腸内環境を調べて健康を維持する

NHK
2022年6月20日 午後2:12 公開

私たちの腸の中には、100兆個以上もの腸内細菌がいるといわれています。腸は「第2の脳」とも言われ、多様な腸内細菌が共存する腸内環境の状態が生活習慣病や神経疾患といった病気にかかるリスクにも関係があることが分かってきました。そうした中、自分の腸内にいる細菌の種類やそのバランスなど様々な角度から腸内環境を知ることで、体質改善や病気の予防につなげようという動きが広がっています。

(クローズアップ現代取材班)

腸内環境を知ることが病気の予防につながる

私たちの腸の中には、およそ1000種類、100兆個もの腸内細菌が生息しています。重さにすると、約1.5~2キロ。多種多様な腸内細菌は食べ物を分解するだけでなく様々な物質を生み出し、自律神経や免疫力、筋肉の働きにまで影響を与えています。腸が「第2の脳」とも言われるゆえんです。

腸の中にどんな細菌が、どんなバランスでいるかはひとりひとり違っています。近年の研究によると、より多様性に富んだ腸内環境を持った人のほうが病気のリスクが減り健康に生活できることが分かってきました。特定の腸内細菌の働きが病気の予防や治療に大きく関わっていることも解明されつつあり、がんや新型コロナウィルスをはじめ、自閉症、パーキンソン病、潰瘍性大腸炎など、様々な病気や疾患などの治療にも腸内細菌のパワーに期待が寄せられています。

病気のリスクだけでなく日々の健康維持のためにも、自分の腸内にいる細菌の種類やそのバランスなど様々な角度から腸内環境を知ろうという動きが広まりつつあります。

腸内環境も年をとっていく ~若さを保つために~

腸内環境にも年齢相応というものがあるそうです。便から検出された腸内細菌の種類やそのバランスから、腸の健康状況を把握し、自分の腸内環境が年齢相応のものかどうかを知ることが出来るようになったといいます。腸内でよい働きをすると言われる細菌は20代をピークに減少していく傾向があることが分かっています。自分の実年齢と検査で判断された腸内環境の年齢を照らし合わせることで、自分の腸内がどれくらい健康な状態を保てているのかが分かるそうです。

腸内環境の年齢は、普段の食事が自分の体質改善に効果を発揮しているかどうかという指標にもなります。例えば、一度目の検査が実年齢より上だったとして、二度目の検査が前回の年齢を下回った場合、その期間に見直した食生活が自分の腸内環境を健康に保つのに適した食事だと分かるようになるそうです。

腸内環境のタイプによって運動や食生活改善の効果も変わる…!?

みなさんも経験があるかもしれませんが、食生活の改善や運動など同じ行動をしても、ひとりひとり体重の変化に大きな差が出ることがあります。なぜ、その差があらわれるのか?その疑問を腸内環境の視点から見てみよういう取り組みも始まっています。

採取した便から腸内環境を分析したデータに、健康診断のデータなどもかけあわせAIによる解析を行うと、痩せるために必要な「おすすめの行動」を教えてくれるそうです。さらに、「普段どおりでいい行動」もランキング形式で可視化されます。

こうした検査は、フィットネスジムや健診センターなど利用客の健康増進に取り組む企業での活用が見込まれています。

大人から子どもまで 病気や疾患のリスクを知り生活改善

こちらのキットでは、腸内環境の多様性や構成する主要な細菌の割合、さらに腸内環境の結果から大腸がんなどの疾患リスクが割り出されるそうです。菌のバランスをもとにA~Eの5段階で腸内環境を評価し、生活習慣や改善ポイントのアドバイスを受けることができます。

また、大人だけでなく0~5歳の子どもを対象としたサービスもあります。腸内に定着する細菌は幼い頃の食事による影響が大きく、3歳ぐらいまでに決まるといわれています。幼いときから自分の腸内環境の傾向を知り、よい腸内環境を作るために必要な食生活をすることで、将来病気にかかりにくい丈夫な体を作ることにつながります。

