“すでに若者は声を上げている” 爆発的に広がるオンライン署名と政治への関心

NHK
2021年11月1日 午後4:55 公開

10月31日に投票が行われた第49回衆議院選挙。選挙をめぐっては若年層の投票率の低さが長年の課題となってきました(今回の結果は近日中に発表される見込み)。

しかし取材を進めると、コロナ禍で“オンライン署名”が急拡大するなど、若い世代で政治への関心が高まっているというデータも見つかりました。

(クロ現プラス「衆院選2021」取材班)

クロ現プラス「コロナ禍の政治決戦 ~衆院選 有権者の判断は 若者は~」詳細はこちら

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オンライン署名活動の伸び率 “世界一”

“change”の真っ赤な文字。

ニュースやSNSで見かけた方も少なくないのではないでしょうか。「Change.org(チェンジ・ドット・オーグ)」は2007年にアメリカで設立されたオンライン署名サイトで、日本語版は2012年から開設されています。

無料でキャンペーンを立ち上げられ、名前とメールアドレスさえ登録すれば誰でもワンクリックで署名できることから、徐々に利用者を増やしてきました。

このオンライン署名が去年、日本で爆発的に広がっていたのです。前年比2.5倍となる2,773件のキャンペーンが立ち上がり、その伸び率は世界一に。

「声を上げづらい」「変化を嫌う」などとも言われてきた日本社会に何が起きているのか。日本語版スタッフの加藤悠二さんは、「コロナ禍の状況が非常に困難で、“この困難を解決しないと自分の生活にも関わってくる”という強い危機意識を持っている人が増えた結果ではないか」と指摘します。

Change.orgキャンペーン・サポーター 加藤悠二さん

加藤悠二さん

「コロナ禍で起きた自分の生活の変化に対して“声を上げたい”という気持ちと、コロナ禍で外に出ることができない社会的な状況が、オンライン署名という手段ととても相性がよかったと考えています。

また日本は「空気を読む文化」や「今までそうやってきたから」という考え方が根強く染みついていると思いますが、そうした風土の中でも、リアルな人間関係から切り離されたオンラインプラットフォーム上では、自分の本音や現状を変えたいという気持ちを素直に出しやすかったのかもしれません。

おかしいと感じたことをそのままにしないで、自分たちの力で社会を変えていけると信じる方々が増えているように感じます」

 高校生が立ち上げたキャンペーンも200以上

このオンライン署名急拡大のけん引役となってきたのが、実はこれまで「政治への関心が低い」と言われてきた若い世代でした。

去年、新型コロナウイルスの感染が拡大していく中、現役高校生たちが「命より勉強が大事ですか?」と休校延長を求める署名など200件以上のキャンペーンを立ち上げました。

さらに東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長の女性蔑視と取れる発言をめぐっては、20代の女性グループが抗議の署名活動を立ち上げ、15万人が署名するなど大きな注目を集めました。

実際にオンライン署名によって行政が動き、キャンペーンが成功した事例も出てきました。

トランスジェンダーの高校生が「毎日、血へどを吐く思いでスカートを履いてきた。制服を選択制に!」と立ち上げたキャンペーンには11,687人の署名が寄せられました。その影響もあり、東京都江戸川区の2つの学校で性別に関わりなく制服が選択できるようになりました。

(Change.orgホームページより)

加藤悠二さん

「2020年は本当に多くの若者がオンライン署名を使って声をあげ、数多くの変化をもたらす現場に立ち会うことができたと思っています。

高校生たちの間ではSNSでこうした署名をシェアすることで、同じ年代の人が『自分も思っていたことを、こうした形で声をあげているんだ』という姿を見ることにつながり、『じゃあ自分もできるかも』という意欲につながった側面もあるのではと思っています。

日本が世界で最もキャンペーンの増加率が高かった主な要因は、若者たちにあると考えています」

参加者の84%が「投票に行く」「関心がある」

(Change.orgがまとめた数値)

