どうする?投票率アップ 3000人の政治意識に関する調査【解説編】

NHK
2022年6月15日 午後4:52 公開

NHKでは今月上旬、全国の10代から70代までの3000人に対し、政治への意識についてインターネットを通じてアンケートを行いました。

前回の参議院議員選挙では、過去ワースト2位だった投票率。この夏の参院選ではどうなるのか。そして、特に低いと言われる若い世代の投票率が上がるためにはどうすれば?

調査結果から見えてきたポイントを、川崎市の選挙管理委員会などで40年以上選挙にかかわり、「主権者教育アドバイザー」として、若い世代の政治参加についての政策に関わる、小島勇人さんに解説してもらいました。

 

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◇投票率 なぜ上がらない?

-今回の調査で、「政治に変化が必要」「どちらかと言えば必要だ」と答えた方があわせて90%以上、さらに「政治に関心がある」「ある程度関心がある」と答えた方も60%を超えています。これだけ関心が高いのに、投票率がなぜ上がらないとお考えでしょうか。

 

小島さん:

「この数字からわかるのは、投票率が低いから『有権者は政治に関心がない』というわけではないということです。ただ、その関心をどうやって具体的な投票行動につなげればいいのか、そのきっかけを掴みがたい、というのが今の人たちなのではないでしょうか。

行政が投票環境を向上させるとか、投票につながる情報の周知をするということも、もっと必要だとは思いますが、有権者も関心はあるんだから、まずは投票に行こうという『気持ち』になることが必要ですね」

 

◇自分の1票で政治は変わらない?

-「普段選挙があれば投票に行きますか?」の質問に「必ず行く」と答えた人は、44.2%と半数を下回りました。その理由を聞くと、

▽「投票をしたい候補者や政党がいない」が30.6%。

▽「政治を信頼していない」が29.1%。

▽「自分の1票で政治が変わるとは思わない」が27.4%でした。

このような結果をどう分析されますか?

 

小島さん:

「投票したい候補者がいない、信頼できない、1票では変わらないという発想が出てくるのは、政治に関心があるということの裏返しです。『自分の1票では…』という見方をする人もいますが、その1票1票が集まらないと、力にならないんだと、改めて考えてほしい。投票率が下がると政治の『活力』が下がります。その1票を投票しなければ、政治は変わらないわけです。

もしかしたら今の日本は、投票して何かを変えようというほど、変えなきゃいけないというものが見当たらない人が多いのかもしれません。過去、投票率が高かった選挙を振り返ると、郵政民営化の是非を問う解散総選挙、自民党が野党に転落した政権交代選挙など、大きな争点があるときに投票につながっていますからね。

今回の参院選の争点は何か、政治の側が発信し、『自分の感じている問題点を語ってくれる、この候補者に投票をしたい』と思ってもらわないといけません」

  

◇18歳&19歳 若い世代の投票率を上げるには?

―18歳と19歳の若い世代に、7月に行われる見通しの参議院選挙に行くか尋ねました。「必ず行く」と答えたのは、32.4%。この数字をどう捉えますか?

 

小島さん:

「若い人は政治に関心がないとか意欲がないとか、切り捨てた評価をする人もいますが、私は『32.4%が選挙に必ず行く』というのは、高い数字だと思いますよ。

その上で、この32.4%の方々は、『かなり意識が高い人たち』ですよね。投票率を上げるためには、彼らに続く、いわば予備軍の人たちに対して、いかに投票をアピールするか。

はっきり言うと、今回の参院選は『盛り上がっていない』と思います。争点もわかりにくい。その選挙を、どうやって自分ごととして考えてもらうのか、そこが大事ですよね」

 

―18歳と19歳の若い世代に「現在の政治に変化が必要か」という質問をしたところ、「必要だ」と答えたのは、全世代でトップの67.6%でした。

小島さん:

「若者たちは、政治の現状について批判的に見る目がある、関心があるという証拠ですよね。そこで終わらずに、具体的な投票行動につなげてもらい、政治家側に『若者は現状をいいと思っていませんよ、変化を求めていますよ』と伝えてほしいと思います」

小島さん:

「ひとつ言えるのは、投票するためには、投票する対象を特定しなければいけませんが、そのための『情報』が届いていないということ。情報に触れないと投票対象は決まらないんですから。

政党の刊行物などは、ほとんど見られていません。やはりテレビ、そしてスマホで見られる、候補者や政党の情報に触れてもらう工夫を、もっとしなければいけない。

『18歳になったら投票しましょう』と付け焼き刃で言っても難しいですよ。『20歳選挙権』は、これまで70年続いていたわけです。『18歳選挙権』はまだ始まったばかりで、地道な積み上げしかないと思います」

 

◇選挙を“お祭り”に? 新たな工夫を

-「政治への関心を高めるために必要なことは?」という質問に対し、18歳と19歳の若い世代からの答えでは「投票したらもらえるクーポンや割引」が33.8%と高い数字でした。こうした取り組みは、投票行動の促進につながると考えますか?

 

小島さん:

「僕は全く否定する必要ないと思います。何でも否定していたら前に進みませんからね。投票所に足を向けるための『お祭り』のような方策をしてもいいのではないでしょうか」

 

-たとえば海外、オーストラリアでは投票の「義務化」と同時に、投票所で安くソーセージを販売するなど、気軽に投票に来てもらおうという取り組みが行われています。こうした取り組みは、日本で有効と考えますか?

