「ふだんなら助かる命が…」一般診療に影響 新型コロナ軽症・中等症患者受け入れ病院

NHK
2022年8月15日 午前10:23 公開

第7波真っただ中、医療機関で何が起きているのか。

長期取材をしてきた聖マリアンナ医科大学病院の関連病院、川崎市立多摩病院の現状についてお伝えします。同病院は新型コロナの軽症・中等症患者を受け入れていますが、一般の診療にまで重大な影響が出始めています。

(報道局 社会番組部 チーフディレクター 松井大倫)


 

一般診療にも影響が…

私たちがおととし4月から長期取材を続けている聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)は、重症患者が命の危機を脱すると、関連病院である川崎市立多摩病院にまず患者の転院を促しています。しかし、その関連病院も7月中旬あたりから患者で埋まり始め、入院調整(ベッドコントロール)が非常に難しい状況になっています。

また、一般診療にも影響が出始めています。コロナ病棟の病床を確保するため、一般病棟のベッドを代わりに使用しています。そのため、コロナ以外の入院患者数を制限せざるを得ない状況です。

同病院ではコロナ患者の受け入れ病床を増床するにあたり、その病棟の看護師を増やす必要に迫られています。その分、他の病棟から看護師を引き抜くため、他の病棟は手薄になり、コロナ以外の病棟に残った看護師たちの負担も大きくなっているといいます。また、医療従事者の感染も病院全体で50人近くに増え、ギリギリの態勢で診療に当たらざるを得ない状況だといいます。

「もう医療崩壊ですよ」…同病院 総合診療内科の本橋伊織医師は、インタビューの中で私にこう語りました。本橋医師がいまの医療現場の状況について、メッセージを寄せてくれました。

 

 

「重症化しづらいものの油断はできない」

川崎市立多摩病院 総合診療内科 医師  本橋伊織さん

 

「新型コロナウイルス感染症の流行の“第7波”では、オミクロンの変異株『BA.5』の特性のため、かつてない規模の陽性者が連日出ています。その特性とは、感染力が非常に強いことと、重症化しづらいことです。

感染力の強さに関しては、連日のニュースや周囲の感染状況から、皆さん肌で感じておられることと思います。知り合いにコロナになった人が1人もいない、という方はいらっしゃらないのではないでしょうか。

注目すべきは、重症化しづらいという特性です。これはウイルス自体の特徴と、国民のほとんどの成人がワクチンを接種している、という2つの事情が関係しています。

もともと健康な方でワクチンを接種していれば、感染しても“ちょっと重い風邪”くらいで終わってしまいます。中には全く無症状で済んでしまう方もいます。このことから、新型コロナウイルス感染症は以前のような“絶対に感染したくない恐ろしい病気”から、“かかっても仕方がない一般的な病気”に変化してきています。このため、これだけ感染者数が増えた現状でも政府は特に行動制限などを行うことなく、自然に流行が収まるのを待っています。

確かに、第5波の時のようなひどい肺炎を起こす患者さんは減りました。発熱外来でも、検査を行なってコロナと診断して、解熱剤など対症療法の薬を処方して帰宅させる、というほぼ決まった流れになっています。これまでと違うところは受診者の数が膨大なことで、それが医療機関を疲弊させています。また、大量のコロナ患者に混じって、熱を出す他の重篤な病気が混じっていることがあり、コロナの検査しかしない(患者数が多すぎて、現実的にそれしかできない)発熱外来ではそれが見逃されてしまう恐れがあります」

 

 

「また、『重症化しづらい』に当てはまらない方々がいます。それが高齢者、重症化リスクとなる基礎疾患を持っている方、ワクチンを打っていない方です。

高齢者と基礎疾患を持っている方は、ワクチンを打って時間が経過していると、やはり重症化するリスクが高くなります。重症とまではならなくても、コロナ感染をきっかけに基礎疾患が悪化したり、食事が取れなくなったりすることが多く、そうなった場合は入院治療が必要となります。また、ワクチンを打っていない方はオミクロン株でもひどい肺炎を起こすことがあり、その場合も入院での治療が必要になります。

