ジョンウンとトランプ 27通の往復書簡が示すもの

NHK
2022年1月26日 午後7:30 公開

―親愛なる大統領閣下へ

―親愛なる委員長へ

親密さをうかがわせる手紙の主は、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の最高指導者キム・ジョンウン総書記とアメリカのドナルド・トランプ前大統領。2018年から翌年にかけて3回にわたって行われた米朝首脳会談。この前後に、二人は書簡のやりとりを続けていたのである。

今回NHKは、未公開だったものを含む往復書簡27通の全文を入手。元アメリカ政府関係者を訪ね、書簡に込められた米朝トップの真意を取材した。そこから読み取れる知られざる米朝の駆け引きとは…。そしてジョンウン氏の思惑とは…。

 (クローズアップ現代+ ディレクター 藤原和樹)

 

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託された未公開の書簡

ジョンウン氏が北朝鮮の最高指導者に就任して10年となる今年。厳しい経済制裁を科されながらも、年明けから相次いで弾道ミサイルの発射を行い、国際社会に強硬な姿勢を見せている。さらに、アメリカとの関係をめぐって「信頼構築措置を全面的に再考する」として、2018年の米朝会談前に表明していたICBM級(大陸間弾道ミサイル)の発射実験や核実験の中止を見直すことも辞さない構えを示した。米朝の対話は、今も行われていない。

北朝鮮の非核化を巡る最後の対話となったのが、米朝首脳会談だった。シンガポールで行われた1回目の会談。共同声明では、「トランプ大統領は北朝鮮に体制の保証を提供する約束をし、キム委員長は朝鮮半島の完全な非核化について断固として揺るがない決意を確認した」とされている。しかし、2回目の会談では具体的な合意に至らず。非核化の道筋をつけることはできなかった。

この会談に前後してジョンウン氏とトランプ氏が交わしていたのが、トップ同士の往復書簡だ。これまで、トランプ氏自身がツイッターなどで公表したものや、報道によって全文の内容が判明していたものは、4通のみ。

往復書簡27通の存在を明らかにしたのが、ピュリツァー賞を2度受賞したアメリカのジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏だ。独自取材で、書簡の全文を書き起こし、トランプ政権の内実を描いた著書「RAGE」で、その一部を紹介。今回NHKはウッドワード氏との交渉の末、未公開だったものを含めた27通の全文の提供を受けた。

ボブ・ウッドワード氏

「このような特別な文書を入手した際には内容を分析するために他の人とも共有すべきと考えました。トランプ氏が設けたジョンウン氏との交流や会談は、正しい行動だったのか、それとも間違いだったのか。いずれ分かる日が来るでしょう」

 

私たちは、北朝鮮と深くかかわった2人の元アメリカ政府関係者に書簡の分析を依頼した。

トランプ政権の大統領補佐官として米朝首脳会談にも同行した、ジョン・ボルトン氏。

オバマ政権とトランプ政権の米朝首脳会談前まで、アメリカ国務省の北朝鮮担当特別代表を務め、現在はアメリカ平和研究所の上級顧問を務めるジョセフ・ユン氏。

ジョン・ボルトン氏、ジョセフ・ユン氏

史上初の米朝首脳会談の実現と、その後の「対話」の断絶はなぜ起きたのか。往復書簡を分析した2人の証言と共に探っていく。

 

「親愛なる閣下へ」

2人の書簡は、トランプ氏がジョンウン氏の招待を受け会談に応じる意向を示した、2018年春から始まる。当時CIA(中央情報局)長官だった、マイク・ポンペイオ氏が訪朝、最初の書簡のやりとりを行った。

以下は、ジョンウン氏が送った最初の書簡の一部。


2018年4月1日

親愛なる閣下

あなたの大いなる意志を明示した個人的な手紙をお送りくださり、ありがとうございます。

(中略)

