◎撮影の現場から 超過酷!野生動物を救う仕事
「根室で事故発生!いま齊藤先生が向かっています。田中さん(筆者)、行けますか!?」時間は日曜の朝7時前。獣医師さんからの電話で目覚めると、わたしは休日の楽しみに予約していた映画のチケットのことなど忘れ現場へ向かいました。
わたしが働く「ダーウィンが来た!釧路支部」は、北海道釧路市でディレクターが住み込み取材をする派出所のような場所です。今年でめでたく3年目を迎えました!でも所員はわたし1人だけ。
きっかけは獣医師の齊藤慶輔さんたちが働く環境省の釧路湿原野生生物保護センターで、ワシのレスキュー取材を始めたことでした。取材を始めたのはコロナ禍に入って間もない2021年。東京から釧路へ通うのは感染リスクが大きいと感じ、住み込みでの取材をすることにしました。
野生動物のレスキューはいつ・どこで起こるか誰にもわかりません。さらに、事故にあっても息がある状態で見つかることは珍しく、すでに亡くなっている鳥を回収に向かうことも少なくありません。
病院から100km以上離れた現場に到着すると、すでに齊藤さんがレスキューの準備に取りかかっていました。自家用車で起き抜けに駆けつけた様子の齊藤さんは、「いつでも出られるよう車には道具を常備しているんです」と教えてくれました。彼らの活動範囲は北海道全土。時には400km以上離れた稚内まで車で向かう時だってあります。治療を終えてやっとひと息、という瞬間にレスキュー要請が入ることもありました。
「どうしてそこまでできるのか?」おそらく齊藤さんがうんざりするくらい、何度も尋ねてしまいました。取材も終盤にさしかかったインタビュー撮影の日に改めて聞いてみると、「同じ立場なら、きっとあなたも同じようにするはずです」と一言。真っ直ぐな彼の目線を前に、改めて頭の下がる思いでした。
◎制作こぼれ話 「潜入!オジロワシ大集結の島」
日本で子育てするオジロワシの数が増えて、30年で10倍の300つがいまでなりました。そんな現状を実感できる場所がないかと取材していたところ、「オジロワシが20羽も集まる島がある」と耳にしました。ロシアから渡ってきたワシでにぎわう冬ではなく、日本生まれのワシだけが見られる夏に、20羽も集まるというのは驚きです。
情報を寄せてくださったのは、厚岸水鳥観察館の澁谷辰生さん。地元の野鳥を見続けてきた澁谷さんは「以前はオジロワシを見かけることも珍しかったけど、いまではそこら中にいますよ」と実感を語ってくださりました。
オジロワシの大集結を撮影すべく、澁谷さんと向かったのは北海道の海に浮かぶ大黒島。特別な許可を得なければ上陸できない、無人島です。
島の険しい斜面と道なき道を切り開き進む取材班。島にいられる時間が刻々と過ぎる中、「オジロワシだ!」見れば、たくさんのワシが次々と上昇気流に乗って舞う姿が!タカ柱ならぬ、ワシ柱を目撃したのです。この時みられたワシの数は7羽。まだ子育てをしていない若いワシが、食事を求めて集まっていたようです。
残念ながら「20羽の大集合」は撮影できず放送でご紹介できませんでしたが、オジロワシは確かに島に集合していました。
オジロワシが増えたことで島の環境が大きく変わったとも聞きます。島で繁殖していたカモメが姿を消してしまったそうです。NHKが大黒島で過去に制作した番組を調べると「ただいま3万羽・カモメだけなぜ増えるー北海道・大黒島―」というタイトルの番組を掘り当てました。放送されたのは1990年。ちょうどオジロワシが増え始めた頃、島はカモメの楽園だったようです。ですが、わたしたちが上陸した時には島にカモメの姿はまったくみられず、カモメたちは島に近い港街の建物の上で営巣していました。
なんだか「カモメがオジロワシに追いやられて、かわいそう・・・」と感じてしまいますが、番組でインタビューに答えて下さった東京農業大学の白木彩子さんは、あまりそういう考えになり過ぎない方が良いとおっしゃいます。カモメの食べ物が減っていることも、カモメの減少に関わっていると考えられます。オジロワシが増えたことだけをみて、カモメがかわいそうだから、カモメを守ろう、というのは早計です。「ここでまた人が手を加えると、ますます混乱した状況になる可能性があります。調査を進めて冷静に見守っていくことが大事です」白木先生の言葉を聞いて、野生動物の暮らしに人が手を加えることの難しさを改めて考えさせられました。
◎ディレクターのお気に入り「ベックのくちばし掃除」
交通事故でくちばしを骨ごと失ったオジロワシの「ベック」。齊藤さんたちが作ったくちばしで食事ができるようになるまで、実に1年半の歳月がかかりました。くちばしを手に入れたベックは、自分で食事をするだけでなく、鳴き声をあげられるようになったそうです。鳴くことさえも、くちばし無しではできなかったのですね。
見事な食べっぷりを見せてくれたベックですが、最後にくちばしを擦りつける動作をしていたことに気づかれましたか?番組前半でオジロワシの子育てを紹介しましたが、食事を終えた親鳥がベックと同じ行動をしています。これはくちばしを綺麗にする「ごちそうさま」の合図。ベックがまるで自分のくちばしのように振る舞う姿に感動して、こっそり忍び込ませておきました。
ディレクター 田中 翔太
☆ブログ担当スタッフから☆
ベックの「ごちそうさま」の合図、嬉しいですね~。田中ディレクターは北海道の大ネタを次々番組にして、すっかり「釧路支部(非公式)」を定着させました。以前、ブログでご紹介していますのでぜひご覧ください。
ブログ担当スタッフ