トルコ・シリア大地震 在日シリア人に聞く“私たちにできること”

NHK
2023年2月27日 午後2:45 公開

犠牲者数、5万人超と日を追うごとに増え続けるトルコ・シリア大地震による死者数。遠い日本で暮らすシリア出身の女性は、祖国を想いながら懸命に支援活動に携わっています。

想像を超える惨状にふさぎ込むのではなく「小さくとも希望を持ち続けたい」と語る在日シリア人の女性に話を聞きました。

(報道局 社会番組部 チーフディレクター 松井大倫)

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トルコ南部・アンタキヤ

 

 「トルコ南部のアンタキヤが壊滅状態です。そこは、私にとっては第2のふるさとなんです」 

スザンさん

シリア北部出身のスザンさん(30代)

5年前に来日し、英語講師のアルバイトをしながら、都内の大学院で国際関係(難民の自立支援)の研究をしています。

長い内戦が続くシリアからトルコに逃れた難民として、スザンさんはトルコ南部の町・アンタキヤに一時、身を寄せていました。

「とても美しい街で、人々もシリア難民に対して温かく接してくれました」

内戦下のシリアしか知らなかったスザンさんにとって、心の安寧の場所だったといいます。連日の報道でその街が、がれきで覆われている様子を見て、スザンさんは一時どうしようもない焦燥感に駆られました。

アンタキヤの被害

トルコ南部・アンタキヤの被害

  

現地の最前線のNGOを支えたい

難民として逃れたトルコで、スザンさんは現地NGOのスタッフとして3年間働いた経験があります。難民キャンプで必要な電気、水、衛生設備などの調達などを担当していました。

その経験を生かし、いま被災現場の最前線で活動するNGOのニーズを探り、それを日本のNGOに伝え、効率的な支援につながる活動を始めています。

「現地のNGOはその場で活動を続けており、いま何が起きているかを理解しています。地震の前から、内戦・紛争で家を失ったり、家族を失ったりした大勢の人たちを支援してきました。だから、いま何が必要なのか、情報も持っています」

地震から3週間が経ち、飲料、食べ物、服、寒さをしのげる場所以外に、女性に必要な布や生理用品などが圧倒的に不足しています。しかし、女性たちは必要だと声をあげることに恥ずかしさを感じ、なかなか要望できないのが現状です。スザンさんは彼女たちの代わりに声をあげる人が必要だといいます。

シリア・支援物資を受け取る人たち

 

また、トルコ語、アラビア語、英語など多くの言語が飛び交い、コミュニケーションが難しく、文化や習慣の違いなども理解した上で、きめ細かいサポートをすることが求められると、スザンさんは話していました。

  

たとえ1円でも1ドルでも人の命を助ける支えになる

支援をどのように行えばいいのか、疑問に思う日本人も少なくないと思います。

東日本大震災では、トルコから32名の救援隊が宮城県に入り、震災直後から、がれきの撤去や行方不明者の捜索に奔走しました。

いま、宮城県をはじめ東北各地では、今回の地震に対して様々な募金活動が行われています。

「たとえ1円でも1ドルでも、大きな変化をつくるきっかけになります」と、スザンさんも寄付の重要性を訴えていました。

そして、トルコとシリアの被災者たちに思いを寄せることが、助けになり支えになると強調しました。

「先の戦争や東日本大震災などの大きな災害を経験している日本だからこそ、痛みをわかり、そうした日本からの励ましや支援は、心の支えになります。お金ではなく、感じる気持ちが重要なのです」

  

取材後記 私たちにできる支援

現在、シリアに直接物資を送ることは難しく、いまできる最も効果的な支援は寄付だとスザンさんは言います。

そして、被災者に心を寄せ続け、寄付以外のさまざまな支援が可能になったとき、現地の被災者の助けになってほしいと話していました。

大きな震災を経験してきた日本が、遠くトルコやシリアの被災地に対してできることは、寄付以外にもたくさんあるのかもしれません。

「短期的にはさまざまな物資が必要になるが長期的には『避難』に関する教育も被災地には必要だ」というスザンさんの言葉が印象的でした。

取材の最後には力強いメッセージを残してくれました。

「私は決して諦めてはいません。ネガティブな時でもポジティブでいたい。小さくとも希望を持ち続けることが大事なんです。その希望は他の誰かの希望につながり、やがて大きな未来につながると信じています」

もともとシリアは、内戦が長く続く地域です。そうした現状は、いまの国際情勢の中で忘れられがちだったのではないかと、改めて認識させられました。地震はとても不幸なことですが、内戦で苦しんでいる人たちのことをいま一度、思い出させるきっかけになったかもしれません。

被災に加えて内戦で苦しむ人たちの声を拾ったり、忘れずにいることが、私たちに求められているように感じました。


トルコ、シリアへの寄付・支援については、NHK NEWS WEBでもまとめています。

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