全世界が予想もせず、過去に誰も成し遂げられなかった偉業を達成するために、私は誠意と献身をもってあなたに協力するつもりです。私たちの最初の出会いが、偉業達成への第一歩になると確信しています。あなたが下す、重大な決断を大いに期待しています。

敬具 

朝鮮民主主義人民共和国 国務委員会委員長

キム・ジョンウン 


 

その2日後に書かれたとみられる、トランプ氏からの返答。

 


2018年4月3日

親愛なる委員長

貴殿がポンペイオCIA長官に託してくださった手紙に大変感謝します。私は、あなたのおっしゃることにすべて同意します。私たちの会談が、両国のみならず、世界にとって重要であることは、疑いの余地がありません。

今後数週間のうちにお目にかかることを楽しみにしています。

敬具

ドナルド・トランプ


  

「親愛なる閣下」、「誰も成し遂げられなかった偉業」。ジョンウン氏はその後の書簡でもほぼ一貫して、トランプ氏に対して最上級の賛辞の言葉をつづり、トランプ氏もそれにこたえる言葉を並べた。

当時、国家安全保障担当の大統領補佐官を務めていたジョン・ボルトン氏は、元々は北朝鮮への武力行使も辞さない保守強硬派とされる人物だ。ジョンウン氏の書簡を目にし、そのねらいを明らかにしようと「非常に注意深く読んだ」と当時を振り返る。

ボルトン氏

「はっきりしているのは、一連の手紙はトランプ氏の自尊心をくすぐるように書かれたもので、実質的な政策課題にほとんど触れていなかったことです。トランプ氏がそれに対して、『恋に落ちた』と語ったのは驚きでした。賛辞にあふれた手紙に圧倒されただけでなく、そう公言することになったのです」

  

ジョンウン氏の“トランプ賛辞”

6月12日、シンガポールで行われた史上初の米朝首脳会談で、トランプ氏とジョンウン氏は先述の共同声明に署名した。その後、アメリカの国務長官に就任したポンペイオ氏が北朝鮮に派遣され、北朝鮮高官との交渉に入った。

往復書簡では、この会談の前後にも、ジョンウン氏からトランプ氏への賛辞が繰り返しつづられている。

 


2018年5月29日

尊敬する閣下。この場をお借りして、きたる会談を歴史的な出来事にしようと努力なさっている大統領閣下を高く評価させてください。

 

2018年7月30日

閣下のような強力で卓越した政治家と良好な関係を築けたことを嬉しく思います。

 

2018年8月12日

リーダーシップ、政治的センス、決断力に優れた強力な政治的リーダーと関係を築けたことを嬉しく思っています。私は過去2ヶ月の間に、あなたに対する好意を育んできました。


 

シンガポールの首脳会談から約3か月後。ジョンウン氏は踏み込んだ内容の書簡を送る。この直前、実務者協議を行う予定だったポンペイオ国務長官の訪朝中止が決まっていた。繰り返し求めたのは、実務者や他国の首脳を間に挟むことなく、トランプ氏と再び直接会談を行うことだった。

 


2018年9月6日

大統領閣下

ポンペイオ国務長官のピョンヤン訪問が中止された不幸な状況下で、あなたの気持ちを少しでも傷つけたことについて、まず御理解を求めたいと思います。私は、閣下の考えを十分に代弁できるとは思えないポンペイオ長官と、両国を隔てる問題について言葉を交わすよりも、優れた政治感覚を持つ閣下と直接お会いして、非核化をはじめとする重要課題について深い意見交換をする方が建設的だと考えています。

   

2018年9月21日

大統領閣下

近いうちに再び会談することは、両国の不信を取り除き、信頼を築き、朝鮮半島の非核化を大きく前進させるために非常に有益であると認識しています。

(中略)

朝鮮半島の非核化について、今後、南朝鮮のムン・ジェイン(文在寅)大統領とではなく、私は閣下と直接話し合いたいと考えています。


 

