桑田佳祐さん “同級生”を語る

NHK
2022年6月21日 午後7:30 公開

桑田佳祐さんが発表した、チャリティーソング『時代遅れのRock’n’Roll Band』。この楽曲に参加したのが、佐野元春さん、世良公則さん、Charさん、野口五郎さんと日本を代表するミュージシャンたち。桑田さん含め、全員1955〜56年生まれの“同級生”です。

初めてとなった異例のコラボ。今回、なぜこのメンバーで歌おうと思ったのか、楽曲制作の裏側を桑田さんにお聞きしました。

(聞き手 桑子真帆キャスター)

世良公則さんとの会話が、集結のきっかけに

―今回発表された『時代遅れのRock’n’Roll Band』。そうそうたるメンバーが集結されましたが、きっかけは、世良公則さんにお会いしたことだったんですね。

桑田佳祐さん(以下、桑田):

そうですね。世良くんとはデビューがほとんど一緒で。親友というか、同じ時代を共に生きて来た戦友のような間柄なんですが、ここのところはメールのやり取りしかしてなかったんで、「たまには会わない?」っていうふうに誘ってくれて、彼のお宅へお邪魔したのがきっかけです。

世良くんと僕って、デビュー当時よく対談したんです。世良公則&ツイストとサザンオールスターズのボーカルとしてね。世良くんは、話がうまくて、よく喋るんですよ。僕は、一方的に聞いてうなずいていることが多かったんですよね。

ひさしぶりに会っても、そういう関係性は変わんないかなと思って、僕も対抗策としてね、ちょっと曲なんか作って、景気づけに8小節ぐらい考えていったんですよ。で、ちょっと会話が途切れた時に、世良くんのギターを借りて、「世良くん、相変わらず強くて高い声出るけど、この辺の低い音域出る?」って言いながら弾いたら、彼もギター持って、「全然大丈夫だよ」って。「いいね、いいね」なんて言いながら。

 友達としてよもやま話をする中で、「俺たちも同級生で、もう70近いからさ。一度も一緒にやったことないから、なんかやりたいね」みたいな話になったんですよね。

そこで、「俺たちの同級生と言ったら誰だろうね」って話になって。「僕はね、Charさん」みたいな。「セッションとかしたことないんだけど、YouTube見てるとすげえんだよな、あの人」なんて話になって。「Charさんでしょ。世良くんと俺じゃん。それから野口五郎さん。それから、佐野元春くんだよね」なんて。そんなの夢だろうなと思ったんですけど。

世良くんとバイバイした後で、またしばらくずっと会わなくなる、というのもちょっと残念だなと思ったこともあって、僕はそれから世良くんと何かやろうって、ずっと頭の中に芽生えていたんです。それで、うちのメンバーの原由子のレコーディングの合間に曲を作っていたんですね。原坊ごめんね、なんて言いながら作っていたんですけど。

直筆の手紙で伝えた思い

―同級生のみなさんに、直筆のお手紙でお願いをしたとお聞きしました。手紙には、どういうことを書かれたんですか?

桑田:

いや、もうラブレターですよね。“YouTubeを見ておりまして、Charさんがいろんな方とセッションされているのを見て、嫉妬している”と。“なんで俺がそこにいないんだ”と。

ずっと思い焦がれておりましたみたいなことも含めて、いまの情勢的なこととか、我々の同業者が、スタッフも含めて、コロナ禍で大変ご苦労されているということもしたためましたし。そういうことを、まず手紙を書かせていただいた後に会うとなると、こちらも話しやすいかなと思って。

―この時代に、あえて手書きで書くっていうのは、それなりの覚悟があったんですか?

桑田:

いや、僕ね。パソコンで文字が打てないんですよ、そもそも。だから手紙になっちゃうんですけど。やっぱり手紙のほうが、自分の思いが伝えやすいかなという風に思って。従来なら、マネージャーを通じて、とかっていう連絡経路になっちゃうんですけど、まあダイレクトのほうがね。伝わるかな、と思いまして。

あとはやっぱり、こういうご時世の中で、とにかく曲を作って、歌詞を作って、即時性って言いますかね。早く形にしたいというこっちの勝手な思いがあったので、お手紙にして、それから会っていただいて、レコーディングをやって。で、今回の曲は“画”ありきだと思っていたので、できたら一緒にMV(ミュージックビデオ)を撮りたい。というようなことも含めて、全部書きましたね。