 

「投票の義務化は難しさもあると思います。ただ、ソーセージがいいかは別としても、投票すると『美味しい』ことがあるという取り組みはいいですよね。問題は予算を誰が持つのか。特定の候補者や団体からのお金だと問題がありますから、財源が必要になります。

選挙は堅苦しくて重苦しいものじゃなくて、楽しくて面白いというものであってもいい。これまで選挙は役所がやっていくものだという認識がありましたが、これからは社会のみんなでやるもの、『お祭り』としてやってみるのは、投票率を上げるための方策として面白いと思いますよ」

 

◇求められる「主権者教育」とは

―政治への関心を高めるために何が必要か。10代の若い世代に聞いてみました。すると、「主権者教育」が28.4%、「政治について気軽に話せる場を設ける」が21.6%でした。この声をどう分析しますか?

 

小島さん:

「僕は主権者教育とは、『国や社会の問題を自分の問題としてとらえ、自分で考え、判断し、行動する人間の育成』だと思います。この調査の数字は、若い人たちが政治に関心を持ちたい、もっと主権者教育をちゃんとやってほしいという意思の表れです。

じゃあ、政治について一番フランクに話せる場所はどこかといわれたら、『家庭』なんですよね。

自分の経験で言うと、私の父親は、選挙の日に一緒に投票所に連れて行ってくれました。そこで投票はこうするんだ、とか、こんな理由でこの党に投票したんだ、とか話をした記憶があります。

だから親世代の役割が非常に重要で、その世代に投票を促さなければいけない。そして家庭で『選挙の日常化』をしてもらえたらと思います。例えば、親子で投票所に行く。家に帰ってきて『投票所を見てどうだった?』と話すだけでも、非常に大きな成果ですよ。

将来の日本を生きる我が子に、選挙とは、投票とはこういうものなんだと、教える意識を持ってもらいたい。そういった意味で『主権者教育』の原点は、家庭にあると思います」

 

-投票率アップのために重要と言われる主権者教育ですが、学校以外の場でも求められているということでしょうか。

 

小島さん:

「必要なのは、若者たち・子どもたちが、社会に触れることだと思います。

働いて生活の糧を得て、税金を払って、それが社会に還元されて、循環する。その税金の使い道、配分を決めるのが政治です。そのスタートとして大事なのが、地域への帰属ではないでしょうか。この道は誰が作っているのか?誰がごみを片付けているのか?そのお金はどこから来ているのか?

若い人が地域の問題を自分ごととして体験して、社会の一員として自覚を促す。その判断材料を提供するのは、地域や家庭です。その先に市町村、都道府県、国へと結びつくわけですから、そうしたことを知っていけば、投票行動に結びつくのではないかと思います」

 

◇学校現場での「主権者教育」

―学校現場でも「公共」の授業が始まるなど「主権者教育」が進んでいますが、課題も指摘されています。主権者教育アドバイザーとして、若い世代と接してきた立場で、今の学校現場を小島さんはどう見ていますか。

 

小島さん:

「先生方は『中立性』という点で非常に悩まれていると思います。政治はそもそも『党派性』が強いものですから、教育現場に持ってきた時に、完全に中立で偏りなく、というのは無理がありますよ。ある程度の許容範囲を認めないと、学校で主権者教育はできないと思います。

例えば新聞報道・記事や政策を整理した資料を先生が作って、授業で生徒に考えてもらおうとした時、その資料を『完全に偏りのないもの』とするのは難しい。だから授業では単に制度の説明とか、投票の外形的な部分だけを教えることが多くなってしまうのだと思います」

 

―その上で、どのような形で若い世代と政治の接点を作るのが良いと考えますか。

 

小島さん:

「政治家の生の声、顔の見える政治家の話を届けることですね。政治的な中立性は意識しながら、学校の授業でも議会の傍聴に行くとか、実際の政治の場面を経験させることは重要だと思います。

先日、関東地方のある公立高校で、地元の国会議員が講演する予定でしたが、外部からのクレームが来て中止になったというニュースがありました。これは非常に残念だなと思います。例えば、与野党両方の議員を呼ぶなどのやり方をしていれば、実現できたかもしれないのですが…。

日本では政治家が直接若い人に話をすると偏りが出る、中立性が保てないと考えがちですが、海外では政治家と若者の対話の場が一般的な国もあります。そうした国は、投票率も高い。やはり、政治家の肉声を若い人に聞かせるのは大事ですよ」

 

―小島さんは、かつて選挙管理委員会の職員として選挙に関わってきましたが、そうした取り組みをした経験はありますか?

 

小島さん:

「これは若い人に限らず、全世代向けの取り組みですが、各党の政策担当者の国会議員に来てもらって、市民と対話してもらう企画をしたことがあります。

これをなぜやったかというと、公職選挙法には『常時啓発』という規定があるんです。選挙管理委員会は、選挙への投票を啓発するために、あらゆる方策を講じなければいけない、という規定です。『常時啓発』の考えでいけば、若い人に政治家の生の声を聞かせる場を作ることは、『やらなければいけないこと』なんです」

 

―最後に、投票率を上げるために必要なことは、改めてどんなことだと思われますか。

 

小島さん:

「選挙とは、『国のかじ取りを任せたい候補者、政党を選んで投票すること』ですが、投票行動に結び付かない理由を有権者側だけに求めてはいけないと思います。これだけ色々なメディアが発信している中で、選挙があることを知らないわけがないんです。でも、有権者が投票所に行こうという気持ちになっていない。それだけの魅力を政治に対して感じられていない。

投票行動に結びつかないのは、政治家側にも問題がある、という理解をしなければいけません。なぜ自分たちに投票してもらえないのか、政治家側が国民に近づいていく必要がある。政治家が国民にもっとわかりやすく政策を伝え、信頼を受ける行動をすることが、投票率を上げるひとつの道だと思います」


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