血液型のように腸内環境をタイプ分け

腸内には多くの細菌が存在していますが、人によってその種類の構成比率や多様性が違います。そうした腸内環境の傾向の違いをタイプ別に分類したものを「エンテロタイプ」と呼びます。

最新研究によると、約1800人の日本人を対象に腸内環境を調べると日本人は5つのエンテロタイプに分けられることが分かりました。もともと欧米の研究では3~4種類に分類されていたエンテロタイプでしたが、日本人の体質や発酵食品などを多くとる食習慣のため世界の型に当てはめるのは難しく、今回大きく5つのタイプに分類したそうです。

さらに、エンテロタイプから病気などとの関係性も予測されるそうです。食物繊維を多く摂取しプレボテラ属の菌が多く生息するType Eが最も健康な人が多く、2番目に健康な人が多いのがType Bと示されました。その一方で、Type Aでは生活習慣病との関係が特に高く、Type Eに比べて心疾患との関連性は14倍、糖尿病では12.5倍。さらに、Type Dでは炎症性腸疾患(IBD)の関連性が27倍に上ることが明らかになっています。一方で、食生活や生活習慣の改善のはかることでエンテロタイプも変えることが可能だとも専門家は指摘しています。

この5つのタイプのうち、自分がどのエンテロタイプなのかを知ることで関連性の高い病気を予防し、日々の健康維持へとつなげることが出来るかもしれません。

毎日のトイレで腸内環境の変化を把握できる日も!?

便のにおいから腸内環境を知ろうとする取り組みも始まっています。現在開発が進むのは、トイレに入るだけで自分の腸内環境が分かるシステムです。便器に設置された機器が、便のにおいに影響を与えているガスの組み合わせをAIが解析し、腸内にいる細菌の割合や状態を予測します。

毎日のデータを積み重ねることで、より詳しく腸内環境の変化を把握することが出来ます。特別な検査をしなくても、普段通りの生活を送っているだけで腸内環境の状態をチェックできるというのです。

早ければ2年後の実用化を目指していますが、軽量化などまだ課題は残されています。

健康な腸内環境を作るのに欠かせない食事とは

腸内環境を調べることが出来る様々なサービスが登場していますが、腸内環境や栄養学を研究している京都府立医科大学大学院の内藤裕二先生によると、食事で大切なのは腸内のバランスを整える食べ物と、腸内細菌を活性化させる食べものの2つだといいます。

腸内のバランスを整えるには、ビフィズス菌や乳酸菌、酪酸菌といった特定の菌を腸に入れることが効果的だといいます。例えば、ヨーグルトにはそうした菌が含まれているため、腸によい食べものとされています。他には、納豆やキムチ、ぬか漬けなどの発酵食品にも多く含まれています。

ただ、こうした食品で特定の菌を摂取したとしても、お腹の中に定着することはないことが分かってきています。そのため、健康効果や機能性を期待してとる場合は、食べ続けることが重要です。

一方、人によってはヨーグルトなどを食べて、お腹がはったり下痢をしたりする人もいます。そういった場合は、そもそも体にあっていないため、すぐに止める必要があります。

体内に取り入れた細菌を活性化させるには、食物繊維やオリゴ糖などを多く含んだ食材をとることです。そうすることで、腸内細菌が増えるとともに、体によい働きをする物質を多く作り出し、体質の改善や健康の維持へとつながっていきます。

日本人は特に食物繊維が不足していると言われています。国が定める食物繊維の目標摂取値は、成人男性で21グラム、成人女性で18グラムとされています。しかし、日本人の食物繊維の平均摂取量は14グラムほどと足りていないのが現状です。

食物繊維にも種類があり、なかでも水溶性食物繊維がよい腸内環境を作るのに高い効果を発揮します。水溶性食物繊維は、リンゴやバナナなどの熟した果実、海藻類、大豆、大麦、寒天に多く含まれているといいます。生きた細菌を体内に取り入れ、活性化するという一連の流れが腸内環境の改善には大切なことなのです。

この機会に将来の病気の予防と日々の健康維持のために、自分の腸内環境の状態を知り、食生活を見直してみてはいかがでしょうか。

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