原因不明の不調は天気のせいだった!? 治療を受けた僕が野球できるようになるまで

NHK
2022年4月5日 午前11:51 公開

中学2年生の木下治希(きのした・はるき)くん。小学校低学年の頃から、激しい頭痛や腹痛など原因不明の体の不調に悩まされてきました。様々な医療機関を受診し、ついにその理由が明らかになりました。“気象病”や“天気痛”とも呼ばれる、天気が引き起こす体調不良だったのです。

(クローズアップ現代取材班)

天気による不調、より詳しい情報はこちらから

クローズアップ現代「体の不調 天気のせいかも!? 最新研究で分かる対処法」2022年4月5日放送

原因不明の体の不調 分かってもらえないつらさ

中学2年生の治希くんは、小学校低学年ぐらいからたびたび原因不明の体の不調に悩まされてきました。激しい頭痛やトイレから出られないほどの腹痛が頻繁に起こっていたといいます。

「ひどいと頭が痛くて、ずっと眠っていたいみたいな感じですね。ずっと寝込んじゃいます」

朝に症状が出ることが多く、学校に遅刻することもありました。ひどいときには、週に3日も学校を休むことがあったといいます。

学校に行きたくても行けない日々。おなかが痛くならないように、朝ごはんを食べずに登校しようとしたこともありました。それでも途中で帰ることになったり、お母さんに保健室まで迎えに来てもらったり、常に不安を抱えた学校生活を送っていました。

友達から学校に来ないことを責められたこともありました。

「(友達から)『なんで学校に来ないんだ』みたいなことを言われたことはあります。おなかが痛いとか、頭痛があるって言ったら、『それでも学校に来いよ』みたいな」

自分自身もどうして体調が悪くなるのか分からないため、友達にそう言われても何も言い返せなかったといいます。

頭痛外来や子どもクリニックなど様々な病院で検査をしても、原因は分かりませんでした。気のせいではないかと疑われたこともありました。

「なんで僕の気持ち分かんないんだろう」

誰も分かってくれないことが、治希くんには一番つらいことでした。

いつ腹痛や頭痛に襲われるか分からない怖さから、やりたいこともできない我慢の日々。小さいころから興味があった野球も、急におなかが痛くなったらどうしようと不安で始めることが出来ませんでした。

やっと分かった 体調不良は“天気”のせい

原因不明の症状が出るようになってからおよそ3年後、お母さんに連れられて訪れたクリニックでようやく治希くんがなぜ体調不良をおこしているかが分かります。

どういうときに症状が出るか、日常生活に支障はあるかなど、症状の様子を事細かに聞かれ、“天気による体調不良”という診断がくだされました。

初めて自分のつらさを誰かに分かってもらえた瞬間でした。

「分かってよかったみたいな気持ちでした」

「安心もしましたし、先生にまだ治せるって言われたんでそれも嬉しかったです」

天気による体調不良 そのメカニズムは?

治希くんが診断された“天気による体調不良”とは、一体どんなものなのでしょうか。

治希くんの診察をした愛知医科大学病院の佐藤純医師によると、この“天気による体調不良”の多くは気圧の変化によって起こるといいます。耳の奥深くにある内耳と呼ばれる器官が気圧の変化に敏感に反応し、脳を刺激することで、頭痛や吐き気、肩凝りなどといった症状を引き起こします。

天候の急激な変化や朝晩の気温差が激しい季節の変わり目など、気圧が大きく変わるときに症状が出ることが多く、四季がある日本では、少なくとも1,000万人にその疑いがあるともいわれています。

自律神経の乱れも大きく関係しているとされ、コロナ禍の外出自粛による運動不足やストレスによって、ここ数年で症状がみられる人は増加傾向にあると、佐藤さんは指摘します。

天気が関係しているため、完治するのは難しいとされていますが、食事・入浴・睡眠などの生活習慣を整えるといった対策のほか、気圧が大きく変化する前に予防薬を飲むことで症状を軽くすることができるといいます。

予防薬やアプリを利用して野球も楽しむことが出来るように

天気による体の不調と診断された治希くん。片頭痛の予防薬を毎日飲むことで症状が劇的に改善していきました。また、気圧の変化が分かるアプリも活用して、天気が崩れる前に備えるようになったことで、いまではほとんど症状が出ていません。

そして、診察を受けてから1年後には、ずっと我慢していた野球ができるまでに改善しました。

「野球を始められるってなったときは、めっちゃうれしかったです。おなかが痛くならないかっていう心配が前まではあったんですけど、最近はまったくなくて楽しくやれてます」

いまでは、野球クラブの練習には休むことなく参加。ピッチャーも務め、試合でピンチのときには三振を奪うなど大活躍しています。

取材の最後には、将来は自分と同じように困っている人を助けられる医者か、プロ野球選手になりたいと語ってくれました。

天気が体に影響を及ぼすメカニズムが科学的に解明されてきたのは、ここ数年のこと。これまでは、天気と人間の体に相関関係があることは分かっていませんでした。そのため、天気が悪いから体調がよくないと伝えても、まわりから理解してもらえず、「気のせいだ」「弱いだけだ」と言われ、つらい思いをしてきた人も多くいます。

「みんなが僕の症状を分かってくれる社会がいいです」

今回取材に答えてくれた治希くんの言葉です。

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