この方々は感染者全体から見れば、ごく一部なのですが、感染者数全体の増加とともにこの“ごく一部”の数が凄まじいスピードで増加し、医療システムがそれに対応しきれない状況となっています。なぜならオミクロン株、特にBA.5は感染力が非常に強く、入院する場合は他の患者さんに感染させないために専門の隔離病棟に入院する必要があるからです。

コロナ以外の病気で病院に入院している方々に感染させてしまうと、それが命取りになってしまうことがあります。よって、コロナ患者を受け入れている医療機関が一番気を遣っているのが、院内感染の防止です。「インフルエンザと同じように、一般病棟の個室に隔離すればいいじゃないか」という意見もあると思いますが、現在の患者数では、病院中の個室全てがあっという間にコロナ患者で埋まってしまいます。他の病気でも個室を必要とする患者さんはいらっしゃるので、現状で最も効率が良いのは、1つの病棟を丸々コロナ患者専用にすることです」

 

 

患者の増加スピードに追いつかない医療現場

病床の管理画面 

 

「当院の隔離病棟も感染拡大ともに速やかに拡大しましたが、患者数の増加速度がそれを遥かに上回っています。当院で用意した専用病床30床のうち、このメッセージを書いている8月3日時点で、30床が完全に埋まっている状態です。隔離を解除して退院させられる人がおらず、重症化リスクがある方に隔離期間途中での自宅療養をお願いしなければならないほどになっています。

高齢者がワクチンに守られていた“第5波”の時は、入院してくるのは基礎疾患を有した中年の方が多く、コロナの症状が落ち着けば、隔離期間中でも自宅やホテルに療養場所を移すことは比較的容易でした。しかし現在入院を要する患者層のメインは圧倒的に、最後のワクチン接種から時間が経過した、基礎疾患を有する高齢者の方々です。

多くの方は認知症もあり、そういった方々はそもそもご自身がコロナに感染していることを理解できません。“10日間経つまでの隔離療養”や“他者に感染させないためのマスク装着”を理解できない以上、隔離期間中での退院はできず、結果的に隔離期間が終了するまでコロナ病棟での療養を余儀なくされます。そして、少なくない割合でコロナ感染がきっかけとなって衰弱し、食事が摂れなくなり、もともと過ごしていた自宅や施設に帰れず入院し続け、病院のベッドをひっ迫させる原因になっています。

また、これらの隔離病棟から出てこようとしてくる認知症患者さんたち、感染がきっかけでコロナ以外の基礎疾患が悪化し衰弱した患者さんたちに加え、ワクチンを打っておらず重症化した患者さんたちに、医療スタッフは自らの身を危険に晒(さら)しながら懸命に医療を提供していますが、今回の“第7波”では、BA.5の感染力が強すぎて医療スタッフ自身にも次々と陽性者が発生してしまっている点が、これまでの状況と大きく異なっています」

 

 

医療従事者も感染 薄氷踏む毎日

 

「当院でもコロナ病棟勤務者を含む病院スタッフから毎日5人前後の陽性者が出ており、濃厚接触者と合わせると50人以上が就業制限を受けています。多くの病院で同じ、またはそれ以上に深刻な人手不足のため患者のケアをする人手が確保できず、患者の受け入れ数を制限せざるを得ない状況になっています。これが現在の病床利用率の低さと入院の困難さの乖離の一因となっています。当院ではなんとか用意したコロナ専用病床全てを稼働できていますが、薄氷の上を歩いている状態で、これ以上スタッフの就業制限が増えると現場を回せなくなるギリギリの状態です。

