中学生から主婦まで!奇想天外な発明家たち ~私の人生を変えたひらめき~

NHK
2023年4月18日 午後3:56 公開

「発明」と言われてもあまりなじみがないと思っている皆さん。実はいま、発明が熱いんです!

背景にあるのは、コロナ禍でのライフスタイルの変化や自宅にいる時間の増加。個人発明の試作品を披露するイベントへの出品数は、コロナ禍を境に2倍近くになっています。

今回お話を聞いたのは、1人で特許を6つ取得した「発明家中学生」や、発明歴20年・総売り上げは3億円にのぼる「主婦発明家」など、ユニークな個人発明家たち。
発明はその人生を大きく変えたといいます。

(福岡放送局 ディレクター 和田裕貴)

コロナ禍でさまざまな不便さが露見 アイデアが止まらない

嘉手納杏果さん 第80回全日本学生児童くふう展 内閣総理大臣賞のメダル

(嘉手納杏果さん 第80回全日本学生児童くふう展 内閣総理大臣賞のメダル)

中学2年生の嘉手納杏果(かでな・ももか)さん。幼稚園のころから工作が好きで、小学生になると本格的に作品を作るようになり、特許も取得しました。初めて特許を取得した製品がこちら。

(発明品「絡まないハンガー」)

(発明品「絡まないハンガー」)

題して「絡まないハンガー」。箱に入った複数のハンガーから1つ1つを取り出そうとすると、絡まるのを防ぐアイテムです。ハンガーの3か所に磁石がくっついているのでハンガーを連結でき、さらに簡単に剥がせるものになっています。

嘉手納杏果さん 「リビングで理科のテスト勉強をしていたら、外でおばあちゃんが洗濯物を干してくれていて、ハンガーが絡まっていたんです。ちょうど磁石の性質を勉強していたときで、試しにワイヤーのハンガーに磁石をつけるとくっついたので、じゃあ連結させればいいんじゃないかなって。そこで思い付きました」

コロナ禍で不便なことが増えたことでさらに発明意欲は高まり、取得した特許は6つにまで増えました。

発明品「しまるん」

(発明品「しまるん」:料理で使う袋。内側に筒状の袋を入れることで、チャックに調味料が詰まらずスムーズに閉められる。コロナ禍で自宅での時間が増え、料理を始めた中で思いついたアイデア)

発明品「テリッパ」

(発明品「テリッパ」:マスクを磁石の力で挟めるクリップ。マスクを外した際に置き場所に困る中でひらめいた)

発明品「花粉吸着ロールスクリーン」

(発明品「花粉対策用不織布ロールスクリーン」:静電気の力で花粉を吸着させる)

発想はその場で思いつくことが多いという嘉手納さん。考える時間だけでなく、余白の時間も大切だといいます。

嘉手納杏果さん 「水泳を毎日やっているので、ものづくりとかの合間に水泳に行って、頭を空っぽにすると思いつきます」

発明にのめり込む中で、将来の進みたい進路も変わりつつあります。

嘉手納杏果さん 「将来の夢は2つになっちゃう。本当は看護師さんになって人の役に立てる仕事に就きたいなと思っていたんですけど、いま変わっちゃって。この前、大学の施設で実験をさせてもらったときに、先生方がすごい格好よくて。工学部に入って、ものづくりの仕事に就いてみたいなとも最近思い始めているんです」

ひらめきで生まれたのは金だけではない 主婦発明家のマインド変化

発明品「耳が温まるマフラー」をかぶる松本奈緒美さん

(発明品「耳が温まるマフラー」を被る松本奈緒美さん)

一方、主婦発明家として知られている松本奈緒美さん。20年ほど前から発明に取り組み、これまで生み出した商品は約50点。総売り上げは3億円にものぼります。松本さんが発明に目覚めたのは約20年前。ある日、「主婦のアイデアが大ヒット!」というテレビ番組を見たことがきっかけでした。

松本奈緒美さん 「この程度で発明? 私もお金持ちになれるかも。なんか簡単そう」

不器用で面倒くさがりだという松本さんは、家事が全くできなかったといいます。そこで自分を助けようと掃除用具を作ったことが、発明を始めるきっかけとなりました。

発明品「ペン先すーぴぃ」

(発明品「ペン先すーぴぃ」)

最初に発明したのが「ペン先すーぴぃ」。掃除機の連結パイプに装着するボアの生地がついたノズルで、掃除機をかけながら拭き掃除ができます。掃除がしにくい場所でも手軽にきれいにでき、さらに掃除時間の短縮で自由な時間を増やすことができます。売り上げは14万個、1億円にものぼりました。(※現在は販売休止中)

テレビや家具の拭き掃除がおっくうで、掃除機をかけながら拭き掃除ができないかと思いついたアイデア。早速試作品を作り、商品化できると企業に企画書を送りました。しかし・・・

松本奈緒美さん 「70社くらいの企業に提案したら、全部断られたんですよね。大ショックで。初めは使い捨てで考えたので、1億人の日本人がいて毎日皆さん掃除するよねと。私のアイデアで掃除してくれたら、仮に特許の契約料が1円でも毎日1億円が入ってくるんじゃないかと、ワクワクしたんですけど」

冷静になり不採用通知を見ると、「使い捨ては環境保護の点で望ましくない」という理由を見つけました。そのとき、企業の事情を考えていなかったことに気がつきました。「製造に手間がかからないようシンプルな形状にする」、「自分の発明品は店のどの売り場に並べばいいか」などを考えながら試作品を改善していき、ついに商品化にたどり着きました。思いついたときから5年の月日が流れていました。

