「カメムシ」~森の中で見た研究者の思いやり~

NHK
2022年12月11日 午後7:55 公開

◎制作こぼれ話 「ナナホシキンカメムシは舞踏会の前に森を育む?」

華麗なダンスを踊るナナホシキンカメムシ。すばしっこかったり、ダイナミックだったり。メスだけでなく、見る人をも魅了します。でも、舞台にあがる前の姿は、とってものんびり。ある意味“寝ぼけた”状態なんです。

花蜜を吸うナナホシキンカメムシ

秋と冬の間は半年ほどの休眠状態に入っているので、3月中旬くらいに動き出した時には、おなかもペコペコ。そこで、ショウベンノキという木の花の蜜を懸命に吸って、まずは栄養補給をしていました。スローペースながら、ひとつの花から次の花へ、また次の花へと移動していきます。その時、よく見るとストロー状の口には花粉がいっぱい!どうやら彼らは、森にとって大切な花粉の運び手の役割を担っているようです。

華麗なダンスの前にも、ひと仕事していた?

「どうやら」と書いたのは、カメムシの運んだ花粉が、植物の受粉に役立っているかどうかの研究は、いよいよこれから、だからです。カメムシの仲間は農作物などに被害をもたらすものがいるので、「害虫」としての研究は盛んですが、どんなふうに森の役に立っているかは、詳しく調べられていないんです。カメムシが自分たちの派手な求愛行動の前に、まず森の未来を静かに応援していたとしたら・・・。キラキラしているのは派手な姿やダンスだけではなく、生き方そのものなのかもしれませんね!

わたしたちはカメムシのことをまだまだ知らない

◎撮影の現場から 「足もとにベニツチカメムシのお母さん!」

わが子のために、何度も何度もボロボロノキの実を運ぶベニツチカメムシのお母さん。冷たい雨に打たれても、強い風に吹かれても、襲い来る敵が多い夜になっても、2㎝足らずの小さな体で必死に歩き続けます。そんなけなげな姿を見ていると、撮影の苦労なんて吹き飛んでしまうのですが…。実は、ベニツチカメムシの撮影では、気苦労が絶えません。

子どものために実を運ぶお母さん

落ち葉の積み重なった地面を歩く時、間違って踏んでしまわないかとヒヤヒヤなんです。取材班はカメラ機材を担いで、慎重に慎重に、そっと撮影場所を探さなければなりません。でも、そんなわれわれを尻目に弘中満太郎博士は、ひょいひょいっと歩いて研究を続けていました。

弘中さんが安心して歩けるワケは・・・?

それを可能にしていたのが、レンガ大作戦!レンガを足場にして事故が起きないようにしていたんです。観察ポイントに点々と続くレンガの道は、弘中博士のベニツチカメムシのお母さんに対する思いやりの軌跡です。

◎ディレクターのお気に入り「生きものは命を未来へ運び続ける」

生きものとは、何かを運ぶ存在です。子どもに食べ物を持ち帰ったり、花粉を別の花に届けたり。目的地があれば、道行きがあります。そこでは大切な出会いが生まれたり、大きな試練にぶつかったり。必ずドラマが生まれます。

私がかつて、中米・パナマで取材したハキリアリは、巣で栽培するキノコの肥料にするため、葉っぱを刈り取って運んでいました。時に行進は100mもの長さになります。そんな彼らの一番の敵は、熱帯の豪雨です。雨は小さな体をはじき飛ばし、余計な水分はキノコに害を与えるからです。

一方、南大西洋・フォークランド諸島の陸地を、遠く2㎞も走るジェンツーペンギンは、食べ物をヒナに届けるため海と陸を往来していました。波打ち際では海獣オタリアと命の攻防を繰り広げます。

ところが、今回のベニツチカメムシのお母さんは巣への帰り道に、仲間のお母さんに襲われたんです。狙われたのは、運んでいたボロボロノキの実。すさまじい奪い合いとなりました!あんな小さな木の実のために!

でも、木の実はわが子の大切な食べ物。お母さんは木の実を運ぶだけでなく、わが子の命を未来へと運び続けているんですよね。今日もどこかで誰かが何かを運ぶたび、かけがえのないドラマが生まれています。

ディレクター 山本 伊智郎 

<番組情報>

「けなげで華麗!巧妙すぎるぜカメムシ」

初回放送:2022年12月4日

「今回の放送を見逃しちゃった」という方、ダーウィンが来た!はNHKプラスで配信しています。放送後1週間、ネットで見られますよ!

配信期限 12/18(日) 午後7:57 まで