ボルトン氏

「北朝鮮は、トランプ氏本人とのほうが、より有利な取り引きができると見定めたのだろうと思います。『アメリカ人よりもジョンウン氏の方が信頼できる』と思わせるために、トランプ氏を側近から引き離すように意図されていました。(9月6日の書簡は)その良い例です」

  

トップの直接交渉を重視する北朝鮮。ジョセフ・ユン氏は、かつて自分がアメリカ国務省の北朝鮮担当特別代表として関わってきた経験から、その姿勢は北朝鮮の変わらぬ戦略だと分析する。

ユン氏

「北朝鮮の人と話した際、私はこう言われました。『あなたと私が100回会っても価値はない。我々は、あなた方の大統領と直接会いたい』と。彼らは、(交渉には)最高レベルの関与が必要であるという認識があるのです。あるいは彼らの不満の原因に、官僚レベルでの交渉では、満足のいく結果は得られないという思いがあったのでしょう」

 

ハノイでの会談 互いの思惑

2019年1月18日。2回目の首脳会談が2月下旬に行われることが決まると、トランプ氏はジョンウン氏へ、短いメッセージを送った。

 


2019年1月18日

委員長

(中略)

私たちは一緒に非常に歴史的な事を成し遂げています。近いうちにお会いしましょう。

あなたの友人 

ドナルド・J・トランプ


 

しかし。2月27日と28日、ベトナムのハノイで行われた2回目の米朝首脳会談では、北朝鮮が制裁の解除を要求したのに対し、アメリカが多くの核施設の廃棄を求めて物別れに終わる。

ユン氏

「ハノイの会談が失敗したのは、トランプ氏と共に同行した、ボルトン氏やポンペイオ氏を含むトランプ氏のチームが、ジョンウン氏から提示された取り引きに、最終的に強く反対したからだと思います。私は間違いなくトランプ氏は取り引きを成立させたかったと思いますが、取り引きを成立させてアメリカに帰国したら、議会やマスコミから激しく批判されるかもしれない、それならば取り引きをしないほうがいい、という結論に達したのでしょう。ジョンウン氏はトランプ氏を引きつけることはできたかもしれませんが、ハノイでアメリカのチームを納得させられませんでした」

 

ユン氏の言うチームの一員だったボルトン氏は、ハノイで行われた交渉を次のように振り返っている。

ボルトン氏

「交渉を成功させるために絶対に必要なこと、それは北朝鮮が核開発プログラムを放棄するという明確な証拠でした。彼らは何度も何度も部分的に譲歩し、経済的な利益を得て、核計画の解体を翻してきたのです。このやり方で私たちは何度も試され、ことごとく失敗してきました。北朝鮮は、核開発プログラムを表面的に放棄すれば、経済制裁は緩和され、核兵器の開発は基本的に自由に続けられるという、これまでと似たようなディール(取り引き)を、トランプ氏とできると考えていたのでしょう。そして、私たちが同じ手口に引っかからなかったことに、彼は非常に失望し、動揺したかもしれません」

  

一方、北朝鮮は2回目の米朝首脳会談が物別れに終わった原因について、「われわれに対して一方的に武装解除するようこだわった。全く実現不可能なやり方だ」として、アメリカの立場は一方的だと批判した。

 

パンムンジョム(板門店)での会談

ジョンウン氏からトランプ氏に次の書簡が送られたのは、2回目の会談から4か月後のことだった。

 


2019年6月10日

大統領閣下

6月12日にシンガポールで行われた私たちの会談―世界中の注目を集め、私の記憶にいまだ消えない刻印を残した歴史的に重要な瞬間―から1周年を間近に控え、また、数日後に迫ったあなたの誕生日を祝うために、この手紙を書きました。閣下にこのような手紙を送ることができ、大変光栄です。

(中略)

