◎制作こぼれ話「ゆらゆら作戦は一石二鳥!」
番組で紹介したカマキリの「ゆらゆら作戦」(8分00秒付近)。風に揺れる枝や葉に擬態する技は驚くべきものです。でも、研究者によると、どうやらこの技にはさらなる秘密が隠れているようです。キーワードは「ウンドウシサ」。一体、どういうものか?自分自身が動きながら何かを見ているとき、近くの物体は大きく動きますが、遠くの物体はあまり動きません。例えば、皆さんが電車に乗って窓の外を見ていると、線路脇の電柱はあっという間に過ぎ去っていきますが、遠くの山は長い間、ほとんど動かないように見えるはずです。これを「運動視差」と呼び、自分からの距離によって動き方が違うことから、見ている物体までの距離を測ることに使えます。カマキリはこの運動視差を利用して、獲物までの距離を測っていると言われているのです。何度も体を揺らしながら距離感を正確につかみ、獲物を一撃で仕留める!つまり、「ゆらゆら作戦」は“敵の目をあざむく”だけでなく、“自分の目を活かす”、まさに一石二鳥の技なのです。この優れた空間認識能力のおかげもあって、カマキリは「鳥」までも正確に狙うことが出来るのだと思います。カマキリの能力についてはまだまだ謎が多いのですが、近年の研究では他の生きものとは違う、カマキリならではの脳の仕組みがあるのではないか?とも言われています。カマキリすごいぜ!
◎撮影の現場から 「カマキリを魅せる!」
テレビ番組で昆虫を紹介するのは、なかなか難しさがあります。視聴者の皆さんの中には「昆虫が苦手」という方が比較的たくさんいらっしゃるからです。そして、カマキリはさらに難しい。どちらかといえば悪役のモチーフに使われがち。さらに、町中の公園にもいますから、普通に撮影すると見慣れた映像になってしまい、虫好きの方にもあまり楽しんでもらえなくなります。そのため、どうやってカッコよく新鮮な映像を撮るか、という点に工夫をこらしました。今回は、5種類の「マクロレンズ」(被写体に近づいて大きく写すことができるレンズ)を用意。レンズはそれぞれに得意、不得意があり、状況によって最適なものが違ってきます。背景を入れ込んだ広いカットから、超アップの映像まで、カマキリが魅力的に見えるよう頻繁にレンズ交換して使い分けていきました。中でも特に活躍したのが「虫の目レンズ」(下の写真)。昆虫と周囲の環境を一緒に写すことが出来るすぐれものです。番組の最後のカットはこの虫の目レンズに加えて、カメラをゆっくりスムーズに動かせるスライダーという機材を組み合わせて撮影した、こだわりの映像です。
◎ディレクターのお気に入り「舳倉島の人と自然」
今回の取材地、石川県・舳倉島(へぐらじま)は、輪島の港から船で1時間半ほど、絶海の孤島とも言える場所です。大自然を間近に感じられる島ですが、歴史もまた魅力的。古くから人の往来がある島で万葉集にも登場しています。周囲5キロの島内には神社が7社もあり、漁の安全のために作られた石積みは数十か所にのぼります。これらが島のあちこちに佇む風景からは、時に台風などで荒ぶることもあるけれど、たえず恵みをもたらしてくれた海、そして、豊かな島の自然への畏敬の念を感じざるを得ません。私は人と自然の共生を描いた番組「里山」シリーズの制作に携わってきたこともあり、こうした島の人々と自然がおりなす悠久の歴史にも大変興味を惹かれました。
ディレクター 髙木 勇輔
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【番組情報】
ダーウィンが来た!「世界初撮影!カマキリが鳥を狩る」
初回放送日:2022年5月8日
今回のブログ記事は、2022年8月10日にEテレで再放送されたタイミングで公開しました。(ブログ担当スタッフより)