戦後一貫して持たないとしてきた「反撃能力」。政府はなぜ保有の決断に至ったのか?配備が取り沙汰される地域では「専守防衛を逸脱しないか」「攻撃対象となり危険にさらされないか」など懸念の声もあがっている。今後、国内で配備はどう進むのか。日本が守りの「盾」、アメリカが攻めの「矛」という役割分担に変化はないのか。浮かび上がる課題や疑問について、桑子キャスターが浜田防衛大臣に問いました。
(クローズアップ現代取材班)
インタビューは、防衛省の応接室で行われました。浜田防衛大臣は「きょうはよろしくお願いします」と挨拶し一礼。大臣就任後、テレビメディアの単独取材に応じるのは初めてだといいます。
この日、取材が許されたのは30分。主に3つの点について問いました。
▼なぜ今、防衛力の強化なのか 「反撃能力」保有の必要性は
▼住民の懸念にどう向き合うか
▼日米の連携強化の中で「反撃能力」は
やりとりを詳報します。
―「反撃能力」世論の受け止めは?
――まず、NHKの世論調査を見ていきます。
去年12月に、政府がこれまで政策判断として「保有しない」としてきた敵のミサイル発射基地などをたたく「反撃能力」を必要だとしていることについて、◇「賛成」が55%、「反対」が31%でした。
また先月(4月)、「反撃能力」の保有を決めたことに関連して、憲法9条との関係について聞いたところ、「憲法9条に抵触すると思う」が25%。「抵触しないと思う」20%。「どちらともいえない」が49%でした。率直にこの数字をご覧になってどう感じられますか。
浜田防衛相
言葉で「反撃能力」と言われたときに、憲法9条との関係というと、そういったことをぱっと判断されると、こういう形になるのかなという気はしないでもないです。
賛成の55%。世界の状況、ウクライナですとかロシアの関係というところを見たら、「必要なのではないか」ということも(結果に)出ているのかと思いますが、我々の説明というのが、まだまだ足りないのかなというのは実感をせざるを得ないという気がいたします。
――この数字からもそのように感じられますか。
浜田防衛相
安全保障、世界の議論、日本の法体系の問題、専門的にはすべての方がわかるわけではないので、我々の言葉遣いだとか、我々に対する信頼もありますよね。そういったものを考えると、まだ足りないのかなというのは実感としてあります。
―なぜ今、「反撃能力」の保有が必要なのか?
浜田防衛相
今回の(安保)3文書のなかで、常に一番最初にあるのは、それは「外交」という問題を一番に挙げてきているわけですよね。その点を1つ、強調させていただきたいなというふうに思います。
――外交は最重要であると。
浜田防衛相
今まで国民の皆さんが、経験をしてきたいろいろな苦難の歴史、我々は持っているわけでありますから、気持ちの中で消してはならないことであって、忘れてはならないこと。政府の中で、これはもう統一した気持ちでありますので、まずは外交でということであります。
しかし、それでも紛争が起きたり、今回のようなロシアのウクライナ侵攻があったり、力による現状変更というのが出てきてしまったという中において、これから自分たちの国をどうしていくのかと。
ミサイルがいっぱい開発されて、日本にも飛んでくる。そういう状況の中で全部が全部、防ぎきれるわけではない。我々の意思をどういうふうに体現して知らせていくか。相手の国に、わが国はそういうことをしても“だめですよ”と、もっと大きな、逆に“マイナスになる”ことになってしまいますよということを、示すための反撃能力。我々とすれば抑止力というものを高めるということを考えて、今回この反撃能力というものを取り入れたというふうに考えている。
――歴代の内閣を振り返りますと一貫して「反撃能力」を保有しないとしてきました。例えば2017年、安倍元総理は「敵基地攻撃能力」、当時はそのように言っていましたけれども、“この能力はアメリカに依存する 役割分担の変更は考えていない”と発言していたが、一転して保有するとなったのはどうしてでしょうか。
浜田防衛相
いろいろな抑止力を高める。われわれの方針はまったく変わっていなくて、役割分担もアメリカとのあいだは変えておりません。一番重要なのは、我々は憲法の範囲内というのは必ずあるわけで、専守防衛ということも変えようとしていないわけであります。
今回の反撃能力の中でも、今までもいろいろな事態想定だとか、そういったものをクリアしながら、これを使うということになっていますので、そういう意味では、かなりの制約の中で、これを使うことになるのは当たり前のことでありますし、安倍政権の考え方と、我々はまったく変わっていないというふうに思っております。
相手が攻めてこない限り、反撃はないわけでありますので、そこのところの説明をよくしないと、すぐ戦争状態に陥るのではないかとか、攻撃されるんじゃないかとかということがあるかもしれませんが、あくまでも、そういった先制攻撃に関わるようなことにはならない。
―「反撃能力」 相手から見れば脅威にならないか?
