暮らしを支えるPFAS
PFAS(ピーファス)は人工的に作られた有機フッ素化合物の総称で4700種類以上あると言われています。
水や油をはじき熱に強いという特性があり、1940年代から産業利用されていて、焦げつきにくいフライパンや防水服、食品の包み紙などの身近な日用品から、航空機の火災などで使われる泡消火剤や半導体、自動車の部品にまで幅広く利用されてきました。
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一部が有害性指摘 世界で規制・監視強化の化学物質に…
PFASは産業利用に適している反面、一部の種類で自然界に放出されるとほとんど分解されないまま残り、生物に取り込まれると体内に蓄積しやすいことがわかってきました。
そのため「永遠の化学物質=フォーエバーケミカル」とも呼ばれるようになり、管理のあり方が国際的に議論されるようになりました。
現在、PFASのうち古くから使われてきた「PFOS」「PFOA」「PFHxS」の3種類については、国際条約で製造・使用・輸入が禁止されています。
この条約には日本やEUを含む180あまりの国と地域が批准しています。アメリカは批准していませんが法律で同様の措置をとっています。
ヒトへの有害性が指摘された一部のPFASについては廃絶する方向に進んでいますが、これまで工場や基地から排水などとともに放出されたPFASは長く環境中に残るため、今後も影響が懸念されています。
人がPFASを多く取り込むとされるのが飲み水です。
PFASを含んだ井戸水や川から取水した水道水を通じて、体の中に取り込まれる恐れがあるのです。そのため国際機関や各国が水質の目標値などを設定して監視を強めています。
WHO(世界保健機関)は水道水のPFASの濃度の指針値として、PFOSとPFOAについてはそれぞれ1リットルあたり100ナノグラム。
日本はPFOSとPFOAについて、地下水や川など環境中の水と水道水は、PFOSとPFOAの合計で1リットルあたり50ナノグラムを法的な拘束力のない暫定的な目標としています。
アメリカは独自に法的拘束力のある規制値を設けていた州もありますが、国としては長く暫定的な目標値としてPFOSとPFOAの合計で1リットルあたり70ナノグラムとしていました。
そうしたなか2023年3月、 国として初めて規制値の案を公表。PFOSとPFOAはそれぞれ1リットルあたり4ナノグラムとしました。
正式に決定されれば水道事業者は規制値を守ることが義務付けられます。
健康への影響は?
PFASは病気との関連が指摘されていますが、科学的な根拠(エビデンス)はまだ十分ではありません。
そうしたなかで2022年、アメリカの学術機関・全米アカデミーズの委員会は連邦政府からの要請を受けて、5000本以上の論文を分析し現在わかっていることをガイダンスにまとめました。
「関連性を示す十分なエビデンスがある」としたのは
▼動脈硬化などの原因となる脂質異常症
▼腎臓がん
▼抗体反応の低下(ワクチン接種による抗体ができにくい)
▼乳児・胎児 の成長・発達への影響
です。
「限定的または示唆的なエビデンスがある」としたのが
▼乳がん
▼肝機能障害
▼妊娠高血圧症
▼精巣がん
▼甲状腺疾患または機能障害
▼潰瘍性大腸炎
です。
血液中のPFASの濃度と健康リスクとの関連についてもまとめています。
1ミリリットルあたり20ナノグラムを超える状態が続くと健康へのリスクが高く、2ナノグラム未満だとリスクは低いとしています。(PFOSとPFOAを含む7種類のPFASの合計)
また、子どもや妊婦はその間の値であっても健康影響の可能性があるとしています。
PFASリスクとどう向き合うべきか?
(コロラド公衆衛生大学院 ネド・カロンジュ准教授)
PFASによる健康リスクを私たちはどのように考え、どう対処していくべきか。
ガイダンスをまとめたコロラド公衆衛生大学院のネド・カロンジュ准教授は まず3つの対策が必要とだといいます。
① 汚染地域を特定する
②数値が高い地域では血液検査を実施する
③ 住民の血中濃度が高い場合はPFASの新たな摂取を抑え定期的なスクリーニング検査を行う
コロラド公衆衛生大学院のネド・カロンジュ准教授
「PFASはどのようなメカニズムで病気を引き起こしているのか証明されていないという批判の声もあり、この点は私も同意しています。ただ、重大な疾患と高い関連性が一貫して見つかっていることは確実です。エビデンスに基づけばPFASにより病気を発症した人たちはいると言えます。だからこそ私は市民の健康を守るアプローチを取るべきだと考えます」
慎重な規制 求める声も
(神奈川大学 理学部 化学科 堀久男教授)
一方で、 PFASが産業にとって重要な化学物質であることから規制は慎重に行うべきだと指摘する専門家もいます。有機フッ素化合物の分解技術などを研究してきた神奈川大学の堀久男教授です。
一般的にPFASと定義されている物質の中には有害性がある物もない物もすべて含まれており、PFASがすべて危険であると捉えると未来の社会にマイナスな効果をもたらしてしまうと危惧しています。
神奈川大学 堀久男教授
「たとえばPFASにはプラスチックのような『フッ素樹脂』も含まれていますが、PFOSやPFOAとは異なり水溶性ではないため、体には取り込まれないと考えられています。フッ素樹脂はリチウムイオン電池や燃料電池、通信用の光ファイバーなどにも使われていて、カーボンニュートラルや高度情報通信社会に不可欠な用途も多数あります。すべてを規制するのではなく、有害性があるものに限定した慎重な規制が求められます」
▼クローズアップ現代 PFAS取材班
横浜放送局 記者 古市悠
報道番組センター ディレクター 渡邊覚人
沖縄放送局 記者 宮原啓輔
第2制作センター(科学) ディレクター 苅田章
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