“精神科病院大国”と言われる日本。OECD加盟諸国にある精神科病床の4割近くが日本にあるとされています。こうした実態は、国連やWHOなどから何度も「深刻な人権侵害」と勧告を受けてきたものの、あまり改善されていません。
ETV特集では、精神医療をめぐる課題を掘り起こすべく、2017年から取材を積み重ねてきました。きっかけは、福島第一原子力発電所で起きた事故でした。
患者たちが避難を余儀なくされたことで、図らずもブラックボックスだった精神科病院の内実を知る機会を得ることになったのでした。それは、一度知ってしまったら、伝えずにはいられない実情でした。
それから2018年、2021年、2023年と継続して精神科病院の内実に迫る番組を放送。見えてきたのは日本の精神医療が抱える構造的な問題です。
福島第一原発事故で明らかになった“社会的入院”の実態
2018年2月3日に放送した「長すぎた入院 ~精神医療・知られざる実態~」は、原発事故によって自由を手にした精神障害者たちの物語です。実際には入院治療が必要ないにも関わらず長期入院を余儀なくされる“社会的入院”の問題、それを生み出した戦後の隔離収容政策など、精神医療の負の遺産を、40年近い入院生活を送ってきた伊藤時男さんが青春を取り戻す軌跡を辿りながら描いた番組です。
「長すぎた入院 精神医療・知られざる実態」 初回放送日: 2018年2月3日
(ギャラクシー賞 テレビ部門選奨/貧困ジャーナリズム賞 大賞/アメリカ国際フィルム・ビデオ祭 シルバー・スクリーン賞 受賞
👉番組について、詳しい情報はE特!記事で掲載しています。
新型コロナがあぶり出した精神医療の実態
2021年7月31日放送の「ドキュメント 精神科病院×新型コロナ」。都内の精神障害のあるコロナ患者を受け入れている松沢病院にカメラを据えると、転院してきた患者の様子から、各地の精神科病院で様々な人権侵害があることが見えてきました。精神科病院でクラスターが次々と発生する中、受け入れを拒む家族やひっ迫する医療体制、葛藤する医療者たち、そして行き届かない行政の指導など、精神障害者にしわ寄せがいく現実を記録しました。
「ドキュメント 精神科病院×新型コロナ」 初回放送日: 2021年7月31日
(文化庁芸術祭 優秀賞/ギャラクシー賞 テレビ部門選奨/放送人グランプリ 優秀賞/貧困ジャーナリズム賞 受賞)
👉番組について、詳しい情報はE特!記事で掲載しています。
精神科病院で行われていた虐待 その背景に
2023年2月25日放送の「ルポ 死亡退院 ~精神医療・闇の実態~」では、継続取材で得たネットワークで、東京都八王子市にある滝山病院の実情を告発する映像と音声記録を入手。虐待や違法な身体拘束、そして8割もの人が死亡退院している異常な事態を伝えました。そして、一部の精神科病院が、家族や他の精神科病院、行政からも必要とされ、受け皿として機能する実態があるという日本の精神医療の構造的な問題があることを描き出しました。
「ルポ 死亡退院 〜精神医療・闇の実態〜」 初回放送日: 2023年2月25日
(ギャラクシー賞 テレビ部門奨励賞・報道活動部門優秀賞/放送文化基金賞 奨励賞/放送人グランプリ 大賞 受賞)
👉番組について、詳しい情報はE特!記事で掲載しています。
制作者から
一度内実を知ってしまったら見て見ぬふりはできない。それが精神科の取材です。なぜこのようなことが起き、放置されているのか。社会で見て見ぬふりがされているのか。患者さんの悲痛な叫びも、真剣に向き合おうとしない行政や国の姿勢も、全てのことは「精神科のなかで起きている」のではなく、私たちが暮らす社会と地続きであり、誰もが他人事ではいられない現実です。半世紀以上変わらぬ精神医療の問題について、より多くの方に関心を寄せていただけることを願いながら、取材を続けたいと思っています。