予期せぬ妊娠や貧困、DV、若年妊娠などで子どもを育てるのが難しく、出産前から支援が特に必要とされる「特定妊婦」。その数は、この10年で8倍に増えています。 「特定妊婦」はどのような状況に置かれているのか、そして「特定妊婦」に登録されることでどのような支援が受けられるのか、取材から見えてきた情報をまとめました。
(「クローズアップ現代」取材班)
「特定妊婦」とは…
「特定妊婦」は、2009年に施行された児童福祉法に明記されました。その定義は「出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦」としています。
収入基盤が安定せず、貧困状態にある
知的・精神的障害などで育児困難が予測される
DVや若年妊娠など複雑な事情を抱えている …など
こうした状態にあり、出産前から子どもの養育に支援が必要な妊婦だと判断されると、「特定妊婦」として自治体に登録されます。
取材をしている中では、上記のような課題を抱える妊婦が、自治体の相談窓口に行ったり、産婦人科の聞き取りの際に実状を話したりしたことがきっかけで「特定妊婦」に登録されたというケースが多く見受けられました。
※特定妊婦の登録には具体的な基準はなく、自治体によって判断されます。また、地域や通っている病院によって対応が違うことがあります。
「特定妊婦」の数はここ10年で8倍に増え、全国で8000人以上登録されています。
「特定妊婦」を支援している産婦人科医の鮫島浩二さんは、「特定妊婦の支援が始まったことで実数が増えたというよりも、支援が必要という認識が高まり、関係機関の注力によって把握できるようになった。8000人という数字は行政が把握しているだけで、いわば支援につながった女性たち。「特定妊婦」として把握されず、行政や医療機関ともつながれない人は、より深刻な状況に置かれているのではないか」と指摘します。
「特定妊婦」の登録で受けられる支援は
「特定妊婦」に登録されると自治体の支援の対象となります。支援の内容は特定妊婦のケースや自治体によって異なります。
保健師や社会福祉士が家庭訪問、電話での面談
経済的に困窮している場合は生活保護申請や様々な制度の申請に同行
産婦人科に未受診の場合は出産の受け入れ先の病院を探す
産前から産後まで入居して支援を受けられる産前・産後母子支援事業の実施施設の紹介
就労支援
家事支援サービスなどの紹介
こうした内容の支援を受けることができます。
支援が必要なのに・・・「特定妊婦」に登録されていない人も多い?
取材すると、「特定妊婦」として登録されてはいないものの、支援が必要な女性が多く存在していました。その背景にあるのが、人に助けを求めづらいという当事者たちの苦悩です。
「小さい頃から親から言葉の暴力を受けて育ち、常に人の顔色をうかがって生活してきた」
「親からネグレクトを受けていて、困ったことがあっても助けてもらった経験がない」
…など、誰かに頼るという経験をしたことがないから、頼り方がわからない女性たちがいるのです。
また、自分だけの責任ではないにもかかわらず、“妊娠したのは自己責任”と自分を責めてしまう女性も少なくありません。誰にも頼らなかった結果、「孤立出産」や「心中」にまで至るケースもありました。
自分ひとりでは解決できない課題を抱えながら、誰にも頼ることができない…
支援する団体は、「特定妊婦」に登録されない女性にも「ひとりで悩まず、SOSを出してほしい」と話しています。
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