政治や行政の現場で具体的な変化を生み出すようになってきたオンライン署名。参加した人たちは、今回の衆議院選挙にどう臨んだのでしょうか。

Change.orgが署名参加者1400人に調査したところ、84%が「投票に行く」「選挙権はないが、関心がある」と回答しました

ㅤ(オンライン署名を立ち上げた若者の交流会)

まいかさん(子どもの権利教育を求める21歳)

「今までは私ひとりが投票したところで別に変わらないと思っていたのが、ひとりひとりの声ってすごく大事なんだとオンライン署名で実感したので、選挙への意識は結構変わりました」

あいこさん(裸を強制しない学校検診を求める32歳)

「これまで選挙に進んで行くこともなかったし、“国民の皆さんが選んだ代表がきっと良きに計らってくれる”みたいな感覚があったのですが、自分のキャンペーンに近い議員さんを選びたい、と選挙に対する関心は大きく高まりました」

オンライン署名活動から政治への関心を深める若者たち。

加藤さんは、1つのテーマのオンライン署名をきっかけに、若者たちがより広い社会課題に目を向ける姿を目の当たりにしてきました。

加藤悠二さん

「例えば『生理』1つとっても経済格差や女性の就労環境の問題など、いろいろなイシューとつながっていることがどんどん見えてくる。そうしたアクションを通じて政治的な関心を強くしていく面はあるんじゃないかと思っています。

また、賛同者を1人増やすのがとても大変だと実感し、『署名を集める経験を通じて私たちの持っている“1票”がとっても大きな意味があるんだ』、『選挙で投票することに大きな価値があるんだ』との実感につながっているんじゃないかと感じています」

自分の関心と選挙を結びつける試みも

(「#みんなの生理」まとめ)

今回の衆院選を、オンライン署名で求める政策実現の一歩にしようと動いた人たちもいます。

「生理用品を軽減税率の対象にしてください!」というキャンペーンで7万6千人のオンライン署名(2021年10月31日時点)を集めた任意団体「#みんなの生理」もその一つです。

団体では、選挙公約で各政党が掲げる“生理に関する政策”を比較し、このテーマに関心を持つ人たちの投票の参考にして欲しいと発信しました。“生理”を選挙の争点にすることで、オンライン署名で目指す政策実現の一歩になったという実感があるといいます。

「#みんなの生理」共同代表 谷口歩実さん

「今の政治を担っている人のほとんどはシニアの男性で、生理を経験していない人が多く、生理は主要な議題になりにくいトピックだと思います。だから“生理”が選挙の争点になっていることを私たち自身が示そうと思いました。

私が深夜1人で立ち上げたオンライン署名が、こんなふうに各党の選挙公約に入るくらいになったのはうれしかったし、選挙公約に国民への約束事として盛り込まれたことは、今後キャンペーンを進める上でも役に立つかなと思っています」

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“若者の危機感に、大人は鈍感すぎないか?”

若者を中心にオンライン署名の可能性が広がる一方で、加藤さんは、そうした動きを歓迎するだけでなく、若者が声をあげざるを得ない状況に対して社会はもっと目を向けるべきだと指摘します。

加藤悠二さん

「若者たちの危機感というものに、あまりにも鈍感な大人が多いことがむしろ問題じゃないかなと思います。日本はまだまだ若者の声をきちんと聞く文化や環境ができていないと感じます。

いろいろな調査などで、すでに若者たちは声を上げています。ところが都合のいい声や都合のいい署名ばかりを受け入れているような政治は意味がありません。若者が声をあげていることを褒めるだけではなくて、ちゃんとそれを聞き入れ、それに答える準備があるのかと、社会の側で問い直していく必要があると思います。

若い人たちが声をあげていることにきちんと応えていく、その義務が若者の声を聞く側にあるのではないでしょうか」

加藤さんの問いかけに、今回の選挙で有権者の付託を受けた政治家たちは、どう応えていくのでしょうか。そして、声を上げ始めた若い世代から、上の世代は何を学んでいけるでしょうか。

選挙の“投票率”からだけでは見えない若者の姿に真摯に向き合うことが、政治と若者との溝を埋めるために必要だと感じました。

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