松本さんは発明を始めて人生の価値観が変わったと言います。

松本奈緒美さん 「生きていれば何かトラブルがあるじゃないですか。それをどうしたらいいのっていうふうに考える切り替えができるようになりました。発明って何かトラブルを解決することなので。私は“発明脳”って言ってるんですけど、“発明脳”になっていくんです。常にそういうふうに考えていけば、何もあんまり不安になることもないというか、解決したときの喜びにつながっていけばいいので」

また発明は周囲の人間のマインドも変え、人間関係にも大きく変化をもたらしました。

松本奈緒美さん 「自分は家事が嫌で文句ばっかり言っていたので。そんなこと言われたら家族嫌じゃないですか。でもよく考えたら、自分ができないから人に押し付けようとしているだけだと。じゃあ自分を助けるために発明で解決しようと思って。試作を作っては試して、効果が出るとあんなに嫌だった掃除を率先してやるんですよね。家もきれいになるし家族にも文句言わないし。そうすると家族も『これ発明じゃない? これ大もうけじゃない?』って言って、みんなで頑張ろうっていう気持ちになって。主人も『ちょっと俺にも貸してよ』みたいな。で、主人も掃除してくれるようになったりしているので、発明ってすばらしいなと思いましたね」

仕事現場で思いついた発想 発明で社会を変えたい!

自らの経験を伝えたいと、松本さんは発明に取り組む個人を支援する会社を13年前に立ち上げました。相談件数は年々増加し、松本さんの後に続こうという発明家が増えています。そのうちの一人が、内藤茂順(しげゆき)さんです。

松本さんのもとに相談に訪れた発明家 内藤茂順さん

(松本さんの元を相談に訪れた発明家 内藤茂順さん)

かつて住宅設備機器メーカーに勤務。「困ったを良かったに」をスローガンに洗面やキッチンの商品企画を担当してきました。その後、誘いを受けて50歳を過ぎて介護職に転じました。しかし、きめ細やかさやハードさが求められる業務を見て「年齢もあり自分は介護のプロにはなれない」と感じていました。それでも何か役に立てないか。住宅設備機器メーカー時代に染みこんだマインドが発明へと駆り立てました。

内藤さんは高齢者と接する中で、1回に飲む複数の薬をまとめる「一包化」が進んでいることに目をつけました。そこで介護施設を退職後に、薬をコンパクトに収納できる容器を開発。手元に置けて順番に取り出せるので、飲み忘れを防げるというアイテムです。現在商品化へ向け、大手薬局チェーンと契約の一歩手前まで話が進んでいます。

(発明品「お薬くるくる」)

(発明品「お薬くるくる」: 薬をコンパクトに収容できる容器)

一包化の大きなメリットは、薬の飲み間違いを防げること。しかし内藤さんによれば、一包化はまだまだ浸透していないと言います。高齢化が進み常に薬を飲む人たちが増えていく中、自らのアイデアを広めることで、安全に暮らせる社会になるための力になりたいと考えています。

内藤茂順さん

内藤茂順さん

内藤茂順さん 「例えば容器に薬局チェーンの名前を印字することで固定客を作れる可能性があり、チェーンにとってもメリットがあります。この製品を導入する店が増えれば、薬の一包化が進んでいくと思います。いままでの薬の販売の概念を変えていきたい」

独創的なアイデアは個人の発想からしか生まれない

今後、日本をけん引していくような大きな発明の数々は生まれていくのでしょうか。
イノベーションに詳しいKIT虎ノ門大学院教授の三谷宏治さんは、こうした独創的なアイデアは個人からしか生まれないと指摘します。

三谷宏治さん

(三谷宏治さん)

三谷宏治さん 「なぜ個人からしか発想を生めないかと言えば、それをみなが嫌うからです。例えばソニーのウォークマンで言えば、そのアイデアは創業者の井深大さんの『飛行機の中で周りに迷惑をかけずに音楽を聴きたい』という個人的なニーズでした。独創的な商品だったため、社内外の反応はとても冷たく、メディアも『こんなの売れない』といった反応でした。しかし、結果的に日本を代表するイノベーションとなりました」

大それた発明だけがイノベーションか 個人のパワーでも社会は変えられる?(取材後記)

発明というと一攫千金を得られるというようなイメージを持っていました。しかし、さまざまな発明家に聞くと「お金が入ればいいが、そうは甘くない」と現実的に考えている人が大半でした。そしてすべての発明家から聞かれたのが、「発明で社会を少しでも良くしたい」という思いでした。そのパワーが、発想~商品化までの壁をぶち破っているのかもしれません。

車の自動運転、「ChatGPT」のようなAIを使ったソフトなど、日々進化していく社会。けれども、主婦発明家の松本さんは「便利になっているからもう考えることはないというわけではなくて、必ず何かそれに生じて不便なことは出てくる。ネタが尽きることは全くない。そこに目が行くか行かないかだと思う」と語っていました。

そして個人発明家たちは、宝物のように発明品を語る一方で、その10倍100倍の失敗品、誰からも相手にされない数知れずの発想があったことも教えてくれました。こうした個人の発想によって社会を動かす大発明が生まれるかどうかは未知数です。

しかし、それでも「世の中の役に立ちたい」、「もっと便利に、もっと楽しく」という彼らの気持ちに触れ、「半導体」や「空飛ぶクルマ」のような発明でなくても、世の中を変えていけるのではないかと可能性を感じました。「世の中捨てたもんじゃない」、「自分も明日もまた頑張ろう」という気持ちになりました。

 

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