また、私たちの間の深く特別な友情は、私たちが目指す発展を実現する過程で直面するすべてのハードルをクリアし、朝米関係の進展を導く魔法の力となると信じています。


 

トランプ氏は2日後の6月12日にすぐさま返事を書いた。そして同月末、G20サミットで訪れていた日本で、トランプ氏は驚きのツイートをする。

29日午前8時前、「もし北朝鮮のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長がこのツイートを見れば、南北の軍事境界線でキム委員長と会い、あいさつと握手をするだろう」と投稿。同日、ジョンウン氏に書簡を送っていた。

 


2019年6月29日

親愛なるキム委員長

ご覧になったかもしれませんが、私はきょう、日本の大阪から大韓民国に旅しており、あなたの御近所にまいりますので、明日の午後、(韓国と北朝鮮の)境界線にあなたを御招待し、お目にかかりたいと思います。私は午後には非武装地帯の近くに行きますので、3時半に軍事境界線の南側にある平和会館で会談することを提案します。具体的な議題はありませんが、近所にまいりますので、またお会いできたら幸いです。では、明日お会いするのを楽しみにしています!

敬具

ドナルド・トランプ


翌30日に、南北の軍事境界線パンムンジョム(板門店)で、2人は面会。45分間の会談を行った。会談後トランプ氏は報道陣からの「キム委員長をアメリカに招待したのか」という質問に対し、「そうだ。物事がうまく進めば、いずれ、そうなるだろう」と話し、成果を強調した。

トランプ氏は、ジョンウン氏に会談当日に1通、さらに2日後にもう1通、軍事境界線での写真22枚を同封した書簡を送ったという。

しかし、これらの書簡の中に、北朝鮮が求めてきた非核化の見返りについての具体的な記述はなかった。トランプ氏は書簡のなかで、北朝鮮には「繁栄」が待っていると繰り返すのみだった。ジョンウン氏からの返答はその1カ月後だった。  

 

27通目の手紙 ジョンウン氏は

27通目の書簡を受け取った翌日、トランプ氏は報道陣からの問いかけに「北朝鮮のキム委員長から美しい書簡を受け取った。とても前向きなものだった」と答えている。しかし、実際のところその内容は、これまでのものからは一変していた。この時期行われていたアメリカと韓国の合同軍事演習に触れ、次のように記している。

 


2019年8月5日

閣下

6月30日、敵対と対立の象徴である南北軍事境界線で有意義な再会を果たしてから30日以上が経ちました。

(中略)

数週間後に両国の専門家が直接会合し、閣下と私が今後行うべき仕事について話し合うべきだと30日前に閣下と約束したことを私ははっきりと覚えています。しかし、現在の環境は、あの日とは異なります。

私は、挑発的な合同軍事演習は中止されるか、延期され、その後に両国の実務者協議が行われ、そこで重要な事柄を引続き話し合うことになると考えていました。朝鮮半島南部で行われている合同軍事演習は、誰に対して行われ、誰を阻止し、誰を倒し、誰を攻撃することを目的としているのでしょうか?

(中略)

私や我が人民は、現在のあなた方と南朝鮮当局の決断や行動を理解できません。あなた方が「ミサイルの脅威」や「核問題」という頭の痛い問題を考えている最も大きな原因は、私たちの安全を脅かすあなた方と南朝鮮軍の軍事行動です。これらの要素が排除されない限り、異なる結果は望めません。

私は明らかに気分を害しており、この気持ちをあなたに隠すつもりはありません。本当に、極めて不愉快です。


  

ボルトン氏

「(ジョンウン氏からの書簡は)トランプ氏を挑発するための言葉だったのです。『側近たちはあなたに真実を話していない。合同演習を中止していない。私が気分を害したので、あなたは合同演習を中止する必要がある』と。当然、トランプ氏はジョンウン氏が自分に腹を立てたことを私たちに怒りました」

 