多くの医療機関では、現状のキャパシティ限界まで患者さんを受け入れています。よって、これ以上の受け入れには慎重にならざるを得ず、また病院全体で看護師が不足しており、コロナ患者もコロナ以外の患者も入院を制限しています。結果として、救急車の搬送困難事例が多発し、医療システム全体の崩壊につながっています。コロナ以外の病気であっても、普段であれば助かる命が、コロナの流行のせいで医療機関へたどり着くことすら困難になっている状況なのです」

 

 

患者自体の数を減らすには、感染させないようにするしかない

 

「では、この問題を解決するためにはどうすればいいのでしょうか。

2類か5類か、といった話は毎日のようにニュースで目にすると思います。確かに現状の扱いが、これだけ陽性者が出ている現状にマッチしていないのは確かです。ここは早急に議論を進める必要があると思います。(そもそも新型コロナウイルス感染症は現在、2類感染症ではなく『新型インフルエンザ等感染症』という扱いですが)

しかし、“5類にすれば隔離の必要がなくなって、多くの医療機関がコロナを入院で診るようになるから解決するだろう”という意見には無理があります。感染症法上の分類を変更したところでウイルス自体の感染力が下がるわけではありません。また、高齢者や基礎疾患を有する人々にとっては命取りになりうる感染症であることは変わりありません。

上述したように、病院として最も避けなければならないのは院内感染であり、これだけ感染力が強いウイルスだと、分類が変わったとしても厳密な隔離は必要となります。これでは法律上の分類を5類に変更したところで、コロナ患者収容可能病床のそれほど大きな拡大は期待できません」

 

 

「やはり、入院が必要な患者自体の数を減らす必要があります。そのためには、高齢者や基礎疾患がある方々になるべく感染させないようにすることが重要です。自分が感染していると気づいていない健常な若年者がウイルスを媒介するので、こういった方々に対して迅速な検査で早め診断をつけ、重症化リスクをもつ方々から分離する必要があります。

居住地にもよりますが、現状では病院でないと検査を受けられない、自宅で検査キットで陽性になっても病院に行かないと陽性者として登録できない、といった自治体が多くあります。これが特定の医療機関に負担が集中し、医療崩壊を引き起こしている一因となっています。このため患者さんは検査をなかなか受けられず、医療機関には入院患者に加えて検査目的の方が大量に押し寄せ、その対応と煩雑な登録システムに少なくなった人手と時間を取られ、医療の需要と供給のバランスが崩れ、本当に医療が必要な人が病院にアクセスすらできないという、完全な悪循環に陥ってしまっています

もともと健康な人は、感染しても特別な治療は不要です。抗ウイルス薬などを飲むメリットがないので、解熱剤や咳止めなど、医療機関でも市販薬と大差ない薬しか処方されません。であれば、少しでも体調が悪い人は、自宅で速やかに検査をして、陽性であればそのまま自宅療養をできるような仕組みを整えることが大切です。ここは行政にいち早く動いていただかなければいけません。本当であれば、感染の波が落ち着いている時に議論してこの仕組みを整えておかなければならなかったはずです」

 

 

取材後記 ~“第7波”を乗り切るためのカギとは~

本橋医師は取材の最後に「我々、医療者も、この崩壊した医療システムの中で命を救うため懸命に頑張っています。重症化しない世代はインターネットなどを通して情報を集めることに長けている世代でもあります。ぜひこの波を乗り切るために、いろいろな情報を集めてそれをもとにご自身で考え、ご自身の身を守る行動と、陽性になった時でも医療機関に負荷をなるべくかけない行動へのご協力お願いいたします」と切実に訴えていました。

ウイルスは、変異を繰り返すたびにその特徴を大きく変化させ、ワクチンや治療薬といった武器を手に入れた人類をあざ笑うかのように、我々の想定を超えた負荷を社会に押し付けてきます。ひとりひとりがなるべくコロナに感染しないような行動をとることが、結果的に医療機関への負担を減らし、この“第7波”を乗り切るための鍵となるのではないでしょうか。

自分と自分の大切な人を守るためにも今一度、感染対策をという本橋医師からのメッセージを多くの人に理解して、実践していただきたいと思います。

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