私がフリーランスを目指したワケ "フリーランス養成講座"参加者たちに聞いてみた

NHK
2022年5月18日 午後3:33 公開

推計500万人にものぼるといわれる「フリーランス」。

なぜいまフリーランスになる人が増えているのか?私たちがその背景を探ろうと訪ねたのは、“フリーランスの聖地” と一部で呼ばれている、千葉県郊外のとあるスペース。ここでは5年ほど前から「フリーランスを目指す人のための養成講座」が開かれていて、これまでに400人以上が参加するほどの人気ぶりです。

しかも、受講生の多くは「元正社員」。ひとりひとりの話に耳を傾けると、「正社員として働き続けることへの不安」がフリーランスという働き方を選ぶ理由になっている現実も見えてきました。     

(取材:「クローズアップ現代」制作班)


 

関連番組:

5月18日放送 クローズアップ現代「自由な仕事というけれど フリーランス急増の裏で」

番組詳細&放送後1週間は見逃し配信も(~5月25日まで)

 

人気の“フリーランス養成講座”

フリーランスの養成講座が行われる コワーキングスペース「まるも」(千葉・富津)

 

千葉県富津市の港町にたたずむ、コワーキングスペース「まるも」。普段はフリーランスとして働く人々のオフィスとして利用されています。その運営会社の代表が5年ほど前に立ち上げたのが「ワークキャリア」という、フリーランスを目指す人たちのための養成講座です。

期間は4週間。シェアハウスに泊まり込む“合宿スタイル”で行われます。費用は家賃込みで20万円弱からで、平日は夕食もついてきます。定期的に開催される講座には、全国各地から、毎回10人前後が集まり、これまでの受講生は400人を超えます。

なぜ“安定した”正社員として働いていた人が、フリーランスを目指すようになったのか。私たちは養成講座を取材させてもらうことにしました。

 

 

講座の参加者の多くは「元正社員」

 

4週間にわたる養成講座の一日は、朝9時の座学から始まります。

講師は、既にフリーランスとして活躍している人たちです。参加する人たちは、「webデザイン」「プログラミング」「動画編集」など、パソコンを使って仕事を得るためのスキルに加え、「事業計画の立て方」など、フリーランスとして独立して働くための心構えを学ぶことができます。

 

フリーランス養成講座「ワークキャリア」 平原正浩さん

 

講師のひとりで、自身も元正社員だったという平原正浩さん(29・講師歴1年半)は、今回の講座に参加していた受講生8人のうち、7人が元正社員だと教えてくれました。

 

――最近の受講生の傾向は?

平原さん:

「過去に比べると、けっこう大手の企業に勤められていた方とか、公務員の方なんかも…。正社員じゃなくてもお金を稼げる、生きていけるんだというような考え方にはなってきているのかなというような気はします。

ある程度会社に勤められて、この働き方で本当にいいのかなとか悩んでいる方もいますし、将来を見据えて考え直す方もいます。終身雇用で、新卒で入って定年まで勤めようという考え方を持っている人はだいぶ少ないと思います」

 

 

午後から夕方5時にかけての講座のカリキュラムは、受講生みずから仕事を受注し、実際に仕事を経験しながらスキルを磨く「ワークタイム」になります。

受講者がまずアクセスするのは、フリーランスとして仕事をしたい場合に、仕事を発注したい企業や個人とつながることができるサイトです。こうしたサイトは〝プラットフォーム“とよばれ、数を増やしています。

受講生たちは、プラットフォームを通じて、最初は単発(1回限り)の仕事を請け負います。その発注者からの信用を得られれば、今後の仕事の受注にもつながるのです。

 

中でも、受講生の多くが受注していたのが、webライティング(ウェブサイト用の記事を書く仕事)でした。記事の内容は、「健康」「グルメ」「化粧品」「脱毛サロン」など、企業側の依頼に応じて様々なテーマの記事を書くこと。こうした仕事は1文字1円の単価から募集が出ていて、未経験であっても、比較的、仕事を受けることができます。

 

受講生の中には、「webライティングの仕事を受け続ければ、生活していけるだけの収入を得られるだろう」とフリーランスとなった理由を話す人も多くいました。プラットフォームの登場で、フリーランスとして働く際の心理的なハードルが大きく下がっていることがうかがえました。

 

 

正社員の立場でも・・・「将来安泰ではない」

元生命保険会社勤務 川田恵里さん

 

ただ、受講生たちが、正社員として働くことを辞めてフリーランスを選ぶ背景には、「将来への不安」が大きく関係していることも見えてきました。

 「正社員を辞めたのは、コロナがきっかけだった」と打ち明けてくれたのは、受講生の1人で、元大手生命保険会社勤務の川田恵里さん(32)です。

 

川田さん:

「これはジャケットですね。週に2回、全員でミーティングがあるんですけど。『事務員もジャケット着用』とかあったので着てました。」

  

 