トランプ氏からの叱責を受けたボルトン氏。約1か月後に大統領補佐官を解任された。当事者として臨んだ米朝首脳会談、そしてトップ同士の書簡のやり取りを、ボルトン氏は次のように振り返った。

  

ボルトン氏

「北朝鮮はトランプ氏にどう対処するか、かなり洗練されたゲームプランを持っていたと思います。そして、それを懸命に実行しようとしました。しかし北朝鮮は、私や他の高官たちが、トランプ氏にこう耳打ちしていたとわかったと思います。『これらの手紙に書かれていることは信用できません。北朝鮮が核兵器プログラムを解体するという主張も信用できないし、その約束を履行しているかどうか検証しなければならない』と」

  

今回確認できた往復書簡は、この27通目が最後だ。北朝鮮の非核化は進展しないまま現在に至るまで、米朝間の交渉は行き詰まっている。

今回、書簡の分析をしたジョセフ・ユン氏は、ジョンウン氏からの27通目の書簡の次の記述に注目している。

 


2019年8月5日

私はあなたとの信頼関係を維持するために、責任をもって、できるかぎりのことをしました。しかし、それに対し閣下は何をされましたか?私とあなたが会ってから何が変わったと我が人民に説明すればいいのでしょうか?わが国の対外環境は改善しましたか?もしもアメリカが、圧力と対話によって我が国に対する政策に成功したと自己評価しているのであれば、それは大きな間違いです。


 

ユン氏

「アメリカと取り引きを行うことがいかに困難か学んだのです。ジョンウン氏にとっての教訓は、我々はもっと強くなる必要がある』『経済的にも軍事的にも強くなる必要がある』ということだったのです」

 

そのうえで、ユン氏は、北朝鮮の非核化についてアプローチはまだある、つまり対話をあきらめてはいけないと語る。

ユン氏

「北朝鮮が、完全に非核化する意志はないという点については、ボルトン氏と同感です。だからといってアメリカ、韓国、日本、そして国際社会が北朝鮮の非核化をあきらめるべきということではありません。過去の兆候として、私たちが話し合っている限り、北朝鮮はミサイル発射、特にICBMの発射や核実験のような挑発的な行動にでることはないでしょう。このままでは2017年のような危機的な状況に戻ってしまいます。ですから、アメリカ政府は北朝鮮と対話するために働きかけるべきです。北朝鮮はバイデン大統領から1通の手紙と、何らかの働きかけを期待しているのです。短期間で北朝鮮が完全に非核化するなどと考えるのは、現実的ではありません。その最終的な目標に到達するための第一歩は、対話を通じて、北朝鮮の現状と、彼らが何を望んでいるかを知ること。話し合いがなければ、何も始まりません」

 

27通の書簡 元CIAの分析

もうひとり、私たちが往復書簡の見解を聞きたかったのが元CIA(中央情報局)のロバート・カーリン氏だ。カーリン氏もまた、書簡の重要性に早くから気づき、独自に書簡を入手し分析を続けていたからだ。

カーリン氏は、ジョンウン氏の考えをどうとらえているのか。今回、私たちの書面インタビューに回答した。カーリン氏は、ある記述に注目した。それは1回目の会談の後、2018年9月6日にジョンウン氏からトランプ氏に送られた書簡に記されていたものだ。


2018年9月6日

シンガポール・サミットで署名された、歴史的な共同声明を忠実に遂行するという私の決意は変わっていません。また、我々が前もって取った措置に加えて、核兵器研究所や衛星発射地区の完全閉鎖、核物質生産施設の不可逆的閉鎖など、段階的に一つずつ意味のある措置を取っていく意向です。しかし、たとえほんの少しであろうとも周囲の状況が変化しなければ、私たちの努力が無駄でなかったと証明することができず、この勢いを持続させることはできません。


 

この文章から、ジョンウン氏が「非核化」という問題に対してどのような姿勢で臨もうとしていたかが、読み取れるとカーリン氏は言う。

 

