突然の心停止・・・あなたは大丈夫? 心不全のサイン、予防は?

NHK
2023年3月1日 午後6:27 公開

“心不全パンデミック”の取材を昨年末から開始し、全国各地の現場を回る中である発見がありました。

心不全=“高齢者の病”とされ、実際に患者の多くが70代以上です。それよりも若い現役世代でも発症する人が少なくないという、決してひと事とは思えない実態も見えてきました。

さらに異変の予兆がまったくないままに、突然「心停止」するといった心不全の怖さも。

ヒタヒタと私たちに迫る“心不全の脅威”。自らの体の異変にいち早く気づき、どう適切な予防をしていけばよいのか取材しました。

(クローズアップ現代取材班 北條泰成)

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心停止は突然に・・・

「突然、夜中に苦しくなって妻に声をかけて。声をかけた時点で私は意識がなかったんです。まったく覚えが、記憶がないですから。そのうち、苦しかったんでしょうね、のどをかしむきって倒れたようです。プチッと切れたように」

58歳のときに心停止で倒れたという、森弘二さん(64)と妻のみどりさん。

何の予兆もなく、いつも通り眠った深夜に起きた突然の急変でした。

妻 みどりさん

「夫は“タクシーを呼んで”と声をかけてきたのですが顔を見たとき、あ、タクシーじゃないと思って、“ごめんね、救急車にさせてもらうよ”と言って、救急車を呼んで。病院では、このまま意識が戻らない可能性もあると“最悪のケース”について医師から説明を受けました」

(2016年11月)

その一晩は生死をさまよい、みどりさんは最悪の事態も覚悟しましたが、なんとか一命をとりとめました。

その後、大学病院で2か月間の治療を受け、無事に退院することができました。

ところが-

森さん

「そこが終わりではなく、つらい日々の始まりだった」

予備軍から徐々に悪化していく心不全

心不全は“突然死ぬ病”というイメージをもたれがちですが、実は急激な悪化を繰り返し、時間をかけて進行していきます。

生活習慣病のリスクを未然に防いでいけるかが、心不全を発症しないために大切です。

森さんは、心停止で倒れるまでこれといった病気をしたこともなく、酒やたばこを好み、健康についても特に意識したことはなかったといいます。

森さん

「健康そのものだと、そういう意識の土台がありました。健康がどうのこうのという考えすらなかったですね。もう自分は健康だと思い込んで、気を向けなかった」

妻 みどりさん

「お酒が好きだったので、それに合わせて料理はもともとが味付けが濃かったかなと。

夫のことで1つ覚えているのがお酒の飲み方。休日の午後になると家に帰ってから、ビールをわーっと飲むのが楽しみで、午後からは水分を極力控えていたと言っていたんですね。それがたぶん心臓にとって、しかも夏に暑ければ暑いほど我慢をして我慢をして、いきなりバーッとアルコールが入ってきたということで、それの何十年も繰り返して。そういうところも夫が言っていたなかでは、すごく覚えていて・・・。

確かに我慢して飲むビールはおいしいだろうと、ただそのお酒のたしなみ方というか、そういうところも1つ心臓への悪影響があったのかなと」

(司法書士の事務所に勤務していたころの森さん)

「死を意識する苦しさ」 心不全の本当の怖さ

心停止で倒れてから、徐々に心不全が悪化していった森さん。

2、3歩歩くだけでも息が上がってしまうほど苦しい状況。

日常生活もままならない状態になり、職場に迷惑はかけられないと仕事を辞めざるを得ませんでした。

森さん

「そのときの苦しさは、はっきり記憶にあります。死を意識するような感じの苦しさなんですよね。息を吸い込んでも吸い込めない、まるで水の中にいるような息苦しさ」

妻 みどりさん

「夫が悪くなっていくときはすごくわかって、性格がどんどん変わっていったんですね。私の知っている夫とどんどん変わってきて、ことばづかいが乱暴に。ふだんはすごく丁寧なのですが、ことばづかいが乱暴になったり顔がすごく険しくなったり。

家の中では歩行器で移動していたのですが、それすらも、歩行器も2歩くらい歩くともう肩が上がって・・・。もう本当に、あ、本当にもう限界に近いんだなというのが・・・。私もそのときに・・・。今初めて言うんですけど、死というのがちょっと頭の中にあって、絶対そうはならないように、どうにかしてほしいというのがあったんですけど」

当たり前の健康と幸せの大切さを・・・

心停止から6年、日常生活がままならなった森さんは、大学病院で人工心臓という機器を埋め込む手術を行いました。

息苦しさなどの心不全の症状は落ち着きましたが、(手術)で傷ができた部分の管理や、血栓が飛びやすいなどのリスクがあるため、24時間365日対応の訪問診療を受けながら自宅で暮らしています。

取材の合間、森さんがふとこぼした本音がありました。

つらい症状が続き先の見えない闘病生活に、“心が折れかけたこともあった”と打ち明けたのです。

それでも家族や医療スタッフに支えられ、今では車椅子で散歩ができるまで回復しました。

森さんは「心不全」を未然に防ぐことの大切さを1人でも多くの人に知ってほしいと考え、今回取材に応じてくれました。今は当たり前の健康や家族と過ごせることの大切さをかみしめているといいます。

森さん

「今思えば倒れた当時、暴飲暴食や仕事もかなり無茶していて、怖いなと振り返るけれど、そのころはそういう思いすらなかったんですよね。だから今思えばなんですけど、自分で自分の体を気にかけてやっておけばよかったなと思うだけですけどね。ですから、皆さん若い方たちも『そんな心臓の病気なんて無縁だ』とほとんどの方は思うでしょうが、本当にたまにでいいから、自分の心臓のこと自分の体のことを心配してくれたらいいと思う」

最近、中古の一眼レフカメラを購入したという森さん。

近所の景色などを撮りたいと楽しそうに話してくれました。

今の体とうまくつきあいながら、できることを前向きに挑戦していきたいといいます。

森さん

「心不全が苦しいときは、本当にどこにもいけなかったので、許される範囲で一日でもいい、どこでもいいから旅行に行ってみたい」

心不全にならない方法は?

(日本心不全学会理事長 絹川弘一郎医師)

私たちが、心不全を回避するためにできることは何か。

日本心不全学会理事長の絹川弘一郎医師に話を聞きました。

絹川医師が特に気にかけてほしいと指摘するのは「サインを見逃さない」ことです。

「足のむくみ」「体重増加」「息切れ」「だるさ」「食欲がない」などの場合は、要注意のイエローカード。

「安静時の息苦しさ」「横になると苦しい、座ると楽」「血圧がとても高い、または低い」などの場合は、危険な状態にあるためレッドカード! 病院で検査を受ける必要があります。

日本心不全学会理事長 絹川弘一郎医師

「いち早くサインを察知し、改善を促すことで予防へとつなげることができます。一番重要なのは生活習慣のコントロールにつきます。高血圧、糖尿を防ぐ薬剤の進歩は著しいものがありますが、結局は苦しくなるまでは本気で生活習慣を変えようと思わないのが人間です。だからこそ日々の心がけが重要です」

日本心不全学会では、日々の対策や注意事項をわかりやすくまとめた「心不全手帳」も発行しています。

心不全手帳 → http://www.asas.or.jp/jhfs/topics/shinhuzentecho.html (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます

日本心不全学会理事長 絹川弘一郎医師

「繰り返しますが、心不全の予防は日々の心がけしだいです。発症してからでは遅いのです。この記事を読まれた方、特に現役世代の方は“わが事”だという意識をもって、生活のあり方を見つめ直してほしいです」

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