お手紙に書いたことをベースに、頭の中に台本みたいなのを持って、一人一人に会いに行くじゃないですか。ところがね。本人に会うと、全部吹っ飛ぶんですよね。やっぱり実際に会うと、もう自分の言いたいことの10分の1も言えないし。その代わり、みなさんの話を聞いている方が、逆に引き込まれるんですよ。で、自分の言っていることがどこかへ行ってしまう。まあ、それでいいんですけど。

世良くんがいるとすごく安心する

―同級生のそれぞれの方との共通点や尊敬されているところとかはありますか?まず世良公則さんはどうでしょうか。

桑田:

世良くんは、バンド同士でデビューして、テレビ局でよく会って。世良公則&ツイストが、テレビにロックを持ち込んだっていう時代だったんですよね。だから、いろいろ彼もすごく悩んでいたし、戦っていたと思うんですね。ちょっとだけ後発だった我々サザンとしては、彼の背中を見て、付いていくようなところがあったと思うんです。

やっぱり僕は、彼のことをライバルだとずっと思ってきたし。あとね、今回の企画も世良くんがいなかったら、出来なかっただろうなと思うんです。きっかけもそうですけど、精神的支柱と言うんですかね。よく言うんですけど、僕はいじめられたら、世良くんのところに行こうと思って。「世良に言いつけるぞ」みたいな。そのぐらい彼のことは、頼りにしていると言いますか。僕も意外と臆病なもんで、世良くんがいるとすごく安心するというような。その関係は、もうずっと変わっていないんだと思うんです。

野口さんは尊敬とあこがれの存在

―野口五郎さんとはどうでしたか?

桑田:

野口さんはね、音楽マニア。ギターマニアですね、このチームの中で一番。1971年デビュー、15歳の時なんです。我々は、テレビで拝見しててね。野口さんは、15歳の時から芸能界、歌謡界という大きなジャンルで生きて、考えて悩んで戦ってきた人だっていうふうに、同世代としてもすごく思うんですよね。

随分前の話ですが、以前テレビに出た時に、わざわざ五郎さんがサザンのところに来てくれて、「今度一緒にセッションしませんか?」ってことを言われて。我々もその頃、テレビなんかでは浮いてる存在でしたから、「なんで野口五郎さんが?新御三家だよ?」みたいなね。「来てくれんの?」みたいな。とても気遣いのあふれる方でね。魅力を感じてくれたんでしょうね。

今回一緒にやらせてもらって、思った通り芯が太いし、それでいてとても繊細で、そういうものがものすごく共存されている方でした。いろいろ修羅場をくぐってきた方ですから。ただ、やっぱりあの人は音楽マニアですね。とにかくギターマニア。

―ものすごくギターが上手でいらっしゃるとか。

桑田:

そうなんです。ギターだけじゃないですよね。ドラムもベースもピアノも、何でも全部一人でできるぐらいの。海外の方ともいろいろやっていらっしゃいますしね。尊敬と憧れの存在ですよね。だけど、やっぱりあの方のお心遣いっていうんですか。今回、とっても嬉しかったですけどね。

Charさんはビートルズにおけるジョン・レノン

―Charさんの印象はどうでしたか?

桑田:

Charさんは、もう無双ですね。唯一無ニと言いますか。あの方と一緒にやりたいっていう人はたくさんいると思うんですけど、今回の同級生グループの中でもね、やっぱりジョン・レノンだなと。ビートルズにおけるジョン・レノンじゃないけども、彼がいることによって、ロックカルチャーとか、そういう方向性に対しても、このチームがすごく説得力を持つっていいますか。ジョン・レノンがいるおかげで、ビートルズがロックミュージシャンとしてのアートな感じとか、インテリジェンスとか、そういうものを帯びるっていうんですかね。

だから、そのビートルズの関係性をそのまま今回のチームに置き換えると、Charさんはジョン・レノンの位置なんじゃないかなって。“天才ギタリスト”ってもちろんよく言われてるんですけど、それ以上に、やっぱりCharさんも繊細な方というんですかね。ものすごく節度ある、細かく見ていてくださる方で。でも、くだらないジョークもよく言われるんですけどね。そこはまたすごく人間的で、素敵な人でね。だけど、品がいいっていうんですかね。ですから、ロックミュージックを標榜する、いろんな方がいると思うんですけど、今回のグループにCharさんに居てもらえたってことは、免罪符じゃないですけど、「こっちにはCharがいるんだぞ」っていう、「文句あるか?」って言えるっていう。そう思わせてくれるすごい存在です。

佐野さんは一緒にやったらさらにファンになった

―佐野元春さんについてはいかがでしたか?