カーリン氏

「2018年9月6日の手紙は、彼が目前に迫った会談に前もって何を求めているのかを、はっきりと提示していると同時に、今後何が必要となるか予測して提示しているという点が、意味深いと思います。ジョンウン氏は何度か非核化の話題をあげ、次回の会談で協議する意向だとつづっています。9月6日の手紙では、段階的に実行できることとして、特定のステップをあげています。もちろん、彼はどの段階で、どのようなステップをとり、最終的な結末が何なのかは詳しく説明していません。しかし、この『段階的なアプローチ』でジョンウン氏は、何かを得れば何かを与えるという印象を与えようとしており、これは明らかに北朝鮮の思考の中心をなすもので、核問題が進展しうる唯一のチャンスでした」

 

そしてカーリン氏は、米朝のトップが交わした27通の書簡という、過去にない資料の歴史的価値についてこう語った。

カーリン氏

「この一連の手紙のやりとりは、2018~19年の歴史を理解するうえで不可欠な材料です。もちろん、すべての手紙が重要だというわけではありません。しかしながら、(これらの手紙は)北朝鮮の最有力者であるジョンウン氏の視点を明確に示しており、内容はより注意深く研究・分析されるべきです。当時、ワシントンは(この一連の手紙を)深く受け止めず、多数のオブザーバー(北朝鮮専門家やアナリスト)による軽視の傾向は、今も続いています。これはトランプ政権下だけの問題ではありません。長年にわたって、北朝鮮政府の公式書簡と、ピョンヤンの公式文書や公式発言を総合的、及び効果的に解析・検討・分析することにワシントンは苦闘してきました。そして、トランプ氏の手紙に対するワシントンの反応よりも、ピョンヤンがトランプ氏の手紙をどのように受け止めたのか、という側面について、より注目すべきだと思います」

 

北朝鮮に世界はどう向き合う

バイデン政権は、対北朝鮮政策を考えるうえで、これらの往復書簡に目を通したと言われている。そして、外交を通じて非核化の実現を目指す方針を示し、前提条件を付けずに対話の再開に応じるように北朝鮮に呼びかけた。

これに対し、ジョンウン氏は、去年1月の党大会でアメリカを「最大の敵」と呼び、米韓合同軍事演習の中止など「敵視政策」の撤回を改めて求めるとともに、「国防5か年計画」を打ち出して核・ミサイル開発を強化する姿勢を鮮明にした。

そしていま、ICBM=大陸間弾道ミサイルの発射実験や核実験の中止についての見直しを検討するという動きも出ている。

 アメリカは、日本は、世界は、北朝鮮にどう向き合うか。最後に、ボルトン氏とユン氏の言葉を紹介したい。

 

ボルトン氏

「重要なのは、中国が本気になる必要があるということです。核開発の状況や北朝鮮の脅威について、中国に責任を負わせる必要があります。私は『あなた(中国)が北朝鮮に核兵器を持たせたくないと言うなら、それを実現する能力を持っているのも、あなたたちだけです。もし本気で北朝鮮の核武装が北東アジアの平和と安全に対する脅威だと思うなら、それを実現してください』と、(日本やアメリカなど各国の指導者は)言う必要があると思います」

 

ユン氏

「私が思うに、北朝鮮との外交に関しては、(日本は)韓国やアメリカと連携するべきです。私は、韓国やアメリカが北朝鮮との関係を進展させる前に日本が北朝鮮との関係を進展させることは難しいと思います。私が最も心配しているのは、今の『にらみ合い・行き詰まり』の状態が長引けば長引くほど、長距離ミサイル実験や…、もしかしたら核実験といった、『深刻な挑発』と呼ばれる事態が起こる可能性が高まります。極めて不安定な状況が再び起きる前に、ワシントンは北朝鮮にもっと注意を払うべきだと思います」


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