大手生命保険会社で、事務職として営業マンの補佐をしていた川田さん。最初は派遣社員として働き始め、雇用が不安定で心配だったといいます。それでも、ひたむきに仕事へ取り組むうちに頑張りが認められ、契約社員に採用されました。2年半後には、念願だった正社員の試験に受かり、将来の不安は払拭(ふっしょく)できたと感じていました。

しかし、コロナ禍になると考え方を改めたといいます。

 

川田さん:

「失業者の方が増えているっていうのもテレビを見ても感じたし、正社員でもコロナによって“急に職を失う”っていうことを体験している方がたくさんいるんだなっていうのは感じましたね」

 

こうした中、川田さんの職場の雰囲気も変わっていったといいます。

 

川田さん:

「コロナによって、事務職が出勤したとしても営業の方が出社されないので、出勤できる回数が減ったり。ずっと頑張っていないと、自分の居場所は…肩身が狭くなって、無くなるんじゃないかっていう危機感は常にありました」

 

川田さんは、大学卒業後、10年以上にわたって事務職でキャリアを積んできました。しかし、ここ数年、同じ仕事内容でスキルを磨こうにも、「伸びしろがないのではないか」と危機感を感じるようになっていったといいます。会社から求め続けられるには、新たなスキルを身につけなくてはいけないと考えた川田さんは、部下をマネージメントする管理職の立場へできる限り早く昇進することを考えるようになりました。

しかし、社内の制度が変更され、管理職になるためには数年におよぶ期間が設けられることになり、管理職への道は狭き門となりました。コロナ禍で仕事が一時少なくなった不安も加わり、このまま管理職になれなければ、会社での居場所を失うのではないかという焦りは抑えきれないものになったといいます。

 

川田さん:

「(管理職の昇進に)何年かかかるっていう事に、自分の中では『もう、そんなに何年も待てないな』っていう気持ちがあって。そこで頑張るっていうのは、人生の中で『無駄な時間かな』って私は自分で判断して。辞めるっていう選択に至りましたね」

 

必死の思いでつかんだ正社員という立場。しかし、「社内にいてはスキルを伸ばせず、いつ会社から求められなくなるか分からない」という不安が、正社員として働き続けることをやめる1つの要因となったのです。

 

 

正社員しかできないと“やばいな”と感じた

上村沙紀子さん(ペンネーム きのコさん)

 

“会社の将来”に対して不安を抱き、正社員からフリーランスを目指す参加者もいました。

大手事務機器メーカーで13年間、正社員として働いていた上村沙紀子さん(ペンネーム きのコさん・38)です。

 

きのコさん:

「いま書いているのはサバイバルゲームのネット記事です」

 

去年、会社を退職し、フリーランスのWebライターを目指しています。講座に参加した理由は“正社員という立場に安心できなくなったから”だと話してくれました。

 

きのコさん:

「正社員の稼ぎ口一つだけだと、会社が倒れるかもしれない時に路頭に迷うという気がして…」

 

2008年、国立大学の大学院を修了したきのコさん。「日本のものづくりに貢献したい」と製造業に絞って就職活動を行い、第一志望の売り上げ1兆円を超える大手事務機器メーカーに就職しました。大学の同級生たちも、次々と大手企業に正社員として就職。自分も「安定というレール」に乗れたことが嬉しかったといいます。

事務機器メーカーで働いていたころのきのコさん

 

きのコさん:

「いい大学を出て、いい会社に入るのが勝ち組のイメージでしたね。それが当たり前で、それ以外の道は異端だ、みたいな感覚はあったかもしれないです。安定していて、いいお給料がもらえて、仕事が楽しくて。一生、この会社にいると言っていましたね。愛社精神は人一倍強かったと思います」

 

「営業」や「マーケティング」など、複数の部署を経験し、社内で順調にキャリアを積み重ねていたきのコさん。面倒見のいい上司や優秀な同僚に囲まれ、仕事にもやりがいを感じていました。

しかし、転機は突然訪れました。

リーマンショックが起き、思い描いていた「安定」が音を立てて崩れていったといいます。きのコさんは当時の集合写真を見せて、私たちに教えてくれました。

 

きのコさん:

「この人も、この人も辞めましたね。この先輩もいらっしゃらなくなりました・・・」

 

 

勤めていた大手事務機器メーカーの売り上げは激減。

「セカンドキャリア支援」という名目で事実上の〝退職勧奨“を行うようになり、中高年層の正社員を減らす一方で、比較的給料の低い30代以下の若い世代や中途採用の募集を拡大したといいます。

  

そして、ある時、思いがけない光景を目の当たりにしたと話してくれました。

  

きのコさん:

「開発部門の50代の方々が20~30人ぐらい、突然、営業部門に来たことがあったんです。毎日、飛び込み営業をやらされて、月に1人~2人とか辞めていくんです。辞めた方のデスクの上に、小さなくす玉が置かれていて『おめでとう』と書いてありました。圧力というか、辞めざるを得ない状況にされているというふうには見えました」

 