桑田:

佐野さんは、一般の方が抱くロックアーティスト、ロックミュージシャンのイメージっていうんですか。それをずっと1980年デビュー以来、構築してきたし、そういう生き様を貫いてこられた方だと思うんですよね。僕も時々、彼とすれ違ってはいたんですが、今回ほど一緒にレコーディング、セッションするということは、今までなかったんですよね。

やっぱり私の周りにも強力な佐野元春ファンがいまして。「佐野さんのライブを見てきました」とか、「すごかったです」という情報は密に聞いていたんです。だから、彼の音楽もよく聴いていますし。彼が作った曲を聴いていますと、「ああ、佐野くんって、今こういうことを考えてるんだ」とか、「ああ、今、こういうスタイルでやろうとしているんだ」ってことを、すごく参考にしたりね。羨ましく感じたりもしてきたもんですから。とにかく今回一緒にできたことが本当に良かったし、またファンになりましたよね。

今までは同級生というか、そういう思いが強かったんですけど。一緒にやったらさらにファンになっちゃった。やっぱり、この人は魅力があるなっていうかね。かっこいいなと思って。

―そう思わせるものってなんなんでしょうね。

桑田:

いわゆるそのロックミュージック、ロックっていうのは、マッチョだとか、一昔前なら騒がしいものっていうようなイメージがありますよね。だけど、あの人はもっとこう繊細に折り込まれたような、編み込まれたような。ロックミュージックをそうやって構築してきた。そこにこだわってきた人なんだろうなってことが、特に今回、短時間でしたけど、一緒にやっていてすごく感じましたね。

我々は同じ音楽的原風景を見て生きてきた

―撮影の日に初めて5人揃って顔を合わせたと聞きましたが、実際に同級生5人での演奏はどうでしたか?

桑田:

当初、興味があったのはね。60年代、70年代のロックミュージックが彩る時代っていうんですか、世界観みたいなものを我々は同じ原風景みたいにして、生きてきたんだろうなって。今でもその原風景を見ながら、同級生たちは音楽をやっているんだろうな、っていうことは思っていたんです。

だから、それを実際みなさんと会えて、改めて確認できたっていうんですか。ロックミュージックだけじゃなくて、漫画とか、当時のテレビ番組とか。Charさんと会った時は、音楽の話以上に、昭和のテレビ番組の話とかで長い時間盛り上がったもんね。

―佐野元春さんが、“まさに同じ時代を生きている”と、“言葉じゃなくて、一緒に音楽をするだけで通じ合えるんだ”って仰ってましたが、そういうところはあるんですか。

桑田:

そうなんですよ。すぐコンセンサスが取れちゃうっていうか。同じ時代に生きているってことは、背負っているものが、やっぱり似ているし。ただ、表現がそれぞれみんな違っていたのかもしれないけど、背負っているものとか見てるものが通じるっていう。その音楽的原風景っていうんですか。文化的なビジュアルがすごく似ているっていうことは、セッションしてる時にすぐ分かりましたね。だから、今回は僕が発信したということではなくて、この同級生チームの言葉があったり、彼らの歴史があったり。やっぱり、こういう歌詞になったっていうのは、僕一人の意思じゃなくて、みなさんの奥底にある意見だと思うんですよね。そういうムード、雰囲気みたいなものが共感して、共鳴して、こういう文字になって出てきたと思うんですよね。

若者たちはやっぱり宝物

―歌詞の『我々がいなくなったって この世の日常は何ひとつ 変わりはしないだろう』っていうところとか、『子供の命を全力で大人が守ること それが自由という名の誇りさ』っていうところとか。いまを歌っている歌ながら、すごく次の時代とか、次の世代のことにも目を向けてらっしゃるんだなって思いました。

桑田:

そうですね。僕らの世代というか、同級生は、やっぱり自分たちだけの世代というよりも、次の子供たち、その子供たちっていうことも含めて意識していると思いますね。それを全部歌にするわけではないんですけど。今回の企画は、我々66歳が集まってできたことも良かったんですけど、実際、MV(ミュージックビデオ)を作ったり仕切ってくれているのは若い人たちなんですよね。うちのスタッフや、映像制作チームのみなさんとか。

映像一つとっても、何かを形にするっていうことは、我々だけではもちろんできないので、そういった意味でも、若者たちはやっぱり宝物だっていうね。そういう意識でいると思いますね。我々同級生は。

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