――あくまで抑止だということですけれども、相手にとって脅威になりはしないか。逆に緊張を高めてしまうことはないのか。
浜田防衛相
わが国のいわゆる持っているミサイルですとか、いろいろな能力 持ったにしても、もう全世界に情報として流れるようになっていますよね。防衛白書を見ていただければ、能力のすべてが書いてあるわけですから、それで理解をしていただけるようになっている。
他の国がどんどんと、いろいろな防衛力を準備して、どれだけのものを持っているか分からないような状況の中で、それに対して我々がいろいろなものを持つことによって、緊張が高まるというのは、ちょっと情報というか、判断が、違っているような気がしていて、相手はどんどん大きくなっているのに、我々はそうではない。
全部、それを出して、相手を理解したなかで、そして、またそこに外交力というものが備わるわけですから、常に今までそうやってきたところもあるわけで、我々が持ったから、相手とのあいだに緊張が走るだけのものを持つというのは、どの程度なのかというのはわかりませんよね。
――相手がどう感じるかというところもあると思います。
浜田防衛相
我々の憲法、法律というのを見ていただいて、ましてや持っている能力を見てもらっているわけですから、それを見て相手がどう感じるか、緊張感を持つのか。それとも、今の状態で変わらないなというふうな判断をするのか。これは分かりませんが、我々が判断することではなくて。
我々は自分たちに攻撃をしてくるところがあれば、“これは排除しますよ”と言っているだけのことで、必要最小限のものと決まっているわけですから、そこはお互いさまの部分もあるのではないかなという気がします。
―住民の懸念にどう向き合う
(画像 12式地対艦誘導弾)
――「反撃能力」も念頭に、敵の射程圏外から攻撃ができるよう改良が進められている「12式地対艦誘導弾」。これが現在配備されている地域が南西諸島ということを考えると、配備先というのは南西諸島が有力ということになるんでしょうか。
浜田防衛相
必ずしも場所については、これから検討することになりますので、今の時点で、この場をもってお話をすることはしませんが、これからの検討ということになるかと思います。
――現段階では、全国どこでもあり得るというふうに思っておいたほうがいいですか。
そのときの検討しだいということになると。
――そのとき?
はい。
――今後どうなっていくのか?
浜田防衛相
まだできあがっていない部分というのもございますし、要するにこれから時間をかけて、もしも各地域に置くようなことになるのであれば、これはきちんとした説明をしていくことになるかと思います。
――配備を巡っては、去年12月、与那国島で事前の説明がなされないままにミサイル部隊、電子戦部隊が追加配備の方針が示されたという例もありました。
今回、同じ南西諸島の石垣島を私たちは取材をさせていただいていて、島の方のなかには、同じように “説明がないまま配備が決まってしまうのではないか”という声が上がっている。石垣島に限らず、配備先となる地域には、どの段階で、どのように説明していただけるんでしょうか。
浜田防衛相
これは当然、ただ単に配備するというわけにはいきませんので、きちんとしたものを伺いながらやっていくというのは当然のことだと思っていますし、その点について、まだ決まっていないことを、今、私が言うわけにはいかないので、そのときには、きちんと説明をさせていただきたいというふうに思います。
――そのときが、決まった段階なのか、決まりそうだという段階なのか。どの段階で住民たちは知ることができるのか。
浜田防衛相
それはもう、このいろいろな意見があるのは事実でありますので、その時点で、いろいろなことを議論しながら、またご説明をしていくことになろうかと思いますので、住民の皆さま方の納得がいくように、いただけるように努力していきたいと思います。
――住民説明会なども開いていらっしゃいますけれども、その反応も含めて、今、自分たちはでき得ることをすべてできているというふうに感じていらっしゃいますか。
浜田防衛相
防衛省、自衛隊が果たすべき役割というのは、これはもう決まっておるわけでありますので、これはもう方針というか、我々の仕事は、この国民を守るため、国を守るため仕事をしていくということは、これは間違いのないことであります。そのために理解をしていただく努力というのは当然のごとくしていかなければならないと考えていますので、今後のありようというのは、理解を得るため、わかりやすく説明していきたいと思います。
――今、不安に思っている方がいらっしゃるということは、認識はしていただいているんですか。
浜田防衛相
それはもう当然のごとく。理解していただいて、そこできちんとした説明をすることしか、我々はすることが、方法がないわけでありますので、その信頼を得るために努力をしていきたいと思います。
――これから日本のどこかには配備されることになるわけですけれども、いつごろ、どういう方針で説明をしていこうとお考えですか。
浜田防衛相
基本的には、まだ具体的に配備先というのも決まっておりませんし、「12式地対艦誘導弾」もまだ開発段階であるわけでありますので、それが全部できあがるまでには、まだ時間がありますので、これから、我々も検討を進めていきたいと思っています。
――“知らなかった、不意打ちだ”というようなことにはなってほしくないなという思いがあって。
浜田防衛相
