オミクロン株「死者数が少ないから大丈夫」は本当? 軽症・中等症の医療現場は

NHK
2022年2月15日 午後5:40 公開

私たちが一昨年4月から継続取材をしている川崎市立多摩病院。

1月初旬にはゼロだった新型コロナ病棟の患者数は、1月中旬にかけて急速に増加。

いまはほぼ満床状態が続いています。 

医療現場の深刻な状況を知って欲しいと、最前線の医師がメッセージを寄せてくれました。

 

これまでの取材記事を読む|証言記録「新型コロナ“第5波”

 

軽症・中等症の患者で”ほぼ満床状態”

川崎市立多摩病院 総合診療内科 本橋伊織医師

 

<以下、川崎市立多摩病院・本橋伊織医師からのメッセージです>

 

オミクロン株は、感染力自体が強まっていることに加えて次のような特徴があります。

▽潜伏期が約2日と短い(従来の株は5日程度)

▽ワクチンによって獲得された免疫を回避しやすい(効かないわけではない)

これらの特性のために短期間で急速に感染が拡大しています。

その一方で、オミクロン株は重症化しづらいとも言われています。このため、軽症〜中等症用の入院ベッドは非常にひっ迫しているのに対して、重症者用のベッドはそれほど埋まっていません。

“第5波”のときに主流であったデルタ株と比較すると、たしかに重症化する割合は低いと現場の肌感覚でも感じます。

 

 

「重症化しないわけではない」

新型コロナにより肺炎の症状が出た男性の胸部レントゲン画像 

 

しかし、あくまで「デルタ株と比較すると重症化しづらい」であって、「重症化しない」わけではありません。基礎疾患のある方や高齢者、ワクチン未接種者ではひどい肺炎になり、酸素吸入や薬剤による治療を必要とする方が一定割合います。

そして感染者全体の数が増えると、この「一定割合」の数も増え、結果的に重症者の数は膨らんでいきます

 

実際にアメリカでは、重症化しづらいと言われるオミクロン株による死者数が、デルタ株による死者数に近づいてきています。オミクロン株の感染者数が多すぎて、割合としては小さくても絶対数が多くなってしまっているのです。

 

 

元通りの生活に戻れない人も多数

 

「軽症」であっても入院が必要になることがあります。

40℃の熱が出てしんどさで動けなくなっても、食事が取れなくなっても、酸素吸入が必要でなければ「軽症」なのです。若い人はこの状態になっても、もともとの体力があるのでなんとかしのげますが、高齢者ではこれらの症状は命取りになり得ます。

肺炎としては軽症でも、感染をきっかけに水分すら飲めなくなったり、基礎疾患が悪化したりして、非常に重篤な状態で入院してくる方がいます。オミクロン株は、高齢者を死に至らしめるきっかけに十分なり得るのです。

また亡くならないまでも、ADL(日常生活動作:普段の生活で身の回りのことを行う能力)が非常に低下してしまい、元通りの生活には戻れなくなってしまう方も大勢います

 

 

「医療現場はすでに限界」

 

「日本では新型コロナによる死者数は少ないから、感染が広がっても気にする必要はない」という意見の方もいます。

しかし、日本で新型コロナの死亡者数が少ないのは、重症化するリスクの高い人が、軽症〜中等症の段階で病院に入院して治療を受けられているからです。保健所がリスクの高い人をピックアップし、適切な医療へつなげてくれているので死者数が少なくて済んでいます。

今の医療現場は、医療現場のスタッフ、特に看護師の自己犠牲とも言える献身的な努力によって支えられています

 

しかし、日本の医療現場のキャパシティはすでに限界に近づいています。

2年以上続くコロナ禍で皆さんが辟易(へきえき)しているのと同様に、新型コロナ診療の現場で働いている医療者も疲弊しきっているのです。

当院の新型コロナ病棟でも、もしひとりでも看護師の離職者が出れば現場が回せないほど、ひっ迫した状態で日々の診療を行っています。

 

 

「新たな患者を受け入れられない」

 

また、この“第6波”が冬に到来したことも状況を悪化させている要因です。

冬場は脳梗塞や心筋梗塞など、コロナ以外の疾患が増えるため、ほとんどの病院が満床に近い形での運用となります。コロナの受け入れ病床を増やしたくても、他の病棟から看護師を配置換えするのも難しい状況です。

 

多くの病院で、新型コロナ病棟もそれ以外の病棟も満床で、新たな患者を受け入れられない、という状態が1月半ばから続いています。受け入れたくても物理的に、マンパワー的に不可能なのです。

