「報酬未払い」「契約解除」相次ぐ『フリーランス』のトラブル 相談窓口に届くSOS

NHK
2022年5月18日 午後3:32 公開

「はい、『フリーランス・トラブル110番』でございます。…報酬の未払いですね、かしこまりました」

 

鳴り止まない電話のコール音――

ここは、弁護士たちが相談に応じる“フリーランスの相談窓口”。開設から1年半で6000件近い相談が寄せられています。

自由な働き方で人気を集め、今や推計500万人に上るとも言われる「フリーランス」。なぜ、相談が殺到しているのか。トラブルにあった場合の相談窓口の情報とあわせてお伝えします。

 

(取材:「クローズアップ現代」制作班)


 

関連番組:

5月18日放送 クローズアップ現代「自由な仕事というけれど フリーランス急増の裏で」

番組詳細&放送後1週間は見逃し配信も(~5月25日まで)

 

※本文の最後に相談窓口の連絡先を掲載しています

 

 

フリーランスの“110番”

「フリーランス・トラブル110番」が入る事務所(東京・新宿区)

 

東京・新宿区にある弁護士事務所の1室。厚生労働省などから委託を受けた「第二東京弁護士会」の弁護士たちが、企業に雇用されない「フリーランス」を対象に、電話やメールで相談に応じています。

これまで、フリーランスを対象と明確に定めた相談窓口はありませんでしたが、「フリーランス・トラブル110番」の開設以来、問い合わせが殺到。この1年半で6000件近い相談が寄せられていると言います。

 

 

ITや運送関係…さまざまな業種から寄せられる相談

取材に訪れたこの日も、配送業や建設業、ネイリスト…さまざまな業種のフリーランスから電話が相次ぎました。電話の合間に、窓口で対応にあたるスタッフに話を聞きました。

 

――電話は鳴り止まないですか?

 

スタッフ:

「日によって波がありますが、平均して1日あたり2人の相談員で20~30近くは電話の応対をしているんじゃないですかね」

 

――どういった業種の相談が多いですか。

 

スタッフ:

「運送関係が多いです。あとはIT関係、webデザイン。フードデリバリーや、ライターからも多いです」

 

窓口の開設から1年がたった去年11月末時点では、業種別でみると、web制作を含む「システム開発」が最も多く(573人)、次いで「運送関係」(557人)、「デザイン関係」(320人)からの相談があったということです。

 

 

ただ取材にあたる中で、相談に応じる弁護士たちは、想像以上にさまざまな職種にフリーランスという働き方が広がっていると感じると話します。

3日間、相談現場に密着すると、上記のような業種以外にもホテルのフロントや医療事務、造園業など・・・、私たちが想像していなかった職種からも相談が寄せられていました。

そして、それぞれの方に弁護士から私たちの取材の主旨を話してもらい取材協力を依頼すると、ほとんどの人たちが、現状を聞いて欲しい、訴えて欲しいと、取材を許可してくれました。

これだけ幅広い分野で、現状に憤り、やり場のない気持ちを抱えている人がいるという現実がひしひしと伝わってきました。

 

 

トラブル内容の多くは「報酬未払い」

「フリーランス・トラブル110番」の相談記録表

 

寄せられる相談の多くは働き方や契約条件で、不利な立場を強いられているという訴えです。

 

●「仕事が完了したのに、報酬が未払いだった」

●「目標達成ができていないという理由で“報酬が出せない”と言われた」

●「納品してから『求めた水準ではない』と言われ、報酬を払ってもらえない」

●「配送の業務委託をしているが過重労働で体調を崩したため、契約を解除したいがさせてもらえない」

(実際に寄せられた相談)

 

国は去年3月、フリーランスとして働く人を保護するためのガイドラインを策定しました。この中では、仕事を発注する事業者に対して、正当な理由がないのに報酬を著しく低く設定したり、支払いを遅れさせたりするような行為などは、独占禁止法の優越的な地位の濫用にあたると明記しています。

 

しかし、こうした状況は今も大きく変わっていません。去年11月時点での相談内容で最も多かったのが、全体の20%に上る802件で「報酬の不払い」です。また、「契約条件が不明確」が461件、「フリーランス側からの解約を認めてくれない」が397件、「報酬の一方的な減額」が396件などと、企業などからの一方的な扱いに悩む声が多く寄せられていました。

 

相談者からは、未払いの額が民事裁判を起こすほどではない数十万円単位だったとしても、ひとたび未払いにあえば、生活が苦しくなると言う切実な声も上がっています。

 

また、「個人」で働くフリーランスだからこそ、そもそも自分が置かれた現状が、「フリーランスだからしかたがないこと」なのか、それとも「声をあげてもいいこと」なのか相談する相手がおらず、状況を改善できないまま思い悩んでいた可能性があります。

 

こうした悩みや相談に対して、弁護士は、契約書の内容を聞き取ったり、実際の働く環境を聞き取ったりして、とれる手段についてアドバイスをしています。

 

 

「“自由じゃないフリーランス”が広がっている・・・」

第二東京弁護士会  山田 康成 弁護士

 

なぜ、フリーランスの相談が相次いでいるのでしょうか。相談を受ける第二東京弁護士会の山田康成弁護士は、「結果的にフリーランスという働き方を選ばざるをえず、問題に直面する人も多いのではないか」と指摘しています。

 

山田弁護士:

「自分の好きな仕事を好きな時間にやりたいという気持ちでフリーランスになったとしても、実は『契約内容がそうではなかった』とか『業務発注者との力関係で、自由がなくて思っていたものと違っていた』というフリーランスの方がいると思います。

そもそも、フリーランスという働き方にしようと別に思ってもなくて、とにかく仕事をして収入を得たいと働き始めたら、それが実はフリーランスだとか、業務委託契約になっているという人もいます。

例えば、朝の9時から夜の9時まで配送の仕事でずっと働いて、それで、ほかのところの仕事をしたって自由だと言われても、事実上何もできないわけですよね。そういう状況でやっていて、『辞める』と言ったら、損害賠償だとか違約金だと言われて、低い報酬のところで結局縛られていると、フリーランスという名前なのに、自由じゃないという働き方の人が結構たくさんいるように感じています」

 

「フリーランス・トラブル110番」の相談記録表

 

さらに、山田弁護士は、専門性が高くない人にまでフリーランスという働き方が広がっていることが問題の背景にあると指摘します。

 

山田弁護士:

「構造的な問題だと思います。高度な専門性を持って、自由に自分の能力をいろいろな発注者に対して発揮できるのだったら、フリーランスという働き方はものすごくいいと思います。ところが、必ずしもみんながそういう働き方をしているわけではありません。業務の性質上、フリーランスでなければだめだというものと、そうとは言えないものが、たくさんあるのではないでしょうか」

 

 

「フリーランス・トラブル110番」の連絡先

「フリーランス・トラブル110番」のウェブサイト

 

● 報酬がはっきりしない状態で作業をさせられてしまった

● 自分がフリーランスなのか、あるいは雇用関係に基づく労働者なのか

● 暴言・暴力などのパワハラ行為を受けている

 

こうした悩みを抱えているフリーランスの方は、「フリーランス・トラブル110番」にご相談してください。

 

電話番号:0120-532-110(受付時間11:30〜19:30 土日祝日を除く)

「フリーランス・トラブル110番」のウェブサイト (※NHKサイトを離れます)※別タブで開きます

 

 

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