「カンムリカイツブリ」~来る池、来ない池に秘密アリ~

NHK
2022年11月13日 午後7:55 公開

◎制作こぼれ話「あなたのそばにもカンムリカイツブリがいるかも?」

番組でご紹介したとおり、カンムリカイツブリはもともと、冬の日本に来る渡り鳥です。津軽平野のように夏の間に繁殖の様子が見られる場所はまだ限られていますが、冬なら日本のあちこちにいます。東京にもたくさんのカンムリカイツブリがいると聞き、取材に伺いました。2月上旬、訪れたのは東京湾に面する葛西海浜公園です。NPO法人生態教育センターの大原庄史さんに案内してもらい、双眼鏡をのぞいてみると……いましたいました!スズガモというカモの仲間と混ざって何千羽という大群を作っていて、とても数えきれません。調査によるとここ2年ほどで急激に増え、カンムリカイツブリだけでおよそ8000羽、これほど大きな群れを観察できる場所は全国でも珍しいそうです。急増した理由はまだ謎に包まれていますが、葛西海浜公園には恵まれた干潟があり、食べ物となる魚も豊富。こうした環境が水鳥たちに好まれていることは確かなようです。

さて、そんな大群をなすカンムリカイツブリですが、実は、冬の姿は、夏とはだいぶ違っています。

葛西海浜公園のカンムリカイツブリ

頭の上の冠のような羽がかなり短く、特徴的な首まわりの飾り羽がないのです。色も、白と黒のモノトーン。鳥は周期的に羽が抜け替わる換羽(かんう)が起きますが、カンムリカイツブリは夏羽と冬羽の差が大きい鳥です。知らないと、まったく別の鳥だと思ってしまいそうですね。冬羽はちょっと地味?という見方もあるかもしれませんが、シンプルでスッとした姿に美しさを感じます。カンムリカイツブリは主に九州以北、まれに沖縄でも見られることがあるといいます。みなさんのお近くにも、現れるかもしれませんね。

冬羽のカンムリカイツブリ

◎撮影の現場から「こんなにたくさん池があっても・・・」

青森県・津軽平野には農業用のため池がたくさん。小さなものを含めれば、それこそ無数と言って良いほどあり、あちこちにカンムリカイツブリがやってきます。目移りしてしまって、どこで撮影すればいいのか、なかなか決められませんでした。巣作りの様子をはじまりから撮影するために、カンムリカイツブリが好みそうなため池に目をつけて定期的に巡回し、条件のいい撮影スポットを探りました。

でも、巣作りに良さそうな水辺があるのにカンムリカイツブリが全然見当たらない、という場所もいくつかありました。一体なぜなのか?津軽平野の池を調査している弘前大学の東信行教授にお聞きすると、どうやら秘密は水中にあったようです。

岩木山と津軽平野

実は、カンムリカイツブリが繁殖しない池の多くで、外来種のオオクチバス、いわゆるブラックバスが見つかっているんです。ブラックバスは池にいる小型の魚を食べてしまいます。カンムリカイツブリにとっては、ヒナに与えるちょうどいい大きさの魚が少ない池は、子育てには向いていなかった、というわけ。ブラックバスは人間の手によって持ち込まれたと考えられます。鳥たちの生活にも、やはり人間の営みが大きく影響を与えるのだと実感しました。

弘前大学 東信行教授らの調査

弘前大学 東信行教授の調査

◎ディレクターのお気に入り「親子で鏡餅

カンムリカイツブリの親は小さなヒナたちを羽の中に入れて守りますが、ある家族では、ヒナがかなり大きくなってもしょっちゅう親の背中に入ろうとする様子が見られました。甘えんぼさんだったんでしょうか。大きくなってしまうと、ヒナの背中が丸出しになって、とても隠れているとは言えません。さらに成長すると、積み重なったような姿がまるで鏡餅。なんだか微笑ましい光景でした。

ディレクター 正籬 卓

ヒナに魚与えるカンムリカイツブリ

まるで鏡餅?緊迫した場面であわてて親の背に乗ることも。

<番組情報>

「日本で急増中!おしゃれ水鳥の柔軟ライフ」

初回放送:2022年11月13日放送