「運動部で活躍していた私がなぜ・・・」10代を襲った新型コロナ後遺症

NHK
2021年11月2日 午後4:32 公開

聖マリアンナ医科大学病院に今年1月に開設された新型コロナ後遺症の"専門外来"。10月に訪れた患者の数は、9月の倍の38人。働き盛りの世代だけではなく、10代の若者も治療を受けに来ています。後遺症になる原因も根本的な治療法もまだ解明されていない中、どのように治していけばいいか、病院もそして患者も戸惑っています。

ことし4月に感染し、軽症だったものの後遺症に悩みながらも前向きに生きていこうとしている高校1年生を取材しました。

(報道局 社会番組部 チーフディレクター 松井大倫)

 

 

後遺症の明確な定義がまだ無い

聖マリアンナ医科大学病院の新型コロナ後遺症外来

 

味覚・嗅覚の異常、脱毛、けん怠感、めまい、動悸、記憶障害・・・全身に及ぶコロナ後遺症。実は日本には後遺症の明確な定義がまだ無いのが現状です。聖マリアンナ医科大学病院では「新型コロナウイルスに感染後、4週以上症状が持続し、そのほかの疾患では説明がつかないもの」と定義しています。

東京都福祉保健局では「感染から回復した後にも、後遺症として様々な症状がみられる場合がある。“ロング・コビット”(Long COVID)と言い、20代・30代でも発症する割合が高く、どの年代でも認められる」としています。

また原因として、「自己抗体、ウイルスによる過剰な炎症・サイトカインストーム、活動性のウイルスそのものによる障害、不十分な抗体による免疫応答などが考えられているが明確にはなっていない」ともしています。

専門家によると、治療には半年、1年以上かかる場合もあり、感染から1年以上経過しても症状がみられる場合もあると言います。

 

 

「後遺症」で心を閉ざした高校生

 高校1年生のさやかさん(仮名) 今年4月に新型コロナに感染

 

私は、9月に聖マリアンナ医科大学病院の“後遺症専門外来”で、高校1年生のさやかさん(仮名・16歳)と出会いました。さやかさんは今年4月、スポーツ推薦で高校に入学。入部したばかりの運動部でクラスターが発生し、新型コロナウイルスに感染しました。熱は37度台とそれほど高くはなく、軽症でした。しかし陰性が確認された後も、けん怠感やめまいに悩まされ、学校を休まざるをえず、今は立つと胸が苦しくなる症状に見舞われています。

 

7月に後遺症の専門外来を訪れるまでの3か月、さやかさんは両親とともに、複数の病院で診察を受けましたが、体調不良の原因は分かりませんでした。また耳鼻科に行くと、精神科をすすめられ、ショックを受けたと言います。部屋に閉じこもり、家族にも心を閉ざす日々。両親は、万が一のことも考え、どちらかが家に残り、彼女を“監視”するように過ごしました。小学校の頃から学級委員を何度もやり、中学校では部活のキャプテンも務めるなど、明るく人と接するのが大好きだった彼女の変貌に両親は「地獄の日々だった」と私に語りました。

 

“後遺症専門外来”に7月から通い始めるようになったことで、さやかさんは少しずつ変わり始めたと言います。まずは「立ち上がると脈が急に上がり、胸が締め付けられる症状」を医師がコロナ後遺症の一つである体位性頻脈症候群と診断したことです。これまで何の診断もつかなかったため、自分の症状が何の病気なのか、不安で仕方なかったと言います。両親や学校の友人に自分の症状を話しても、どうせ理解されないと心を閉ざす要因にもなっていました。

 

看護師によるカウンセリング

 

 

もう1つは、看護師によるカウンセリングです。この病院では、初診から緩和ケアを専門とする看護師が同席し、医師による問診の後に、カウンセリングが行われます。そこで、自分のことをわかってもらうためには、自分の症状を周りに理解してもらうことが大事だと看護師からアドバイスされました。

 

体調も少しずつ改善し、学校に時々通えるようになった9月。さやかさんは同級生や部活の仲間に自らの症状を直接話すことに決めました。半年近く、後遺症に悩んでいること、思うように体を動かせないこと、周囲のサポートが自分には必要なこと…何日もかけて原稿を書き直したと言います。その原稿をさやかさんの了解のもと、紹介します。

 

 

「後遺症に苦しむ私から、みんなに伝えたいこと」

原稿を見せてくれたさやかさん

 

 

今日は、自分の体調についてお伝えしたいことがあり、まとめて来たので、聞いていただけたらなと思います。

 