“将来、自分もそうなるかもしれない”という不安を抱くようになったきのコさん。去年、会社を辞める決定的な出来事がありました。コロナ禍で売り上げが低迷する会社が、グループ企業に吸収合併されたのです。社名も変更となり、勤め続ける意欲を失ったといいます。

 

「社名が変わって、何か自分のアイデンティティーがなくなった感じだった――」

そんな時にこの講座の存在を知り、一念発起し、会社を辞めてフリーランスを目指すことを決めました。今後は、正社員という枠に縛られず、働いていきたいと考えています。

 

 

きのコさん:

「正社員しかできないというのは、会社に万が一のことがあった場合に稼げなくなる。転職も正社員から正社員の転職しかしていけないと、選択肢としては狭いし、リスクだと思う。正社員もできて、会社も作れて、フリーランスもできる。バイトでも大丈夫というふうに、いろんな選択肢を持っていられるほうが安心だと思います」

 

 

「自分の働き方を客観視」志望者増加の背景は

 法政大学 沼田雅之教授  

 

安定した正社員の仕事を辞めてでも、フリーランスを目指す“養成講座”の参加者たち。なぜ、こうした働き方を望む人が増えているのでしょうか。

労働法が専門で働き方の問題に詳しい法政大学・沼田雅之教授は、フリーランスのためのプラットフォームの発展やSNSの普及が進み、フリーランスという働き方が広く知られたことで、そのメリットを感じやすくなったからではないかと指摘します。

 

沼田教授:

「インターネット技術の普及で色々な情報が入ってくるようになり、企業での働き方を客観視することができるようになりました。今までは、“企業での働き方”と“フリーランス”を比べると、前者は『レールに乗る生き方』で、後者は『リスクの大きいもう1つの生き方』と捉えられていて、2つの働き方の間には差があったと思います。しかし、フリーランスという働き方がリアルにイメージできるようになると、『このまま企業に雇用されていることが、本当に自分の人生にとっていいことなのか?』と感じるようになり、もっと複線的な生き方に気づくのだと思います」

 

その背景には、企業で正社員として働く魅力が薄れてきたことがあるといいます。

 

沼田教授:

「正社員のメリットが、特に若い人たちには、あまり訴求力を持たなくなりました。例えば、異動や配置転換をネガティブに捉えている人が多いです。ここまで経験を積んできたのに全く違うものを経験させるのは、不利益にしか映らないんですよね。キャリアイメージが抱けない。これまでは、それを耐えていけば、良い思いができるという『成功モデル』があったと思うんですけど、今は中高年層も途中で退職勧奨されるなど、その会社にずっといられる保証は誰もないと思っています。すると、忠誠を尽くす必要はないと感じる。自分の人生の『リスクヘッジ』のために転職やフリーランスを見据えながら生きることにつながるんです」

 

 

「スキル向上のためのネットワークが大切」

 

企業に縛られないという生き方に希望を見出す人が増える一方、沼田教授はフリーランスという働き方にも、「人的ネットワーク」が欠かせないといいます。

 

沼田教授:

「フリーランスは孤独ですし、現実的に“仕事を取る”チャンネルは、やはり人と人のつながりが主なので、ある程度の横のつながりがないと仕事を獲得することができない現実もあります。フリーランスが集まるコワーキングスペースなどは、あくまで組織ではなく、緩やかな横の関係の中で築いているものだと思いますが、もう少しフリーランスという働き方の将来を考えると、ある程度組織化された形で技術などがシェアされるような『仕組み』が必要だと思います。

例えば、ワシントン州のIT関係の労働組合では、毎週、組合員の1人が講師となり、他の組合員に対して、今のプログラムの技術についての情報をシェアをする取り組みが行われています。フリーランスの人たちにも、スキルを高めるための『横のつながり』を強化していくことが大切になると思います」

 

さらに、フリーランスという働き方自体についての「教育」も重要だと指摘します。

 

沼田教授:

「例えば、いまの大学教育では、正社員のような雇用を選択することを前提としていると思います。働き方にはいろんな道があり、フリーランスも含めて『こういうリスクがあるけど、こういうようなメリットがある』という色々なキャリアイメージを教えていくことも肝要です」

 

 


取材を通して

 

フリーランスを目指す人たちから見えてきたのは、正社員の“安定”というイメージが崩れ始め、魅力を感じなくなる人が増えている現実でした。バブル崩壊以降、金融危機やリーマンショック、新型コロナと、私たちは何度も経済危機を経験してきました。特に幼少期から日本経済の低迷を目の当たりにし、非正規雇用が増え続ける社会で生きてきた若い世代にとっては、「正社員になれば安泰だ」という価値観はすでに古いものなのかもしれません。

そして、彼らに共通していたのは「スキルがないと生きられない」「競争に勝つことができない」という“焦り”でした。これは経済大国という地位が揺らぎ、国際競争力が低下していると指摘される日本の置かれた現状とリンクしているように感じました。“正社員からフリーランスへの動き”は、水面下で起きている日本の変化を表しているのかもしれません。

(「クローズアップ現代」制作班)


 

 

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