何がなんでもというやり方をするつもりもありませんし、しかし、やらなきゃいけないということを、理解をしていただくための努力はしていかなければならないと思っています。
ただ、必要なものを必要だと、そして、国の責任においてやらなければならないことは、やらなければならないので、ご理解いただきたいなと思いながら、できる限りのことをしたいと思っています。
――これまでの保有の決定までの過程を見たときに、例えば「敵基地攻撃能力」という名称が「反撃能力」に変わっていた。そういったことも含めて、私たちに理解してもらえるように説明をしているというふうには感じていらっしゃいますか。
浜田防衛相
これだけ大きな、あまり実感のないことを議論している部分もあるわけですよね。まだ実際、目の前で起こっていないという。ただ、世界的な状況を見たときには、それがあり得るわけですよね。(桑子さんは)実際にウクライナまで行って見てきていらっしゃるわけでありますので、それが同じ時代の中で、ほかの場所で起きている。
我々のところは、その先に何があるのか分かりませんが、しかし、それに備えていくためには、技術的な部分ってものすごくあるわけですよね。ですから、それをやっぱり早めに準備をしていく。
――やっぱり見えないことが、ありもしないことを考えてしまったり、勘ぐってしまうという部分につながるわけですよね。
浜田防衛相
その部分だけを切り取ってしまうと、すごく怖い感じがするんですが、しかし、やはり外交だとか、そういうものが常に目の前で流れていって、そこで起きたこと、起きることというのを防ぐことは、当然、この外交のなかで、そういうこともできるわけなので。
できる限り、説明をしていきたいなと思います。ただ、物理的に今、ここですぐ説明できるかというと、なかなかできないものもあるかもしれませんが、しかし、必ず時間がたってくれば、それは我々として、タイミングでできるものをしっかりしていきたいと思っています。
― 日米の連携強化で「反撃能力」は
――2014年に集団的自衛権の行使を一部、容認しました。例えば、日本が連携を強めるアメリカが、武力攻撃を受けたときに、日本には攻撃がなくても日本の存立が脅かされると判断した場合は、日本から反撃能力を使うことができるようになるんですよね。
アメリカの戦闘に日本が巻き込まれるようなリスクが高まるんじゃないか。こういう考え方についてはどうか。
浜田防衛相
基本的にわが国に対する攻撃という「事態認定」というものがあるわけで、一番重要なところは、その「事態認定」は政府だけでは決定できない部分があるわけですよね。これは、国会が関与する。チェックポイントが必ずそこにあるわけでありますので、それを自分たちで、いきなり政府が判断して、すぐに対処するということはないわけであります。
わが国に直接、今、現状として、武力攻撃がない中で「存立危機事態」というのは、なかなか時間的な余裕だとか、いろんなことがありますよね。だから、それに巻き込まれる、巻き込まれないよりも、その「事態認定」をするときに、わが国にとってそういう危機なのかどうかは、これはなかなか判断に時間がかかりますよね。「存立危機事態」だから、アメリカに対して一緒にやらなきゃいけないとかという話にはならないと、僕は思っています。
――日本が直接的に攻撃を受けずに、例えば、アメリカから助けてくれというような声がかかった。そのときには、日本から「ノーです」と言えるようなこともあるということですか。
浜田防衛相
当然、わが国の憲法、法律というものがある以上は、これに沿ってやらなければならない。我々の判断をするということだと。できること、できないこと、あると思います。
―― “アメリカが矛で日本が盾”。この役割分担は変わらないということを一貫して言っていると思いますけれども、岸田総理が3月に「アメリカの打撃力に完全に依存することではなくなる」というふうに答弁しているんですね。一定程度、“矛の役割”を担うことになるんじゃないのかというふうにも見えるんですよね。
浜田防衛相
役割分担は変わりませんが、わが国として持ったものもあるということだと、僕は思っています。ミサイルで攻撃することなのかという話には、またこれは区分けしないとおかしい。それだけで矛と見なすのかどうなのかというのは、これはまた別の話で。
あくまでも武力攻撃事態のときに、我々は自分の国は自分で守らなければいけないわけですから、それを補完するのがアメリカ。
攻撃に対しても、これは当然のごとく、アメリカがやるということで今までやっていきているわけですから、そこのところは持っただけのことであって、それは使い方が違えば、おのずと、場面、場面によって変わってくるのかなと。
―これからの日本の安全保障のあり方は
浜田防衛相
我々は、あくまでも法の支配にのっとって、世界が平和で安定的に暮らせる状況をつくっていく。力による現状変更ではなくて、外交力によって、話し合いによって問題を解決していく。_日本がこれからも平和主義を貫いていく国家として、強く前面に出していくということは、とても重要だと思います。_
戦後の経験の中で、厳しい状況の中から立ち直った国として責任があるわけでありますので、やはり平和国家というものを目指して、話し合いによって、法によって統治される世界をつくっていくというのが一番のこれからわれわれが目指す道だというふうに考えています。ありがとうございました。
――ありがとうございました。
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