私は4月の末にコロナに感染した後、体調が戻らず、授業や部活に参加できない状態が続き、いくつもの病院を受診してもなかなか原因がわからず、不安な毎日を送っていたのですが、7月16日に聖マリアンナ医科大学病院のコロナ後遺症外来で、体位性頻脈症候群と診断され、やっと病名がはっきりしました。

 

体位性頻脈症候群というのは、寝ている姿勢から起き上がって立った時に、心臓に戻る血液の量が著しく減少してしまい、立った時に心拍数が急上昇して、めまいや動悸などが起こる病気で、聖マリアンナ医科大学病院の後遺症外来患者の160人のうち35人がこの症状で治療していると聞きました。

 

この後遺症は、治療に時間はかかるけれども、しっかり薬を飲んで医師の指導を守って、生活していけば治るそうなので、しっかり治していきたいと思います。今は、脈拍を下げる薬と血圧が下がらないようにする薬を飲んで、1か月に1度のペースで病院に通っています。

 

 

医師からの生活指導を受けて、皆さんに伝えたいことが6つあります。

 

▼横になった姿勢でのあまり負担のかからない運動と、水泳はできるのですが、立った姿勢での活動は全て禁止されています。例えば何かの順番を待つ時など、立っている姿勢でじっとしていることは、数秒の短時間でも心拍不安定になってしまうので、いつでもどこでも座れるように携帯用の椅子を持参して使うことにします。皆さんと同じ事が出来ないことも多くあるかと思います。本当にすいません。

 

▼症状を和らげるために、医師から勧められた弾性ストッキングを学校に履いてきます。暑いし、見た目もおかしいですが、スルーしていただけたらと思います。

 

▼脈拍がまだ安定していないので、急いで移動したり、階段を上ったりが出来ません。すべての行動が皆さんより遅くなることで迷惑をかけると、自分でもわかっているのですが、もう怒られても仕方ないと思っています。治るまでどうかお許しください。

 

▼学校の人全員に伝えているわけではないので、状況を伝えていない人はサボっていると思うかもしれません。そう見られるのは悲しいけれど、仕方のないことだとも思っています。もし友達などに聞かれたら「心臓の不調らしいよ」とでも伝えていただけたらありがたいです。

 

▼後遺症とは別で、不整脈もあるのですが、もし発作が起きたり、歩けなくなってしまったりしたら、先生を呼びに行ってくれたらとても助かります。助けていただいてばかりでご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします。

 

▼座っている状態からすぐに立つことがあまりよくないので、挨拶をする際には座った状態で挨拶をさせてください。よろしくお願いします。

 

今まで何をするにしても不安を感じていたのですが、LINEなどで励ましの言葉をくれたり、学校ですれ違ったときに声をかけてくれたりして、皆さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいです。部活動やクラスに自分はいるべきではないと、思い悩んだ時期もあったのですが、病名がわかって治療を始められたので、これからは自分の体としっかり向き合って、病気を治していきたいと思います。

 

お伝えするのに時間がかかってしまい、本当に申し訳ございません。

 

 

 “みんなと同じように部活動がしたい”

さやかさんは、10月から本格的に学校に通えるようになりました。

「何日もかけて原稿を書き直しました。書きながら、わかってくれるか不安で、話すことをやめようかとも思いましたが、今となっては話して良かったと思います」と私に語ってくれました。症状を説明してから、周りの先輩が気を遣って、話をしてくれるようになったり、クラスの仲間がさりげなく手伝ってくれるようになったりしているそうです。

 

そして先日、私にこんなメールも寄せてくれました。

  

“野外実習、3日間みんなと同じように参加出来ました。滅多に経験のできないカヤックやカッター実習もあって、とても楽しかったです。

体の調子は、前とあまり変わらないような感じで、何回か発作が起きてしまいましたが、学校の先生やクラスメートが徐々に私の体の状態を理解してくれるようになってきて、私自身も安心して学校に通えています。

学校に通うということは当たり前のことだけれど、私にとっては大きな第一歩だなと感じています。しかし、まだ運動が禁止で、脈拍も安定していないので、私は本当に部活動に戻れるのかという不安が一番大きいです。

戻りたいけれど、なかなか戻れないという状況の自分が悔しくてたまりません。

両親や周りの人も「焦らずにゆっくりね」と言ってくれるのですが、早く戻らなければという焦りはいつもあります。早くみんなと同じように部活動がしたいです”

 

 

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クローズアップ現代+「急増 現役世代コロナ後遺症 最前線で何が」(2021年11月2日放送)

※放送1週間後まで見逃し配信がご覧になれます。

 

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