 

神奈川県では、既に搬送・入院困難事例が発生しています。東京はさらに悲惨です。救急車が数十件、100件近く受け入れを断られて搬送を断念する、といった事例も出始めています。

これ以上感染者数が増えると、早期に入院・治療を受けられない人が更に増え、結果的に重症化する方や亡くなる方が増えてくるでしょう。

 

 

"お互いにマスク”で基本的に予防できる

 

では、どのようにすれば新型コロナの感染者数を減らせるのでしょうか。

変異を繰り返すウイルスに振り回されている我々ですが、2年近い新型コロナウイルスとの闘いの中で学んだ、普遍的なこともあります。それは「お互いにマスクをつけていれば、基本的に感染は予防できる」ということです。

 

マスクをつけずに会話したときのオミクロン株の感染力は凄まじいものがあります。会話で飛散した飛沫の中に含まれたウイルスは、相手の目や鼻や口の粘膜から容易に感染し、体内で増殖を始めます。

やっかいなことに、発症前の何も症状がないときからウイルスを排出してしまうので、まさか自分が感染しているとは思わずに周囲にウイルスをまき散らしてしまうわけです。

 

これを防ぐためには、症状がないときであっても「ひょっとしたら自分は感染していて、周囲にウイルスをまき散らしてしまうかもしれない」と考えて、同居家族以外の人と会話するときは必ずマスクを装着することが大切です。これをお互いに心がけることが、自分も相手も守ることにつながります。

 

 

「”ワクチン3回目”は有効な予防手段」

 

また、オミクロン株に対してはワクチンの効果が弱くなっていますが、感染予防効果も重症化予防効果もある程度は保たれています。

接種して時間がたつと抗体の量が落ちてきて効果が減弱するので、3回目追加接種は有効な予防手段となります。

 

しかし、3回目接種率が国民の50%程度にまで上がったフランスやイスラエルで新規感染者数が過去最高になっていることからも、ワクチンだけでは感染対策として不十分と言えます。

経済への影響を気にして種々の規制を撤廃した結果、ワクチン効果をオミクロン株の感染力が上回ってしまっているのです。

 

感染のリスクをゼロにすることは難しくても、可能な限りリスクを下げる方法は「3回目ワクチン接種(また1回も打っていない人は、まず2回の接種)+マスク装着」です。

日本人は幸いマスクに対して欧米ほど拒否感がなく、現在でも道行くほとんどの方がマスクを装着されています。あとは職場での休憩時や食事の際に「うっかり」マスクを外した状態で会話をしていないか、いま一度気をつけていただくことで、オミクロン株の驚異はぐっと弱まります。

 

 

「これ以上の負荷には耐えられない」 

川崎市立多摩病院

 

それ以外の方法で感染を収束させるには、人口のほとんどが感染して「オミクロン株に対する集団免疫」をつくるという方法もあります。実際にこの方法で、南アフリカの感染はピークを超えて減少に転じたと言われています。

しかし、超高齢化社会である日本において、この方法は非常に大きなリスクを伴います。集団免疫が出来上がる頃には、多くの高齢者が亡くなってしまっているでしょう。

「流行を収束させるために、自分の祖父母や両親は亡くなってもいい」などと考える方はいないと思います。 そして、そこまで重症者が増えてしまうと、医療機関は完全に破綻してしまいます。

もともと限界に近い状況で運用されていた医療現場は、これ以上の負荷には耐えられません。新型コロナ以外の医療体制も維持しながら、これ以上コロナ診療に費やせるだけのコストもマンパワーも、日本には無いのです。

これ以上新型コロナ患者が増えるなら、必然的に他の医療は縮小されます。日本国民が医療機関に要求してきた「安い、迅速、安全」な医療は、もはや風前の灯なのです。

(川崎市立多摩病院 本橋伊織医師)

 

 

取材を通して

 

「第6波が収束するまでは、自分と家族の身はご自身で守っていただくしかない」という本橋医師。リスクをなるべく下げるには「ワクチン3回目接種+会話のときのマスク装着」だと改めて話していました。

コロナ禍以前の生活と完全に同じとは言わないまでも、それに近い形での生活に戻りたいと考えているのは医療者も同じ。しかしこのまま感染者数が増え続けると、それはますます遠いものとなってしまいます。

早期の収束のために、また自分自身や周囲の大切な人たちを守るために、これまで以上に感染予防に注意した生活をするしか道はないと強く思いました。

(報道局社会番組部 チーフディレクター 松井大倫)

 

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