもよろしくお願いいたします!(見かけたら、野生動物同様に、そっと見守ってやってくださいね。)

◎ディレクターのお気に入り「うさぎ追いし、こぶな釣りし」

「清流の女王」アユが群れ泳ぐ鎌倉の川。番組をご覧になって驚かれた方も多いと思います。実は、当のディレクターが受けた衝撃はさらに大きかったんです。なぜかというと私自身、鎌倉の生まれ育ち。子どもの頃(1970年代)の近所の川といえば、、水はまるで筆洗いバケツの中かと思うほど濁り、水面には得体の知れない物体が悪臭を漂わせながら流れている、まさに【3K】(汚い・臭い・気味悪いモノが浮いている)と呼ぶにふさわしいひどい状態で、生きものの姿もほとんど見かけませんでした。(※個人の感想です。もちろん、場所によって違ったかもしれません。)そんな鎌倉の川に、まさかのアユ!しかも今回取材したのは、かつて「鎌倉で最も汚れた川」と呼ばれていた川でした。(※地元民としての記憶ですが、表現には個人差があります。)実際、ロケ中にお会いした地元の方々も、アユがいるとはつゆ知らず、たいそう驚かれる方が多かったです。なぜこんなにきれいになったのか?

答えは、下水道の整備です。鎌倉市の下水道普及率は、1999年に65%ほどだったものが、2009年には97%ほどまで急速に向上したんです。これによって、鎌倉の川は本来の姿を取り戻すことができたと言えそうです。今回、案内してくださった八鳥洋二さんによると、まだ川が汚かった1980年代でも鎌倉の海ではアユの稚魚が釣れたと言います。このアユは、鎌倉から10キロほど西を流れる相模川などで生まれた個体群がやってきたと考えられます。アユには生まれて間もなく海に移動し、翌春に川を遡る習性がありますが、サケのように生まれた川だけに帰るわけではありません。鎌倉の海のアユたちは、川が汚かった頃は鎌倉での遡上を諦めて周辺に散っていましたが、川の水質改善によって、豊かな鎌倉の川にのぼってくるようになった、ということのようです。歴史ある昔ながらの自然のありさまを取り戻した鎌倉。アユの大群が、わが愛する郷土の川でこれからもずっと見られるよう、祈るばかりです。

ディレクター 荒井恒人

☆ブログ担当スタッフから☆

今回の「鎌倉生きもの調査隊」、観光などで鎌倉を訪れたことがある方は、より楽しめたのではないでしょうか?最初の情報提供者の方とお会いした江ノ電の踏切からして、超有名スポット。アニメなどにたびたび登場しており、「例の踏切」と言うだけで、日本全国、数ある踏切の中でもここを指すというほどだとか。作品のファンたちによる聖地巡礼が絶えないそうです。名所が多く観光客が常にいっぱいの鎌倉ですが、人のにぎわいのすぐ近くにあんなにも豊かな自然があるなんてうらやましいですね。実は今回の番組では、偶然映ったものの中にも、鎌倉の自然の豊かさを示す証拠があることを、私、発見してしまいました!調査隊が夜の森ではじめて叫び声を聞く場面。テントの外に、なにか光るものが飛んでいたんです。ライトに照らされているというより、発光しているように見えますし、独特の飛び方!「これ、蛍じゃないですか?」と荒井ディレクターに聞いたところ、確かに取材中、ゲンジボタルをたくさん見かけたとのことで、ほぼ間違いないと思います。さすが鎌倉の森、こんなところにも粋な演出を・・・。蛍が舞いフクロウが鳴く、夜の鎌倉の森。ちょっと行ってみたくなりましたが、むやみに人間が立ち入って生きものたちのお邪魔をするのはご法度。番組を見ながら静かに思いを馳せることにしました。

ブログ担当スタッフ

偶然映ったホタル!の映像を見たい方は・・・(※テントの窓の外です)

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